上 下
103 / 254
第6章 エリアス商会

第103話 斡旋ギルドとロゴの意味

しおりを挟む
 ニャオ~~~~ン!!

 朝になった。 
 オルガさんは昨夜、あんなに元気だったのに今朝は起きれないそうだ。
 なぜだ?

 昨晩、アルバンさんからメイドや執事を、斡旋してくれるギルドがあると聞いた。
 さっそく俺はアリッサさんを連れて向かった。



 商業ギルドの側に3階建ての木造の建物があった。
 ドアを開けて俺達は中に入った。

 するとモーニングコートを着た、40代の男の人が立っていた。
 
「いらっしゃませ、本日はどの様なご用件でしょうか?」
「繁華街のはずれで温泉施設をやっています。そこで人を雇いたいと思いまして」
「繁華街のはずれと申しますと、あの高い塀のお屋敷のことでしょうか」
「えぇ、そうです。ご存じですか」
「もちろんです。この界隈であのお屋敷のことを、知らない者はいないでしょう」
 そんなに有名なんだ…。

「さあ、こちらへどうぞ」
 そう言われ俺達は客室に通された。
 そして男の従業員と向き合いソファに座る。

「私はこの斡旋ギルドの副責任者をしておりますハンスです」
「俺はエリアス、そして妻のアリッサです」

「どのような人材をお探しでしょうか」
「受付から接客、全般業務です」
 俺は簡単に仕事内容を話した。

 施設の営業時間は9~15時までにした。
 だから勤務時間は少し早く来て片付けを考え8:30~15:30まで。
 昼休憩は1時間。
 門番が2人。1階の受付が3人。
 2階の娯楽施設で2人。
 3階の休憩所とレストランで3人。
 そして休館もしたいが、来る人が休みを知らないはずだから休めず交代制にする。
 だから従業員も交代制にするからプラス4人の14人だ。

 男女別々の浴室がある。
 働く側も男女半々にして、他の職場と兼務できる人が欲しいと伝えた。
 何かあった時は同性の方が入りやすい。

「では、どの程度のレベルの人がほしいのでしょうか」

 トン、トン、
 その時、ドアがノックされ50代のメイドさんがお茶を持って来た。
 そして俺達の前にカップを置いた。

 俺は話をつづけた。
「レベルですか」
「そうです。新人、中堅、ベテラン。後は若い人や逆に年配者なのかです」
「貴族の相手が出来れば年齢は問いません。それからどんな人が来るのか分かりませんから、適度に戦闘もできる人が良いですね」
「戦闘執事にメイドですか。それですと多少お高くなります」
「おいくら、でしょうか?」
「1日で執事が1万円、メイドが8,000円となります」
「差し支えなければ、本人達への入りはおいくらでしょうか」
「入りですか」
「そうです。こちらは高いお金を払っているのに、ギルドで抜いている金額が多ければ本人達にすれば、これしかもらっていないのに、となりますから」
「そ、それは」
「3割です」
 そこにはお茶を持って来たメイドさんが、まだ居て答えてくれた。

「では執事が7,000円、メイドが5,600円ですね」
「そうなります」
 ハンスさんが答える。

「では本人達にすれば、その金額は妥当だとうでしょうか?それとも安い?高い?」
「それは、どう言う…」
「妥当と思えば、それなりに。高いと思えば人は頑張れると思いまして」
「平均収入よりはどちらも高額だと思いますが…」
「では男女の賃金の違いは何でしょうか?」
「は?違いと言いますと」
「なぜ男女で賃金の差があるのでしょうか?肉体労働なら体力に差があるのは分かります。ですが接客なら変わらないと思います」
「女性より男性の方が賃金が高いのは昔からですから」
「同じことができるのに、女性の方が安いのは変だと言っているのです」
 エリアスの転移前の世界では、男女雇用機会均等法が施行されており違和感を感じたのだった。

「では男と同じ仕事ができると思ったら、女でも1万円払えるのかい?」
 いつの間にかお茶を持って来たメイドさんが、ハンスさんの隣に座っている。
「え?もちろんです。仕事は結果ですから」
「そうかい。それから獣人はどうだい?」
「獣人?」
「さっき話した金額は人族の場合の金額さ。獣人は更に安くなるけど」
「おいくらですか?」
「獣人は1日執事が8,000円、メイドが5,000円だよ」
「それでは手取りで執事が5,600円、メイドが3,500円にしかならない」
「それがこの国の格差社会さ。それでもあんたは獣人でも同じ金額で雇えるかい?」

