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第8話 廃墟探索という仕事
1 ギルド仕事に挑戦
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四つ葉堂でバイトを始めるようになってから、半月が過ぎた。
時刻は17:00。今日の勤務もこれで終わりだ。
「お疲れ様。じゃあ、明日から五日間はお休みだからね」
「はい。では、お先に失礼します」
頭をぺこりと下げ、四つ葉堂を後にした。
明日から五日間は、ラグラスさんの都合によって店を休みにするのだ。
結構まとまった休みだなぁ。何をして過ごそうか……、と考えながら深緑の翼亭に向かう。
仕事の終わりに立ち寄るのが最近の日課になっている。
「お仕事、お疲れ様」
エーデルさんが気持ちのいい笑顔で迎えてくれる。私も「エーデルさんこそ、お仕事お疲れ様です」と笑顔で返す。
新しく出来たギルドカウンターに目をやる。
「あ、ど、どうも、ユウコさん」
おどおどと、犬系アニマクォートの少年が会釈してきた。
そう、ギルド・カラミンサ中央支部は三日前に晴れてオープンした。そういうわけで、彼がギルドの受付の人だ。
名はタイムくん。私と同い年。ビーグル犬みたいなたれ耳とふさふさな尻尾が魅力的な、ちょっと可愛い系の男子だ。
「こんばんは、タイムくん」
タイムくんに手を振る。タイムくんははにかんだように笑った。
「何にする?」
席に着くと、早速エーデルさんが注文を取る。
「えっと今日は……、ハニーレモンのシャーベットで♪」
「はいはーい」
受け取ったシャーベットを口に運ぶ。ひんやりと甘酸っぱく、仕事後の体に染み渡る。
ギルドカウンターを眺める。タイムくんは何やら分厚いファイルの整理をしている。
「それ、何?」
「あ、これは、ギルドの依頼書をまとめたファイルです。その……、少し見てみます?」
「いいの?」
「は、はい。別に見られて困るものじゃありませんから……」
お言葉に甘えて依頼書を見せてもらった。
依頼内容は、魔物退治、護衛、調査、人捜し、採取、古文書解読、など、バラエティー豊かだ。
「このレッドとかグリーンって何?」
「それは、免許のランクのことです。め、免許の縁の色がそれを表していて、低い順にレッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、ブラック、ホワイト、シルバー、ゴールドと、十段階あるんです。ランクが高いほど依頼も難しく危険も大きいんです。で、でもその分それに見合った報酬が支払われます」
「なるほど~。でも、ランクってどうやって決めるの?」
「ギルド協会が実施する試験にパスすると上がりますよ。……その……ギルドに興味あるんですか? よ、よかったら、ユウコさんも何か依頼請けてみますか?」
「ええ!? 私なんかでも請けられるの!?」
「免許が無くても請けられる“フリーワーク”っていうのがあるんです。な、内容は、お手伝いみたいなもの……と言えばわかりやすいでしょうか。学生さんや主婦の方が、アルバイト感覚で請けたりしますよ」
そう説明して、タイムくんはフリーワークのリストを見せてくれた。
確かに、芝刈り、ベビーシッター、留守番など、その気になれば、誰にでもできそうな仕事だ。
「やっほー、ユウコちゃん」
「お疲れさん」
ノイアさんとケンユウさんだ。最近は組んで仕事をすることが多いらしく、大抵いつも一緒に行動している。
「はい、お願いね」
ノイアさんはタイムくんに報告書を出し、依頼終了の手続きをとる。
「は、はい。……はあ~、相変わらず完璧なお仕事ですね。で、ではこちらが報酬です」
タイムくんは報酬金をノイアさんに手渡し、
「そ、それでユウコさん、依頼請けてみます?」
私に視線を移し、訊ねてきた。
「う~ん、明日から四つ葉堂のバイトも休みだし、チャレンジしてみようかな?」
「あ、ありがとうございます。こちらも助かります。で、では請ける依頼が決まりましたら教えてくださいね」
「ああフリーワークね。どれどれ……」
ノイアさんがリストを覗き込んできた。
こなせそうな依頼を物色する。すると、ある依頼に目が止まった。
「ノイアさん、この依頼だけ、えらく報酬が高くないですか?」
私は“落とし物探し”なる依頼を指して、耳打ちした。
「あら、ほんと。ねえタイムくん、これ、他のランクの依頼が混ざってんじゃないの?」
「え? しょ、少々お待ちください。今確認しますから……」
タイムくんはもう一冊ファイルを取り出して、確認作業に入る。
