35 / 72
第4話 菜園荒しを捕まえろ
8 再び、ゴブリーの集落へ
しおりを挟む
プリンを飼い始めてから数日が経った。
「クリムベール、そいつの躾がきちんとできないようなら、今すぐに野にかえすんだ。もうこれ以上は我慢ならん」
アレックスは派手に散らかった書斎の片づけをしながら、無表情に淡々とクリンちゃんを咎める。
書斎の散らかりようは半端ではない。まるで空き巣に部屋を引っかき回されたような有様だ。プリンの仕業である。
「ヤダッ! プリンちゃんは、ずっとず~っと、うちの子だもんっ!」
プリンを抱っこしたまま、クリンちゃんはアレックスに食ってかかる。
「たった数日でそいつは私の書斎を十二回も荒らしたのだぞ? お前の監督不行き届きだ。そして溺愛のし過ぎはそいつのためにもならない。時には厳しく躾ることも必要なのだ。それができないようであれば、生き物を飼う資格はない」
アレックスは念動力の魔法かなんかで散らばった本を書架にしまいながら、クリンちゃんを見据える。
「ちゃんとしてるもん! もうこんなことしちゃダメだよ、って毎回毎回プリンちゃんに言い聞かせてるもん……!」
アレックスの正論だけど厳しい物言いに、クリンちゃんは涙を滲ませている。
「この子、普段はおとなしいし、食事やトイレの躾は完璧よ? なのに、なんでこんなイタズラは、何度注意しても繰り返してやるのかしらね……」
ノイアさんは奇妙だという感じで腕を組む。
「プリンちゃんの言葉がわかるといいのにな。そうしたら、どうしてこんなことするのか、わかるのに……」
クリンちゃんが寂しげな瞳でプリンを見つめ、ぽつりと呟いた。
「ねえ、アレックス、動物の言葉がわかるようになる魔法とかはないの?」
「言語に関する術か……。残念だが、私はその方面には疎くてな。その手の術なら、ロートレックの奴が得意なのだが、間の悪いことに、奴は今、司書仲間と慰安旅行などというものに現を抜かしている最中だ。そういうわけで、奴の協力は仰げんぞ。まったく、どこまでも使えん奴だな」
アレックスは忌々しそうに、なんの非もないロートレックさんをなじる。
「じゃあ、そういう力を秘めた道具とかはないわけ? あんた、魔導具の類をいっぱい持ってるじゃない」
今度はノイアさんが訊いた。
「ああ、そういえばあったな。確か、ゴブリー族に伝わる秘薬だったか……」
「ゴブリーって、この間行った村の?」
「そうだ。度重なる悪戯被害の慰謝料代わりとして奪い……いや、受け取った魔導具のレシピ集に、そんな薬の生成法が記されてあった」
え、何? 今『奪い……』って言って言い直した? ちょっと! 受け取ったんじゃなくてホントは強奪したね!?
アレックスは書架を引っ掻き回し、そのレシピ集を探すが、
「見つからんな……。ああ、そういえば、特に必要性も感じなかったから、以前書物の整理をした時に処分したのだった。残念だったな」
ちっとも残念そうではない感じでアレックスはしれっと言った。
「村に行けば、作り方を教えてくれるかしら?」
「ああ。長が知っているだろう」
「決まりね! じゃあ今から作り方を聞きに行きましょう」
ノイアさんは手をパンと叩く。
「何が決まりだ。私はそんな面倒なこと、したくないぞ」
何こいつ? ほんと空気読まない奴だよね? 普通この流れでそういうこと言う!?
