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第6話 三大竜【大地の覇竜編】
3 この人が竜滅士かー
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翌日。5:15。
「少し早く着きすぎちゃったみたいね」
「少しだと? 思い切り早く着きすぎた、の間違いじゃないのか? 約束の時間まで、まだ小一時間あるぞ」
アレックスは不機嫌そうに吐き捨て、欠伸をした。
「ごめんってば。なんか三大竜を相手にするって思うと、神経が高ぶっちゃって……。じっとしてられなかったのよ」
「まったく、何をはしゃいでいるんだか。お前もこいつらも、まるで遠足当日に浮かれている子供だな」
アレックスは私とクリンちゃんを指して嫌味ったらしく毒づいた。
「あれ、誰か来るよ」
遠くに人影を確認した。二人組の男だ。だが、ロートレックさん達ではない。
その二人組はまっすぐこちらに向かって来る。もしかして、殺人竜退治に来たのかな?
その男達を見て、妙な感覚にとらわれた。あの人達、どこかで見たような……。どこだっけ……?
その男達の顔がハッキリと確認できる距離になり、思わず目を剥いた。
ウゲッ! あいつら、いつぞやのウマ男とカバ男じゃんッ! なんであいつらがこんなところに!? もしかして賞金目当て? ……絶対そうだよね! ってか、あいつら殺人竜と渡り合えるだけの実力あんの!? あの時、ノイアさんに軽くのされてたくせに!
ウマ男がハッとした顔つきになり、何やらカバ男に耳打ちを始めた。
ヤッバ! 向こうも気付いた!?
どうにかやり過ごそうと、さり気なくアレックスの背後に隠れた。しかし、それは無駄な抵抗だったらしく、
「よっ! なんだよ、こんなとこで会うなんて奇遇じゃねえか♪」
ポンッと肩を叩かれて、まるで友達みたいなノリで声をかけられた。
「あらあんた達、いつかの。なあに? また懲りずにユウコちゃんをナンパしてんの?」
ノイアさんが嫌悪の表情を浮かべる。
「ちっ、違いますよぉ、お姉様ァ。俺らにも選ぶ権利があるんスよ? こんな奴ナンパなんかしませんって。ナンパするなら、断然そっちのカワイ子ちゃんの方にしますよぉ♪」
カバ男は私に対して超絶に失礼な台詞を吐き、いやらしい視線をクリンちゃんに向ける。テメー、ふざけんなッ! 私だって、あんたらみたいなブサ男どもからナンパとかされたくないからッ!
クリンちゃんもこのバカコンビを覚えていたらしい。怯えた表情になり、私の背後に隠れてしまった。
「失礼なこと言ってんじゃないわよ。あんた達、自分の顔鏡で見たことないの? ほんと、顔も悪い上に性格まで悪いなんて救いようがないわね。ほら、さっさとアタシ達の視界から消えなさい。目障りよ」
ノイアさんは冷たい声音でバカコンビにしっしっと追い払う仕草を向ける。
そんなノイアさんの言動にウマ男はキレそうな感じだ。だが、前にヒドい目に遭ったのが堪えているのか、特に絡んでくる気配はない。
ウマ男はでっかく舌打ちをするものの、無言で山の中に入っていった。カバ男はそんな相棒の後をのろのろと追いかけていく。
バカコンビが山に入ってから数十分後。
「あれ? また誰か来たよ」
今度はクリンちゃんが言った。
視線を向けると、男三人組の姿が。
なんかやたらムキムキの筋肉マッチョな三人組だ。三人とも見分けがつかないくらい似ている。三つ子? 一人でも存在が濃いのに、三人いればその濃さも三倍だ。