フリーワークの報酬のほとんどは、三千~七千ディルが相場みたいだが、その依頼は報酬の額が十万ディルもあるのだ。
「うーん……、よく確認しましたけど、フリーワークで間違いないみたいですよ? お、落とし物探しという、大変な作業だから報酬がいいのでしょうか……?」
タイムくんも不思議そうに首を傾げている。
「なになに? 大切なチョーカーをとある場所で落としてしまいました。魔物が出没するような場所ではありません。探してきてくださる方はいませんか? 詳細は当家にて。依頼人はベルテロッティ=ラシーヌ=オルタンシアか。なんかなげー名前だな…」
ケンユウさんが依頼書を読み上げた。
「ああ、なるほど!」
ノイアさんが納得したように手を叩いた。
「その人、貴族の御令嬢よ。だから、こんなに報酬の羽振りがいいんだわ」
「し、しかもオルタンシア家といえば、この国でも指折りの名門ですよ」
タイムくんが教えてくれた。
「これも何かの縁だ。せっかくだから、ユウコちゃんがこのお嬢様の依頼を請けたらどうだ? チョーカーを見つけるだけで十万は絶対おいしいって!」
「えっ? でも、難しそう……。私にできるかな?」
「平気だろ。場所はよくわかんねえが、魔物が出る場所じゃないみたいだしよ。なんなら、俺も手伝うぜ?」
「そうですか? じゃあ、思い切って請けてみようかな」
「だったら、アタシも手伝うわ。探し物だったら、人手が多い方がいいでしょ?」
ノイアさんも協力を申し出る。
「は、話はまとまったようですね? ではユウコさん、こ、この誓約書にサインをお願いします」
タイムくんが誓約書とペンを渡してきた。
誓約書に一通り目を通す。内容は、請負人の責務と規約違反時の罰則などで、特に難しいことではない。
サインをしてタイムくんに誓約書を渡した。
「は、はい、確かに承りました。では、頑張ってくださいね」
タイムくんは控えめな笑顔を向け、誓約書をファイルにしまった。
「それで、どうしましょう? もう夕方ですけど、今から依頼人の家に行った方がいいですかね?」
二人の意見を聞く。
「そうね……、依頼人の立場になって考えてみたら?」
ノイアさんが優しく言った。依頼を請けたのは私なのだから、自分で決めろということかもしれない。
「う~ん、私なら、大切な物だったら一刻も早く取り戻したいかなぁ? うん、とりあえず話を聞きに行きましょう」
「住所は高級住宅街だな。んじゃ、行くとするか」
シャーベットの代金を払い、三人で依頼人の家を目指した。
時刻は17:00。今日の勤務もこれで終わりだ。
「お疲れ様。じゃあ、明日から五日間はお休みだからね」
「はい。では、お先に失礼します」
頭をぺこりと下げ、四つ葉堂を後にした。
明日から五日間は、ラグラスさんの都合によって店を休みにするのだ。
結構まとまった休みだなぁ。何をして過ごそうか……、と考えながら深緑の翼亭に向かう。
仕事の終わりに立ち寄るのが最近の日課になっている。
「お仕事、お疲れ様」
エーデルさんが気持ちのいい笑顔で迎えてくれる。私も「エーデルさんこそ、お仕事お疲れ様です」と笑顔で返す。
新しく出来たギルドカウンターに目をやる。
「あ、ど、どうも、ユウコさん」
おどおどと、犬系アニマクォートの少年が会釈してきた。
そう、ギルド・カラミンサ中央支部は三日前に晴れてオープンした。そういうわけで、彼がギルドの受付の人だ。
名はタイムくん。私と同い年。ビーグル犬みたいなたれ耳とふさふさな尻尾が魅力的な、ちょっと可愛い系の男子だ。
「こんばんは、タイムくん」
タイムくんに手を振る。タイムくんははにかんだように笑った。
「何にする?」
席に着くと、早速エーデルさんが注文を取る。
「えっと今日は……、ハニーレモンのシャーベットで♪」
「はいはーい」
受け取ったシャーベットを口に運ぶ。ひんやりと甘酸っぱく、仕事後の体に染み渡る。
ギルドカウンターを眺める。タイムくんは何やら分厚いファイルの整理をしている。
「それ、何?」
「あ、これは、ギルドの依頼書をまとめたファイルです。その……、少し見てみます?」
「いいの?」
「は、はい。別に見られて困るものじゃありませんから……」
お言葉に甘えて依頼書を見せてもらった。
依頼内容は、魔物退治、護衛、調査、人捜し、採取、古文書解読、など、バラエティー豊かだ。
「このレッドとかグリーンって何?」
「それは、免許のランクのことです。め、免許の縁の色がそれを表していて、低い順にレッド、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルー、パープル、ブラック、ホワイト、シルバー、ゴールドと、十段階あるんです。ランクが高いほど依頼も難しく危険も大きいんです。で、でもその分それに見合った報酬が支払われます」
