上 下
64 / 254
第3章 お披露目会

第64話 帰宅時間とお迎え

しおりを挟む
 俺とオルガさんは商業ギルドに納品と、ボタンの特許を申請した。
 まさか魔道具の卸値が、家のローンも一括で完済できる金額だったなんて。
 アバンス商会に売る金額は、その倍になりそうで考えただけでも凄いことだ。

 明日から王都に行くので、食材やポーションを買っておく。
 なにが必要になるかわからないからね。

 今日の食事は何を作ろうかな?
 あぁ、そうだ!!
 俺は小麦粉の柔らかいパンと、オートミールの硬いパンを買った。
 この世界は小麦粉は少し高級で、お金のある人は小麦粉の柔らかいパンを。
 無い人は硬いオートミールのパンを購入して食べている。

「おい、エリアス。そんな硬いパンを買ってどうするんだ?」
「まあ、見ていてください。美味しいものを作りますから」
 俺はそう言って笑い、他にもサラダ油や露店でオーク肉を買い込んだ。
 

 そう言えばアリッサさんは、何時まで仕事なんだろう?
 この世界は時間が曖昧だから、8時間労働ではないのかも?

「オルガさん」
「なんだい?エリアス」
「どこかに勤めた場合、労働は1日何時間ぐらいですか?」
「う~ん、そうだな。農民なら陽が昇ってから、暗くなるまでだと思うけど」

「やっぱり、そうなんだ」
「でも、どこかに勤めれば8時間くらいだな」

「勤め人は違うのですね」
「もちろんさ。アリッサさんは6時くらいに屋敷を出て行ったから、15時には仕事が終わるかもな」 
「そうですか。では丁度帰り道だから、冒険者ギルドに寄って聞いて帰ろうかな」
「そうだな。寄って行こうか」



 俺達は冒険者ギルドに寄ることにした。
 ギルドのスイングドアを開け中に入る。
 時間は昼前で、冒険者は一人もいなかった。

「あれ?エリアス君、どうしたの?」
 受付に居たコルネールさんが声を掛けてくれた。

「アリッサさんに用事がありまして…」 
「まあ、ちょっと待っててね。聞いてくるから」
 あれ、聞いてくるから?
 普通は呼んでくるから、ではないの。


 コルネールさんはそう言うと、二階の階段を上がって行った。

 しばらく待っていると、コルネールさんは二階から降りて来た。
「エリアス君、良いわよ。ギルド長が会いたいって」
 ギルド長が会いたい?
 どう言うことだろう?
 俺はアリッサさんに会いに来ただけなのに。

「一度、会っておくのもいいさ」
 オルガさんは会ったことがあるらしい。
 そう言うので会う事にした。



 俺達はコルネールさんに案内され二階に上がる。
 トン、トン、
 コルネールさんがドアを叩く。

「どうぞ、入ってくれたまえ」
「失礼します」

 コルネールさんがドアを開けてくれ、俺とオルガさんは部屋の中に入る。

 イッ!
 部屋に入った途端、嫌な感じがした。

 中に入ると魔物がいた!!
 オーガだ!!なぜこんなところに?!

 俺は両手を上げストレージの中で、黒作大刀くろづくりのたちの柄を握り上から下に振り下ろす。
 黒作大刀くろづくりのたち緋緋色金ヒヒイロカネを鋼に混ぜて作った全長1.5m近く、重量は20kgはあるトゥ・ハンデッド・ソードの大剣だ。
 重さと勢いで相手を断ち切る。

〈〈〈〈〈 ガァギィ~~~ン!! 〉〉〉〉〉

 なんと、オーガに俺の剣戟が防がれた。
 最近のオーガはこんな大剣を持っているのか?
 オーガロードか?!

 だが剣は引けない。
 引いたらやられる。

 このまま剣を打ち合ったままの体勢なら考えがある。
 アスケルの森でストレージに貯めた魔素を魔力に変換!!
 剣に纏わせウオーターカッターで相手の剣のごと叩き切る!!
 
〈〈〈〈〈 ズゥ~~~ン!! 〉〉〉〉〉

 俺の体を中心に魔力が大きく膨らみ広がって建物がきしむ。

「…るかった、俺が悪かったから…」 
 なんと、オーガが何か言っている!!
 そういえば俺には【スキル】異世界言語がある。
 だから魔物の言葉もわかるのか?
 最近、冒険なんてしてないから、すっかりスキルなんて忘れていたけど。

 こいつを倒せばいくらで、売れるのだろう?
 でもなぜ、冒険者ギルドにオーガが?!



