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第10章 蒸気機関車

第157話 仲良くやって行くために

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 俺はヨハネス様が連れて来た、作業員に一連の作業内容を教える。
 初めてだから最初はちゃんと教えてやらないとね。

 その中に調味料製造の頃から手伝ってくれている、顔なじみの派遣の人が20人くらい居る。
 その人達にアルバンさんが指示を出す。

 まずはアバンス商会へ店頭販売用に石炭を届けてもうらう。
 火力の強い石炭を、木炭代わりに使ってもらえるように販売するんだ。

 そして別班は商業ギルドと鍛冶ギルドに石炭、鉱物を卸す役割だ。

 貨物車から石炭、鉱物を、それぞれスコップでリヤカーに降ろしていく。
 彼らはエリアス商会の文字とロゴの入ったリヤカーに山盛りの鉱物を積み、各自配達の為に駅を出ていく。

「エリアス様。お願いがございます」
「なんでしょうか、アルバンさん」
「実は今までは良かったのですが、ここまで大きく事業展開するとなると手が足りません」
「まあ、そうなりますね」

「実は以前から派遣されて来る人達ですが、彼らを直接わが社の社員にしたいのですが、いかがでしょうか?真面目で勤勉ですので」
「勿論構いません。人数や待遇面もアルバンさんにお任せしますから」
「え、お任せ頂けるのですか?」
「これから商会は大きくなります。それに伴い任せられる人材が必要となります」
「これから更にですか!」

「ちょうど今は出発地点を一歩、踏み出したくらいのところですね」
「これで一歩ですか!!」
「えぇ、そうです。だからまず、人を雇い責任者を育てていましょう」
「わ、分かりました。これからが本番なのですね」



「ヨハネス様、お願いがあります」
「なんでしょうか、エリアス様」
「あなたのところから派遣されている方を、アルバンさんが何人か社員にしたいと言っています」
「おぉ、そうでしたか」

「その際に教会には1人に付き、3ヵ月分の給与と同額分を寄付いたします」
「そんなに頂けるのですか」
「教会も直接雇用になるとその分、お布施が減りますから」

 今、シャルエル教会から派遣されて来ている人達は、エリアス商会が教会に寄付と言う名目で給与を支払い、その中から教会はお布施として一部をもらい残りを労働者に支払っている。

 そして出向先に直接雇用となることで教会も収入が減る。
 だから3ヵ月分の給与と同額分の金額を支払う。
 紹介予定派遣制度みたいなものだ。


 そして配達に行った人達が、戻って来るのを待って社員雇用の話をした。
 全員とても驚き、頑張って働いていた甲斐があったと喜んでいた。
 人数は全員で20名。
 調味料製造の頃からの付き合いだ。
 これからは主にその人達に駅を任せることになる。

 今は15時くらいだろうか。
 蒸気機関車から鉱物を全て降ろし、倉庫に移し作業は終わった。
 だが俺はアレンの街でやることがある。
 イーヴァインさん達だけ、先に開拓村に帰ってもらった。

 
 俺とアルバンさん、大司教ヨハネス様、アバンス商会のアイザックさんでエリアス商会に向かっている。
 1週間ぶりに来たはずなのに、シャルエル教の建物は更に大きくなっていた。
 そして入口には『シャルエル工業団地』と大きな看板が付いている。


 その敷地の中にエリアス商会と、アバンス商会がある。
 俺達は3階建てのお屋敷の様なエリアス商会に入った。

「お帰りなさいませ」
「ただいま、今帰ったよアルシア」
 ドアの向こうでアルバンさんの奥さんの、アルシアさんが出迎えてくれた。

「こんにちわ、アルシアさん」
「まあ、エリアス様、ようこそおいでくださいました」

 挨拶を済ませた後、俺達4人は3階の客間に移動した。

 奥のソファに俺とアルバンさん、テーブルを挟み向かいのソファはヨハネス様、アイザックさんだ。

「それでは今後の打ち合わせをしましょうか?」
「エリアス様、お願いがございます」
「なんでしょうか?アイザックさん」
「実は自転車を売ってほしいのです」
「自転車ですか?それはこれからシャルエル製鉄所で、作って行くはずですが」
「それでは間に合わないのです」
「どう言うことでしょうか?」
「私からお話いたします」
 アルバンさんが代わりに話し出す。

