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第8話 廃墟探索という仕事
2 貴族の御令嬢に事情聴取
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依頼人の家を前にして、私は早くも怖じ気づいてしまった。
「す、凄いお屋敷……。まるで宮殿じゃん……」
ボーゼンとなり、思わず呟いた。
「ユウコちゃん、しっかりしてくれよ。アレックスの屋敷だってデカいじゃねえか」
「で、でも規模が全然違いますよ!? あいつの屋敷はただ無駄にデカいだけで、こんなに豪華じゃないし」
「まあ、気持ちはわかるけどね。ほら、深呼吸深呼吸」
ノイアさんに言われ、数回深呼吸を繰り返した。すると、わずかに気持ちが落ち着いた。
「よ、よし!」
意を決して門をくぐった。そしてこれまた見事な細工のノッカーを叩き、来訪したことを知らせる。
「はい、どちら様でしょう?」
執事と思しき男性が現れた。ビシッと仕立ての良いスーツに身を包んだ、誠実そうな羊系アニマフィンドだ。
「あっ、あの……! 私、ギルドの依頼で御参上致しましたっ! ベッ、べ、ベルテロッティお嬢様は御在宅でございますか!?」
自分でも気の毒になるくらい動揺しているせいか、妙ちきりんな敬語で来訪した旨を告げた。
「ああ、ギルドの方ですか。ではどうぞ中へ……」
執事は柔和な笑みで私達を屋敷の中へ促す。
通された場所は壮麗な応接室だった。私は石像のように固まってお嬢様が来るのを待つ。
すぐに依頼人はやってきた。
「ご機嫌よう。わたくしが依頼を出した、ベルテロッティ=ラシーヌ=オルタンシアですわ」
豊かな縦ロールの髪に、最高級品と思しきドレスに身を包んだ人間の少女が現れ、気高くそう名乗った。可愛いけれど、つり目気味のなんだかプライドの高そうな、典型的なお嬢様といった感じだ。
「それで、どなたが依頼を請けたんですの?」
「わ、私です……」
震える手で小さく挙手した。
「あなたが? ふうん……」
ベルテロッティさんは一瞬驚いた瞳になり、値踏みするような視線を注ぐ。
「……まさか、あなたのような少女が請けたとは思いませんでしたわ。見たところ、わたくしと同じくらいの歳のようですわね。まあ、いいですわ。お仲間の方々は、なかなか頼りになりそうですもの」
ノイアさんとケンユウさんを見て、ベルテロッティさんは言った。まるで、私は頼りないと言わんばかりの口振りだ。まあ、間違っちゃいないけど……。
「アドニス、ベルベーヌティーを人数分用意してちょうだい。この請負人さん、ガチガチに緊張しているから濃いめに入れてきてね」
「かしこまりました」
アドニスという執事は丁寧に頭を下げ応接室を出ていった。
出されたお茶を飲み、私は落ち着きを取り戻した。なんでも、リラックス成分が含まれているお茶だったらしい。
「では早速、依頼の説明をしますわ」
「はい、お願いします」
「先日、わたくしは街外れにある、今はもう誰も住んでいないお屋敷に行ってきましたの。その時に、大事なチョーカーを落としてきてしまったようなのです。それをあなた方に探しに行ってもらいたい。ただそれだけですわ」
「なんだそりゃ? 誰も住んでない屋敷って……、廃墟のことだよな? なんでまたそんな場所に貴族のお嬢様が行ってたんだよ?」
ケンユウさんが素っ頓狂な声で口を出してきた。
「そ、それは……」
ベルテロッティさんは顔を伏せて視線を泳がせる。明らかに挙動不審な態度だ。
「なんでそんなとこに行ったんだよ? 理由を聞かせてもらおうか?」
「あ、あなたには関係ないでしょう!? あなた方は、ただチョーカーを探してきてくれればいいのです!」