「はあ!? どうしてそんなこと言うのかしら? その秘薬を使えば、あんたの書斎だってもう荒らされなくなるかもしれないのよ? そんなこともわからないの? あんた、もしかして馬鹿?」
私が思っていたことを、ノイアさんが代弁してくれた。
「それだけではない。先日、私達は菜園荒らしの容疑で奴らの集落に押し掛け、長をカンカンに怒らせた挙げ句、果ては命まで奪おうとしたのだ。それなのに今更『秘薬の生成法を教えてくれ』と訪ねるのも虫のいい話。そう、あれだ……、非常に気まずい」
アレックスは気まずさが全く現れてない無表情顔でしれっと言った。
「それは全部あんたが悪いんでしょ!? つべこべ言わず、今から行くわよっ!」
ノイアさんがアレックスの胸ぐらを掴み上げて怒鳴った。
「……仕方ない。これ以上書斎を荒らされるのは御免だからな」
ノイアさんに押し切られる形で、アレックスは渋々ゴブリーの村に行くことを了承した。
☆★☆
村に到着すると辺りは静まり返っていた。数人のゴブリーが物陰から、何やら怯えた感じでこちらを見ている。この間の一件を引きずっているのだろう……。アレックスの奴、マジで村長のこと殺りそうだったしね……。
当のアレックスは、そんなことなど既に過去の出来事らしく、気にも留めていない様子だ。
私達は一直線に村長の家へと向かった。
「ナンヤ、レックスハンカイ。サイキン、チョクチョク、ヨオクルノォ」
村長は特に怯えた様子もなく、嫌な顔もせずに、ごく自然に迎えてくれた。
ってゆーか村長! アレックスの名前、また間違って言ったね!? 数日前に指摘されたばかりじゃん! もう、正しく覚える気ないの!?
「だから、私の名はアレックスだ。数日前に指摘したばかりにもかかわらず、まだ正しく覚えられんとは……。もしや貴様、ボケでも始まっているのか? これ以上悪化する前に、さっさと長の座を降り、他の奴に任せることだ」
アレックスは気まずいと言いながらやってきたくせに、またまた名前を間違われたことに腹を立てたのか、嫌味ったらしく毒づいた。
「クリムベールチャン、ノイアチャン、ユウコチャン、ヨオキタノォ♪ ママ、ユックリシテッテヤ~♪」
村長はアレックスの悪態を華麗にスルーして、私達と握手をする。
って、村長! 私とノイアさんの名前はバッチリ正しく覚えてんじゃん! やっぱり女の名前しか、ちゃんと覚えらんないの!?
「今日、ここへ来たのは──……」
アレックスは早速本題に入ろうとするが、肝心の村長は、
「イマ、チャヲイレルデナ~♪」
と、いそいそとお茶を用意し始めている。
「聞いているのか? 長よ」
アレックスは村長の背後に立つと、ひょいっと片手で村長を持ち上げた。
あんた……、さっきから無視されてるから怒ってるの? 無表情だけど、これはもう完全にキレちゃってるよね?
「チャントキイトルワイ。ハナシナラ、チャヲノミナガラデモエエヤロ?」
「必要ない。用件が済んだら我々はすぐに帰る。用件はすぐ済む」
アレックスは村長を持ち上げたまま淡々と言った。
菜園荒らしの顛末を交えつつ、秘薬の生成法を教えてほしいと村長に頼んだ。
「ホゥ、ププカトハ、メズラシイノゥ。シカシ、ヒヤクノレシピハ、タダデハヤレンナ」
「なんだと?」
「カンガエテモミィヤ。アンサン、コナイダ、ワシラノコトウタガッテ、ワシニブレイヲハタライタンヤデ? シカモシマイニハ、ナニヲチマヨッタノカ、アンサン、ワシノコト、コロソウトシタヤナイカ。ソレナノニ、タダデレシピヨコセナンテ、ソナイムシノイイハナシハ、トオランヤロ」
「ならば、いくら出せばいい?」
「ワシハ、カネニハ、キョウミアラヘン」
「……では何が望みだ?」
アレックスの言葉に村長はクリンちゃんの前に立ち、
「クッ、クリムベールチャンノ、チ、チチヲ、モマセテクレタラ、レシピナンゾ、イックラデモ、クレテヤルワイ♪」
と、だらしなく目尻を下げ、わきわきと、いやらしい手つきで揉む仕草をする。
何この村長!? とんでもねーエロ親父じゃねーか! 羞恥心もなく乳揉ませろって、メガトン級のセクハラ爆弾を炸裂させんなよ!
「えっ……!?」
クリンちゃんは村長のトンデモエロ発言に面食らって、目を丸くしている。
「駄目だ」
アレックスがクリンちゃんを守るように制し、きっぱりと言った。そして、ノイアさんを一瞥し、
「この女で我慢しろ」
と、言い切った。
んなッ!? アレックスも何考えてんの!? クリンちゃんはダメだけど、ノイアさんならいいってか!?
