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第6話 三大竜【大地の覇竜編】
8 死の針にさらされて……
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早朝から山登りを再開させる。
「巣までもうすぐみたいだぜ」
「そう。いよいよなのね」
ノイアさんの顔にわずかに緊張の色が見える。
「……けど、なんか妙なんだよな」
「何がですか?」
怪訝そうな表情でロートレックさんが訊いた。
「気配がかなり弱々しいんだよ」
「それってつまりどういうこと?」
今度はノイアさんが訊いた。
「なんつーのか、迫力が感じられないっていうのかね。ここに住み着いた殺人竜は、まだ幼体かもしれねえぞ」
「それは何か不都合でもあるのか?」
今度はアレックスだ。
「いや全然。むしろ俺らが有利になるだけだ。……けど、俺は正直あんまり気が進まねえ。子竜を退治するなんてよ。そういうの後味悪ぃだろ?」
「だが、放っておくわけにもいかんだろう」
「まあ、そうなんだけどな……」
ケンユウさんはそれっきり言葉を続けることはなかった。
☆★☆
しばらく進むと前方に奇妙な物体を発見した。
「ねえ、あれなんだろ?」
その物体を指した。それは、木に張り付いている灰色の巨大なこぶのようなものだ。
「アレックス、あれは……」
ロートレックさんは困惑したような顔でアレックスを見る。
「ああ、モルテ・アピスの巣だな」
アレックスは忌々しげに言った。
「え!? 確か、刺されると死ぬっていう猛毒を持つ蜂の魔物だっけ?」
叫びたいのをこらえ、小声で訊いた。
「そうだ。本来ならもっと麓の方に生息しているはずなんだがな。出くわさずに済んで運が良かったと思っていたが、まさかこんなところで巣を発見する羽目になるとは……。まったく、連中も生態に則って、もっと麓の方で巣を構えればいいものを」
アレックスは心底忌々しそうにくどくどと毒づいた。
「ですが、今は一体も見あたらないのがせめてもの救いです。今のうちに急いで通ってしまいましょう」
ロートレックさんの言葉に、私達は慎重かつ急ぎ足で先に進む。
「や、やべ……、くしゃみが……、は……は……、ハックション!」
間の悪いことに、ケンユウさんが大きなくしゃみをした。
すると、モルテ・アピスが待ってました、といわんばかりの勢いで、次々に巣から飛び出してきた。
そいつらは、体長が約三十センチはある赤い目をした真っ黒な蜂だった。やかましく羽音をたてて威嚇してくる。
「こうなっては早急に巣から離れなくては……! みなさん、行ってください!」
ロートレックさんは光弾の魔法を放ち、モルテ・アピスを倒しながら叫んだ。
私達は言われた通り、全速力でその場を離れる。そして、かなりの距離を走り、
「ここまでくれば、彼らのテリトリー外でしょう」
ロートレックさんは息を切らしながら言った。
「う~、怖かったよぉ……」
クリンちゃんはぺたんと座り込む。
「とにかく、無事に逃げ切れて良かったわね」
ノイアさんも安堵の表情になる。
私達は無事逃げきったと思った。だが、それは間違いだったらしく、一匹のモルテ・アピスがノイアさんの背後に現れた。
「危ねえッ!」
ケンユウさんはとっさにノイアさんを庇う。その腕に、モルテ・アピスの死の毒針をまともに受けてしまった!
「くっ……さすがに、かなり効くな……いってえ……!」
素早くもう片方の手でモルテ・アピスを退治し、ケンユウさんはしゃがみ込んだ。苦しそうに呻き、毒針を抜き去ると口を付けて毒を吸いだし、ぺっと吐き捨てる。
「ケンユウ! 大丈夫なの!? そいつは猛毒を持ってるのよ!?」
ノイアさんは悲鳴に近い声を上げる。
「あー、体がかなり痺れるけど直に治まるだろうよ。おいおい、そんな泣きそうな顔すんなよ……」
「でも、あいつらの毒は致死性よ!? このままだと命に関わるわ!」
「一匹くらいなら死にはしねえよ。竜人族の生命力を甘く見んな。ま、五匹以上刺されたら、さすがにやべぇけどな……」
ケンユウさんは力ない笑みを見せる。
「でも、手当はちゃんとした方がいいわよ。クリンちゃん、お願いできる?」
「うん!」
クリンちゃんは元気よく返事をすると、ケンユウさんの腕に手をかざした。淡い緑の柔らかな光が傷を治していく。程なくして治療は終わった。
「アタシのために……、ごめんね?」
「気にすんなって」
「そうだぞノイア。こうなったのは、元はといえばこいつがくしゃみをしたせいなんだからな。自業自得というやつだ。まったく、お前のせいでひどい目に遭ったぞ」
「わ、悪かったよ……。ほんとすまなかった」
ケンユウさんはばつが悪そうな顔をして謝る。
「ねえ、見て見て、あそこ!」
