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第5話 連鎖する不幸に振り回され
2 強烈なオネエ系魔術師現る
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「あ~ら、いらっしゃい♪ よく来たわね~♪」
そう迎えてくれたのは、かなりガタイのいい、クドい顔をした年齢不詳のファータの男の人だった。
パステルピンクのふりふりレースをあしらった、かなり姫系チックな衣装を着ているのがなんともミスマッチだ。
そんなわけで、一度会ったら二度と忘れられないようなインパクトを爆発させている。
「あらあら、あなたは初めましてね。うふっ♪ アタシはローズリー=コニファー。しがない次元術師よ。よろしくね♪」
ローズリーさんは私にそう自己紹介して、バチーンとウインクをしてみせた。
「あ……田中有子です。よろしくです」
予想もしなかった濃すぎる人物を目の当たりにし、ボーゼンとなりながら私も名乗って返した。
「うふふ♪ ユーちゃんって呼ばせてもらうわ♪」
ローズリーさんはにっこりと微笑む。初っ端からやたらフレンドリーに押してくる人だ。
「さぁさ、立ち話もなんだし、座ってちょうだいな♪」
ローズリーさんに促され、私達はソファーに腰をかける。
室内が家の外観からは想像もできないくらい広いのに驚いた。もしかして魔法の力が働いてるの? そういえば、次元術師とかって言ってたっけ。
インテリアはふんわり柔らかなパステルカラーで全体的に可愛らしくまとめられている。
「あのね、今日はアレックスのお使いで、まどーしょを受け取りに来たの」
「はいはい、ちゃ~んと用意してるわよ~。じゃあこれ、アッちゃんに渡してあげてね♪」
ローズリーさんはそう言うと、奇妙な形の本をクリンちゃんに渡した。ってかアレックスの奴、ローズリーさんからアッちゃんって呼ばれてんの!? これはもう、帰ったらこのネタでいじってやるしかない!
「せっかくだからアッちゃんも一緒に来ればよかったのに……。忙しいのかしら?」
ローズリーさんはとても残念そうに肩を落とす。いやいや忙しくないですから。今頃、一人悠々と呑気に一杯あおってるとこですよ。
「ああん! ローズリーさっみしぃ~ン! アッちゃんの、あのクールで麗しいお姿を拝みたいわぁ~!」
ローズリーさんは一人くねくねと悶える。どうやらアレックスのことがかなりお気に入りらしい……。
「おーい、センセ! みんな引いてんぞー」
ミントさんがカップにお茶を注ぎながら、自分の世界にトリップしているローズリーさんに突っ込みを入れる。
「あらヤダ、アタシったら。まあいいわ。今日はローくんが来てくれたしね♪」
ローズリーさんに熱い眼差しを向けられ、ロートレックさんは困惑したような怯えているような複雑な表情を浮かべている。ってか、ロートレックさんはローくんかぁ。いいなぁ、私もそう呼びたい……!
「でも今度来る時はアッちゃんも絶対連れてきてね♪ ローズリーが会いたがってる、って伝えてちょうだい」
ローズリーさんはしなを作りクリンちゃんに言った。
「このセンセな、男なのに男好きなんだわ。変わってんだろ?」
ミントさんが耳打ちして教えてくれた。あ~、やっぱそっち系の人か……。だからあいつ、自分で行くの渋ってたんだな……。
「それでローくんは一体なんのご用かしら? もしかして、アタシに会いたかったの!?」
ローズリーさんが身を乗り出し、瞳を輝かせながら興奮気味に訊ねる。
「い、いえ、今日は相談したいことがあって来ました。そうですね、ちょうどユウコさんがいらっしゃって好都合です」
ロートレックさんは私を見て言った。私が居て良かったって……、一体なんだろう?
「ユーちゃんが居て都合のいい話……。あ、もしかして、結婚するからその仲人をアタシに頼みたいとか!?」
うっは! ローズリーさん、いきなり何言いだすの!?