「ふっ、ふざけんじゃないわよ! いきなり何言い出すのよ、あんたッ!」
当然ノイアさんはアレックスの胸ぐらを掴み上げて、猛烈に抗議する。
「別に構わんだろう? お前が犠牲になれば、これでめでたく秘薬のレシピが手に入るのだ」
胸ぐらを掴まれたままアレックスはしれっと言った。
「恋人でもない男に、身体を触られるなんて絶対に嫌よ!」
「お前、病を患った親のためなら、窃盗行為に手を染めていたではないか。ならば今度はその気概を、レシピ入手のために向け、一肌脱いでくれ」
「嫌よッ! 大体この間の一件は全部あんたが悪いんだから、あんたが犠牲になればいいじゃない! 罪滅ぼしと思ってね! それが道理ってもんでしょ!?」
ノイアさん……その発言は、なんかずれてます……。
「キショイコトイワントイテヤ。オトコノチチサワッテモ、ナ~ンモタノシュウナイ。ソヤネ、コノサイ、ノイアチャンデモエエヨ♪ モ・マ・セ・テ・ヤァ~♪」
村長がノイアさんににじり寄る。
「嫌だって言ってるでしょ? あんたもつけあがるんじゃないわよ。さっさと秘薬のレシピをよこしなさい。そうしないと、アタシの石化の視線で石になってもらうわよ?」
ノイアさんは村長の胸ぐらを掴み、左目の魔眼をチラつかせながら、怒りに満ちた静かな声で言った。
うわ、ノイアさん、完全にキレちゃったよ! 脅迫までしちゃってるしっ!
「ヒッ……、ヒイィ! ワ、ワカッタワイ! レシピ、クレタルカラ、カンニンシテヤ~!」
村長は情けない声でそう言うと、素早い動きで戸棚から大人の顔くらいの大きさの葉っぱを取り出し、ノイアさんに渡した。
葉っぱには見たこともない文字で何やら書かれている。これがレシピなのか。
「ア・リ・ガ・ト♪」
ノイアさんはレシピを受け取ると、村長に色っぽく微笑んだ。
村長は脅迫されたのにもかかわらず、ノイアさんの微笑みを見てデレ~っと締まりのない顔をしている。村長……、どんだけ女好きなのよ……。
こうして、村長から秘薬のレシピを脅し取る形で入手し、私達はゴブリーの村を後にした。
「クリムベール、そいつの躾がきちんとできないようなら、今すぐに野にかえすんだ。もうこれ以上は我慢ならん」
アレックスは派手に散らかった書斎の片づけをしながら、無表情に淡々とクリンちゃんを咎める。
書斎の散らかりようは半端ではない。まるで空き巣に部屋を引っかき回されたような有様だ。プリンの仕業である。
「ヤダッ! プリンちゃんは、ずっとず~っと、うちの子だもんっ!」
プリンを抱っこしたまま、クリンちゃんはアレックスに食ってかかる。
「たった数日でそいつは私の書斎を十二回も荒らしたのだぞ? お前の監督不行き届きだ。そして溺愛のし過ぎはそいつのためにもならない。時には厳しく躾ることも必要なのだ。それができないようであれば、生き物を飼う資格はない」
アレックスは念動力の魔法かなんかで散らばった本を書架にしまいながら、クリンちゃんを見据える。
「ちゃんとしてるもん! もうこんなことしちゃダメだよ、って毎回毎回プリンちゃんに言い聞かせてるもん……!」
アレックスの正論だけど厳しい物言いに、クリンちゃんは涙を滲ませている。
「この子、普段はおとなしいし、食事やトイレの躾は完璧よ? なのに、なんでこんなイタズラは、何度注意しても繰り返してやるのかしらね……」
ノイアさんは奇妙だという感じで腕を組む。
「プリンちゃんの言葉がわかるといいのにな。そうしたら、どうしてこんなことするのか、わかるのに……」
クリンちゃんが寂しげな瞳でプリンを見つめ、ぽつりと呟いた。
「ねえ、アレックス、動物の言葉がわかるようになる魔法とかはないの?」
「言語に関する術か……。残念だが、私はその方面には疎くてな。その手の術なら、ロートレックの奴が得意なのだが、間の悪いことに、奴は今、司書仲間と慰安旅行などというものに現を抜かしている最中だ。そういうわけで、奴の協力は仰げんぞ。まったく、どこまでも使えん奴だな」
アレックスは忌々しそうに、なんの非もないロートレックさんをなじる。
「じゃあ、そういう力を秘めた道具とかはないわけ? あんた、魔導具の類をいっぱい持ってるじゃない」
今度はノイアさんが訊いた。
「ああ、そういえばあったな。確か、ゴブリー族に伝わる秘薬だったか……」
「ゴブリーって、この間行った村の?」
「そうだ。度重なる悪戯被害の慰謝料代わりとして奪い……いや、受け取った魔導具のレシピ集に、そんな薬の生成法が記されてあった」
え、何? 今『奪い……』って言って言い直した? ちょっと! 受け取ったんじゃなくてホントは強奪したね!?