「よおよお! もしかして、お宅らも例の触れを見て来たのかい?」
赤いタンクトップを着たマッチョが馴れ馴れしく訊いてきた。赤マッチョと呼ぼう。
「そんなところだ」
アレックスが答えた。
「ふ~ん」
マッチョ三人組はニヤニヤと気持ち悪い笑みで、値踏みするような視線を私達に注ぐ。
「幽霊みてえな男に、女子供かよ。悪いことは言わねえ。なあ、怪我する前に帰った方がいいんじゃねえの?」
ニヤニヤしながら黄色いタンクトップを着たマッチョが言った。こいつは黄マッチョだな。
「いらん忠告だな。お前達の方こそ帰ったらどうだ? よくいるのだ。少し体格がいいというだけで自分を強者だと錯覚している阿呆な連中がな。このまま進めば怪我をするだけだぞ。最悪の場合、命を落とすことになるかもな」
アレックスは1%の親切心と99%の蔑みの台詞で応酬する。
「こっ、この野郎! 生意気な口叩きやがって!」
案の定、青いタンクトップを着たマッチョが気色ばみ、今にも襲いかからんと拳を握る。以下青マッチョね。
しかし、先に仕掛けたのは青マッチョではなくアレックスだった。
青マッチョの顔面に拳を突き出し、寸前で止めた。
「あまり私に絡むな。寝入り端を馬鹿娘三人に叩き起こされたせいで寝不足なんだ。そういうわけで、あまり機嫌がよくない」
アレックスは氷の刃のような目をマッチョ三人組に向ける。
「ちっ、こんな野郎に構ってる暇はねえ。行くぜ、おめえら」
赤マッチョを先頭に、マッチョ三人組は山の中へと入っていく。
「クソッ! 覚えてやがれ!」
振り向きざまに青マッチョは、三流悪役まんまの捨て台詞を吐いた。
「……あのオジサン達、すっごくエラソーだったけど、あたしより弱そうだったねー」
「そうだな」
クリンちゃんの言葉にアレックスは短く答える。
「そういえば、ロートレックさんのお友達のりゅーめつしさんって一体どんな人だろうね?」
「素手で飛竜を仕留めるというのだ。さっきの三人組のような、筋肉達磨のゴリラのような男だろう」
「おい! 誰がゴリラだ、コラ!」
快活な声がアレックスに突っ込みを入れる。
視線を向けると、亜空ゲートからロートレックさんと、赤い髪をした長身の男が現れたところだった。
「竜滅士のリム・ケンユウだ。よろしくな」
赤毛の男の人は簡潔に名乗り、屈託ない笑顔を見せた。
その容貌は、アレックスの予想とは程遠い。恵まれた長身。どこか野性的な匂いを感じる精悍な顔立ち。なんていうか、ワイルド系のなかなかのイケメンだ。
だけど人間ではない。瞳は金色で、ノイアさんと同じ爬虫類系のものだ。こめかみのやや上辺りからは鹿の角に似た角が生え、耳は獣のような形で鋭そうな毛に覆われている。よく見ると、首の一部には赤い鱗が生えている。外見的な年齢はアレックスより少し上だろうか? 二十代半ばといった感じだ。
「あらあなた、もしかして“ドラクワルト”?」
ノイアさんが驚いたように訊いた。
「ドラクワルト? ああ、西では竜人のことを、そういう風に呼ぶんだったな。そうだぜ、俺は竜人……、あんたらの言葉でいうドラクワルトだ」
「へえ、珍しいわね。あなた達一族って、他種族との交流を好まない閉鎖的な種族って思ってたけど」
「まあな。けど例外はどこにだって居るもんだぜ?」
「ねーねー、お兄さん、男の人なのにリムさんなんて可愛いお名前だねー♪」
クリンちゃんは無邪気に失礼な台詞を繰り出した。
クリンちゃんってば……! まだ会ったばかりの人だよ!? さすがに失礼すぎない? てか、ケンユウってのが名前なんじゃ?