「は? いきなり的外れな勘違いをしないでくださいよ。そうではなく……」
「それとも、結婚したいけど、ユーちゃんのご両親が許してくれないから説得するのに協力して欲しいの!?」
「だから、そういった話ではなく……」
「確かに異種族間の結婚は未だに偏見があるものね。相手がエルセノアの場合、特に難しいっていうし。いいわ! こうなりゃ、この不肖ローズリー、二人の愛のために一肌脱ぐわよっ!」
ローズリーさんは一気にそうまくし立て、やる気満々といった感じで腕をまくる。
「違います! お願いですから僕の話をきちんと聞いてください」
「あら? 違うの?」
「違いますよ……。大体、どんな勘違いをすればそういう結論に至るんですか……。相談したいことというのは……」
ロートレックさんは召喚儀式を失敗させたせいで、私がこの世界に来てしまったことを説明し、なんとかして還す方法がないかを訊ねた。
「あらまあ、ユーちゃんは異世界の子だったの……」
ローズリーさんが同情の眼差しで私を見る。
「僕も調べてはいるのですが、未だに見当すらつかない状態でして……」
「だからアタシの出番ってわけね?」
「はい。ローズリーさんは異界研究の分野でご活躍されていらっしゃいますから」
「う~ん、期待を裏切るようで悪いけど、アタシもチキュウなんて異世界は初めて聞いたから、すぐにはお役に立てないわね……」
「そうですか……」
ロートレックさんは短く答え、落胆したように俯く。
「ああ、そんなに落ち込まないでちょうだいよ。アタシも調べてみるから」
「本当ですか? ありがとうございます……!」
私は頭を下げ、ローズリーさんにお礼を言った。
☆★☆
ローズリーさんの家を後にした私達三人は、サントリナの街を歩いていく。
せっかくなので少しサントリナを観光することにしたのだ。
「それにしても、まさかロートレックさんに会えるとは思いませんでしたよ」
「本当ですね。僕もまさか、サントリナでお二人に会えるとは思いもしませんでした」
「あの、ありがとうございます。私を地球に還す方法、調べてくれているようで」
「お礼を言われる程のことではありません。ユウコさんがこの世界に来てしまったのは、元はといえば僕らが原因なわけですし。当然のことをしているだけですよ」
「あ、いや、そんなに自分を責める言い方はしないでください。ってか、ロートレックさんはこうやっていろいろ調べてくれてんのに、アレックスの奴は責任を感じることもなく、のうのうとしてるのが妙にムカつく……」
「そんなことないと思いますよ。アレックスもあれで責任は感じているはずです。そうでなかったら、わざわざローズリーさんから魔導書を借りたりはしないでしょう」
「え、そうですかね? てっきり、聖母姫の件で必要なのかと思ってたんですが……」
「いえ、多分違うでしょう。ローズリーさんの所有する魔導書は、その件とは分野が異なるでしょうし」
ふ~ん、あいつもちょっとは責任を感じてるってことか。
☆★☆
屋敷に戻ると私達は書斎に直行した。しかし、そこにアレックスの姿はなく自室の方にいた。
「遅過ぎるぞ。まあ、のろまだから仕方ないとは思うが、もう少し早く帰ってくる努力をしたらどうなんだ」
部屋に入るなり、アレックスはお約束通りな感じで嫌味ったらしく毒づいてきた。ってか、空のボトルがテーブル一杯に置かれてるよ! こいつ、真っ昼間からどんだけ飲んでんの!? もう息抜きっていうより完全にマジ飲みじゃん!
「ごめんなさい、アレックス。ちょうどロートレックさんもサントリナに来ててね。少し一緒に遊んでたの。ほら、ユウコちゃんはあの街初めてだったから案内もしたかったし」
真っ昼間から飲酒三昧という、とびっきりいい身分のアレックスに対し、クリンちゃんは帰りが遅くなったことを素直に謝る。
「ロートレックと遊んでいただと? まったく、あいつは何を考えている。近頃怠けてばかりだな。それも、問題を私に全て押し付けてだ。忌々しい奴め」
アレックスは日本酒みたいな酒をグラスに注ぎながらロートレックさんをなじる。
「あのさ、ロートレックさんは私が地球に帰るための方法をローズリーさんに相談するって目的でサントリナに来てたんだよ? あんまり悪く言わないでよね」
真相も知らずロートレックさんをなじるアレックスに私は言ってやった。
「奴の目的など知ったことか。用事が済んだのなら、後はさっさと帰ればいいだけの話だろう。なぜそれができなかったのか、と私は言いたいんだ」
アレックスは注いだ酒を一口飲んで、心底忌々しそうにそう吐き捨てた。その様はもはや、酔っぱらいが愚痴を垂れ流しているようにしか見えない。
ってか、今飲んでるその酒、ロートレックさんが慰安旅行のお土産に、ってくれたものだよね? そんな貰いものの酒を楽しみながら、あんまロートレックさんを悪く言うな、コラ!
