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第4話 菜園荒しを捕まえろ

2 苦い回想に浸り……

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 玄関先で腕を組み、一人悩む私。

「日用品を買いに行きたいけど、カラミンサまで三時間はかかるんだよね…!。あ~、せめて自転車があればなぁ。あ、でも、森ん中道悪いから危険かな?」

 こんな感じに、独り言を交えながら悩んでいると、

「長々と独り言を呟いて、なんのつもりだ? 気味の悪い奴め」

 背後から不意に、アレックスが悪態を浴びせてきた。

「うおぁ! ビックリしたぁ……。ってか、いきなり毒づいてこないでよね! なんか用!?」

「お前なんぞに用はない。私は新聞を取りに来ただけだ」

 アレックスはそう言ってポストから新聞を取り出し、

「まったくクリムベールめ。自分が読まないものだから、毎度ほったらかしにしおって……」

 新聞を取り込まないクリンちゃんをなじりながら去っていこうとする。

「あ、ちょっと待って!」

「なんだ?」

「あのさ、カラミンサより近場にある街とかってないの?」

「ない」

「そっか……。じゃあ近道とかは?」

「この間通った道が最短ルートだ」

「げっ、マジで!? 最短ルートで三時間かかるって意味わかんない……。ってかさ、あんたもクリンちゃんも全く平気そうな顔してたけど、よくあんな距離を歩けるよね? 往復だったら六時間だよ!?」

「あれくらいどうということはない。お前がひ弱過ぎるだけだ。チキュウの人間達は、皆お前のように体力がないのか?」

「そ、そんなことないよ……!」

「まあ、そんなことはどうでもいいか。歩く分にはなんの問題もないのだが、さすがに毎回三時間もかけて移動するのは時間の無駄だからな。私達は普段“亜空ゲート”を使っている」

「は? あくうげーと?」

「転移系の術の一つだ。亜空間と呼ばれる空間を一時的に干渉、繋ぎ変えることにより、遠く離れた場所まで瞬時に移動することができるようになる術だな」

 アレックスの専門的な説明に、私はついていけずポカンと口を開けるしかない。

「その究極の馬鹿面……、今の説明、全く理解できなかったようだな。仕方ない、百聞は一見に如かず。一度見せてやろう。どこに行きたいんだ?」

「日用品を買いたいから、この間の雑貨屋さんがいいかな」

「四つ葉堂か」

 アレックスは人差し指で空中に魔法陣らしき図形を描いた。その図形の中心部を人差し指でトンっとつつくと、なんと図形は門のようなものに変化する。

「何コレ!? 凄っ! 超本格的な魔法じゃん!」

 今まで何度か、アレックスは魔法の力を垣間見せていたけど、今回のその力は明らかにレベルが違う。

「はしゃいでいないで、早く来い」

 アレックスはそう促し、その門の中に入っていった。私は少しためらいつつもその後を追う。
 くぐった先は四つ葉堂の店内。

「ひえっ! いっ、いらっしゃいませ」

 目の前には、急に現れた私達に面食らうラグラスさんの姿が。

「えっ?えっ? どういうこと!?」

「どうもこうも、亜空ゲートとはこういう術だ。さあ早く日用品とやらを買え」

「あ、うん」


 買い物が終わり、帰りも亜空ゲートという魔法を使って屋敷に帰った。

「は~、便利なモンだね~。門なだけに」

 感動して、思わずくっだらねー駄洒落を吐いてしまった。

「……今の発言で体感温度が五度下がったぞ」

 微妙な間が開いた後、アレックスが無表情に淡々と突っ込んできた。ただ寒いと言えばいいのに、リアルで具体的な数字を出してくるところが微妙にムカつく。いかにも性格の悪いこいつらしい突っ込みだ。
 急に恥ずかしくなり、話題を変える。

「ってかさ、そんな便利な魔法があるなら、なんでこの間使わなかったわけ?」

「最近の若輩者はそうやって楽をすることばかり考えているからな。その怠け根性を叩き直してやるために、あの時はあえて徒歩で移動したのだ。まったく……、やはりお前はそういった輩の一人だな。嘆かわしい」

「余計なお世話だよ! いきなり年寄り臭い説教垂れないでよね! でもいいなぁ。アレックス達はそんな便利な魔法が使えるんだから。さすがに徒歩三時間は時間のかかり過ぎだよ……」