アレックスは書架を引っ掻き回し、そのレシピ集を探すが、
「見つからんな……。ああ、そういえば、特に必要性も感じなかったから、以前書物の整理をした時に処分したのだった。残念だったな」
ちっとも残念そうではない感じでアレックスはしれっと言った。
「村に行けば、作り方を教えてくれるかしら?」
「ああ。長が知っているだろう」
「決まりね! じゃあ今から作り方を聞きに行きましょう」
ノイアさんは手をパンと叩く。
「何が決まりだ。私はそんな面倒なこと、したくないぞ」
何こいつ? ほんと空気読まない奴だよね? 普通この流れでそういうこと言う!?
「はあ!? どうしてそんなこと言うのかしら? その秘薬を使えば、あんたの書斎だってもう荒らされなくなるかもしれないのよ? そんなこともわからないの? あんた、もしかして馬鹿?」
私が思っていたことを、ノイアさんが代弁してくれた。
「それだけではない。先日、私達は菜園荒らしの容疑で奴らの集落に押し掛け、長をカンカンに怒らせた挙げ句、果ては命まで奪おうとしたのだ。それなのに今更『秘薬の生成法を教えてくれ』と訪ねるのも虫のいい話。そう、あれだ……、非常に気まずい」
アレックスは気まずさが全く現れてない無表情顔でしれっと言った。
「それは全部あんたが悪いんでしょ!? つべこべ言わず、今から行くわよっ!」
ノイアさんがアレックスの胸ぐらを掴み上げて怒鳴った。
「……仕方ない。これ以上書斎を荒らされるのは御免だからな」
ノイアさんに押し切られる形で、アレックスは渋々ゴブリーの村に行くことを了承した。
☆★☆
村に到着すると辺りは静まり返っていた。数人のゴブリーが物陰から、何やら怯えた感じでこちらを見ている。この間の一件を引きずっているのだろう……。アレックスの奴、マジで村長のこと殺りそうだったしね……。
当のアレックスは、そんなことなど既に過去の出来事らしく、気にも留めていない様子だ。
私達は一直線に村長の家へと向かった。
「ナンヤ、レックスハンカイ。サイキン、チョクチョク、ヨオクルノォ」
村長は特に怯えた様子もなく、嫌な顔もせずに、ごく自然に迎えてくれた。
ってゆーか村長! アレックスの名前、また間違って言ったね!? 数日前に指摘されたばかりじゃん! もう、正しく覚える気ないの!?
「だから、私の名はアレックスだ。数日前に指摘したばかりにもかかわらず、まだ正しく覚えられんとは……。もしや貴様、ボケでも始まっているのか? これ以上悪化する前に、さっさと長の座を降り、他の奴に任せることだ」
アレックスは気まずいと言いながらやってきたくせに、またまた名前を間違われたことに腹を立てたのか、嫌味ったらしく毒づいた。
「クリムベールチャン、ノイアチャン、ユウコチャン、ヨオキタノォ♪ ママ、ユックリシテッテヤ~♪」
村長はアレックスの悪態を華麗にスルーして、私達と握手をする。
って、村長! 私とノイアさんの名前はバッチリ正しく覚えてんじゃん! やっぱり女の名前しか、ちゃんと覚えらんないの!?
「今日、ここへ来たのは──……」
アレックスは早速本題に入ろうとするが、肝心の村長は、
「イマ、チャヲイレルデナ~♪」
と、いそいそとお茶を用意し始めている。
「聞いているのか? 長よ」
アレックスは村長の背後に立つと、ひょいっと片手で村長を持ち上げた。
あんた……、さっきから無視されてるから怒ってるの? 無表情だけど、これはもう完全にキレちゃってるよね?
