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第4話 菜園荒しを捕まえろ
5 犯人はお前らだ
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アレックスに連れてこられた場所というのは、テッセンの森の奥地にある小さな集落だった。
「ここは?」
「妖精ゴブリーの集落だ」
「よ、妖精? そんなのがいるの!? へ~、ちょっと会うの楽しみ」
「妖精といっても様々だ。あまり過度の期待はしない方がいい」
私達は集落の中へと進む。
「ヒトキター!ヒトキター!」
甲高い声がし、思わずギョッとなり辺りを見回す。
「ヒトキター!ヒトキター!」
私達の周りで幼児くらいの人型の奇妙な生き物が数人取り囲み、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ひっ……!」
思わず情けない声を漏らしてしまった。それもそのはず、このゴブリーとかいう妖精、顔がとにかく異形なのだ。皮膚は緑で耳が大きく尖り、口は耳の方まで裂けるように大きい。目もぎょろりと大きくらんらんと光り、やっぱり鼻も大きくて、まるで人参がくっついているみたいだ。
「大丈夫よユウコちゃん。彼らは危害を加えてくる妖精じゃないから。ただアタシ達が珍しくて見にきたのよ」
怯える私に、ノイアさんが優しく教えてくれた。
私達はアレックスに連れられて、この集落で一番大きく立派な家に入った。集落の長の家らしい。一番大きな、といってもその大きさはプレハブ小屋程度である。私達四人入ると、中はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
「オーオー、ヒトガクルナンテ、メズラシイコッチャ。ン? ナンヤ、レックスハンカイ」
村長が甲高い声で迎えてくれた。そのしゃべり方、関西弁っぽい?
村長は他のゴブリーよりも幾分立派な服を着ている。こころなしか、外で見たゴブリーよりも威厳があるような気が……。村長オーラが出ている……みたいな?
「レックスではない。私の名はアレックスだ。未だに間違ったまま覚えているのか。まったく、そんなことでよく村の長が勤まるものだ。さっさと辞任してしまえ。それがこの集落のためになる」
アレックスは自分の名前を間違ったまま覚えている村長に腹を立てたようで、いきなり挨拶代わりに毒づいた。
「クリムベールチャンモ、ヒサシブリヤネ♪ アイカワラズ、カワユイノゥ~♪」
村長はアレックスの言葉をスルーして、クリンちゃんと握手をしている。
ちょっと村長! クリンちゃんの方がビミョーに名前長くない!? それなのになんでアレックスの名前は正しく覚えらんないの!? いや、まあ一字だけだけどさ……。もしかしてこの村長、可愛い女の子の名前しか覚えらんないとか?
「早速だが本題に入るぞ。今朝うちの裏手にある菜園が荒らされていた。犯人は……」
アレックスは淡々と語り出すものの、肝心な村長は、
「アンタラモ、カワユイナァ♪ マ、コレカラ、ヨロシュウ♪ヨロシュウ♪」
と、アレックスにそっぽ向いて、私とノイアさんに握手を求めている。
「聞いているのか? 長よ」
アレックスは普段より微妙に声のボリュームを上げて言った。
「ソナイデカイコエダサンデモ、チャントキイトルワイ。アンサントコノハタケガ、アラサレタッチュウンヤロ? ナンヤ? ワシラヲウタガットルンカ?」
村長はアレックスの前に立って言った。
「なかなか冴えているではないか。その通りだ」
「イキナリ、ンナコトイワレテモ、ワシラハシランワ」
「しらばっくれるな。近隣の街の者が、わざわざこんな深い森の中まで入ってきて、悪さをするとは考えにくい。それに、お前達ゴブリーは、悪戯好きで有名だからな。犯人はお前達しか考えられん」
「ソンナンイイガカリヤ! ショウコハ、ショウコハアルンカ!? ワシラガヤッタッチュウショウコハッ!!」
村長はキイキイと甲高い声で喚く。怒らせてしまったようだ。頭から湯気が出ている。
「特に証拠は無いが、貴様らには恐ろしい数の前科があるからな。さあ早く、素直にやりましたと言え」
頭から湯気を出して怒る村長とは対照的に、アレックスは静かな声で淡々と促す。
「ナンヤソレ!? ショウコモナイノニ、ワシラヲハンニンッテキメツケルンカ!? アンタ、アタマオカシイントチャウカ!?」
村長はますますいきり立つ。
「ならば言わせてもらうが、貴様らの悪戯への情熱は常軌を逸するものがある。決定的な証拠など掴めるはずがないんだ」
「ナ、ナンヤテ?」
「なんだ自覚がないのか? 貴様らゴブリーは、普段は愚鈍な頭をしているくせに、悪戯のことになると、途端に頭の回転が冴え渡り、緻密に緻密を重ねた悪戯計画を練り上げるだろう? そしてその計画を、まるで軍隊ばりに統率の取れた迅速な行動で実行に移す。証拠を全く残さず細心の注意を払ってな。まったく、実に無価値な連中だ」
「……………」
村長は黙り込んでしまった。どうやら図星らしい。ってか、ゴブリー達ってそこまで悪戯に全力投球なの!?
