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6 その男、パーヴェル。…なのですわ!
しおりを挟むその後ボリスラーフの協力もあり、とてもヘルシー且つバランスのとれた食事をとっておりますわ!
さすがボリスラーフ。ヘルシーになってもとても美味しいのですわ!
ラルフの特訓も受け身から素振りにレベルアップいたさましたの!
テッテレ~♪レギーナはLv2になった!のですわ!
このままいけば近い将来、わたくしもスリムなボディに…?むふふ。
まだまだ食事を変えただけやないかーい!剣術もLv2やないかーい!
というか素振りやないかーい!というツッコミは受け付けておりませんわ!気持ちの問題ですわ!モチベーションは大事なのですわ!
加えて最近はボリスラーフと一緒に太りにくいおやつも考案しておりますのよ!
砂糖ではなくはちみつでお菓子を作ったり、生クリームを使わずにスイートポテトを作ったり(サツマイモは意外と太りにくいんですのよ!)、焼きリンゴやバター抜きのハニーローストナッツを作ってみたり…。
前世のわたくしの知識と、ボリスラーフのこの世界での知識を合わせていろいろ考案するのはとても楽しいんですの!
生来、わたくしハマるととことん突き詰めるタイプの人間ですので、とても燃えますわ!
ただ、まぁ…厨二病をいちいち訳さなければならないのが大変ではありますが…見た目はすんごいイケメンなので頑張れますわ!
やはり見た目は大事!痩せねばですわ!
さて。今日は午前中にラルフの特訓を受け、これからダンスのレッスンですの!
うふふ。でも今日のレッスンは先生がいつもの方とは違いますのよ!
というのも、もしも処刑回避ができずに逃亡しなければならなくなったときのために、現役の踊り子さんに舞を教わるんですの!
キャッキャウフフと男性と踊るダンスではございませんわ!
賃金を得るために、労働の知識として教わるんですの!
これで安定した収入が得られますわ!
「はじめまして。アイシャと申します。どうぞよろしく」
「こちらこそよろしくお願いいたしますわ」
ふわぁぁあ!
アルエスクよりもっともっと南の国特有の風貌。
褐色の肌に黒い艶のある髪、ルビーのように輝く赤い瞳。
とてもとても美しい方なのですわ!
そして何より…格好が!おヘソが!
はぁぁぁん!
そう!先生…アイシャ様は地球で言うアラビアーンな踊り子の衣装をお召しですの!
お腹が!おヘソが!谷間が!背中が!丸見えなのですわぁぁあ!
ひやぁぁあ!鼻血が…鼻血が出ちゃいそうですわ!!
一国の姫が鼻血とか…ダメですわ!死守!!………って、ラルフ!?
「ラルフ!鼻血をお拭きなさい!そしてレッスンの間は外で待機しててくださいませ!」
「そんなぁ!?」
ラルフはもう既に鼻血が出ておりましたわ!滝のように!!大胸筋が鼻血まみれでしてよ!
それなのに、鼻血が出ていることにも気付かないぐらいアイシャ様をガン見しておりました。
速攻、ヤーナがラルフをグイグイと扉の方へ追いやります。
「これだから男は……」
抵抗するラルフを蹴り出したヤーナが、未だにジト目で追い出した扉を睨んでおりますが…当然ですわね!
そんなわたくしたちを見て、アイシャ様がクスクスと笑ってらっしやいますわ。
飾り気のない笑顔も素敵ですわ…。
「ふふっ。見られるのは慣れっこですよ?」
「でも今日は先生としておいでいただいているのです。あんな男に見せる必要はないのですわ!」
「私みたいな踊り子なんかを庇ってくださるなんて…姫様は変わっておいでですね」
「なんかではございませんわ!わたくし、先日お披露目いただいた舞に感動いたしましたの!本日師事していただけることをすごく楽しみにしておりましたのよ!」
「ふふっ。光栄です」
あぁ…素敵。
踊り子の方々は軽視されやすいのも確か。
踊りと一緒に体を売る方も少なくはないらしいですから…。
でも、極めた踊りは心を動かしますわ!
アイシャ様の踊りもとても感動的でしたわ。
わたくしも心を動かす踊りを身に着けたいんですの!
でも、わたくしはこんなんでも一国の姫。…一応。
アイシャさまのように露出をするわけにも、色っぽい舞を教わるわけにもいきません。
今日のレッスンもいろんな方に反対されてしまいましたわ…。
だからわたくし考えましたの!“剣舞”なら、と!
