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第4話 菜園荒しを捕まえろ

6 怒りに燃えるクリンちゃん

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 その後、一応カラミンサに行き、情報を集めるなどをしてみたものの、犯人の目星は全くつかず、私達は途方に暮れて屋敷へと戻ってきた。
 もう夕方である。私達は書斎に集まって、どうすればいいかを考える。

「さて、見事になんの手がかりも見つからなかったけど、これからどうする?」

 ノイアさんが切り出した。

「たかが野菜だろう。また育てればいいだけの話ではないか」

 めんどくさくなったのか、アレックスは既に投げやりモードになっている。

「たかが野菜じゃないもん! モモカブは、市場で買うとす~っごく高価いんだからっ!」

「高級なカブでも所詮カブだ。諦めてもう一度植え直すんだな。初心者向けの作物だからすぐに育つだろう」

「モモカブは普通のカブとは違うの! 育てるの、す~~っごく大変なんだからっ! 収穫できるまで三年かかるし、枯れやすいし、虫に食われやすいしで、ヒャクセンレンマのお百姓さんだって結構失敗しちゃうんだよ!?」

 クリンちゃんは興奮してまくし立てる。

「百戦錬磨か。お前にしては難しい言葉を知っているな」

 アレックスは見当違いのところで感心している。

「そんなことどうだっていいよ! とにかく、犯人は絶対に捕まえないと! う~、犯人め~! 見つけたらボッコボコにしてやるーッ!」

 そう息巻いてクリンちゃんは拳を握り締める。こんなに怒ったクリンちゃんを見るのは初めてだ。

「野蛮な奴だ。暴力で解決するなど低劣な者がすることだぞ」

 いや、そんなこと、ちょっと挑発されたくらいで村長の首をはねようとしたあんたが言えることじゃないっしょ。そう思ったが、口に出すのは止めといた。

「とにかく潔く諦めろ。手がかりもなしに犯人を探すのは不可能だ。大体みっともないぞ。高級品だかなんだか知らんが、食物のことでいつまでもぐだぐだと……」

 バッチーンと、乾いた音が響いた。なんとクリンちゃんがアレックスにビンタをかましたのだ。

「アレックスのバカッ! モモカブはアレックスのために育ててたのに! アレックスはお野菜しか食べられないから! 滅多に御飯食べないけど、でも、たまに食べる御飯なら、少しでも美味しく食べてもらいたいと思って……! なのに、なのに……! わあああんッ!」

 クリンちゃんは泣きながら駆け出し、書斎から飛び出していった。
 私とノイアさんは軽蔑成分100%の視線をアレックスにびしびしと突き刺す。

「なんだ、その鬼畜外道を見るような目は?」

 クリンちゃんにぶたれた頬をさすりながらアレックスは言った。余程強い力でぶたれたらしい。手形くっきり、頬はピンク色に染まっている。スッゴい音だったしね。

「あんた最低ね。少しはクリンちゃんの気持ちも察しなさいよ」

「仕方ないだろう。まさか、そういう理由があったなど思わなかったんだ」

「それもあるけど、三年もかけて成し遂げた大仕事を、第三者にぶち壊された挙げ句、それを親しい人に真っ向から否定されたら、あんたはどう思う?」

「それは……確かに面白くないな」

「アタシ達よりずっと長く生きてるくせに……。もっと他人の痛みがわかるようにならないとね」

 そう言って、ノイアさんも書斎を出ていった。


 ☆★☆


「はい、ユウコちゃん。温まるよ」

 クリンちゃんがホットココアを注ぎ、手渡してくれた。
 深夜。ここは菜園の近くの藪の中。
 私とクリンちゃんは、菜園荒らしを捕まえるために張り込みをしている最中だ。


 小腹が空いたので、夜食を求め厨房に向かう途中、鍋をかぶり、まな板で作った鎧を身につけ、手にはフライパンという、ミョウチキリンな武装をしたクリンちゃんに遭遇した時は驚いた。聞けば、菜園で待ち伏せをして菜園荒らしを捕まえるのだという。クリンちゃん一人では心配なので私もつきあうことした、というわけだ。


 ココアを飲みつつ栗饅頭を頬張って菜園の様子を見守る。刑事ドラマなどでよく目にする、菓子パンやらおにぎりを食いながら張り込みをする刑事になった気分だ。

 張り込みを開始して二時間になろうとしている。菜園の方には何の動きも見られない。
 だがその時……、

「誰か……来る……!」

 声を潜めて、クリンちゃんが呟いた。
 確かに微かだが足音が聴こえる。そしてその人物は菜園に姿を現した。暗いのでよく見えないが男のようだ。

「モモカブの仇! 覚悟ーッ!」

 クリンちゃんが勢い良く飛び出し、フライパンで強烈な一撃を放つ。
 しかし、男はその攻撃受け流し、フライパンを取り上げた。

「いきなり何をするんだ」

 アレックスだった。

「あ、アレックス!? どうして? まさか、アレックスが菜園荒らし??」

 クリンちゃんは明らかに混乱している。

「そんなわけないだろう。やはり、菜園荒らしを捕まえるために張り込んでいたな」

 浅はかなお前達の考えなどお見通し、というような馬鹿にした感じでアレックスは言った。

「あんたこそ、こんなところで何してんのよ? まさか徘徊癖でもあるとか?」

「私は痴呆症の老人か。お前達を止めにきたんだ」

「やだ! あたしはここで犯人が来るのを待つんだもん! 邪魔しないで!」

 クリンちゃんは眉をつり上げてアレックスに食ってかかる。

「その犯人が、危険な相手だったらどうするんだ? お前達のような非力な小娘など、返り討ちにあうだろう。そうなって、死んでから後悔しても遅いのだぞ」

「そんな大袈裟な……」

「犯人がわからない以上、あらゆる可能性を考慮しなければならない。そんな危険から護るのが、お前達に対しての私の責任だ。ここは私に任せ、お前達は部屋に戻れ」

「えっ?」

 クリンちゃんが面食らった表情になる。

「考えてみれば、このまま菜園荒らしを野放しにしていたら、今後の食料確保に支障をきたすからな」

「じゃあ、あたしもアレックスと一緒に見張ってる」

 クリンちゃんは真剣な眼差しで訴えるが、

「いいから部屋に戻れ。お前達のような鈍くさい奴らが一緒だと、犯人を取り逃がすかもしれんだろう。そんな、最高に馬鹿げた展開になるのだけは御免だ」

 足手まといは必要ないと言わんばかりの、すこぶる感じ悪い物言いでアレックスはクリンちゃんの申し出を却下する。私はその言動にイラッとなるが、クリンちゃんは気にしてないようで、素直にアレックスの言葉に従う。

「クリムベール」

 アレックスの呼び掛けにクリンちゃんが振り向く。

「さっきはすまなかったな。それとお前の心遣い、嬉しかった」

「うん。……あたしも、ぶったりしてごめんなさい」

 よかったよかった。ちゃんと仲直りできたみたいだね。
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