「過去を蒸し返すようで悪いが、そういった無駄に抜かりのない悪質な悪戯を、うちは今まで何千回も受けているのだ。貴様らからこんなにも被害を被っているのだから、今回も疑いをかけるのは当然というものだろう?」
ちょっ……! 何千回もの被害を受けてるって、なんじゃそりゃ!? そんなに被害受けてんなら、罠を仕掛けるなりなんなりして、対策とれよ! こいつ、やっぱ大馬鹿じゃね?
「誰が大馬鹿だ。馬鹿から馬鹿などと言われたくないのだがな。もちろん罠を仕掛けるなどの対策もしていたが、悪戯実行時のこいつらは、勘の方も驚く程冴え渡っていてな。ことごとく看破されてしまうから全く意味がないのだ」
突然アレックスは私の方を向いて、淡々長々と説明する。
「ちょっと! あんた、また私の心ん中覗いたね!? ってか、私の心を読まないで、村長の心ん中読めよ! そうすれば、犯人かどうかがわかるでしょ!? こういう時こそ、あの力が大活躍するんじゃん! そんなことも気付かないの!?」
「お前なんぞに言われずとも、可能であればとっくにそうしている。しかし、ゴブリーのように、妖精として括られている連中には心覘術のような精神系の術は効かないのだ」
「えっ、そうなの? っつーか精神系……って何?」
「この世界の術というものは、物質や肉体に直接作用する物理系と、心や魂などの非物質的な存在に作用する精神系というように、大きく二つのカテゴリーに分けられるんだ」
「ふ~ん、そうなんだ。魔法も結構複雑で奥が深いんだね。ってか、どうして妖精にはその精神系の魔法とやらは効かないのさ?」
「さあな、詳しいことはわかっていないが、おそらく、精神に障壁のようなものでもあるのだろう。ちなみに、お前は驚くほど精神系の術に弱いようだ。通常の百分の一程度の負荷で心覘術が使える。まったく、見たままに単細胞な奴だな、お前」
「うっさい! 何よそれ!? やっぱりあんた、面白半分に私の心ん中覗いてんじゃない! しかもその口振りだと『使うの楽ちんだから、これからも遠慮なく覗くよーん』って宣言してるように聞こえんだけどっ!? ちょっと、そうなんでしょッ!?」
私はアレックスに掴みかかり、盛大に揺さぶって問い詰める。しかし、こいつは黙りを決め込んで、一言も発さない。
「冗談じゃないよっ! いい? そんなくだらない理由で、もう二度と私の心ん中覗いてこないでよね!?」
そう釘を刺してアレックスを解放した。するとこいつは『お前の指図など受けんぞ』と言いたげな目つきで私を見据えて、村長の方に視線を戻した。腹立つ~~ッ! 今ここで、ギッタギタにのしてやりたいッ!
