上 下
237 / 254
第19章 召喚されしもの

第236話 騎士団の心構え

しおりを挟む
「「 ハァッ!! 」」

 体が軽い。
 これがmerging合併魔法の効果なの?!

 私達双子は普段から相手の考えていることが、分かるような気がしていた。
 でも1つになると、こんな風になるなんて。
 まるで失っていた半身を取り戻したみたい。

 1つになった私達は、円陣の外側に向かう。

 キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!キィー!!
   キィー!!キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!
     キィー!!キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!
 キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!キィー!!
   キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!キィー!!
      キィー!!キィー!!キィー!! キィー!!キィー!!

 石猿達が騒ぎ立てる。
 うるさい猿め!!
 私達は石猿の群れを飛びこえ後ろ側に回り、剣を上に構えただ振り下ろす。
 そして下した剣を切り上げる。
 この2つの動きだけだ。

 剣もmerging合併の効果なのか、一回り大きくなり白く光っている。
 これは魔法剣。
 魔法の使えない私達でも分かる。
 ビッチェ王女様の使徒だけが持てる、聖魔法を宿した剣。

 こんなことがおこるなんて。

 石猿は力が強く硬い毛に覆われておる。
 だがそれより早く動け、硬い体毛が切れる今なら負けることは無い。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

★ミリアの思惑
 ほう~!!
 リリーズは凄いわね。
 空中に飛び上りながら、捕まらない様に闘っている。
 魔物は所詮、魔物よ。
 剣の駆け引きなんてないから、それを圧倒できる力があれば良いのよ。

「ミリアちゃん、リンリン、ランランになにが起こったの?」
『2人にmerging合併魔法を使ったの』
merging合併魔法?」
『2人の力を1つにして更に魔力で高める。双子だから出来た魔法よ』
「凄い動きね、信じられないわ」

『だから早く体制を立て直して、援護してやらないとね』
「えっ?!どう言うこと?」
『だってあんな動きが、いつまで出来ると思うのよ』
 見ると一体化したリンリン、ランランは飛び上り空中を舞い、踊るように剣を振るっている。
 確かに人間業ではない。

『まずは騎士団員を回復させてあげないとね』
「わかったわ、ミリアちゃんお願い」
『がってん承知の助!!』
 ミリアちゃんが、わからないことを言いながら呪文を詠唱する。

〈〈〈〈〈Medical examinationメディカル イグザミネイション〉〉〉〉〉

 左肩にいるミリアちゃんの体が眩しく輝き、私を中心に光の輪が辺りに広がる。
 円陣の中心から外側に向かって回復魔法が掛かる。

「おぉ、治った!」
「あれだけの傷が…」
「生きてる、俺は生きているぞ!!」
「ビッチェ王女様の回復魔法だ!!」

 私は声を限りにして叫ぶ。
「みなさん!!聞いてください。魔物はまだ討伐されておりません」
 落胆の声が上がる…。
「みなさんの前を見てください!!あなた達を守るため、聖闘士がまだ戦っているではありませんか?!」

 そこには風のように舞い石猿達に切りかかる、金色の髪を持つ少女がいた。
 しかし疲れが出ているのか、動きが段々と散漫になってきている。
 このままでは…。


「あなた達は名誉ある騎士団員です。誇りを持ちなさい。前を向きなさい。そして戦いなさい!!」

〈〈〈〈〈 Over Allオーバー オール 〉〉〉〉〉
 範囲効果内にいる騎士団員の全ての能力が上昇する。

「おぉ~!!これは」
「力がみなぎる!!」


〈〈〈〈〈 Crusadクルセイド 〉〉〉〉〉
 支援系補助魔法を唱える!!
 士気を高め、戦闘能力を向上させた!!

 
「石猿はもう半分も残っておりません。騎士団なら必ず勝てますから!!」

「魔物は所詮、魔物です。動きは単調です。数人で1頭に当たり倒していきなさい」

「そしてあなた達が死なない限り、首が飛ばない限り、私が何度でも治してさしあげましょう!!」

「私は大容量のマジック・バッグを持っています。倒した魔物は持ち帰り、働きに応じて売った報酬を分け与えましょう!!」

〈〈〈〈〈〈〈〈〈〈 おぉ~~!! 〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉

 分け与える話をした途端、雄たけびが上がった!!