「ははっ! そういうこと言う嬢ちゃんの方が、よっぽど可愛いぜ。リムってのは姓で名前じゃねえんだな。名はケンユウだ」
ケンユウさんは気を悪くすることなく明るく笑う。ほら、やっぱりね。
「彼は東国の方ですからね。姓の後に名がつくんですよ。文化の違いですね」
ロートレックさんが説明した。
そういえば、ケンユウさんの着てる服って、どことなく東洋系な雰囲気がするもんね。なんつーか、地球でいうと中国とか韓国みたいな。
ケンユウさんとは初対面なので私達も一通り名乗った。
「……ん、なんだよ?」
ケンユウさんは自分を見つめるアレックスに、訝しげな顔を向ける。しかしアレックスは何も言わない。
「おいおい、そんなに見つめんなよ。あんた、なかなかの美人だけど男だろ? 俺にそういう趣味はねーんだからな?」
ケンユウさんは苦笑して冗談で返す。
「……お前、罪深いとは思わんのか?」
「へ?」
アレックスの唐突で意味不明な言葉に、ケンユウさんは面食らう。
「お前、ドラクワルトだろう? にもかかわらず、竜滅士を生業にして罪深いとは思わんのか?」
「なんだよ、あんた……。おい、こいつ、ここおかしいのか?」
ケンユウさんはちょんちょんと自分の頭を指して、ロートレックさんに訊ねる。
「私を狂人扱いするのか? おかしいのはお前の方だろう。ドラクワルトであるにもかかわらず、竜滅士を生業としているんだからな。ドラゴンどもはお前達ドラクワルトの祖先だろう。なぜ、そいつらを無差別に葬るような仕事をしているんだ?」
「人聞きの悪ぃこと言うんじゃねえよ! なんだよあんた!? こんなこと言われたの初めてだぜ! っつーか、竜人とドラゴンはもう別モンなんだよっ!」
「申し訳ありません。彼に悪気はないんです。どうか許してあげて下さい」
アレックスの失礼な発言に憤るケンユウさんをロートレックさんがなだめる。
「この馬鹿! わざわざ協力してもらってるのよ? あんまり失礼なこと言うんじゃないわよ!」
ノイアさんがアレックスを小突く。
「まあいい。では山に入るとしよう」
アレックスはしれっと話題を終わらせる。そして、私とクリンちゃんに視線を向け、
「さて、お前達はここまでだ。屋敷に戻っていろ」
「え~?」
クリンちゃんが不満げな声を上げる。
「えー、じゃない。そういう約束だっただろう」
そうなのだ。実は、私とクリンちゃんはクロウェア山の入口まで、という約束でここまで来たのだった。
「やっぱり、あたし達も行きたいよね? ユウコちゃん」
「えっ? うん、まあ……」
約束のことがあるので曖昧に答えた。
けど、正直言って行きたい。ドラゴンとやらを、この目で見てみたい。
「気持ちはわかるけど……。でも、危ないから」
いつも大抵のことに味方をしてくれるノイアさんも、今度ばかりは違う。
「別にいいじゃねえか。嬢ちゃん達も一緒でよ」
意外にもケンユウさんが味方についてくれた。
「ちょっとあなた! 無責任なこと言わないでくれる!? この子達に何かあったら、どうするつもりなの!?」
ノイアさんが食ってかかる。
「けどよ、ここでこの子らを帰しても、後からこっそり付いて来るかもしれないぜ? だったらいっそのこと一緒に行動した方が、かえって安全だと思うんだがな」
「なるほどな。確かにこいつらならやりかねんことだ。クリムベールは一度言い出すと絶対後に引かんからな。まあ、おそらくユウコもそういった部類の奴だろう」
ケンユウさんの言葉にアレックスも同調する。ってか、こいつも失礼な奴だ。別に私はそこまでワガママじゃないんだけど。
「ほら、この兄ちゃんもこう言ってるぜ。それに、仲間外れなんて可哀想じゃねえか」
ケンユウさんはニッと笑う。
「まあ、アレックスがそう言うなら……」
「やったあ♪ じゃあ、殺人竜退治にしゅっぱーつ!」
クリンちゃんは元気良く手を挙げ、出発宣言をした。
「少し早く着きすぎちゃったみたいね」
「少しだと? 思い切り早く着きすぎた、の間違いじゃないのか? 約束の時間まで、まだ小一時間あるぞ」
アレックスは不機嫌そうに吐き捨て、欠伸をした。
「ごめんってば。なんか三大竜を相手にするって思うと、神経が高ぶっちゃって……。じっとしてられなかったのよ」
「まったく、何をはしゃいでいるんだか。お前もこいつらも、まるで遠足当日に浮かれている子供だな」
アレックスは私とクリンちゃんを指して嫌味ったらしく毒づいた。
「あれ、誰か来るよ」
遠くに人影を確認した。二人組の男だ。だが、ロートレックさん達ではない。
その二人組はまっすぐこちらに向かって来る。もしかして、殺人竜退治に来たのかな?