「アホな小娘が余計な横槍を入れたせいで話がそれてしまったな。そういうわけで、私は貴様らゴブリーが犯人だと確信している。いい加減白状したらどうだ? 隠すとためにならんぞ」
「ンナコトイワレテモ、シランモノハシランワ!」
「強情な奴だな。知らんの一点張りで、通せると思っているのか? まったく、悪戯以外のことになると、本当に愚かな連中だ」
「ダイタイ、アンサントコノハタケハ、クリムベールチャンガ、カンリシトルンヤロ?」
「まあ、そうだが。だからどうしたと言うんだ?」
「ダッタラ、ソナイクリムベールチャンヲカナシマセルヨウナコト、ワシラガスルハズナイヤロ! コノコハ、ワシラゴブリーノ、アイドルダカラノゥ~♪」
村長はウットリとした眼差しでクリンちゃんを見る。う~ん、クリンちゃんってば愛されてるなあ。
「なんだその理由は。その口振りだと、菜園を管理しているのがもし私だったら、貴様らは菜園荒らしをしていたとでも?」
「……………」
アレックスの問いかけに村長は黙り込んでしまった。どうやら図星らしい。村長! 何黙ってんのさ!? ここは嘘でも『しない!』って言い張るとこでしょーがっ!
「その沈黙……。貴様ら、私には何をしてもいいと錯覚しているのか? 確かに、思い返してみると、今までの悪戯は全て私を標的にしたものばかりであったしな。なんということだ。こんな無価値な阿呆共にそこまで舐められているとは……。これ以上の不名誉はない」
アレックスはやれやれといった感じにため息を吐いた。
「ナントデモイウガエエ! ダイタイ、イタズラハ、ワシラゴブリーノソンザイイギソノモノヤ! アンサンカラ、グダグダイワレルスジアイハナイワッ!」
村長はふんぞり返ってまくし立てる。何開き直っちゃってんの、村長!? まさかの逆ギレ!?
「貴様らのような無価値な一族など、いっそ絶滅すればいいものを……。それがこの世界の平和に繋がるというものだ」
アレックスは無表情に毒づく。
「ヤカマシイワッ! アッ! イマ、チョウドエエイタズラヲ、オモイツイタワイ! チカイウチニ、カナラズケッコウシタルサカイ、カクゴシトキッ!」
村長はびっしーとアレックスを指差して宣戦布告する。何この村長!? こんな時にいらんことペロッと宣言すんなやっ!
「ほう、この私に面と向かってそんな大それた予告をするとはな。大した胆力ではないか。その命、余程捨てたいと見える」
アレックスは氷のような目つきで村長を見据え、素早く村長を担ぎ上げ、外に連れ出した。
「私に楯突くとどうなるか、見せしめとして貴様の首をはね、他のゴブリーどもにわからせてやるとしよう」
アレックスは冷ややかに恐ろしい台詞を吐き、大鎌を出現させた。
「ヒッ、ヒイイイイッ!」
村長は情けない悲鳴を上げ、アレックスの腕の中でじたばたと暴れる。
「ちょっとあんた! いくらなんでも、やり過ぎよ!」
見かねたようにノイアさんが止めに入る。
「そうだよ! それにあたしには村長さんがウソを吐いてるようには見えなかったよ?」
クリンちゃんにそう言われてはアレックスも納得するしかなく、村長を解放する。
「……こいつらの言葉に免じ、今日のところは見逃してやろう。だがいいか? 二度と私に悪戯をしようと考えるな」
アレックスはそう釘を刺すと、すたすたと村の出入り口の方へと行ってしまった。
「ごめんね村長さん。でも、村長さん達も、アレックスを困らせることはもう止めてあげてね?」
クリンちゃんはぺこりと頭を下げアレックスの非礼を詫びると、可愛らしく悪戯を止めるようお願いした。そんな愛くるしいクリンちゃんを前に、村長は見ていられないほどデレデレと締まりのない顔をしている。
こうして犯人は謎のまま、私達はゴブリーの集落を後にした。
「ここは?」
「妖精ゴブリーの集落だ」
「よ、妖精? そんなのがいるの!? へ~、ちょっと会うの楽しみ」
「妖精といっても様々だ。あまり過度の期待はしない方がいい」
私達は集落の中へと進む。
「ヒトキター!ヒトキター!」
甲高い声がし、思わずギョッとなり辺りを見回す。
「ヒトキター!ヒトキター!」
