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第7話 私、バイトを始めました!
5 早まっちゃダメええぇぇッ!
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倉庫の中に入ると、何やら奥の方で音がする。きっとラグラスさんが商品の整理をしているのだろう。
ラグラスさんが生存していることに、深く安堵した。
倉庫の中は思ったより広く、なおかつ、限界まで商品が詰め込まれていて、ちょっとした迷路みたいになっている。
私とアレックスは聞こえてくる物音を頼りに進んでいく。
途中、棚と棚の隙間から、脚立に昇っているラグラスさんの姿が見えた。ラグラスさんは何やらぶつぶつと独り言を言っている。
「もう……駄目みたい……。これは……いっそのこと……」
良くは聞き取れなかったが、何やら意味深な台詞だ。
そして極めつけは、ラグラスさんの手に握られている人間一人の体重を支えるには充分といった感じのロープの存在だ。
うっ、ウソでしょ!? まさか本当に首を吊るつもり!?
一人の青年が命を断とうとする絶望的場面に出くわしてしまい、私の体は反射的に動いた。
「ラグラスさん! 早まっちゃダメえぇッ!」
自分でも驚くほどの素早さでラグラスさんのところへ向かい、その足に飛びついた。
「ユウコちゃ……!? うわああっ!」
当然というべきか、ラグラスさんはバランスを崩し、辺りの商品を巻き込んで脚立もろとも派手に倒れ込んだ。もちろん私も巻き込まれる形で。
「いったぁ……」
頭を押さえながら、のろのろと起きあがる。
「何をやっているんだ、お前は……」
一連の騒動をただ傍観に徹していたアレックスは、冷ややかな目で見下ろしている。
「いってて……、一体どうしたのユウコちゃん。急に飛びついてきたりしたら、危ないじゃないか……」
ラグラスさんは腰をさすりながら非難めいた声音で言った。
「どうしたの、じゃないですよ! お願いですから早まった真似しないでください! 生きていれば、これから楽しいことだっていっぱいあるはずですよ!? 生きて幸せにならなきゃ!」
ラグラスさんからロープを引ったくるように奪い、一気にまくし立てた。
「?? えっと~……、一体なんのこと……?」
当のラグラスさんは当惑顔で訊いてきた。
「何って……、今自殺しようとしてたじゃないですかッ!」
「じっ、自殺ぅ!? 何言ってんのユウコちゃん!? そんなことするわけないじゃないか!」
ラグラスさんは素っ頓狂な声を上げる。
「えっ!? ……でも、『もう駄目とか、いっそのこと』なんて絶望的な台詞が聞こえちゃいましたし……。第一、こんな超丈夫そうなロープを持ってたじゃないですか!」
「それは、そこの吊り棚のやつだよ」
ラグラスさんは私が引ったくったロープと吊り棚を交互に指した。
「古くなってたから、ロープを代えようかと思ったんだけど、留め具の方もかなり痛んでるみたいでね。これはもうロープを交換するだけじゃ駄目かも知れないから、いっそのこと全部直した方がいいのかな~って思っただけさ」
ラグラスさんは問題の吊り棚に視線を向けながら、極めて明るい調子で言い切った。
「えっ!? そう……なんですか……?」
「うん。ってか、なんでユウコちゃんは、俺が自殺しようとしてるって思っちゃったわけ?」
「いや、それは……、元カノさんの近況を聞いた直後のラグラスさんのヘコみ方がハンパじゃなかったから……つい……」
「そっか……。心配かけてごめんね。確かにあの時はショックだったけど、今はもう落ち着いたから」
ラグラスさんは優しく微笑んだ。
「……やれやれ、全てはお前の勘違いだな。まったく、人騒がせな奴だ」
アレックスがしれっと口を挟んできた。
「ちょっと! 何自分は関係ないみたいな顔してんの!? 元はと言えば、あんたが『店主は倉庫内で自殺してるかもしれんぞ』とか不吉なこと言い出したから、こんな勘違いを生む羽目になったんだからね!? そこんとこわかってんのか、コラ!」
アレックスの胸ぐらに掴みかかり、一気にまくし立てた。
「私のせいにするんじゃない。お前が『どうも自殺を図っている可能性が大きい』と言い出したのだろう。しかも『一人で確認しに行くのは怖いから一緒に来てくれ』と抜かす始末。だから、あんな先走り過ぎた行動に繋がるのだ。ともかく、これでわかっただろう? この店主も、それしきのことで自殺を図るわけがないんだ。まったく、雇われている身でありながら無礼な奴だな」
アレックスは私に胸ぐらを掴まれたまま、ぬけぬけと言い切った。
マジでなんなのこいつ!? ついさっきまで散々ラグラスさんを亡き者扱いにしてたくせに! ラグラスさんが生きてたとわかった途端、態度をコロッと百八十度変えて、極めつけには“自殺説”を言い出したのは私だとほざきやがったッ! ざけんなよッ! 自分の非を私になすりつけんな、ウラアァッ!
