上 下
140 / 254
第9章 製鉄技術

第140話 味の支配

しおりを挟む
 俺は公爵と別れ自転車に乗りエリアス商会に戻った。
 すると店員のエレーナさんが店番をしていた。

 アルバンさんは人材集めの件で、大司教ヨハネス様ところに行ったという。
 大司教ヨハネス様か。
 できれば逢いたくはないが、商会がお世話になっている以上は顔を出さないとね。
 俺は大聖堂に自転車に乗り向かった。


 自転車を降り大聖堂に入り、シスターに挨拶をした。
「エリアスと言います。我が商会のアルバンが、大司教ヨハネス様のところに伺っていると聞いて参りました。取次いで頂けませんか」
「エリアス様ですね、お待ちください」

 そう言われしばらく待っているとアルバンさん、大司教ヨハネス様、それにアバンス商会のアイザックさんまでやってきた。
「これはエリアス様、こんなところまで。お呼びくだされば伺いましたのに」
 大司教ヨハネス様は、俺のパーソナルスペースを超え近づいてくる。

「ヨハネス様、こちらこそ商会がお世話になっているのです。そう言う訳には参りません」
 ズ、ズ、ズ、ズ、))と俺は後ろにさがる。

「今度は自転車、台所用品のフライパン・鍋・やかんなどを作らせて頂けると伺っております」
「えぇ、新商品ですから是非、お願いいたします」
「このヨハネスにお任せください。エリアス様」
 そう言うと暑苦しいおやじは俺から離れた。

「エリアス会長、公爵様とのお話はいかがでしたか?」
「アルバンさん、さすがにここでお話しすることはできません」
「では、私の店に参りましょう」
 アイザックさんがそう言う。

「店ですか?」
「はい、今までは離れていましたがこれから連携しやすいようにと、我が商会もこの場所に移転してきたのです」
「この工業団地にですか」
「工業団地ですか??」
「あぁ、失礼しました。ここから新しい工業が生まれる。まるで団地の様だと思い、つい工業団地と」 
「工業団地ですか?」

「はい、物流の効率化を図るために、目的・用途が似ている産業を集中させた一団の区画のことを、団地という言い方をすると王都で聞きました」
「工業団地、素晴らしい名前です。これからはシャルエル教工業団地としましょう」
 馬鹿なのか?
 このヨハネスというおっさんは。

「さすがにそれは無理だと思います」 
「大丈夫です。エリアス様に頂いたお名前を粗末には致しません」
 あぁ、そうですか。
 好きにしてくださいな。

「さあ、みなさん。参りましょう」 
 空気を読んだように、アイザックさんが丁度いいタイミングで言う。


 アバンス商会のアイザックさんの店に俺達4人は向かう。
 途中で気付いたが、工業団地の敷地が更に広くなっている。
 そしてキックボードで構内を移動している人が多い。

 アルバンさんが歩きながら話し始める。
「キックボードは移動に便利で人気があります。最近はリヤカーも人気があります」
「リヤカーがですか?」 
「はい、荷物だけではなく仕事が終わった後に家族や子供達を乗せ、移動手段として使う人が多くなりました」
「移動手段ですか…」 
「えぇ、街も広いですから端から端へ行くのに、歩くよりも荷台に乗っていった方が楽ですから。さあ、ここが私の店です」 
 アイザックさんの店に着いたようだ。

 しかしデカい。
 こんな大きい店にする意味が分からない。
 エリアス商会といい、シャルエル教の工業団地レベルの敷地の広さといい。
 あなた達はいったい何を売って、ここまでになっているのでしょうか?


 エリアスは知らなかった。
 アバンス商会は日持ちの長い『味元あじげん』、『醤油』、『醤油タレ』、『ソース』を大量に積み、隣接した公爵領や各国のシャルエル教に売ってくるのだ。
 いくら用意してもすべて売切れ、調味料を運ぶ馬車の数は日々ひにひに多くなっている。

 食事に調味料の美味しさを覚えたら、もう人は元の味気の無い食事には戻れない。
 調味料は消費すれば無くなる。
 そしてまた欲しくなる。
 まるで中毒患者のように。

 そう調味料中毒だ。
 『なごみ亭』でも調味料を使った料理を出し人気を博している。
 エリアスも新しい料理レシピを低価格で開示している。

 その影響もありエリアス商会の作る調味料はどんどん売れ広がっていく。
 中毒患者を増やせば、更に消費は大きくなり売れる。
 それを繰り返し、商会を含め携わる人たちは豊かになって行く。
 それは誰からも責められることのない、陰からの味の支配であった。

 そしてたくさんの人達が景気の良いエリアス商会、アバンス商会、シャルエル教に雇ってほしいとやってくる。

 ここに雇われれば、明るい未来が待っている。
 味に支配されるより、味を支配する側になる事がお金を掴めると。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は一歩遅い

雪ヰ
恋愛
カタツムリ更新です

【R18】ショタが無表情オートマタに結婚強要逆レイプされてお婿さんになっちゃう話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

よくある転生悪役令嬢です。ほっといてください!

ラピスラズリ
ファンタジー
ブラック企業に務めていた坂口奈桜(さかぐちなお)はいつもの様に上司に仕事を押し付けられて残業した帰り、事故にあって死んでしまう。 目が覚めたらいきなり修羅場!? しかもここは、魔法、戦闘、魔物アリのファンタジー乙女ゲーです!? とりあえずイベ回避して、公爵領地で自堕落にまったり過ごそう!…………って思った矢先で魔法を使って人を助けたり、第1王子に嫁いだr……………えっ、いやいや!私はゆっくりまったり自堕落生活がしたいの!苦しい王妃教育やら後宮問題はノーセンキューですっ! 元婚約者の第2王子のちょっかいにイライラしたりしつつも、第1王子に少しずつ絆されたりその間に外堀埋められてたりする、不幸な(?)転生令嬢の物語デス。 ありがちな転生令嬢の物語です。 n番煎じ感ありますたぶん。 思いつきで始めました(๑>؂•̀๑)← ページによって字数がめちゃめちゃ少なかったり、めちゃめちゃ多かったり…します。 更新ペースは超おっそい亀更新。 どうも、元垢ではターコイズと名乗っておりました者です。 機種変の為、何となく()垢を変えて新しく始めました。 1つ、連載していた作品がありましたが、打ち切りとさせていただきます。 たくさんの方々に読んでいただけていただけに、とても申し訳なく思います。 またよろしくお願いいたしします。 2つも作品を打ち切りにしている分、これだけは完成させようと思います。 亀更新ではありますが、気長に、お待ち頂ければと………。 R15は保険で…。

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

処理中です...