「そういうわけにはいかねえよ。なぜ理由を言えねえんだ? もしかして、人に言えねえような疚しいことでもあんのか?」
ケンユウさんはあからさまに不審な目でベルテロッティさんを見る。
「………………」
ベルテロッティさんは俯いたまま口を閉ざしている。
「おいおい、黙りは困るぜ。お嬢様よ」
「ケンユウ、いい加減にしなさいよ! 失礼でしょう!?」
見かねたようにノイアさんが叱りつけた。
「だって理由も言えねえなんてあからさまに怪しいじゃねえか。もしかしたら犯罪絡みかもしんねえぞ? 例えば、こっそり廃屋で密売人からヤクを買ってた、とかよ」
「なんですって!? わたくしはそんな破廉恥な真似していませんわよッ!?」
ベルテロッティさんは勢いよく立ち上がった。そして早口でまくしたてる。
「そんなに知りたいなら教えてあげますわ! 度胸試しよ、度胸試しッ! わたくしは知人にそそのかされて、あの屋敷に度胸試しに行っただけですわっ!」
言い終えて、ベルテロッティさんは恥ずかしそうに顔を伏せ、ストンと座った。
一同はしばし呆然となる。
「なんだよ、それならそうと素直にそう言えばいいじゃねえか。てか度胸試しって……。貴族のお嬢様も、案外庶民的なことするんだな」
ケンユウさんはさもおかしそうに笑う。
「お、お黙りなさい! そうやって馬鹿にされるから、言いたくなかったのです!」
ベルテロッティさんは顔を真っ赤にしてケンユウさんを怒鳴りつける。その様子がなんとなく可愛らしい。ちょっと親しみがわいた。
ベルテロッティさんはこほんと咳払いを一つして本題に戻す。
「それで、わたくしのお願い、理解していただけたかしら?」
「はい。その廃墟というのはどこにあるんですか?」
私はメモ帳とペンを取り出して訊いた。
「この街の北西にある、ウィロー川を渡った先ですわ。長年放置されてきたお屋敷なので、見ればすぐにわかるでしょう」
「なるほど……。あ、チョーカーはその屋敷内でなくされたってことで間違いありませんね?」
「ええ。入る時はちゃんと身に付けていましたし、出た時になくなっていると気付きましたから」
「では最後に、そのチョーカーの特徴を教えてください」
「刺繍糸を組んで作ったもので、白地に薄いブルーの花柄をあしらったものですわ」
「へえ、貴族のお嬢様が身に付けるにしては、ずいぶん安っぽい感じだな」
ケンユウさんが余計な一言で横槍を入れてきた。
「あなた、とことん失礼な人ね! あれは、亡くなったお母様の形見なのよ!?」
「そ、そうだったのか。すまねえ……」
「わたくしの一番の宝物です。どうか、よろしくお願いします」
ベルテロッティさんは丁寧に頭を下げた。
「よーし、じゃあ今から行ってサクッと見つけてくるか」
ケンユウさんが立ち上がった。
「いっ、今からですって!?」
ベルテロッティさんが驚きの声を上げる。
「そうだよ。あんただって早く見つかった方が嬉しいだろ? 三人で探しゃあ、そんなに時間もかかんねえだろ」
「それはそうですけど……。でも、このような夜更けに無理に探しに行かなくてもいいですわよ。わたくしもそこまで短気ではなくてよ?」
「おいおい、夜更けってまだ19:00過ぎだぜ?」
「でも、あのお屋敷はとても暗かったのよ!? そのような場所で、あなた方に取り返しのつかないことがありましたら、わたくしも寝覚めが悪いというもの。あんな場所、絶対に夜に行くものではありませんわ!」
「依頼人のベルテロッティさんがこう言ってるのよ? 明日、万全の態勢で探せばいいじゃない。こんな夜に廃墟で探し物しても、真っ暗だから見つかるものだって見つかりゃしないわよ」