「それでは俺の施設は女性が多いので男性が6人、女性が8人。それと人族と獣人を半分ずつの人数で」
「雇うと言うのかい?!貴族や富裕層相手の仕事に獣人を!!」
「えぇ、そうです」
「それが原因でお客が、来なくなったらどうするんだい?」
「それならそれで、施設を閉めればいいだけですから」
 続けるのも面倒だからね。

「な、なぜ、獣人の為に、そこまでするんだい?!」
「俺のもう1人の妻が獣人だからです」
「なっ?!獣人が妻なのかい。そうかい、そうかい」
「そう言うあなたは、どなたですか?」
「私かい、挨拶が遅れたけどここのギルド長のアクアさ」
「俺はエリアス、妻のアリッサです。どうしてアクアさんが、ここに?」
「なあに、ここではあまり見ない年齢の客だからね。興味本位で覗いてみたんだよ」
「そうですか。候補は居そうですか?」
「もちろん、断るくらい希望者が集まりそうだね」

「では、希望者を募って明日、職場見学に来ませんか?」
「職場見学?だって」
「そうです。自分の働く職場を事前に、見学できれば安心でしょう?」
「それはそうだけど、面白いことを考えるね。しかも明日だなんて」
「えぇ、人手が足りなくて急いでいますから」
「わかったよ、声を掛けてみるよ。私も行っていいかい?」
「もちろんですよ」
「あの~、私も良いでしょうか?」
「あんたは駄目だよ、ハンス」
「どうしてでしょうか?」
「責任者が2人いなくなってどうするのさ?」
「そんな~。わ、わかりましたよ」
「情けない声をださないでおくれ。ではエリアス様、明日伺うから宜しく頼むよ」
「わかりました、お待ちしております」



 翌朝、斡旋ギルドのアクアは、希望者を募りメイドや執事を連れてやって来た。
 半数は獣人で残りの人族は異種族に偏見の無い人を選んだ。
 そして彼らは『ラウンド・アップ』の、立派な門構えを見て立ちすくむ。
 特に獣人の彼らは考える。
 私達がくるようなところではない、相応しくない場所だと。
 
 すると獣人の1人が入口の看板に気付いた。
 そこにはこう書いてあった。

『娯楽と遊びの施設、ラウンド・アップ。
 営業時間9~15時。
 紹介者不要、入館料お一人様5万円。
 手ぬぐい、タオルは持ち帰り可能。
 3階の休憩所にてお茶飲み放題とお菓子1品付き。
 なお施設内の従業員に対する暴言、暴力的な威嚇行為、理不尽な要求や言動には
 一切いっさい、応じておりません。
 状況により身分に関わらず、退出頂く事もございますのでご了承願います』

 入館料5万円?!

 そして看板の上には大きなロゴが書いてあった。
 円の下部にエリアス商会の文字と、左右を向く女性の横顔。
 正面右の女性は耳が頭部に付いている。
 ここには人族と獣人の従業員が居ると言う証。

 貴族や富裕層相手の商売で、この看板を出す店はない。
 異種族を見下す至上主義者が多い、貴族や富裕層相手の店で雇う訳が無かった。

 しかしこの施設では、堂々とそれを表に出している。
 このロゴがそうだ。
 人種や身分などの違いを越えて、人類は広く愛し合うべきであるとする考え。

 斡旋ギルドのアクアは昨日の会話を思い出す。
『それが原因でお客が、来なくなったらどうするんだい?』
『それならそれで、施設を閉めればいいだけですから』
 異種族の立場に立ち、本気でそんなことを思う奴がいるなんて。

 そして再び目をやる。

 人族と異種族の友好を示すかのように、下側でクロスした麦の穂が左右から上部に大きく伸びている。

 エリアス商会のロゴが入った看板だった。
思って頂けたら、★マーク、❤マークを押して応援して頂けると今後の励みになり、とても嬉しいです。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

俺のチートが凄すぎて、異世界の経済が破綻するかもしれません。

埼玉ポテチ
ファンタジー
不運な事故によって、次元の狭間に落ちた主人公は元の世界に戻る事が出来なくなります。次元の管理人と言う人物(?)から、異世界行きを勧められ、幾つかの能力を貰う事になった。 その能力が思った以上のチート能力で、もしかしたら異世界の経済を破綻させてしまうのでは無いかと戦々恐々としながらも毎日を過ごす主人公であった。 

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...