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第5話 連鎖する不幸に振り回され
5 入れ替わっちまった!
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「……い、おい、起きろ」
朦朧とした意識の中、声が聴こえる。
目を開けると、私を見下ろす人影が浮かび上がった。
青白い肌に黒装束をまとったその人物は、私を迎えに来た死神……ではなくアレックスだ。
「アレックス……?」
混乱する思考の中、弱々しい声で名前を呼ぶ。
「物置の扉が開いているので、おかしいと覗いてみると、この有様だ。なぜお前達はこんな場所で寝ている?」
アレックスは無表情のまま淡々と訊いてきた。
「えっと……、かくれんぼしてて、それで、ここに隠れて……」
「そうか。だが今後、この部屋には立ち入らないでくれ。色々と厄介な物も多いのでな」
アレックスは辺りを軽く見回して言った。
「うん、わかった……」
「ほう? お前にしては、ずいぶんと物分かりがいいな」
アレックスは嫌味ったらしくそう言って視線を移し、
「おい、ユウコ、いつまで眠りこけていれば気が済む。さっさと起きろ」
支離滅裂なことを言いだした。
「は? 何言ってんの? 私、もう起きてるじゃん」
反論して立ち上がった。すると、私の視線は床がえらく近くなっている。
「プ、プ~? もう朝っプか~?」
呑気にプリンが言った。しかし、そう言って眠そうに目をこする姿はプリンではなく私……。
反射的に自分の姿を確認した。
「ちょっ! な、なんなのコレッ!?」
なんと私の体は、全身がもふもふとした鮮やかなブルーの体毛に覆われていた。
「やかましいぞププカ。喚くんじゃない」
アレックスがこちらに視線を向けて、淡々とたしなめる。
「ちっ、違うのっ! 私はプリンじゃないよッ! 有子だよッ! ちょっと、ウソでしょ!? 一体どうなってんの、コレ!?」
混乱のあまり、あわあわと慌てふためく。
それに引き替え、プリンは冷静というか事の重大さに全く気付いていないようで、
「あり? ポクってば、いつの間にかすんげー背が伸びたみたいっプね~」
と、呑気にのたまう始末だ。
「ねえ、アレックス! これ、一体どういうことなの!? なんでこんなことになったワケ!?」
アレックスの脚にしがみついてまくし立てる。
「わかったから少し落ち着け」
「何言ってんの! これが落ち着いていられますかっ!」
「そうは言うが、きちんと説明してくれなければ、こちらとしても何も言えんではないか」
アレックスは私を持ち上げ、視線を合わせて諭す。涼しげなアレックスの瞳を見ていると、不思議と落ち着きが戻ってきた。
意識を失う直前のことをできるだけ細かく説明をした。
「なるほど、こいつを使ったのか」
アレックスはあの糸電話を手に取り、めんどくさそうにため息を吐いた。
「で、それ、一体なんなの?」
「これは、双代の緒といって、精神の相互変換をする魔導具だ。この受け口に口を当てた者同士の意識を入れ替えることができるわけだが……。まったく、玩具と勘違いしていながら、よく正しい使い方をしたものだな」
アレックスは半ば呆れ気味に感心する。
「やっぱそういう道具か……。だから私、プリンの姿してるんだね……。でも、アレックスなら元に戻せるんでしょ?」
「生憎だが、私にはどうにもできん」
「ウソっ!? ……あっ、でも、もう一度使えば入れ替わって元に戻ることができるか」
「それは無理だ。一度入れ替わった者同士は、二度と精神を入れ替えられない。そういう仕様になっている」
「なっ!? じゃあ、私達どうなるわけ!?」
「訊くまでもない。一生入れ替わったまま過ごすしかないだろう」