 
「…リアス君、エリアス君、しっかりして!!」
 声がする方角を見るとアリッサさんがいた。
 あれ、どうしたんだろう?
「ギルマスがエリアス君に、ちょっかいを掛けたのが悪いんですよ」
「あぁ、だから謝っているだろう」 


 な、なんだと!!
 この国ではオーガは人の部類に属するのか?!
 わからないものだ。

「エリアス君だね、その前にその剣を引いてくれないか」
 俺はそう言われ剣をストレージに収納した。

 あっ、という感じの、少し驚いた顔をした。
「まあ、かけてくれ」
 俺とオルガさんはソファーに座った。

「驚かせて悪かったね、私がここの冒険者ギルド長のパウルだ」
 そう言って自己紹介をする。
「それから私はオーガではなく人間だから。どの国でもオーガに人権は無いから」
 な、なんとオーガ似の人が居るなんてそんな…。
「オーガ似と言われてもな、彼はいつもこんな感じなのかね」
「まあ、大体そうですね。ギルド長」
 アリッサさんは、ギルド長の横に座り話している。

 騒ぎが収まったのを見届け、コルネールさんがドアを閉めた。
 そして階段を下りていく足音が聞こえた。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 アリッサが冒険者ギルドを辞めたいと言い出した。
 そんな時だ、エリアス君という少年がアリッサを訪ねて来ているという。

 それなら一度、会っておこうと思った。

 実際に会ってみると、アリッサが気に入る訳が分かった。
 黒髪、黒い瞳の美形の少年。
 エルフは美形が多い、そして奇麗なものが好きだ。
 それは人に対しても同じで、だからこそ面食いなんだ。

 それにこの少年は私の鑑定眼を弾いた。
 部屋に入ってきた時に鑑定したが見事弾かれた。
 と、言う事は彼も鑑定を持っており、私よりレベルが上だと言う事になる。
 私よりはるかに若いこの少年がだ。

 そして私に鑑定され彼は攻撃されたと思ったのか、即座に反応し私に攻撃を仕掛けてきたのだ。
 私も50歳を過ぎ若い頃には劣るが、体は鍛えている。
 これでも元Sランクだ。
 いつでも対応できるように容量は小さいが、マジック・バッグを持っている。
 その中に仕舞ってあった、ミスリルソードを咄嗟に出し彼の剣戟を防いだ。

 彼は私をオーガと言うが、今でもオーガ程度なら私は負けることは無い。
 その私が彼の剣戟に押された。
 彼の技もなにもない、ただの力任せの剣戟にだ。

 そして彼は勝負が付かないと思ったのか、魔法攻撃に移った。
 しかもとてつもない魔力を溜め、放出しようとしていた。
 このギルド全体の建物が、揺れるくらいの地震のような魔力が集まっている。

 ふと見るとコルネールが、恍惚とした顔をしてエリアス君を見ていた。
 ラミア族は、魔力が好物だからな。

 アリッサが止めてくれなかったら今頃は…。
 私だけではなくこのギルド周辺ごと、跡形も無く吹き飛んでいたかもしれない。




「エリアス君、私を訪ねて来たと聞いたけど、どうしたの?」
「いや~帰りの時間を聞くのを忘れたから。何時に仕事が終わるのかと思って…」
「そ、それだけ?」
「えぇ、そうです」
「まあ、エリアス君たら」
 アリッサさんは両手を頬に当て、クネクネしている。
「今日は15時は終わるわ」
「そうですか。これからは3人での生活になるので、食事は経済的に外食ではなく俺が作ろうと思いまして」
「エリアス君が作ってくれるの。それはこれからが楽しみだわ」
「楽しみにしていてくださいね」

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 私はギルドマスターとして、考えなければいけない。

 アリッサとエリアス君は見つめ合い、ニコニコしている。
 帰宅時間を聞きに来ただけだと?
 普通は職場に、そんなことを聞きに来ない!!

 それを見ているオルガも何も言わない。
 いくら虎猫族が一夫多妻制だからといっても、ここまで寛容になれるのか?
 オルガはまるで手のかかる弟を見守る、優しい姉の様な目をしている。
 
 だが彼は危険だ。
 誰かが側にいて舵を取ってあげないと、世界の敵にもなりかねない。

「いいや、もう帰っていいぞアリッサ」
「えっ?!いいんですか?ギルマス」
「あぁ、だがちょっと残ってくれ。話がある」
「分かりました。2人共、飲食コーナーで待っていてくれる?」

 そう言われエリアス君とオルガは部屋を出ていった。

「アリッサ、この冒険者ギルドを辞める話だが…」
「はい」
「それはできんが、これからエリアス君の側に居ればいい」
「どう言うことでしょうか?」
「今までのようにギルドには出社せず、エリアス君の側で彼を守る専属のエージェントになれば良いのさ」

「そ、それでは彼の側にずっといて良いと…」
「そうだ、そして何かあれば都度、ギルドに報告は必要になるがな」
「わかりました、ありがとうございます」
「人の命はエルフより短い。彼が嫌になるまで側に居ればいい」
「嫌になることは、無いと思います」
「ではある意味、エリアス君のところに永久就職するようなものだな」
「まあ、永久就職だなんて…」

 アリッサは頬を染め、恥ずかしがっている。
 そんなに彼が良いのか。
 酸いも甘いも知っているアリッサを夢中にさせる少年。
 君はこれから、どこに進むのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

処理中です...