 私は大きなため息を一つ吐き、誰が見てもヘコんでる、といった感じに肩を落とす。

「……仕方ない。これをくれてやるから、そうしょげるな」

 アレックスは手首をくるっと回して、一冊の本を出した。

「何これ? まさか、私の成績がアレなもんだから勉強しろってこと?」

 中身が白紙である。だから、ノートとして使え。そんなことをつい勘ぐってしまった。

「そんなこと言っても、お前は聞く耳持たんだろう。それは“旅標たびしるべ導書どうしょ”といって、亜空ゲートの力を、誰にでも使えるようにした道具だ」

「え、マジで!? どうやって使うの?」

 アレックスは旅標の導書に二ページだけ、それぞれ魔法陣を描いた。

「この屋敷前とカラミンサ門前に通じるようにした。魔法陣に手を置けば起動できる」

 言われた通りにすると、確かに亜空ゲートが現れた。

「凄い凄い! これでカラミンサまで、楽々行けるよ!」

 飛び跳ねて喜びを露わにする。

「けど、なんで急にこんな便利なものくれる気になったの? あんた、若輩者が楽をするのはダメって言ってなかった?」

「それも時と場合によりけりだ。考えてみれば、カラミンサに行き来している最中に道にでも迷われたらこちらも困る。発見された時には既に白骨化していた……というのは、お前としても嫌だろう?」

「縁起でもないこと言わないでよ! 発見された時は既に白骨化って、どんな道の迷い方!? 私、別に方向音痴じゃないから」

「そうか。それはすまなかった。お前、全体的に愚鈍だから、てっきり方向音痴という欠点も持ち合わせていると思ってな」

 神経を逆撫でするような物言いでアレックスは謝罪する。ぶちギレたい衝動に駆られるが、便利なアイテムをもらった直後なので我慢する。

「それにしても、あの自動的に翻訳してくれる眼鏡といいこの本といい、そんな便利な道具をヒョイッと出すなんて、アレックスってドラえもんみたいだなぁ」

 この何気ない一言が地獄の始まりだった……。

「ドラえもん? それは一体なんだ?」

 アレックスが食いついてきた。

「お腹に付いてるポケットから、こういう便利な道具を出す猫型ロボットのことだよ。漫画のキャラクターだけどね」

 簡単に教えてあげる。それで納得するだろうと思ったが、こいつのドラえもんに対する探究心は超絶に大きいもので、

「それは興味深い。もっと詳しく聞きたい」

 仕方ないので、もう少し教えてあげることにする。旅標の導書をくれたお礼って意味で。

「ドラえもんの好きなものは、どら焼きっていうお菓子でね。嫌いなものはネズミなんだよ。現れると凄く怖がる……」

「待て。ロボットとは機械のことだろう? 機械なのに食物を摂取するのか? 一体、どういう仕組みになっている?」

「は? そ、そこまでは知らないよ! いいじゃん、漫画のキャラクターなんだから」

「それと、ネズミを怖がる猫など役立たずもいいところだろう。なぜ飼い主は、訓練して克服させようとしないのだ?」

「そういう設定なんだから仕方ないでしょ! ってか、もういい? 私、カラミンサをじっくり探索しに行きたいんだけど」

「駄目だ。ドラえもんについての詳細を聞き出すまで、どこにも行かせん」

「ゲッ、冗談でしょ!? 私別にドラえもん博士じゃないんだからね!?」

「構わない。お前の知る範囲でいいから、ドラえもんについて洗いざらい話すんだ」

 こんなわけで私は、ドラえもんを詳しく説明するのに、なんと、その日一日丸々潰す羽目になったのだ……!


 あいつ、そんッなにドラえもんに惹かれたの!? ドラえもんの何が良かったの!?
 ってゆーか、私も凄いよね!? ドラえもんにそれほど詳しいわけでもないのに、よくあれだけ語れたもんだわ!

 ちなみに、私が描いてみせたドラえもんを見てアレックスは『馬鹿を言うな。これはどう見ても猫ではなく、狸だろう』と侮辱の一言を発した。失礼なこと言うんじゃないよ! 狸呼ばわりすると、ドラえもんはキレるんだからね!? ドラえもんに謝れ!
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