私達の周りで幼児くらいの人型の奇妙な生き物が数人取り囲み、ぴょんぴょん飛び跳ねている。
「ひっ……!」
思わず情けない声を漏らしてしまった。それもそのはず、このゴブリーとかいう妖精、顔がとにかく異形なのだ。皮膚は緑で耳が大きく尖り、口は耳の方まで裂けるように大きい。目もぎょろりと大きくらんらんと光り、やっぱり鼻も大きくて、まるで人参がくっついているみたいだ。
「大丈夫よユウコちゃん。彼らは危害を加えてくる妖精じゃないから。ただアタシ達が珍しくて見にきたのよ」
怯える私に、ノイアさんが優しく教えてくれた。
私達はアレックスに連れられて、この集落で一番大きく立派な家に入った。集落の長の家らしい。一番大きな、といってもその大きさはプレハブ小屋程度である。私達四人入ると、中はぎゅうぎゅう詰めになってしまった。
「オーオー、ヒトガクルナンテ、メズラシイコッチャ。ン? ナンヤ、レックスハンカイ」
村長が甲高い声で迎えてくれた。そのしゃべり方、関西弁っぽい?
村長は他のゴブリーよりも幾分立派な服を着ている。こころなしか、外で見たゴブリーよりも威厳があるような気が……。村長オーラが出ている……みたいな?
「レックスではない。私の名はアレックスだ。未だに間違ったまま覚えているのか。まったく、そんなことでよく村の長が勤まるものだ。さっさと辞任してしまえ。それがこの集落のためになる」
アレックスは自分の名前を間違ったまま覚えている村長に腹を立てたようで、いきなり挨拶代わりに毒づいた。
「クリムベールチャンモ、ヒサシブリヤネ♪ アイカワラズ、カワユイノゥ~♪」
村長はアレックスの言葉をスルーして、クリンちゃんと握手をしている。
ちょっと村長! クリンちゃんの方がビミョーに名前長くない!? それなのになんでアレックスの名前は正しく覚えらんないの!? いや、まあ一字だけだけどさ……。もしかしてこの村長、可愛い女の子の名前しか覚えらんないとか?
「早速だが本題に入るぞ。今朝うちの裏手にある菜園が荒らされていた。犯人は……」
アレックスは淡々と語り出すものの、肝心な村長は、
「アンタラモ、カワユイナァ♪ マ、コレカラ、ヨロシュウ♪ヨロシュウ♪」
と、アレックスにそっぽ向いて、私とノイアさんに握手を求めている。
「聞いているのか? 長よ」
アレックスは普段より微妙に声のボリュームを上げて言った。
「ソナイデカイコエダサンデモ、チャントキイトルワイ。アンサントコノハタケガ、アラサレタッチュウンヤロ? ナンヤ? ワシラヲウタガットルンカ?」
村長はアレックスの前に立って言った。
「なかなか冴えているではないか。その通りだ」
「イキナリ、ンナコトイワレテモ、ワシラハシランワ」
「しらばっくれるな。近隣の街の者が、わざわざこんな深い森の中まで入ってきて、悪さをするとは考えにくい。それに、お前達ゴブリーは、悪戯好きで有名だからな。犯人はお前達しか考えられん」
「ソンナンイイガカリヤ! ショウコハ、ショウコハアルンカ!? ワシラガヤッタッチュウショウコハッ!!」
村長はキイキイと甲高い声で喚く。怒らせてしまったようだ。頭から湯気が出ている。
「特に証拠は無いが、貴様らには恐ろしい数の前科があるからな。さあ早く、素直にやりましたと言え」
頭から湯気を出して怒る村長とは対照的に、アレックスは静かな声で淡々と促す。
「ナンヤソレ!? ショウコモナイノニ、ワシラヲハンニンッテキメツケルンカ!? アンタ、アタマオカシイントチャウカ!?」
村長はますますいきり立つ。
「ならば言わせてもらうが、貴様らの悪戯への情熱は常軌を逸するものがある。決定的な証拠など掴めるはずがないんだ」
「ナ、ナンヤテ?」
「なんだ自覚がないのか? 貴様らゴブリーは、普段は愚鈍な頭をしているくせに、悪戯のことになると、途端に頭の回転が冴え渡り、緻密に緻密を重ねた悪戯計画を練り上げるだろう? そしてその計画を、まるで軍隊ばりに統率の取れた迅速な行動で実行に移す。証拠を全く残さず細心の注意を払ってな。まったく、実に無価値な連中だ」
「……………」
村長は黙り込んでしまった。どうやら図星らしい。ってか、ゴブリー達ってそこまで悪戯に全力投球なの!?