「まあ遅くなったのは悪かったよ。でも、あんただってそんだけボトル空にしたんだから、結構のんびりしてたんでしょ? ここはおあいこってことで勘弁してよ」
確かに黙って寄り道したのは悪かったかなと思い、さっさとこの話題を終わらせようと謝罪の意を示す。
「……まあ、そういうことにしてやろう」
アレックスは上から目線でそう返し、一息にグラスの酒を飲み干した。
「はい、まどーしょだよ」
クリンちゃんは魔導書をアレックスに渡す。
アレックスは「ああ、ご苦労だったな」と月並みな労いの言葉をかけ、早速魔導書のページを開く。
「そうそう、ローズリーさん、アレックスに会いたがってたよ。今度来る時は一緒においでだって」
律儀にローズリーさんの伝言を伝えるクリンちゃん。
「……そうか。考えておく」
アレックスは魔導書に視線を落としたまま微妙な間を挟み、曖昧に答えた。
「何それ、あんた絶対行く気ないでしょ? てか、ローズリーさんから超気に入られてるんだね、アッちゃんは♪」
ちょっと意地悪く言ってみた。
「黙れ。それと私をアッちゃんと呼ぶな」
アレックスは無表情に淡々と応酬すると部屋を出て行った。念願の魔導書が手に入ったので、書斎に向かったのだろう。
からかってもリアクションの薄いことに少し不満を抱きつつ、私達もアレックスの部屋を後にした。
そう迎えてくれたのは、かなりガタイのいい、クドい顔をした年齢不詳のファータの男の人だった。
パステルピンクのふりふりレースをあしらった、かなり姫系チックな衣装を着ているのがなんともミスマッチだ。
そんなわけで、一度会ったら二度と忘れられないようなインパクトを爆発させている。
「あらあら、あなたは初めましてね。うふっ♪ アタシはローズリー=コニファー。しがない次元術師よ。よろしくね♪」
ローズリーさんは私にそう自己紹介して、バチーンとウインクをしてみせた。
「あ……田中有子です。よろしくです」
予想もしなかった濃すぎる人物を目の当たりにし、ボーゼンとなりながら私も名乗って返した。
「うふふ♪ ユーちゃんって呼ばせてもらうわ♪」
ローズリーさんはにっこりと微笑む。初っ端からやたらフレンドリーに押してくる人だ。
「さぁさ、立ち話もなんだし、座ってちょうだいな♪」
ローズリーさんに促され、私達はソファーに腰をかける。
室内が家の外観からは想像もできないくらい広いのに驚いた。もしかして魔法の力が働いてるの? そういえば、次元術師とかって言ってたっけ。
インテリアはふんわり柔らかなパステルカラーで全体的に可愛らしくまとめられている。
「あのね、今日はアレックスのお使いで、まどーしょを受け取りに来たの」
「はいはい、ちゃ~んと用意してるわよ~。じゃあこれ、アッちゃんに渡してあげてね♪」
ローズリーさんはそう言うと、奇妙な形の本をクリンちゃんに渡した。ってかアレックスの奴、ローズリーさんからアッちゃんって呼ばれてんの!? これはもう、帰ったらこのネタでいじってやるしかない!