「さて、私は店主に話がある。お前は早く店の方に戻れ。誰も居ないと客が迷惑するだろう」
アレックスは胸ぐらを掴む私の手を解き、四つ葉堂の関係者でもないくせに偉そうに命令してきた。
私の腸は更に煮えくり返り、今にも爆発しそうだ。絞め殺してやりたい、と殺意すら湧いてくる。
「そうだね。ユウコちゃんは店の方に戻っててよ。アレックスさんとの話が終わったら、俺もすぐ戻るからさ」
爆発しそうな私をなだめるように、すかさずラグラスさんが優しく言葉をかける。
私はラグラスさんだけの言いつけだけに従うつもりで、店の方へ戻る。
あ~あ、あの馬鹿のせいで大恥かいちゃったよ……。でもまあ、ラグラスさん立ち直ってたみたいで良かった。
ラグラスさんが生存していることに、深く安堵した。
倉庫の中は思ったより広く、なおかつ、限界まで商品が詰め込まれていて、ちょっとした迷路みたいになっている。
私とアレックスは聞こえてくる物音を頼りに進んでいく。
途中、棚と棚の隙間から、脚立に昇っているラグラスさんの姿が見えた。ラグラスさんは何やらぶつぶつと独り言を言っている。
「もう……駄目みたい……。これは……いっそのこと……」
良くは聞き取れなかったが、何やら意味深な台詞だ。
そして極めつけは、ラグラスさんの手に握られている人間一人の体重を支えるには充分といった感じのロープの存在だ。
うっ、ウソでしょ!? まさか本当に首を吊るつもり!?
一人の青年が命を断とうとする絶望的場面に出くわしてしまい、私の体は反射的に動いた。
「ラグラスさん! 早まっちゃダメえぇッ!」
自分でも驚くほどの素早さでラグラスさんのところへ向かい、その足に飛びついた。
「ユウコちゃ……!? うわああっ!」
当然というべきか、ラグラスさんはバランスを崩し、辺りの商品を巻き込んで脚立もろとも派手に倒れ込んだ。もちろん私も巻き込まれる形で。
「いったぁ……」
頭を押さえながら、のろのろと起きあがる。
「何をやっているんだ、お前は……」
一連の騒動をただ傍観に徹していたアレックスは、冷ややかな目で見下ろしている。
「いってて……、一体どうしたのユウコちゃん。急に飛びついてきたりしたら、危ないじゃないか……」
ラグラスさんは腰をさすりながら非難めいた声音で言った。
「どうしたの、じゃないですよ! お願いですから早まった真似しないでください! 生きていれば、これから楽しいことだっていっぱいあるはずですよ!? 生きて幸せにならなきゃ!」
ラグラスさんからロープを引ったくるように奪い、一気にまくし立てた。
「?? えっと~……、一体なんのこと……?」
当のラグラスさんは当惑顔で訊いてきた。
「何って……、今自殺しようとしてたじゃないですかッ!」
「じっ、自殺ぅ!? 何言ってんのユウコちゃん!? そんなことするわけないじゃないか!」
ラグラスさんは素っ頓狂な声を上げる。
「えっ!? ……でも、『もう駄目とか、いっそのこと』なんて絶望的な台詞が聞こえちゃいましたし……。第一、こんな超丈夫そうなロープを持ってたじゃないですか!」
「それは、そこの吊り棚のやつだよ」
ラグラスさんは私が引ったくったロープと吊り棚を交互に指した。
「古くなってたから、ロープを代えようかと思ったんだけど、留め具の方もかなり痛んでるみたいでね。これはもうロープを交換するだけじゃ駄目かも知れないから、いっそのこと全部直した方がいいのかな~って思っただけさ」
ラグラスさんは問題の吊り棚に視線を向けながら、極めて明るい調子で言い切った。
「えっ!? そう……なんですか……?」
「うん。ってか、なんでユウコちゃんは、俺が自殺しようとしてるって思っちゃったわけ?」
「いや、それは……、元カノさんの近況を聞いた直後のラグラスさんのヘコみ方がハンパじゃなかったから……つい……」
「そっか……。心配かけてごめんね。確かにあの時はショックだったけど、今はもう落ち着いたから」
ラグラスさんは優しく微笑んだ。
「……やれやれ、全てはお前の勘違いだな。まったく、人騒がせな奴だ」
アレックスがしれっと口を挟んできた。
「ちょっと! 何自分は関係ないみたいな顔してんの!? 元はと言えば、あんたが『店主は倉庫内で自殺してるかもしれんぞ』とか不吉なこと言い出したから、こんな勘違いを生む羽目になったんだからね!? そこんとこわかってんのか、コラ!」
アレックスの胸ぐらに掴みかかり、一気にまくし立てた。
「私のせいにするんじゃない。お前が『どうも自殺を図っている可能性が大きい』と言い出したのだろう。しかも『一人で確認しに行くのは怖いから一緒に来てくれ』と抜かす始末。だから、あんな先走り過ぎた行動に繋がるのだ。ともかく、これでわかっただろう? この店主も、それしきのことで自殺を図るわけがないんだ。まったく、雇われている身でありながら無礼な奴だな」
アレックスは私に胸ぐらを掴まれたまま、ぬけぬけと言い切った。
マジでなんなのこいつ!? ついさっきまで散々ラグラスさんを亡き者扱いにしてたくせに! ラグラスさんが生きてたとわかった途端、態度をコロッと百八十度変えて、極めつけには“自殺説”を言い出したのは私だとほざきやがったッ! ざけんなよッ! 自分の非を私になすりつけんな、ウラアァッ!
「さて、私は店主に話がある。お前は早く店の方に戻れ。誰も居ないと客が迷惑するだろう」
アレックスは胸ぐらを掴む私の手を解き、四つ葉堂の関係者でもないくせに偉そうに命令してきた。
私の腸は更に煮えくり返り、今にも爆発しそうだ。絞め殺してやりたい、と殺意すら湧いてくる。
「そうだね。ユウコちゃんは店の方に戻っててよ。アレックスさんとの話が終わったら、俺もすぐ戻るからさ」
爆発しそうな私をなだめるように、すかさずラグラスさんが優しく言葉をかける。
私はラグラスさんだけの言いつけだけに従うつもりで、店の方へ戻る。
あ~あ、あの馬鹿のせいで大恥かいちゃったよ……。でもまあ、ラグラスさん立ち直ってたみたいで良かった。
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