アレックスは涼しげな無表情顔で、まるで他人事のように断言した。そして、更に追い撃ちをかけるように、
「しかし、お前の人生もなかなか悲惨だな。自分の居た世界に還れないだけでなく、果てはププカと意識が入れ替わったばかりに、畜生の姿でこれからの人生を全うせねばならんとは……」
信じられないほど薄情な台詞を淡々と口にした。
「なんなの、その言い種!? 何度も言うけど、この世界に来たのはオメーのせいだろ、コラ! それに、こうなったのだって、あんたが魔導具の管理を怠ってたからじゃない! こんなアブナイ道具があるなら、物置にはしっかり鍵付けとけよ!」
怒りに身を任せ、一気にまくしたてた。しかし、アレックスに怒りをぶつけても現実が変わるわけではない。
「どうしてこんな目に……。これじゃ、もう地球に戻るなんてできないじゃん……!」
今まで感じたことのない絶望が胸一杯に広がっていく。俯き、自分の身に降りかかった災難を噛み締める。
「……嘘だ」
不意にアレックスが口を開いた。
「えっ?」
「一生このままというのは嘘だ。この魔導具の効果は約二十四時間。時が経てば元に戻る」
アレックスの言葉に言葉を失う。安堵しつつも、またまた怒りがこみ上げてきた。
「どうしてそんな嘘吐くわけ!? ホンット信じらんない! この人でなしっ!」
「魔導具は危険なものも多いからな。二度と触ろうと思わぬよう、脅かしてやろうと思ったのだ」
アレックスは全く悪びれることもなく、しれっと言ってのけた。
「だからって悪趣味な嘘吐かないでよ、バカっ!」
「ともかく、時が経てば元に戻る。それまでの辛抱だ。今はちょうど17:00。明日のこのくらいの時間になったら戻るだろう」
アレックスは胸元から懐中時計を出して言った。そして先に物置から出て行く。
「……やれやれ、ま、元に戻るようで良かったよ。ね、プリン?」
「そうップね」
プリンは不思議そうに、私になった自分の姿を見回している。
なんつーか、意識が入れ替わってるとはいえ、こうやって客観的に自分の姿を見るのも妙な感じだ。
朦朧とした意識の中、声が聴こえる。
目を開けると、私を見下ろす人影が浮かび上がった。
青白い肌に黒装束をまとったその人物は、私を迎えに来た死神……ではなくアレックスだ。
「アレックス……?」
混乱する思考の中、弱々しい声で名前を呼ぶ。
「物置の扉が開いているので、おかしいと覗いてみると、この有様だ。なぜお前達はこんな場所で寝ている?」
アレックスは無表情のまま淡々と訊いてきた。
「えっと……、かくれんぼしてて、それで、ここに隠れて……」
「そうか。だが今後、この部屋には立ち入らないでくれ。色々と厄介な物も多いのでな」
アレックスは辺りを軽く見回して言った。
「うん、わかった……」
「ほう? お前にしては、ずいぶんと物分かりがいいな」
アレックスは嫌味ったらしくそう言って視線を移し、
「おい、ユウコ、いつまで眠りこけていれば気が済む。さっさと起きろ」
支離滅裂なことを言いだした。
「は? 何言ってんの? 私、もう起きてるじゃん」
反論して立ち上がった。すると、私の視線は床がえらく近くなっている。
「プ、プ~? もう朝っプか~?」
呑気にプリンが言った。しかし、そう言って眠そうに目をこする姿はプリンではなく私……。
反射的に自分の姿を確認した。
「ちょっ! な、なんなのコレッ!?」
なんと私の体は、全身がもふもふとした鮮やかなブルーの体毛に覆われていた。
「やかましいぞププカ。喚くんじゃない」
アレックスがこちらに視線を向けて、淡々とたしなめる。
「ちっ、違うのっ! 私はプリンじゃないよッ! 有子だよッ! ちょっと、ウソでしょ!? 一体どうなってんの、コレ!?」
混乱のあまり、あわあわと慌てふためく。
それに引き替え、プリンは冷静というか事の重大さに全く気付いていないようで、