クリンちゃんの指す方向には、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。
「巣までもうすぐみたいだぜ」
「そう。いよいよなのね」
ノイアさんの顔にわずかに緊張の色が見える。
「……けど、なんか妙なんだよな」
「何がですか?」
怪訝そうな表情でロートレックさんが訊いた。
「気配がかなり弱々しいんだよ」
「それってつまりどういうこと?」
今度はノイアさんが訊いた。
「なんつーのか、迫力が感じられないっていうのかね。ここに住み着いた殺人竜は、まだ幼体かもしれねえぞ」
「それは何か不都合でもあるのか?」
今度はアレックスだ。
「いや全然。むしろ俺らが有利になるだけだ。……けど、俺は正直あんまり気が進まねえ。子竜を退治するなんてよ。そういうの後味悪ぃだろ?」
「だが、放っておくわけにもいかんだろう」
「まあ、そうなんだけどな……」
ケンユウさんはそれっきり言葉を続けることはなかった。
☆★☆
しばらく進むと前方に奇妙な物体を発見した。
「ねえ、あれなんだろ?」
その物体を指した。それは、木に張り付いている灰色の巨大なこぶのようなものだ。
「アレックス、あれは……」
ロートレックさんは困惑したような顔でアレックスを見る。
「ああ、モルテ・アピスの巣だな」
アレックスは忌々しげに言った。
「え!? 確か、刺されると死ぬっていう猛毒を持つ蜂の魔物だっけ?」
叫びたいのをこらえ、小声で訊いた。
「そうだ。本来ならもっと麓の方に生息しているはずなんだがな。出くわさずに済んで運が良かったと思っていたが、まさかこんなところで巣を発見する羽目になるとは……。まったく、連中も生態に則って、もっと麓の方で巣を構えればいいものを」
アレックスは心底忌々しそうにくどくどと毒づいた。
「ですが、今は一体も見あたらないのがせめてもの救いです。今のうちに急いで通ってしまいましょう」
ロートレックさんの言葉に、私達は慎重かつ急ぎ足で先に進む。
「や、やべ……、くしゃみが……、は……は……、ハックション!」
間の悪いことに、ケンユウさんが大きなくしゃみをした。
すると、モルテ・アピスが待ってました、といわんばかりの勢いで、次々に巣から飛び出してきた。
そいつらは、体長が約三十センチはある赤い目をした真っ黒な蜂だった。やかましく羽音をたてて威嚇してくる。
「こうなっては早急に巣から離れなくては……! みなさん、行ってください!」
ロートレックさんは光弾の魔法を放ち、モルテ・アピスを倒しながら叫んだ。
私達は言われた通り、全速力でその場を離れる。そして、かなりの距離を走り、
「ここまでくれば、彼らのテリトリー外でしょう」
ロートレックさんは息を切らしながら言った。
「う~、怖かったよぉ……」
クリンちゃんはぺたんと座り込む。
「とにかく、無事に逃げ切れて良かったわね」
ノイアさんも安堵の表情になる。
私達は無事逃げきったと思った。だが、それは間違いだったらしく、一匹のモルテ・アピスがノイアさんの背後に現れた。
「危ねえッ!」
ケンユウさんはとっさにノイアさんを庇う。その腕に、モルテ・アピスの死の毒針をまともに受けてしまった!
「くっ……さすがに、かなり効くな……いってえ……!」
素早くもう片方の手でモルテ・アピスを退治し、ケンユウさんはしゃがみ込んだ。苦しそうに呻き、毒針を抜き去ると口を付けて毒を吸いだし、ぺっと吐き捨てる。
「ケンユウ! 大丈夫なの!? そいつは猛毒を持ってるのよ!?」
ノイアさんは悲鳴に近い声を上げる。
「あー、体がかなり痺れるけど直に治まるだろうよ。おいおい、そんな泣きそうな顔すんなよ……」
「でも、あいつらの毒は致死性よ!? このままだと命に関わるわ!」
「一匹くらいなら死にはしねえよ。竜人族の生命力を甘く見んな。ま、五匹以上刺されたら、さすがにやべぇけどな……」
ケンユウさんは力ない笑みを見せる。
「でも、手当はちゃんとした方がいいわよ。クリンちゃん、お願いできる?」
「うん!」
クリンちゃんは元気よく返事をすると、ケンユウさんの腕に手をかざした。淡い緑の柔らかな光が傷を治していく。程なくして治療は終わった。
「アタシのために……、ごめんね?」
「気にすんなって」
「そうだぞノイア。こうなったのは、元はといえばこいつがくしゃみをしたせいなんだからな。自業自得というやつだ。まったく、お前のせいでひどい目に遭ったぞ」
「わ、悪かったよ……。ほんとすまなかった」
ケンユウさんはばつが悪そうな顔をして謝る。
「ねえ、見て見て、あそこ!」
クリンちゃんの指す方向には、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。
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