その男達を見て、妙な感覚にとらわれた。あの人達、どこかで見たような……。どこだっけ……?
その男達の顔がハッキリと確認できる距離になり、思わず目を剥いた。
ウゲッ! あいつら、いつぞやのウマ男とカバ男じゃんッ! なんであいつらがこんなところに!? もしかして賞金目当て? ……絶対そうだよね! ってか、あいつら殺人竜と渡り合えるだけの実力あんの!? あの時、ノイアさんに軽くのされてたくせに!
ウマ男がハッとした顔つきになり、何やらカバ男に耳打ちを始めた。
ヤッバ! 向こうも気付いた!?
どうにかやり過ごそうと、さり気なくアレックスの背後に隠れた。しかし、それは無駄な抵抗だったらしく、
「よっ! なんだよ、こんなとこで会うなんて奇遇じゃねえか♪」
ポンッと肩を叩かれて、まるで友達みたいなノリで声をかけられた。
「あらあんた達、いつかの。なあに? また懲りずにユウコちゃんをナンパしてんの?」
ノイアさんが嫌悪の表情を浮かべる。
「ちっ、違いますよぉ、お姉様ァ。俺らにも選ぶ権利があるんスよ? こんな奴ナンパなんかしませんって。ナンパするなら、断然そっちのカワイ子ちゃんの方にしますよぉ♪」
カバ男は私に対して超絶に失礼な台詞を吐き、いやらしい視線をクリンちゃんに向ける。テメー、ふざけんなッ! 私だって、あんたらみたいなブサ男どもからナンパとかされたくないからッ!
クリンちゃんもこのバカコンビを覚えていたらしい。怯えた表情になり、私の背後に隠れてしまった。
「失礼なこと言ってんじゃないわよ。あんた達、自分の顔鏡で見たことないの? ほんと、顔も悪い上に性格まで悪いなんて救いようがないわね。ほら、さっさとアタシ達の視界から消えなさい。目障りよ」
ノイアさんは冷たい声音でバカコンビにしっしっと追い払う仕草を向ける。
そんなノイアさんの言動にウマ男はキレそうな感じだ。だが、前にヒドい目に遭ったのが堪えているのか、特に絡んでくる気配はない。
ウマ男はでっかく舌打ちをするものの、無言で山の中に入っていった。カバ男はそんな相棒の後をのろのろと追いかけていく。
バカコンビが山に入ってから数十分後。
「あれ? また誰か来たよ」
今度はクリンちゃんが言った。
視線を向けると、男三人組の姿が。
なんかやたらムキムキの筋肉マッチョな三人組だ。三人とも見分けがつかないくらい似ている。三つ子? 一人でも存在が濃いのに、三人いればその濃さも三倍だ。
「よおよお! もしかして、お宅らも例の触れを見て来たのかい?」
赤いタンクトップを着たマッチョが馴れ馴れしく訊いてきた。赤マッチョと呼ぼう。
「そんなところだ」
アレックスが答えた。
「ふ~ん」
マッチョ三人組はニヤニヤと気持ち悪い笑みで、値踏みするような視線を私達に注ぐ。
「幽霊みてえな男に、女子供かよ。悪いことは言わねえ。なあ、怪我する前に帰った方がいいんじゃねえの?」
ニヤニヤしながら黄色いタンクトップを着たマッチョが言った。こいつは黄マッチョだな。