この国ではまだまだ珍しい舞ですが、剣舞なら他国の貴人も嗜むと聞きましたわ。
なのでまずはこれ一本で行きますわ!
「では始めましょう」
アイシャ様の優しい笑顔が引き締まったものに変わりましたわ。
わたくしも先生の動きをひとつも逃さぬよう、気合を入れますわ!
さぁ!わたくし、蝶のように舞いますわ~!!
******
「パーヴェル!この地響きはなんだ!?まさか魔物の襲来か!?急いで兵を集めるよう、騎士団長に指示を…」
「違います、殿下」
慌てて指示を出すヴァシリーとは対象的に、側近のパーヴェルはいたって落ち着いている。
澄ました顔で、振動で机から転がり落ちそうだったペンをキャッチし、スッとペン立てに戻した。
そんな姿がより一層ヴァシリーの気持ちを逆撫でしているのだが、多分パーヴェルは分かっていてやっているのだろう。
パーヴェルという男はそういう男なのだ。
ヴァシリーをからかって楽しむ。そんな男なのだ。
「ではなんだというんだ!?」
「今日はレギーナ殿下のダンスレッスンの日ですから」
「……あぁ!なるほど!」
レギーナはダンスが上手だ。運動神経も悪くない。むしろいい方だろう。
だがしかし、いかんせんあの体型だ。
どんなに軽やかに動き、蝶のように舞おうとも、振動は抑えられない。
それはもう、ものすごい振動なのである。
ものすごい地響きなのである。
ちなみにダンスのレッスン室は魔法により強化してあるので崩壊はしない。
ちなみにレギーナだけがその事実を知らない。
ちなみに防音の魔法を掛ければ周りの迷惑にはならないのでは?…ということにパーヴェルは気付いているのだが、あえて言うことはない。
なぜなら彼がこの状況を非常に楽しんでいるからだ。
パーヴェルという男はそういう男なのだ。
皆が右往左往しているのを見て楽しむ。そんな男なのだ。
「最近は騎士団に混ざって訓練漬けだったから…ダンスは久しぶりじゃないか?」
「そうですね。みなさん姫君のスケジュールを把握してくれているといいのですが…。パニックになっては困りますからね。さっきの殿下みたいに」
「ぐぅっ……」
ヴァシリーが悔しそうに唸る。
パーヴェルはヴァシリーが嫌いなわけではない。
ただ、人の悔しがる顔を見るのが好きなのだ。
特に普段から迷惑を掛けられているヴァシリーの悔しがる顔を見るのが格別に好きなのだ。
パーヴェルという男はそういう男なのだ。
ヴァシリーをいじめて憂さ晴らしをする。そんな男なのだ。
「そ、そんなことより!レーナのダンスを見に行かねば!何やら珍しい舞を習得しようとしているらしいぞ!」
「姫君の舞ですか…。そうですね。息抜きにいいかもしれませんね」
「そうだろう!?」
パーヴェルは許可を出した。
……積まれた未決済の書類の山を見ながら。
上司であるヴァシリーのスケジュールを管理するのもパーヴェルの仕事だ。
いつもは仕事が一段落しなければ休憩すらまともにとらせない男が珍しい…と、ヴァシリーが思った瞬間。
「しかしまだまだまだまだ仕事が残っておりますので…仕方がありませんね。昼食の時間を削りましょう」
「俺の側近が鬼!!」
パーヴェルとはそういう男なのだ。
「で?行くんですか?行かないんですか?」
「…………………………………………行く。」
昼メシの時間削っても行くのかよ。シスコンのとんだバカ兄だな。
パーヴェルはそう思った。
「おま…っ!バカとはなんだ!?バカとは!」
パーヴェルは思った…だけではなく、無意識に口に出してしまっていた。
この国で二番目の権力者を怒らせてしまった。
ヴァシリーは今だにギャーギャーと騒いでいる。
ここで確認しておくが、ヴァシリーはこの国の皇太子。
そしてパーヴェルは伯爵家の長男で、ヴァシリーの側近。
ヴァシリーは上司。
パーヴェルは部下。
…………ま、いっか。
パーヴェルは気にしないことに決めた。
ヴァシリーを怒らせたとしても、別に大して害は無いな。というのがパーヴェルの結論だった。
ヴァシリーが今だに騒いでいるのを右から左へ受け流す。
この国の皇太子をも見下ろす男。
パーヴェルとは、そういう男なのだ。
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