「あり? ポクってば、いつの間にかすんげー背が伸びたみたいっプね~」
と、呑気にのたまう始末だ。
「ねえ、アレックス! これ、一体どういうことなの!? なんでこんなことになったワケ!?」
アレックスの脚にしがみついてまくし立てる。
「わかったから少し落ち着け」
「何言ってんの! これが落ち着いていられますかっ!」
「そうは言うが、きちんと説明してくれなければ、こちらとしても何も言えんではないか」
アレックスは私を持ち上げ、視線を合わせて諭す。涼しげなアレックスの瞳を見ていると、不思議と落ち着きが戻ってきた。
意識を失う直前のことをできるだけ細かく説明をした。
「なるほど、こいつを使ったのか」
アレックスはあの糸電話を手に取り、めんどくさそうにため息を吐いた。
「で、それ、一体なんなの?」
「これは、双代の緒といって、精神の相互変換をする魔導具だ。この受け口に口を当てた者同士の意識を入れ替えることができるわけだが……。まったく、玩具と勘違いしていながら、よく正しい使い方をしたものだな」
アレックスは半ば呆れ気味に感心する。
「やっぱそういう道具か……。だから私、プリンの姿してるんだね……。でも、アレックスなら元に戻せるんでしょ?」
「生憎だが、私にはどうにもできん」
「ウソっ!? ……あっ、でも、もう一度使えば入れ替わって元に戻ることができるか」
「それは無理だ。一度入れ替わった者同士は、二度と精神を入れ替えられない。そういう仕様になっている」
「なっ!? じゃあ、私達どうなるわけ!?」
「訊くまでもない。一生入れ替わったまま過ごすしかないだろう」
アレックスは涼しげな無表情顔で、まるで他人事のように断言した。そして、更に追い撃ちをかけるように、
「しかし、お前の人生もなかなか悲惨だな。自分の居た世界に還れないだけでなく、果てはププカと意識が入れ替わったばかりに、畜生の姿でこれからの人生を全うせねばならんとは……」
信じられないほど薄情な台詞を淡々と口にした。
「なんなの、その言い種!? 何度も言うけど、この世界に来たのはオメーのせいだろ、コラ! それに、こうなったのだって、あんたが魔導具の管理を怠ってたからじゃない! こんなアブナイ道具があるなら、物置にはしっかり鍵付けとけよ!」
怒りに身を任せ、一気にまくしたてた。しかし、アレックスに怒りをぶつけても現実が変わるわけではない。
「どうしてこんな目に……。これじゃ、もう地球に戻るなんてできないじゃん……!」
今まで感じたことのない絶望が胸一杯に広がっていく。俯き、自分の身に降りかかった災難を噛み締める。
「……嘘だ」
不意にアレックスが口を開いた。
「えっ?」
「一生このままというのは嘘だ。この魔導具の効果は約二十四時間。時が経てば元に戻る」
アレックスの言葉に言葉を失う。安堵しつつも、またまた怒りがこみ上げてきた。
「どうしてそんな嘘吐くわけ!? ホンット信じらんない! この人でなしっ!」
「魔導具は危険なものも多いからな。二度と触ろうと思わぬよう、脅かしてやろうと思ったのだ」
アレックスは全く悪びれることもなく、しれっと言ってのけた。
「だからって悪趣味な嘘吐かないでよ、バカっ!」
「ともかく、時が経てば元に戻る。それまでの辛抱だ。今はちょうど17:00。明日のこのくらいの時間になったら戻るだろう」
アレックスは胸元から懐中時計を出して言った。そして先に物置から出て行く。
「……やれやれ、ま、元に戻るようで良かったよ。ね、プリン?」
「そうップね」
プリンは不思議そうに、私になった自分の姿を見回している。
なんつーか、意識が入れ替わってるとはいえ、こうやって客観的に自分の姿を見るのも妙な感じだ。
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