「実は1週間くらい前から、自転車の問い合わせが多いのです。エリアス商会のロゴの入った乗り物を乗っていたと。丁度、エリアス様がドゥメルグ公爵様のところに伺った日ぐらいからです」
「そうですか!!」
「それと貴族らしい大人が見たことも無い乗り物に乗り、チリンチリンと、ベルを鳴らしながら城門の方に向っていくのを見たと言う人も」
「あの日ですね」

 あの日ベルをチリンチリン!チリンチリン!と、鳴らしながら走ったのだ。
 宣伝にならないはずがない。
 そのことを3人に話した。
 そして良いことを思い付いた。


「まず自転車ですが、最初は大人、子供用の各10台限定にしましょう」
「限定ですか、エリアス様」
「そうです、アルバンさん。ヨハネス様のところの製作所で、自転車を作るのにどのくらいかかりそうですか」
「これから型を作って始めますから、最低でも2ヵ月はかかると思います」

「そこなのです。売りたくてもすぐには作れない。それを逆手に取るのです」
「逆手にですか?」
「そうです、アイザックさん。最初に限定で10台ずつ売る。そしてすぐには作れないことを事前に強く協調して売る。そうなれば購入した人は、自慢したくて仕方がない。あちこち乗り回してくれるでしょう」
「そうなりますね」

「自転車にはエリアス商会のロゴを入れます。そして作れるまでの2ヵ月の間、購入者には自転車を乗り回してもらいます」
「ほう、それは良い宣伝になりますな」
 ヨハネス様も話に乗ってくる。


「そしてエリアス商会とアバンス商会で、シャルエル製作所とペースを合わせ予約販売をするのです」
「そう致しましょう。エリアス様」
 アルバンさんが目を輝かせている。

「2店舗で販売し各10台ずつでは少なくありませんか?1店舗5台ずつでは」
「そうですね、アイザックさん。では1店舗各7台ずつにしましょう」
「多くもなく、少なくもなくと言う事ですね」
「えぇ、そうです」


「それからエリアス様。相乗り人力車も造ってほしいのです。見本になる物がないと、やはり造れないと言わまして」
 ヨハネス様もよく覚えてたな。

 相乗り人力車は6人乗りの人力車だ。
 4輪で席は2列で人が3人ずつ座れる。

 決まった路線を決まった運賃で、決まった時刻で通る様にする。
 バスみたいなものだ。
 そして店の前にポールを立て、停車場所を作り店の集客を手伝うという話だった。

「本格的にやるのならヨハネス様のところで作るとして、とりあえず何台必要でしょうか?」
「では4台お願い致します」
「そんなに需要がありますか?」
「実はすでに停車場所になるお店の契約を、アバンス商会で取ってきておりまして」

「それは手早いですね、驚きました。相乗り人力車は試作品を4台、持っているので置いていきますから」
 そう言いながら俺はストレージの中の『創生魔法』で相乗り人力車を4台創る。
「それは丁度、よかった」
「追加の際はアルバンさんに相談をお願い致します」
「わかりました」


 アルバンさんに再度、お金の事を確認をした。
 相乗り人力車はシャルエル製作所で造っている。
 1台に対しエリアス商会に特許料を支払う。

 業務はアバンス商会で行い、発案料として売上の一部をエリアス商会に納める。
 
 アバンス商会は相乗り人力車の、停車場所になってもらう店の契約を取る。
 それに対しエリアス商会は営業報酬を支払う。

 この3人と話していると、まるで同じ会社の人と話している様な錯覚に陥る。
 だが実際には別の会社だから。
 
 夢を語り合える内は良いけど、規模が大きくなるとお金も大きく動く。
 いつまでも仲良くやって行くために、お金の話はきちんとしておかないとね。
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