「いらん忠告だな。お前達の方こそ帰ったらどうだ? よくいるのだ。少し体格がいいというだけで自分を強者だと錯覚している阿呆な連中がな。このまま進めば怪我をするだけだぞ。最悪の場合、命を落とすことになるかもな」
アレックスは1%の親切心と99%の蔑みの台詞で応酬する。
「こっ、この野郎! 生意気な口叩きやがって!」
案の定、青いタンクトップを着たマッチョが気色ばみ、今にも襲いかからんと拳を握る。以下青マッチョね。
しかし、先に仕掛けたのは青マッチョではなくアレックスだった。
青マッチョの顔面に拳を突き出し、寸前で止めた。
「あまり私に絡むな。寝入り端を馬鹿娘三人に叩き起こされたせいで寝不足なんだ。そういうわけで、あまり機嫌がよくない」
アレックスは氷の刃のような目をマッチョ三人組に向ける。
「ちっ、こんな野郎に構ってる暇はねえ。行くぜ、おめえら」
赤マッチョを先頭に、マッチョ三人組は山の中へと入っていく。
「クソッ! 覚えてやがれ!」
振り向きざまに青マッチョは、三流悪役まんまの捨て台詞を吐いた。
「……あのオジサン達、すっごくエラソーだったけど、あたしより弱そうだったねー」
「そうだな」
クリンちゃんの言葉にアレックスは短く答える。
「そういえば、ロートレックさんのお友達のりゅーめつしさんって一体どんな人だろうね?」
「素手で飛竜を仕留めるというのだ。さっきの三人組のような、筋肉達磨のゴリラのような男だろう」
「おい! 誰がゴリラだ、コラ!」
快活な声がアレックスに突っ込みを入れる。
視線を向けると、亜空ゲートからロートレックさんと、赤い髪をした長身の男が現れたところだった。
「竜滅士のリム・ケンユウだ。よろしくな」
赤毛の男の人は簡潔に名乗り、屈託ない笑顔を見せた。
その容貌は、アレックスの予想とは程遠い。恵まれた長身。どこか野性的な匂いを感じる精悍な顔立ち。なんていうか、ワイルド系のなかなかのイケメンだ。
だけど人間ではない。瞳は金色で、ノイアさんと同じ爬虫類系のものだ。こめかみのやや上辺りからは鹿の角に似た角が生え、耳は獣のような形で鋭そうな毛に覆われている。よく見ると、首の一部には赤い鱗が生えている。外見的な年齢はアレックスより少し上だろうか? 二十代半ばといった感じだ。
「あらあなた、もしかして“ドラクワルト”?」
ノイアさんが驚いたように訊いた。
「ドラクワルト? ああ、西では竜人のことを、そういう風に呼ぶんだったな。そうだぜ、俺は竜人……、あんたらの言葉でいうドラクワルトだ」
「へえ、珍しいわね。あなた達一族って、他種族との交流を好まない閉鎖的な種族って思ってたけど」
「まあな。けど例外はどこにだって居るもんだぜ?」
「ねーねー、お兄さん、男の人なのにリムさんなんて可愛いお名前だねー♪」
クリンちゃんは無邪気に失礼な台詞を繰り出した。
クリンちゃんってば……! まだ会ったばかりの人だよ!? さすがに失礼すぎない? てか、ケンユウってのが名前なんじゃ?