「せっかくだからアッちゃんも一緒に来ればよかったのに……。忙しいのかしら?」
ローズリーさんはとても残念そうに肩を落とす。いやいや忙しくないですから。今頃、一人悠々と呑気に一杯あおってるとこですよ。
「ああん! ローズリーさっみしぃ~ン! アッちゃんの、あのクールで麗しいお姿を拝みたいわぁ~!」
ローズリーさんは一人くねくねと悶える。どうやらアレックスのことがかなりお気に入りらしい……。
「おーい、センセ! みんな引いてんぞー」
ミントさんがカップにお茶を注ぎながら、自分の世界にトリップしているローズリーさんに突っ込みを入れる。
「あらヤダ、アタシったら。まあいいわ。今日はローくんが来てくれたしね♪」
ローズリーさんに熱い眼差しを向けられ、ロートレックさんは困惑したような怯えているような複雑な表情を浮かべている。ってか、ロートレックさんはローくんかぁ。いいなぁ、私もそう呼びたい……!
「でも今度来る時はアッちゃんも絶対連れてきてね♪ ローズリーが会いたがってる、って伝えてちょうだい」
ローズリーさんはしなを作りクリンちゃんに言った。
「このセンセな、男なのに男好きなんだわ。変わってんだろ?」
ミントさんが耳打ちして教えてくれた。あ~、やっぱそっち系の人か……。だからあいつ、自分で行くの渋ってたんだな……。
「それでローくんは一体なんのご用かしら? もしかして、アタシに会いたかったの!?」
ローズリーさんが身を乗り出し、瞳を輝かせながら興奮気味に訊ねる。
「い、いえ、今日は相談したいことがあって来ました。そうですね、ちょうどユウコさんがいらっしゃって好都合です」
ロートレックさんは私を見て言った。私が居て良かったって……、一体なんだろう?
「ユーちゃんが居て都合のいい話……。あ、もしかして、結婚するからその仲人をアタシに頼みたいとか!?」
うっは! ローズリーさん、いきなり何言いだすの!?
「は? いきなり的外れな勘違いをしないでくださいよ。そうではなく……」
「それとも、結婚したいけど、ユーちゃんのご両親が許してくれないから説得するのに協力して欲しいの!?」
「だから、そういった話ではなく……」
「確かに異種族間の結婚は未だに偏見があるものね。相手がエルセノアの場合、特に難しいっていうし。いいわ! こうなりゃ、この不肖ローズリー、二人の愛のために一肌脱ぐわよっ!」
ローズリーさんは一気にそうまくし立て、やる気満々といった感じで腕をまくる。
「違います! お願いですから僕の話をきちんと聞いてください」
「あら? 違うの?」
「違いますよ……。大体、どんな勘違いをすればそういう結論に至るんですか……。相談したいことというのは……」
ロートレックさんは召喚儀式を失敗させたせいで、私がこの世界に来てしまったことを説明し、なんとかして還す方法がないかを訊ねた。
「あらまあ、ユーちゃんは異世界の子だったの……」
ローズリーさんが同情の眼差しで私を見る。
「僕も調べてはいるのですが、未だに見当すらつかない状態でして……」
「だからアタシの出番ってわけね?」
「はい。ローズリーさんは異界研究の分野でご活躍されていらっしゃいますから」
「う~ん、期待を裏切るようで悪いけど、アタシもチキュウなんて異世界は初めて聞いたから、すぐにはお役に立てないわね……」
「そうですか……」
ロートレックさんは短く答え、落胆したように俯く。
「ああ、そんなに落ち込まないでちょうだいよ。アタシも調べてみるから」
「本当ですか? ありがとうございます……!」
私は頭を下げ、ローズリーさんにお礼を言った。
☆★☆
ローズリーさんの家を後にした私達三人は、サントリナの街を歩いていく。
せっかくなので少しサントリナを観光することにしたのだ。
「それにしても、まさかロートレックさんに会えるとは思いませんでしたよ」
「本当ですね。僕もまさか、サントリナでお二人に会えるとは思いもしませんでした」
「あの、ありがとうございます。私を地球に還す方法、調べてくれているようで」
「お礼を言われる程のことではありません。ユウコさんがこの世界に来てしまったのは、元はといえば僕らが原因なわけですし。当然のことをしているだけですよ」
「あ、いや、そんなに自分を責める言い方はしないでください。ってか、ロートレックさんはこうやっていろいろ調べてくれてんのに、アレックスの奴は責任を感じることもなく、のうのうとしてるのが妙にムカつく……」
「そんなことないと思いますよ。アレックスもあれで責任は感じているはずです。そうでなかったら、わざわざローズリーさんから魔導書を借りたりはしないでしょう」
「え、そうですかね? てっきり、聖母姫の件で必要なのかと思ってたんですが……」
「いえ、多分違うでしょう。ローズリーさんの所有する魔導書は、その件とは分野が異なるでしょうし」
ふ~ん、あいつもちょっとは責任を感じてるってことか。
☆★☆
屋敷に戻ると私達は書斎に直行した。しかし、そこにアレックスの姿はなく自室の方にいた。
「遅過ぎるぞ。まあ、のろまだから仕方ないとは思うが、もう少し早く帰ってくる努力をしたらどうなんだ」
部屋に入るなり、アレックスはお約束通りな感じで嫌味ったらしく毒づいてきた。ってか、空のボトルがテーブル一杯に置かれてるよ! こいつ、真っ昼間からどんだけ飲んでんの!? もう息抜きっていうより完全にマジ飲みじゃん!
