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第4話 菜園荒しを捕まえろ

10 生意気っ子なプリン

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「お……おはよ……」

 ぐったりしながら食堂に顔を出した。

「どうしたの、ユウコちゃん!? なんだかやつれてるわよ!?」

「大丈夫!? 顔色が悪いよ!?」

 顔を出すなり、ノイアさんもクリンちゃんも心配そうに駆け寄ってきた。

「うん……、ちょっと恐ろしい夢見ちゃって……」

 力なく笑い、席に着いた。

「例の秘薬ができたぞ」

 アレックスは入って来るなり、液体が入った小瓶をテーブルに置いた。昨日は赤い色だったが、完成したそれは毒々しい紫色をしている。
 この中にあの人面樹の実どものエキスがたっぷり入ってるんだな……。チッ、忌々しい……! あいつら、夢の中にまで現れやがって!
 小瓶を眺めながら心の中で毒づいた。

「どうしたユウコ。馬鹿面が今日は死にかけている。何かあったのか?」

 アレックスは私の顔を見るなり、いきなり無神経な発言を投げつけてきた。

「うっせーよ! 朝っぱらから喧嘩売ってんのかコラ! 死にかけてるように見えんのは、昨日の人面樹の実のせいなんだよ! 何アレ!? キモいだけじゃなく、呪いの言葉まで吐くって、悪趣味にもほどがあんだろ! おかげで、ひどい悪夢見ちまったじゃねーか!」

 アレックスの馬鹿面発言にキレてテーブルをバンッと叩き、一気にまくし立てた。睡眠不足だから余計にイライラして、普段よりも汚い言葉が出てくる。

「奴らの呪詛の言葉など、ただの戯れ言だ。さっさと忘れるんだな」

「あんたに言われなくてもわかってるよ! あ~あ、昨日手伝うなんて言わなければ良かった。今日もあの悪夢見たらどうしよう……。また眠れないかも……」

 そう言って、テーブルに突っ伏し嘆く。


 朝食が終わり、早速プリンに秘薬を使ってみることになった。

「はいプリンちゃん、このお薬飲んでね」

 クリンちゃんがプリンを抱っこして、スポイトで薬を飲ませる。プリンは嬉しそうに薬をぺちゃぺちゃと舐めるように飲んでいる。結構美味しかったりするの? でも、原料があのキモい実だからなんか複雑だな……。
 薬を全てプリンに投与し終わった。

「どのくらいで効果現れるの?」

 ノイアさんがアレックスに訊いた。

「そうだな……、三十分程で効果が現れるだろう」

 アレックスは少し考えてから言った。


 そして三十分が経過した。


「ねえ……なんかプリン、雰囲気変わったんじゃない……?」

 プリンの顔つきが、どことなくふてぶてしくなっているのだ。

「……確かにな。もしや副作用か?」

 アレックスもその変化を認める。

「……オメーら何見てるっプか? ポクは見せ物じゃねーっプよ」

 いきなりプリンがしゃべりだした。

「うわっ! プリンがしゃべった!?」

 突然のことに、私は驚きの一言を発する。

「なんか、可愛くない物言いね……」

 ノイアさんが少しガッカリしたように言う。

「すごいすごい! プリンちゃんがしゃべったぁ~♪」

 クリンちゃんは豹変したプリンの様子を気にしてないようで、無邪気に喜んでいる。

「クリンちゃ~ん♪ ポク、クリンちゃんとお話できるようになれて嬉しいっプよ♪」

 プリンがクリンちゃんに飛びつき、じゃれつく。

「おい、ププカ。それより先に話がある。なぜお前は私の書斎を荒らすんだ?」

 アレックスが早速プリンに問いかける。

「あ~ん? ポク、男には興味ないっプよ。だから気安く話かけないで欲しいプ~」

 プリンがやさぐれた表情&小馬鹿にした態度でアレックスに言った。うっわ! 態度もの凄く悪ッ!

「でも、女の子は大好きっプよ♪ だから、おねーさん達とはいっぱいお話したいプ~♪」

 プリンは目をキラキラさせながら私達の方に向かって、媚びた仕草で言った。

 なんなのこの子!? アレックスと私達とじゃ、えっらく態度が違うんだけど! 昨日の人面樹の実みたいじゃん! まさか、あれが原料だから、あの性格が継承されたとか? 立場は逆転したけど、相手の性別によって態度が変わるのは、それが原因!? 何この無駄な効果!? この秘薬、もしかして欠陥品なんじゃね!?