「過去を蒸し返すようで悪いが、そういった無駄に抜かりのない悪質な悪戯を、うちは今まで何千回も受けているのだ。貴様らからこんなにも被害を被っているのだから、今回も疑いをかけるのは当然というものだろう?」
ちょっ……! 何千回もの被害を受けてるって、なんじゃそりゃ!? そんなに被害受けてんなら、罠を仕掛けるなりなんなりして、対策とれよ! こいつ、やっぱ大馬鹿じゃね?
「誰が大馬鹿だ。馬鹿から馬鹿などと言われたくないのだがな。もちろん罠を仕掛けるなどの対策もしていたが、悪戯実行時のこいつらは、勘の方も驚く程冴え渡っていてな。ことごとく看破されてしまうから全く意味がないのだ」
突然アレックスは私の方を向いて、淡々長々と説明する。
「ちょっと! あんた、また私の心ん中覗いたね!? ってか、私の心を読まないで、村長の心ん中読めよ! そうすれば、犯人かどうかがわかるでしょ!? こういう時こそ、あの力が大活躍するんじゃん! そんなことも気付かないの!?」
「お前なんぞに言われずとも、可能であればとっくにそうしている。しかし、ゴブリーのように、妖精として括られている連中には心覘術のような精神系の術は効かないのだ」
「えっ、そうなの? っつーか精神系……って何?」
「この世界の術というものは、物質や肉体に直接作用する物理系と、心や魂などの非物質的な存在に作用する精神系というように、大きく二つのカテゴリーに分けられるんだ」
「ふ~ん、そうなんだ。魔法も結構複雑で奥が深いんだね。ってか、どうして妖精にはその精神系の魔法とやらは効かないのさ?」
「さあな、詳しいことはわかっていないが、おそらく、精神に障壁のようなものでもあるのだろう。ちなみに、お前は驚くほど精神系の術に弱いようだ。通常の百分の一程度の負荷で心覘術が使える。まったく、見たままに単細胞な奴だな、お前」
「うっさい! 何よそれ!? やっぱりあんた、面白半分に私の心ん中覗いてんじゃない! しかもその口振りだと『使うの楽ちんだから、これからも遠慮なく覗くよーん』って宣言してるように聞こえんだけどっ!? ちょっと、そうなんでしょッ!?」
私はアレックスに掴みかかり、盛大に揺さぶって問い詰める。しかし、こいつは黙りを決め込んで、一言も発さない。
「冗談じゃないよっ! いい? そんなくだらない理由で、もう二度と私の心ん中覗いてこないでよね!?」
そう釘を刺してアレックスを解放した。するとこいつは『お前の指図など受けんぞ』と言いたげな目つきで私を見据えて、村長の方に視線を戻した。腹立つ~~ッ! 今ここで、ギッタギタにのしてやりたいッ!