ノイアさんがもっともなことを言った。
「まあ、それもそうか。んじゃ探すのは明日だな」
ケンユウさんも納得する。その瞬間、ベルテロッティさんの表情に安堵の色が浮かんだ。
「す、凄いお屋敷……。まるで宮殿じゃん……」
ボーゼンとなり、思わず呟いた。
「ユウコちゃん、しっかりしてくれよ。アレックスの屋敷だってデカいじゃねえか」
「で、でも規模が全然違いますよ!? あいつの屋敷はただ無駄にデカいだけで、こんなに豪華じゃないし」
「まあ、気持ちはわかるけどね。ほら、深呼吸深呼吸」
ノイアさんに言われ、数回深呼吸を繰り返した。すると、わずかに気持ちが落ち着いた。
「よ、よし!」
意を決して門をくぐった。そしてこれまた見事な細工のノッカーを叩き、来訪したことを知らせる。
「はい、どちら様でしょう?」
執事と思しき男性が現れた。ビシッと仕立ての良いスーツに身を包んだ、誠実そうな羊系アニマフィンドだ。
「あっ、あの……! 私、ギルドの依頼で御参上致しましたっ! ベッ、べ、ベルテロッティお嬢様は御在宅でございますか!?」
自分でも気の毒になるくらい動揺しているせいか、妙ちきりんな敬語で来訪した旨を告げた。
「ああ、ギルドの方ですか。ではどうぞ中へ……」
執事は柔和な笑みで私達を屋敷の中へ促す。
通された場所は壮麗な応接室だった。私は石像のように固まってお嬢様が来るのを待つ。
すぐに依頼人はやってきた。
「ご機嫌よう。わたくしが依頼を出した、ベルテロッティ=ラシーヌ=オルタンシアですわ」
豊かな縦ロールの髪に、最高級品と思しきドレスに身を包んだ人間の少女が現れ、気高くそう名乗った。可愛いけれど、つり目気味のなんだかプライドの高そうな、典型的なお嬢様といった感じだ。
「それで、どなたが依頼を請けたんですの?」
「わ、私です……」
震える手で小さく挙手した。
「あなたが? ふうん……」
ベルテロッティさんは一瞬驚いた瞳になり、値踏みするような視線を注ぐ。
「……まさか、あなたのような少女が請けたとは思いませんでしたわ。見たところ、わたくしと同じくらいの歳のようですわね。まあ、いいですわ。お仲間の方々は、なかなか頼りになりそうですもの」
ノイアさんとケンユウさんを見て、ベルテロッティさんは言った。まるで、私は頼りないと言わんばかりの口振りだ。まあ、間違っちゃいないけど……。
「アドニス、ベルベーヌティーを人数分用意してちょうだい。この請負人さん、ガチガチに緊張しているから濃いめに入れてきてね」
「かしこまりました」
アドニスという執事は丁寧に頭を下げ応接室を出ていった。
出されたお茶を飲み、私は落ち着きを取り戻した。なんでも、リラックス成分が含まれているお茶だったらしい。
「では早速、依頼の説明をしますわ」
「はい、お願いします」
「先日、わたくしは街外れにある、今はもう誰も住んでいないお屋敷に行ってきましたの。その時に、大事なチョーカーを落としてきてしまったようなのです。それをあなた方に探しに行ってもらいたい。ただそれだけですわ」
「なんだそりゃ? 誰も住んでない屋敷って……、廃墟のことだよな? なんでまたそんな場所に貴族のお嬢様が行ってたんだよ?」
ケンユウさんが素っ頓狂な声で口を出してきた。
「そ、それは……」
ベルテロッティさんは顔を伏せて視線を泳がせる。明らかに挙動不審な態度だ。
「なんでそんなとこに行ったんだよ? 理由を聞かせてもらおうか?」
「あ、あなたには関係ないでしょう!? あなた方は、ただチョーカーを探してきてくれればいいのです!」
「そういうわけにはいかねえよ。なぜ理由を言えねえんだ? もしかして、人に言えねえような疚しいことでもあんのか?」