「私もお前などに興味はない。だが、質問には答えろ」

 アレックスはプリンに拒否されていることは特に気にしてないようで、無表情に淡々と促す。

「……そんなに知りたいなら教えてやるっプよ。お前の書斎を荒らすのは、この間の仕返しっプよ!」

「仕返し……だと? 一体私がお前に何をしたというのだ? 全くもって意味がわからんな」

「忘れたとは言わせねーっプよ! お前、ポクに電撃の魔術使って気絶させ、檻に閉じ込めたプーッ!」

 プリンはぴょんぴょん飛び跳ねて、アレックスに猛烈な怒りを露わにする。

「あの時のことか。仕方ないだろう。菜園荒らしが続けば、我々だって困るのだからな」

「それでもやり方ってものがあるっプよ! いきなり電撃ビリビリを食らって、ポクは一瞬、三途の川の向こう岸に、死んだばーちゃんの姿を見ちまったんプよ!」

 プリンはぬいぐるみのような手で、びっしーとアレックスを指してまくし立てた。

「威力はピリッとくる程度までに止めたんだがな。本当にププカは脆弱だ」

 アレックスは悪びれることなく言った。

「それに、ポクを捕まえてからの振る舞いも許せないっプ! 闇市に売り飛ばすとか、食材にするとか! ふざけんじゃねーっプ、この野蛮人!」

「それのどこが野蛮だ。極めて合理的な処分ではないか。菜園を荒らした害獣を始末でき、利益を得たり糧にできるのだからな」

 心外だという口振りでアレックスは言い切った。

「お前、その言い種は何っプか!? ちっとも悪いと思ってないんっプね!? こんなちっちゃいポクに対して良心が痛まないっプか!?」

 プリンがまたもぴょんぴょんと飛び跳ねて猛抗議する。

「お前も意外に根に持つ奴だな。これだから無駄に知能が高い生物は……。まったく、妖精と呼ばれる連中にはろくなのがいない。あのゴブリー共を筆頭にな」

「悪戯するしか能のないゴブリーなんかどうでもいいっプ! とにかく、ポクに謝るっプよ!」

「……不本意だが仕方ない。あの時はすまなかったな。……これでいいか?」

 アレックスはどう見ても渋々といった感じで、淡々とプリンに謝罪した。

「ま~、態度が気に食わないけど許してやるっプか!」

 プリンはふんぞり返って偉そうにアレックスを許した。

「やれやれ、これでようやく書斎荒らしも収まるな」

「はあ? お前、何勘違いしてるっプか? 書斎荒らしはこれからもやるっプよ♪ 書斎荒らし、楽しいプ~♪」

 プリンはめちゃくちゃナメた物言いで、書斎荒らし止めない宣言をする。プリン何考えてんの!? そんな余計なこと言うなよ!

「なんだと? よく聞こえなかったな。もう一度言ってみろ」

 案の定、アレックスの声音と目つきが鋭くなる。

「何度でも言ってやるっプよ! お前の書斎荒らしは止めないっプよ! それどころか、もっともっとも~っとやっちゃうプ~! プププのプ~♪」

 プリンはアレックスを思い切りコケにした態度で言い切った。アレックスの方におしりを突きだし、ぺしぺしと叩く仕草までしている。骨の髄まで馬鹿にしているようだ。
 プリンの低レベルな挑発に、やはりアレックスはキレてしまい、素早くプリンの頭を鷲掴みにし、

「お前に二つの選択肢をくれてやる。姿焼きになるかシチューになるかだ。無論、生きたままでな」

と、恐ろしげな台詞を吐いた。
 その冷たい迫力に、プリンの顔は蒼白になり、ぶるぶると震えだした。

「ちょっと、本気で怯えてるじゃない。子供の挑発にいちいち乗るんじゃないわよ、大人げないわね。大体そんなことしても、あんた、肉食べられないでしょ? マナシアなんだから」

 ノイアさんが止めに入った。いや、最後の台詞はズレてると思うけど。

「アレックス、プリンちゃんをいじめちゃダメ! でもプリンちゃんも、もうアレックスの書斎でイタズラしちゃダメだよ?」

 アレックスとプリンにクリンちゃんはそれぞれ言った。

「クリンちゃんのお願いなら仕方ないプ~。それに、こうやって人の言葉がしゃべれるようになったのはお前のおかげだプ~。もうイタズラはやめるっプよ。今まで悪かったプ~。ゴメンだプ~」

 クリンちゃんに言われた途端、プリンは態度をコロッと変えて素直にアレックスに謝った。うんうん、ちゃんと謝ることができて偉いぞプリン。

「わかればいい」

アレックスは一言そう言うと食堂を出ていった。


 プリンによるアレックスの書斎荒らしも無事解決し、その後は特に変わったこともなく一日が終わった。
 菜園荒らしに始まり、ばたばたした日が続いたけど、ようやく平和が訪れたって感じだ。
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