「アホな小娘が余計な横槍を入れたせいで話がそれてしまったな。そういうわけで、私は貴様らゴブリーが犯人だと確信している。いい加減白状したらどうだ? 隠すとためにならんぞ」
「ンナコトイワレテモ、シランモノハシランワ!」
「強情な奴だな。知らんの一点張りで、通せると思っているのか? まったく、悪戯以外のことになると、本当に愚かな連中だ」
「ダイタイ、アンサントコノハタケハ、クリムベールチャンガ、カンリシトルンヤロ?」
「まあ、そうだが。だからどうしたと言うんだ?」
「ダッタラ、ソナイクリムベールチャンヲカナシマセルヨウナコト、ワシラガスルハズナイヤロ! コノコハ、ワシラゴブリーノ、アイドルダカラノゥ~♪」
村長はウットリとした眼差しでクリンちゃんを見る。う~ん、クリンちゃんってば愛されてるなあ。
「なんだその理由は。その口振りだと、菜園を管理しているのがもし私だったら、貴様らは菜園荒らしをしていたとでも?」
「……………」
アレックスの問いかけに村長は黙り込んでしまった。どうやら図星らしい。村長! 何黙ってんのさ!? ここは嘘でも『しない!』って言い張るとこでしょーがっ!
「その沈黙……。貴様ら、私には何をしてもいいと錯覚しているのか? 確かに、思い返してみると、今までの悪戯は全て私を標的にしたものばかりであったしな。なんということだ。こんな無価値な阿呆共にそこまで舐められているとは……。これ以上の不名誉はない」
アレックスはやれやれといった感じにため息を吐いた。
「ナントデモイウガエエ! ダイタイ、イタズラハ、ワシラゴブリーノソンザイイギソノモノヤ! アンサンカラ、グダグダイワレルスジアイハナイワッ!」
村長はふんぞり返ってまくし立てる。何開き直っちゃってんの、村長!? まさかの逆ギレ!?
「貴様らのような無価値な一族など、いっそ絶滅すればいいものを……。それがこの世界の平和に繋がるというものだ」
アレックスは無表情に毒づく。
「ヤカマシイワッ! アッ! イマ、チョウドエエイタズラヲ、オモイツイタワイ! チカイウチニ、カナラズケッコウシタルサカイ、カクゴシトキッ!」
村長はびっしーとアレックスを指差して宣戦布告する。何この村長!? こんな時にいらんことペロッと宣言すんなやっ!
「ほう、この私に面と向かってそんな大それた予告をするとはな。大した胆力ではないか。その命、余程捨てたいと見える」
アレックスは氷のような目つきで村長を見据え、素早く村長を担ぎ上げ、外に連れ出した。
「私に楯突くとどうなるか、見せしめとして貴様の首をはね、他のゴブリーどもにわからせてやるとしよう」
アレックスは冷ややかに恐ろしい台詞を吐き、大鎌を出現させた。
「ヒッ、ヒイイイイッ!」
村長は情けない悲鳴を上げ、アレックスの腕の中でじたばたと暴れる。
「ちょっとあんた! いくらなんでも、やり過ぎよ!」
見かねたようにノイアさんが止めに入る。
「そうだよ! それにあたしには村長さんがウソを吐いてるようには見えなかったよ?」
クリンちゃんにそう言われてはアレックスも納得するしかなく、村長を解放する。
「……こいつらの言葉に免じ、今日のところは見逃してやろう。だがいいか? 二度と私に悪戯をしようと考えるな」
アレックスはそう釘を刺すと、すたすたと村の出入り口の方へと行ってしまった。
「ごめんね村長さん。でも、村長さん達も、アレックスを困らせることはもう止めてあげてね?」
クリンちゃんはぺこりと頭を下げアレックスの非礼を詫びると、可愛らしく悪戯を止めるようお願いした。そんな愛くるしいクリンちゃんを前に、村長は見ていられないほどデレデレと締まりのない顔をしている。
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