 そして補助魔法を受け気持ちが高揚したのか、騎士団員達は石猿に数人で固まり向かって行く。


「あなたはどうするの?」
 私は座り込んでいる、騎士団長アーガスを見て行った。

「このまま腐ったまま終わるの?それともここからやり直す?」
「そ、それは…」
 騎士団長アーガスが下を向く。

「昨日は駄目でも、今日から違う自分に生まれ変われるのよ。体は汚れても、心が汚れなければ気高く生きているわ!!」
「でも俺は…」
 騎士団長アーガスが卑屈な声を出す。

「大丈夫よ、いつでもやり直せるから。さあ、立ち上がり剣を取りなさい」
 私はアーガスを促す。

「こんなでもやり直せるでしょうか?」
「もちろんですよ、アーガス騎士団長」
「わ、わかりました。行きます。ここで逃げたらまた同じです」
「俺達が傷ついたら、回復魔法で治して頂けるのですよね?」
「勿論です、アーガス騎士団長」
「それなら行きます。あぁ、やってやる。俺達は腐ったミカンじゃねえ~!!」

「いくぞ!!」
 アーガス騎士団長は、雄たけびをあげて石猿に向かって行った。
 それに続く騎士団員も強かった。

 
「王女様、お願いします」
「はい、分かりました」
 騎士団員が怪我をする度に、騎士団長アーガスが傷つく度に、私は回復魔法で治していく。
 
 何度も、何度も私は治していく…。


「お、王女様。も、もう許してください…」
「駄目よアーガス騎士団長。あなた達が傷ついたら、回復魔法で治してあげると約束したでしょう?」


「王女様、お願いです。もう許してください!!」
 騎士団長アーガスや騎士団員が泣きながら私に乞う。

「いいえ、あなた達との約束は絶対です。必ず治して差し上げますから」

 そう、腕や足が折れても…。
 内臓が破裂しても、心肺停止でも、たとえ肉片になっても必ず治して戦わせてあげるわ。




 俺は名も無い騎士団員の1人だ。
 アーガス騎士団長は凄い!!
 何度も石猿に立ち向かい、時には生死の境目を彷徨うほどの怪我を負う。
 しかしその度にビッチェ王女様の、回復魔法で治して頂き石猿に向かって行く。
 治ったのが嬉しいのか、目に大粒の涙を溜めながら何かを叫んでいる!!


 そしてその意味が、団員である俺達にもやっとわかった。
 石猿と戦い傷つき瀕死の怪我をする。
 その度にビッチェ王女様に治して頂き、また戦いに向かう。
 だが瀕死になる寸前の記憶は消えない。
 怪我を治してもらい、立ち上がれば上がるほど瀕死の記憶は増していく。

 だから怪我を、傷を負わないような戦い方を連携して工夫するしかなかった。
 
「いいか、やられるなよ!やられたらまた、あの恐ろしい回復が待っているんだ!」
 アーガス騎士団長を筆頭にして、石猿をどんどん倒していく。


 
★ビッチェ王女の思惑
 凄いわ!ミリアちゃん見て!
 騎士団が石猿を、どんどん討伐していく。
 驚くべき進歩だわ!!

 死ななければ回復魔法で治療し、何度でも立ち上がり経験を積める。
 そして負傷も少なくなって行くわ。
 やはり実践に勝る経験はない、と言うことかしら。

 喜ぶビッチェ王女を見てミリアは思った。
 きっとそれは、違う原因だと思うよビッチェ…。

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

 後に鉄壁の騎士団、と呼ばれるチームの誕生であった。
 そして彼らは連携して魔物を倒すのがとてもうまかった。
 怪我を極端に恐れ、用心に用心を重ねる、そんな騎士団だったとか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

【心】ご都合主義で生きてます。-商品開発は任せてください。現代知識を使い時代を駆け上る。-

ジェルミ
ファンタジー
現代知識を使いどこまで飛躍できるのか。少年は時代を駆け上る。 25歳でこの世を去った男は、異世界の女神に誘われ転生を選ぶ。 男が望んだ能力は剣や魔法ではなく現代知識だった。 商会を駆使し現代知識を開花させ時代を駆け上る。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...