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第13章 南のラードルフ国

第182話 閑話 門番の独り言

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 ラードルフ国、西暦〇〇〇年
 マジスカ領マンフレートの待機所から、ある門番の50年前の手記が見つかった。



 俺はマンフレートの門番クロードだ。
 ひなびていた港町に今は活気が満ち溢れている。

 数か月前、商人が1人で海産物を買い付けにこの町にやってきた。
 だが時間が午後だったので、その頃には魚がなかったらしく日を改めると言う。
 だがいったいどこから来たのだ?
 このマンフレートはラードルフ国の一番東にある町だ。
 近くにあるのはアスケルの森で、人が住んでいる場所などない。
 それを『日を改めて来る』という。
 いったいどこに帰るのだ?

 翌朝、大変なことが起こった。
 朝、アスケルの森の方からコボルトと、ゴブリンの大群が押し寄せて来たのだ。
 町の華奢な塀は壊され、魔物が町に入って行く。
 しかも魔物は何かに追われるように、恐怖から逃げるように暴れている。
 
 そんな時だ。
 商人の青年が女2人を連れてやって来た。
 まだ小さい女の子と、メイドのような女性だ。

 青年は自分の身長くらいある、大剣を抜きながら魔物達を討伐してくれた。
 丁度、買い付けに来ていた商人が何組かおり、護衛の冒険者も手伝ってくれた。

 そんな時、連れの女の子が魔物に襲われそうになったのだ。
 するとどこからか、ものすごい人数の弓を持った男達が現れた。
 その弓はとても強力で、魔物達はあっという間に串刺しになってしまった。
 そして男達はほとんどの魔物を弓で倒してた。
 なんという事だ。
 その後は少女に跪き、何やら会話を交わすとどこかに消えて行った。
 しかし彼らはいったい、どこから来たのだ??


 魔物はすぐに討伐されたが、町は怪我人もおり酷い有様だった。
 すると青年の連れの女の子が、なんと回復魔法を使い怪我人を治し始めた!!
 回復魔法は教会の一部の司祭様でしか、使う事が出来ないと聞く。
 その治療費は高額で、支払えるものではないと聞くが…。
 しかしこの小さい町には、その教会自体が無かった。
 それをこんな簡単に使って頂けるとは…。

 その後、1人ずつ回復させるのが面倒になったのか、怪我人が集まった場所に行くとなんと、複数人同時に治して頂けたのだ。
 回復魔法を見るのも初めてだが、そんなことが出来るのだろうか?
 
 すると誰彼だれかれとなくつぶやいた。
『聖女様』と。
 慈悲に満ちた穢れを知らない女性。
 その少女にぴったりの表現だった。

『聖女様』と町人は叫びたたえる。
 すると少女は困ったような、意を決した顔をしてこう言った。
『私は魔女です』と。

 魔女とはなんだ?
 初めて聞く言葉だった。
 だかそれはどうでもいい事だった。
 少女の名前はエリザ様、魔女エリザ様だった。

 そして町の有様を見て、また出直してくると言う。
 もう俺は疑わなかった。
 彼らが誰なのか分かってしまったからだ。

 しかし彼らが誰でも構わない。
 俺達は受けた恩は忘れない。



 2週間後、彼らはまたやって来た。
 そして市場でたくさん買い物をしてくれた。
 そこで彼らは醤油と言う調味料を出して海老を食べていた。
 その醤油を付けて生の魚や海老を食べると、とても美味しかったと言う。
 周りの人達も分けてもらい醤油を付けて海老を堪能した。

 その時に居た商人が醤油を扱っており、市場に卸してもらえることになった。

 そして赤身の魚は無いのか、と青年が聞いたと言う。
 赤身は日持ちがしないから、地元の人が食べる分しかないことを話した。
 残念そうにしている青年を見て、店の人がマグロを分けてあげたそうだ。

 すると赤身の魚も保存法があるという。
 醤油と酒があれば可能で、その方法を簡単に教えてくれた。


 彼らが帰った後、半信半疑で試してみると日持ちもして美味しい。
 それから町では醤油を仕入れて『ヅケ』と言う方法で作るようになった。
 今まで漁に出ていても、赤身の魚は保存の関係で捨てることもある。
 だがそれからは『ヅケ』で売ることができ、出荷が多くなり町は豊かになった。

 隣の港町の人にも聞かれ、『ヅケ』のやり方を簡単に教えていた。
 そんな簡単に教えて良いのか市場の人に聞くと、自分達だけで独占するような欲を出したら『聖女様』に怒られてしまうからと。




 小さい頃に聞いたことがある。
 ラードルフ国東側のアスケル山脈を越えた、北東の大陸に魔族が住むという。
 魔族は人と変わらない外見を持ち、力が強く魔法に長けていると。
 我々とは大きな山脈に阻まれ、行き来も難しく争いは無いと聞いている。
 今ではおとぎ話だが。

 だが私は確信していた。
 彼らはその魔族だ。
 地図を見せた時に思った。
 彼らはラードルフ国、今いるマンフレートのことさえ知らなかったのだ。
 近くにそれ以外の町や村はないのにだ。
 では彼らはどこから来たのかと。

 それはこの国以外の、我々の知らない場所。

 聖女様が自分のことを『魔女』と呼んだ。
 魔族の女、すなわちち魔女だからだ。
 
 きっと少女は魔族の中では、高位の存在で青年はその護衛。
 女性はその付き人だろう。
 そして少女を守る弓隊もいる。
 青年が事前に下見にきて、お忍びで魚を食べにこの国に来たのだろうか?
 そんなことのために?
 いいや、あるかもしれない。
 食べることくらい楽しみがなければ…。


 このことは、墓場まで持っていこう。
 あんな可愛い少女なら、魔族も悪くない。
 この町に活気を与えてくれたのだから。



 ここでその手記は終わっている。
 50年前、確かに町が魔物に襲われ、その頃にヅケの方法が出来たと伝え聞く。
 彼らは魔族だったのか。
 そのことを確かめるすべはもうない。
 全ては過去に思いを馳せる夢物語。
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