「チャントキイトルワイ。ハナシナラ、チャヲノミナガラデモエエヤロ?」
「必要ない。用件が済んだら我々はすぐに帰る。用件はすぐ済む」
アレックスは村長を持ち上げたまま淡々と言った。
菜園荒らしの顛末を交えつつ、秘薬の生成法を教えてほしいと村長に頼んだ。
「ホゥ、ププカトハ、メズラシイノゥ。シカシ、ヒヤクノレシピハ、タダデハヤレンナ」
「なんだと?」
「カンガエテモミィヤ。アンサン、コナイダ、ワシラノコトウタガッテ、ワシニブレイヲハタライタンヤデ? シカモシマイニハ、ナニヲチマヨッタノカ、アンサン、ワシノコト、コロソウトシタヤナイカ。ソレナノニ、タダデレシピヨコセナンテ、ソナイムシノイイハナシハ、トオランヤロ」
「ならば、いくら出せばいい?」
「ワシハ、カネニハ、キョウミアラヘン」
「……では何が望みだ?」
アレックスの言葉に村長はクリンちゃんの前に立ち、
「クッ、クリムベールチャンノ、チ、チチヲ、モマセテクレタラ、レシピナンゾ、イックラデモ、クレテヤルワイ♪」
と、だらしなく目尻を下げ、わきわきと、いやらしい手つきで揉む仕草をする。
何この村長!? とんでもねーエロ親父じゃねーか! 羞恥心もなく乳揉ませろって、メガトン級のセクハラ爆弾を炸裂させんなよ!
「えっ……!?」
クリンちゃんは村長のトンデモエロ発言に面食らって、目を丸くしている。
「駄目だ」
アレックスがクリンちゃんを守るように制し、きっぱりと言った。そして、ノイアさんを一瞥し、
「この女で我慢しろ」
と、言い切った。
んなッ!? アレックスも何考えてんの!? クリンちゃんはダメだけど、ノイアさんならいいってか!?
「ふっ、ふざけんじゃないわよ! いきなり何言い出すのよ、あんたッ!」
当然ノイアさんはアレックスの胸ぐらを掴み上げて、猛烈に抗議する。
「別に構わんだろう? お前が犠牲になれば、これでめでたく秘薬のレシピが手に入るのだ」
胸ぐらを掴まれたままアレックスはしれっと言った。
「恋人でもない男に、身体を触られるなんて絶対に嫌よ!」
「お前、病を患った親のためなら、窃盗行為に手を染めていたではないか。ならば今度はその気概を、レシピ入手のために向け、一肌脱いでくれ」
「嫌よッ! 大体この間の一件は全部あんたが悪いんだから、あんたが犠牲になればいいじゃない! 罪滅ぼしと思ってね! それが道理ってもんでしょ!?」
ノイアさん……その発言は、なんかずれてます……。
「キショイコトイワントイテヤ。オトコノチチサワッテモ、ナ~ンモタノシュウナイ。ソヤネ、コノサイ、ノイアチャンデモエエヨ♪ モ・マ・セ・テ・ヤァ~♪」
村長がノイアさんににじり寄る。
「嫌だって言ってるでしょ? あんたもつけあがるんじゃないわよ。さっさと秘薬のレシピをよこしなさい。そうしないと、アタシの石化の視線で石になってもらうわよ?」
ノイアさんは村長の胸ぐらを掴み、左目の魔眼をチラつかせながら、怒りに満ちた静かな声で言った。
うわ、ノイアさん、完全にキレちゃったよ! 脅迫までしちゃってるしっ!
「ヒッ……、ヒイィ! ワ、ワカッタワイ! レシピ、クレタルカラ、カンニンシテヤ~!」
村長は情けない声でそう言うと、素早い動きで戸棚から大人の顔くらいの大きさの葉っぱを取り出し、ノイアさんに渡した。
葉っぱには見たこともない文字で何やら書かれている。これがレシピなのか。
「ア・リ・ガ・ト♪」
ノイアさんはレシピを受け取ると、村長に色っぽく微笑んだ。
村長は脅迫されたのにもかかわらず、ノイアさんの微笑みを見てデレ~っと締まりのない顔をしている。村長……、どんだけ女好きなのよ……。
こうして、村長から秘薬のレシピを脅し取る形で入手し、私達はゴブリーの村を後にした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる