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第16章 今度は召喚(ビッチェ王女編)

第214話 オバダリア侯爵の困惑

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 訓練場は水を打ったように静まり返っている。
 それはそうだろうな。
 あんな剣技や魔法を見せられて『はい!俺やります』と言う人はいないだろう。

「ではさっそく、始めましょうか?」
「まあ、まあ、勇者殿。貴殿の実力を疑って悪かった。模擬試合は無しでよい」
 サバイア国王が慌てて引き止める。

 騎士団員の顔が青ざめガタガタ震えている者もいる。

 これで勇者と信じてもらえたのか?
 しかしちょっと、やりすぎか?
 俺はセトラー国を興してから、魔物相手に戦う頻度が少なくなっていた。
 比較する者もいないから、自分の実力を忘れていたのだろう。

 こんな破壊神みたいな攻撃力なら、魔物どころか都市破壊できるよ。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 私の名はオバダリア・シュレーダー・ファイネン侯爵。
 何ごともなければファイネン家の時期当主になる男だ。

 これは不味いことになった。

 あのエリアスとかいう男を私は『凡人』と鑑定してしまったのだ。
 今まで物や人物鑑定で間違えたことはなかった。
 それとも勇者は特別なのか?

 あの圧倒的な力を見せつけられたら、疑う余地はない。
 間違えなく彼は勇者だろう。

 今、王家は次期当主をめぐり水面下で争っている。
 その一角である三王子の一人イクセル王子の娘、ビッチェ王女が駄目な親に代わり画策を始めている。

 3年前、城に上がった際に王女から声を掛けられたのだ。
 『お話がある…』と。

 当時、どの派閥にも属していなかった私は、情勢を把握しようと時間を設けることにした。
 するとどうだ。
 父親を次期王にするため力を貸してほしいだと?
 それと既に勇者召喚の儀式をシャルエル教にも依頼しているという。

 なんと手際のいいことだ。
 ビッチェ王女はまだ11~12歳くらいのはずだ。
 これは誰か後ろに策士がいるのだろうかと、疑ったがそうではなかった。

 幼い少女はこの宮殿の中で、『凡人』の親に代わり生き残るすべを手にしようとしているのか。
 それは面白い。

 第一王子が国王になれば補佐と言う名目で、陰から思い通りにすればいいだろう。
 駄目でも我が家の父は筆頭公爵だ。
 どちらに転んでも損はない。

 私はいつしか自分より上の者を、『汚すことが喜び』に感じようになっていた。
 それは私が権力と言う力に固執こしつしているからだろう。

 ビッチェ王女はまだ幼女だが、いずれは大人になる。
 勇者が本当に召喚出来て魔物討伐が終われば、ビッチェ王女と婚儀を行うのもいいだろう。

 そうなればこの国は我が掌中に収めることが出来たのに…。

 だが結果はどうだ。
 召喚された男は爆発的な力を持っていた。
 そして今まで便宜を図る名目でビッチェ王女より、毎月多大ただいな相談料をもらっている。

 しかも今回の鑑定費用はさらに莫大な費用を吹っかけている。
 それが外れてしまうとは…。

 こんなことが世間に知れ渡れば、我がファイネン公爵家の名声は地に落ちる。
 一気に王女との立場が…。

 このままではまずい。
 なにか名誉挽回の機会がないものか…。
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