「ごめんなさい、アレックス。ちょうどロートレックさんもサントリナに来ててね。少し一緒に遊んでたの。ほら、ユウコちゃんはあの街初めてだったから案内もしたかったし」
真っ昼間から飲酒三昧という、とびっきりいい身分のアレックスに対し、クリンちゃんは帰りが遅くなったことを素直に謝る。
「ロートレックと遊んでいただと? まったく、あいつは何を考えている。近頃怠けてばかりだな。それも、問題を私に全て押し付けてだ。忌々しい奴め」
アレックスは日本酒みたいな酒をグラスに注ぎながらロートレックさんをなじる。
「あのさ、ロートレックさんは私が地球に帰るための方法をローズリーさんに相談するって目的でサントリナに来てたんだよ? あんまり悪く言わないでよね」
真相も知らずロートレックさんをなじるアレックスに私は言ってやった。
「奴の目的など知ったことか。用事が済んだのなら、後はさっさと帰ればいいだけの話だろう。なぜそれができなかったのか、と私は言いたいんだ」
アレックスは注いだ酒を一口飲んで、心底忌々しそうにそう吐き捨てた。その様はもはや、酔っぱらいが愚痴を垂れ流しているようにしか見えない。
ってか、今飲んでるその酒、ロートレックさんが慰安旅行のお土産に、ってくれたものだよね? そんな貰いものの酒を楽しみながら、あんまロートレックさんを悪く言うな、コラ!
「まあ遅くなったのは悪かったよ。でも、あんただってそんだけボトル空にしたんだから、結構のんびりしてたんでしょ? ここはおあいこってことで勘弁してよ」
確かに黙って寄り道したのは悪かったかなと思い、さっさとこの話題を終わらせようと謝罪の意を示す。
「……まあ、そういうことにしてやろう」
アレックスは上から目線でそう返し、一息にグラスの酒を飲み干した。
「はい、まどーしょだよ」
クリンちゃんは魔導書をアレックスに渡す。
アレックスは「ああ、ご苦労だったな」と月並みな労いの言葉をかけ、早速魔導書のページを開く。
「そうそう、ローズリーさん、アレックスに会いたがってたよ。今度来る時は一緒においでだって」
律儀にローズリーさんの伝言を伝えるクリンちゃん。
「……そうか。考えておく」
アレックスは魔導書に視線を落としたまま微妙な間を挟み、曖昧に答えた。
「何それ、あんた絶対行く気ないでしょ? てか、ローズリーさんから超気に入られてるんだね、アッちゃんは♪」
ちょっと意地悪く言ってみた。
「黙れ。それと私をアッちゃんと呼ぶな」
アレックスは無表情に淡々と応酬すると部屋を出て行った。念願の魔導書が手に入ったので、書斎に向かったのだろう。
からかってもリアクションの薄いことに少し不満を抱きつつ、私達もアレックスの部屋を後にした。
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