「なるほど~。でも、ランクってどうやって決めるの?」
「ギルド協会が実施する試験にパスすると上がりますよ。……その……ギルドに興味あるんですか? よ、よかったら、ユウコさんも何か依頼請けてみますか?」
「ええ!? 私なんかでも請けられるの!?」
「免許が無くても請けられる“フリーワーク”っていうのがあるんです。な、内容は、お手伝いみたいなもの……と言えばわかりやすいでしょうか。学生さんや主婦の方が、アルバイト感覚で請けたりしますよ」
そう説明して、タイムくんはフリーワークのリストを見せてくれた。
確かに、芝刈り、ベビーシッター、留守番など、その気になれば、誰にでもできそうな仕事だ。
「やっほー、ユウコちゃん」
「お疲れさん」
ノイアさんとケンユウさんだ。最近は組んで仕事をすることが多いらしく、大抵いつも一緒に行動している。
「はい、お願いね」
ノイアさんはタイムくんに報告書を出し、依頼終了の手続きをとる。
「は、はい。……はあ~、相変わらず完璧なお仕事ですね。で、ではこちらが報酬です」
タイムくんは報酬金をノイアさんに手渡し、
「そ、それでユウコさん、依頼請けてみます?」
私に視線を移し、訊ねてきた。
「う~ん、明日から四つ葉堂のバイトも休みだし、チャレンジしてみようかな?」
「あ、ありがとうございます。こちらも助かります。で、では請ける依頼が決まりましたら教えてくださいね」
「ああフリーワークね。どれどれ……」
ノイアさんがリストを覗き込んできた。
こなせそうな依頼を物色する。すると、ある依頼に目が止まった。
「ノイアさん、この依頼だけ、えらく報酬が高くないですか?」
私は“落とし物探し”なる依頼を指して、耳打ちした。
「あら、ほんと。ねえタイムくん、これ、他のランクの依頼が混ざってんじゃないの?」
「え? しょ、少々お待ちください。今確認しますから……」
タイムくんはもう一冊ファイルを取り出して、確認作業に入る。
フリーワークの報酬のほとんどは、三千~七千ディルが相場みたいだが、その依頼は報酬の額が十万ディルもあるのだ。
「うーん……、よく確認しましたけど、フリーワークで間違いないみたいですよ? お、落とし物探しという、大変な作業だから報酬がいいのでしょうか……?」
タイムくんも不思議そうに首を傾げている。
「なになに? 大切なチョーカーをとある場所で落としてしまいました。魔物が出没するような場所ではありません。探してきてくださる方はいませんか? 詳細は当家にて。依頼人はベルテロッティ=ラシーヌ=オルタンシアか。なんかなげー名前だな…」
ケンユウさんが依頼書を読み上げた。
「ああ、なるほど!」
ノイアさんが納得したように手を叩いた。
「その人、貴族の御令嬢よ。だから、こんなに報酬の羽振りがいいんだわ」
「し、しかもオルタンシア家といえば、この国でも指折りの名門ですよ」
タイムくんが教えてくれた。
「これも何かの縁だ。せっかくだから、ユウコちゃんがこのお嬢様の依頼を請けたらどうだ? チョーカーを見つけるだけで十万は絶対おいしいって!」
「えっ? でも、難しそう……。私にできるかな?」
「平気だろ。場所はよくわかんねえが、魔物が出る場所じゃないみたいだしよ。なんなら、俺も手伝うぜ?」
「そうですか? じゃあ、思い切って請けてみようかな」
「だったら、アタシも手伝うわ。探し物だったら、人手が多い方がいいでしょ?」
ノイアさんも協力を申し出る。
「は、話はまとまったようですね? ではユウコさん、こ、この誓約書にサインをお願いします」
タイムくんが誓約書とペンを渡してきた。
誓約書に一通り目を通す。内容は、請負人の責務と規約違反時の罰則などで、特に難しいことではない。
サインをしてタイムくんに誓約書を渡した。
「は、はい、確かに承りました。では、頑張ってくださいね」
タイムくんは控えめな笑顔を向け、誓約書をファイルにしまった。
「それで、どうしましょう? もう夕方ですけど、今から依頼人の家に行った方がいいですかね?」
二人の意見を聞く。
「そうね……、依頼人の立場になって考えてみたら?」
ノイアさんが優しく言った。依頼を請けたのは私なのだから、自分で決めろということかもしれない。
「う~ん、私なら、大切な物だったら一刻も早く取り戻したいかなぁ? うん、とりあえず話を聞きに行きましょう」
「住所は高級住宅街だな。んじゃ、行くとするか」
シャーベットの代金を払い、三人で依頼人の家を目指した。
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