「ははっ! そういうこと言う嬢ちゃんの方が、よっぽど可愛いぜ。リムってのは姓で名前じゃねえんだな。名はケンユウだ」
ケンユウさんは気を悪くすることなく明るく笑う。ほら、やっぱりね。
「彼は東国の方ですからね。姓の後に名がつくんですよ。文化の違いですね」
ロートレックさんが説明した。
そういえば、ケンユウさんの着てる服って、どことなく東洋系な雰囲気がするもんね。なんつーか、地球でいうと中国とか韓国みたいな。
ケンユウさんとは初対面なので私達も一通り名乗った。
「……ん、なんだよ?」
ケンユウさんは自分を見つめるアレックスに、訝しげな顔を向ける。しかしアレックスは何も言わない。
「おいおい、そんなに見つめんなよ。あんた、なかなかの美人だけど男だろ? 俺にそういう趣味はねーんだからな?」
ケンユウさんは苦笑して冗談で返す。
「……お前、罪深いとは思わんのか?」
「へ?」
アレックスの唐突で意味不明な言葉に、ケンユウさんは面食らう。
「お前、ドラクワルトだろう? にもかかわらず、竜滅士を生業にして罪深いとは思わんのか?」
「なんだよ、あんた……。おい、こいつ、ここおかしいのか?」
ケンユウさんはちょんちょんと自分の頭を指して、ロートレックさんに訊ねる。
「私を狂人扱いするのか? おかしいのはお前の方だろう。ドラクワルトであるにもかかわらず、竜滅士を生業としているんだからな。ドラゴンどもはお前達ドラクワルトの祖先だろう。なぜ、そいつらを無差別に葬るような仕事をしているんだ?」
「人聞きの悪ぃこと言うんじゃねえよ! なんだよあんた!? こんなこと言われたの初めてだぜ! っつーか、竜人とドラゴンはもう別モンなんだよっ!」
「申し訳ありません。彼に悪気はないんです。どうか許してあげて下さい」
アレックスの失礼な発言に憤るケンユウさんをロートレックさんがなだめる。
「この馬鹿! わざわざ協力してもらってるのよ? あんまり失礼なこと言うんじゃないわよ!」
ノイアさんがアレックスを小突く。
「まあいい。では山に入るとしよう」
アレックスはしれっと話題を終わらせる。そして、私とクリンちゃんに視線を向け、
「さて、お前達はここまでだ。屋敷に戻っていろ」
「え~?」
クリンちゃんが不満げな声を上げる。
「えー、じゃない。そういう約束だっただろう」
そうなのだ。実は、私とクリンちゃんはクロウェア山の入口まで、という約束でここまで来たのだった。
「やっぱり、あたし達も行きたいよね? ユウコちゃん」
「えっ? うん、まあ……」
約束のことがあるので曖昧に答えた。
けど、正直言って行きたい。ドラゴンとやらを、この目で見てみたい。
「気持ちはわかるけど……。でも、危ないから」
いつも大抵のことに味方をしてくれるノイアさんも、今度ばかりは違う。
「別にいいじゃねえか。嬢ちゃん達も一緒でよ」
意外にもケンユウさんが味方についてくれた。
「ちょっとあなた! 無責任なこと言わないでくれる!? この子達に何かあったら、どうするつもりなの!?」
ノイアさんが食ってかかる。
「けどよ、ここでこの子らを帰しても、後からこっそり付いて来るかもしれないぜ? だったらいっそのこと一緒に行動した方が、かえって安全だと思うんだがな」
「なるほどな。確かにこいつらならやりかねんことだ。クリムベールは一度言い出すと絶対後に引かんからな。まあ、おそらくユウコもそういった部類の奴だろう」
ケンユウさんの言葉にアレックスも同調する。ってか、こいつも失礼な奴だ。別に私はそこまでワガママじゃないんだけど。
「ほら、この兄ちゃんもこう言ってるぜ。それに、仲間外れなんて可哀想じゃねえか」
ケンユウさんはニッと笑う。
「まあ、アレックスがそう言うなら……」
「やったあ♪ じゃあ、殺人竜退治にしゅっぱーつ!」
クリンちゃんは元気良く手を挙げ、出発宣言をした。
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