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第3話 街に怪盗がやってきた(前編)

1 せっせと図書館通い

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 私がティル・リ・ローナにやってきて、早くも一ヶ月が経った。

「おはようございます、ロートレックさん♪」

 開館一番乗りで、カラミンサにある王立図書館に参上した。

「おはようございます、ユウコさん。毎日熱心ですね」

 ロートレックさんが天使の微笑みと柔らかな癒しの声で迎えてくれる。はにゃ~、やっぱ一日の始まりはこの人の笑顔と声で決まりだよね♪
 それに比べてアレックスの奴は……。心の中でチッと舌打ちをした。
 図書館に来る直前のことだ。


 ☆★☆


「じゃあ、今日も図書館に行ってくるから」

外出することをアレックスに告げた。

「また行くのか? 先月は皆勤だったな。ずいぶんと熱心なことだ。自分の世界では勉学にそれほど熱心に取り組んでいないくせに」

 アレックスが淡々と嫌味ったらしく指摘してきた。ここで少しカチンとくる。しかし、そんなことはお構いなしにアレックスは続ける。

「もしやお前、ロートレックの奴が目当てで図書館に通い詰めているのではあるまいな? どうも奴に気があるように見えるが……。以前、奴に娶ってもらえなど言ってしまったが、あれは止めておけ。誠実で人の良さそうな雰囲気は外見だけだぞ。奴の奥底に秘められた本性は、腹黒く、狡猾で悪辣な男なんだ。ゆえに奴を慕ったところで良いことなど何もない。むしろお前が泣くだけだ」

 怒りに耐えながらアレックスの言葉を聞く。アレックスは調子に乗ってさらに続ける。

「大体お前にはケンスケという想い人がいるではないか。それなのにロートレックの奴に乗り換えるつもりか? まったく、お前も意外に多情な娘だな。もう少し慎みを持ったらどうなんだ」

 ここで私はとうとうキレた。

「よっ、余計なお世話だよ! っていうかあんた、健介くんのことまだ覚えてたの!? いい加減さっさと忘れてくんない!? あと、図書館に行くのは別にロートレックさん目当てじゃないからね!? 私は地球に戻る方法を探しに行ってるんだから!」

 火山が噴火する如く一気にまくし立てた。そんなことで、朝から余計なパワーを消費してしまったのだ。今思い出しても胸くその悪い話だ……。


 ☆★☆


「とりあえず、これを読んでみよっと」

 書架から一冊の本を取った。タイトルは“未知の異界”。地球のことも記されてるのでは、と思ったのだ。他にも数冊の本を取って席に戻った。
 席からはロートレックさんの姿が確認できる。何げなく見ていたら目が合った。するとニッコリと笑って応えてくれた。はにゃ~、やっぱいいなぁ、ロートレックさんって♪ ロートレックさん目当てじゃないっていうのは、完全には否定できないかも。

 眼鏡をかけて持ってきた本に目を通し始める。実はこの眼鏡、一見ただの眼鏡だけど、未知の言語をかけた者の知る言語に翻訳してくれるという凄い代物!
 地球からやってきた私は、当然ティル・リ・ローナの文字などわかるはずもなく、途方に暮れていたところで、アレックスが貸してくれたのだ。

 これ凄くない!?  これさえあれば、英語のテストとか楽勝じゃね? だって周りからは、これ、ただの眼鏡にしか見えないだろうし。堂々とカンニングできちゃうじゃん。うっひっひ……。と、企んでいたら「チキュウに還る時は返してもらう。試験は自分の力で受けなければ意味がない。不正行為などもってのほかだ」と、釘を刺されてしまった。ちっ、ケチが……! っていうか、あいつ絶対私の心読んだよね? そういうことは必要以外しない、って言ってたくせに。あの外道め!

 本を読みだして早くも二時間が経過しようとする。ふぅ、さすがにちょっと疲れちゃったな。続きは借りて部屋で読もっと。
 本を抱えると受付に向かった。

「これお願いします」

 迷わずロートレックさんの元へ直行する。

「はい、わかりました。そうそう、これどうぞ。寮母さんからいただきましてね。おすそ分けです。皆さんで使ってください」

 ロートレックさんは受付の引き出しから、きれいにラッピングされた包みを取り出した。

「わあ、ありがとうございます。一体何ですか?」

「石鹸です。寮母さんが趣味で作っているのですが、肌に優しく、香りもとても良いんですよ」

「へ~、使うのが楽しみだなぁ」

 ロートレックさん、良い人だぁ~。こんなに親切な人なのに、アレックスの奴、腹黒いとか言っちゃってマジ失礼だよね。腹黒いのはお前だよ。お・ま・え!
 私は心の中でアレックスに悪態をつきながら図書館を出た。
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