ケンユウさんはあからさまに不審な目でベルテロッティさんを見る。
「………………」
ベルテロッティさんは俯いたまま口を閉ざしている。
「おいおい、黙りは困るぜ。お嬢様よ」
「ケンユウ、いい加減にしなさいよ! 失礼でしょう!?」
見かねたようにノイアさんが叱りつけた。
「だって理由も言えねえなんてあからさまに怪しいじゃねえか。もしかしたら犯罪絡みかもしんねえぞ? 例えば、こっそり廃屋で密売人からヤクを買ってた、とかよ」
「なんですって!? わたくしはそんな破廉恥な真似していませんわよッ!?」
ベルテロッティさんは勢いよく立ち上がった。そして早口でまくしたてる。
「そんなに知りたいなら教えてあげますわ! 度胸試しよ、度胸試しッ! わたくしは知人にそそのかされて、あの屋敷に度胸試しに行っただけですわっ!」
言い終えて、ベルテロッティさんは恥ずかしそうに顔を伏せ、ストンと座った。
一同はしばし呆然となる。
「なんだよ、それならそうと素直にそう言えばいいじゃねえか。てか度胸試しって……。貴族のお嬢様も、案外庶民的なことするんだな」
ケンユウさんはさもおかしそうに笑う。
「お、お黙りなさい! そうやって馬鹿にされるから、言いたくなかったのです!」
ベルテロッティさんは顔を真っ赤にしてケンユウさんを怒鳴りつける。その様子がなんとなく可愛らしい。ちょっと親しみがわいた。
ベルテロッティさんはこほんと咳払いを一つして本題に戻す。
「それで、わたくしのお願い、理解していただけたかしら?」
「はい。その廃墟というのはどこにあるんですか?」
私はメモ帳とペンを取り出して訊いた。
「この街の北西にある、ウィロー川を渡った先ですわ。長年放置されてきたお屋敷なので、見ればすぐにわかるでしょう」
「なるほど……。あ、チョーカーはその屋敷内でなくされたってことで間違いありませんね?」
「ええ。入る時はちゃんと身に付けていましたし、出た時になくなっていると気付きましたから」
「では最後に、そのチョーカーの特徴を教えてください」
「刺繍糸を組んで作ったもので、白地に薄いブルーの花柄をあしらったものですわ」
「へえ、貴族のお嬢様が身に付けるにしては、ずいぶん安っぽい感じだな」
ケンユウさんが余計な一言で横槍を入れてきた。
「あなた、とことん失礼な人ね! あれは、亡くなったお母様の形見なのよ!?」
「そ、そうだったのか。すまねえ……」
「わたくしの一番の宝物です。どうか、よろしくお願いします」
ベルテロッティさんは丁寧に頭を下げた。
「よーし、じゃあ今から行ってサクッと見つけてくるか」
ケンユウさんが立ち上がった。
「いっ、今からですって!?」
ベルテロッティさんが驚きの声を上げる。
「そうだよ。あんただって早く見つかった方が嬉しいだろ? 三人で探しゃあ、そんなに時間もかかんねえだろ」
「それはそうですけど……。でも、このような夜更けに無理に探しに行かなくてもいいですわよ。わたくしもそこまで短気ではなくてよ?」
「おいおい、夜更けってまだ19:00過ぎだぜ?」
「でも、あのお屋敷はとても暗かったのよ!? そのような場所で、あなた方に取り返しのつかないことがありましたら、わたくしも寝覚めが悪いというもの。あんな場所、絶対に夜に行くものではありませんわ!」
「依頼人のベルテロッティさんがこう言ってるのよ? 明日、万全の態勢で探せばいいじゃない。こんな夜に廃墟で探し物しても、真っ暗だから見つかるものだって見つかりゃしないわよ」
ノイアさんがもっともなことを言った。
「まあ、それもそうか。んじゃ探すのは明日だな」
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