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第3章 お披露目会

第59話 追々とカレーの肉野菜炒め

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 朝が来た。
 この世界の人は、夜は灯りの油代が高く節約のため早寝をする。
 そして日の出と共に起きる。

 しかし今朝は寝るのが遅かったからか、みんなまだ起きてこなかった。
 朝食はどうするんだろう?
 このまま別れてもいいが食事くらい出さないと失礼かな?

 ストレージの中を捜したけど、食事の貯蓄はあるが大したものは無い。
 あぁ、そうだ。
 良いものがあった。
 以前、アスケルの森で採って来た香辛料があるのを見つけた。

 幾つか採った香辛料の内クミン、コリアンダー、ターメリックを使うことにした。
 この3つのスパイスは香辛料の匂いは強いが、あまり辛くないのだ。

『創生魔法』でハンドル式の製粉機を創り、ゴリゴリ粉末にしていく。
 そして用意するのはワイルドボアの薄切り肉、玉ねぎ、ニンジン、キャベツ、もやし、サラダ油だ。




 さあ、eaエリアス15分クッキングの始まりだよ~!!

 タラッタ、タタタ、♬タラッタ、タタタ、タタタ、タタタタッタンタタ♫

 今日はいつもより12分長いよ。

 まずはワイルドボアの肉を4cmの長さに切ろう!
 玉ねぎは繊維に沿って薄切り、ニンジンは短冊切り、キャベツは4~5cm真っ角、もやしは根を取り除こう!!

 フライパンにサラダ油を熱したら肉を炒めます。
 豚肉の色が変わったらニンジン、キャベツを加えて炒め、もやしを加えます。
 野菜がしんなりとしてきたら、カレー粉を加え炒め合わせま~す!!

 さあ、これで『カレーの肉野菜炒め』のできあがり~!!
 次回は『オークカレー』だよ、お楽しみに~!!
 


「「  おはようございます!! 」」
 俺はドキッとして後ろを振り向く。
 周りを見るとレストランの厨房に、みんなが起きだし集まっていた。

「エリアス、朝からなに一人芝居をしているのかな?それにこの良い匂いはなに?」
 オルガさんは、鼻をヒクヒクさせている。

「こ、これはカレーと言う香辛料です。みなさんの朝食を作っていたのです」
「まあ、エリアス君て料理もできるのね。凄いわ。それにこの食をそそる匂いはたまらないわ!!」
 アリッサさんも感心している。


「エリアス様、パジャマとタオルケットをお返しいたします。またカゴに入れておけばいいでしょうか?」
 アバンス商会のアイザックさんが聞いてくる。
 いつも思うがなんて腰の低い人なんだ。
 俺みたいな子供相手に敬語を使ってくれる。
 とても好感が持てる人だ。

「そうですね。あぁ、もし良ければお土産に持って帰りますか?」
「えっ?!頂けるのですか?」
「えぇ、どうぞ」
 洗うのが面倒なので、とは言えないしな。

「もらえるの、エリアス君?」
 3人娘が聞いてくる。
「どうぞ、お持ちください」
「嬉しい!!」
「生地が柔らかくて、欲しかったのよ~」
 それぞれ、嬉しそうに折りたたんでいる。

 アリッサさんが、ふう~と何かため息をついたのが聞こえた。
 昨日からどうしたんだろう?
 疲れているのかな?


 俺達は食堂に移動し、みんなにはテーブルに座ってもらった。
 俺は各自の前に置かれた皿に1人ずつ、『カレーの肉野菜炒め』を盛っていった。

「さあ、みなさん。朝食を食べましょう」
 そして各自、手を合わせ食事を始める。

「美味しい~!!」
「な、なんという味なんだ?!」
「こんなに美味しいものは、初めてだ!!」
「こ、この香辛料はどうやって手に入れたのですか、エリアス様?」
 アバンス商会のアイザックさんが食いついてくる。
「アスケルの森に行けば、いくらでもありますよ」

「あぁ、またアスケルの森ですか…」
 アイザックさんは、絶望的な顔をしていた。

「『オークカレー』と言うのは?」
 まだ聞いてくる。そんなに気に入ったのかな?

「スープ状のカレーに、肉や野菜を入れて作ったものです」
「ほう、それは美味しそうですな。それはいつでしょうか?」
「はい?」
「『次回は』とさっき、おっしゃっていたので…」
「そ、それは追々おいおいです…」
「追々ですか…」
「はい、」
 なんて便利なんだ、日本人の相手を傷つけずに断る曖昧トークは。




 アバンス商会アイザックは思った。
 エリアス様は時々、『追々おいおい』と言う言葉を使われる。
 いったいどう言う意味なのだろう?
 エリアス様の国の方言なのか?

 エリアスのスキル【異世界言語】も、日本人独特の曖昧な言葉は訳せない。
 例えば『前向きに検討します』=断りたいけど、断われないからさも、気がある振りをしてその場を体良く繕う事とは訳せない。
 だから『追々おいおい』も『徐々に』とは訳されず、『オイオイ』とそのまま伝わるのであった。

◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 そして事態はそれだけではなかった。
 エリアスは『カレーの肉野菜炒め』の匂いが、厨房にこもらない様に換気扇を回して調理をしていた。
 その日の朝は風が少し強く、カレーの匂いは広い範囲に漂っていた。

 この世界の人達の食事は、厨房用品が高価で外食が殆どだ。
 朝の仕事に行く前の朝食の時間、どこからか食欲をそそる美味しそうな匂いが漂う。
 人々はその匂いに釣られ、匂いの出所を探して歩く。
 そしてたどり着いたのが立派なお屋敷の前だった。

 屋敷の塀の周りには、たくさんの人々が詰めかけていた。

 ここは、どこの貴族様のお屋敷だ?
 いいや、ここは古い屋敷があったはずだ。
 貴族様でもこんな豪華な屋敷には住めないよ。
 もしかしたら新しいレストランか?
 そんなはずは無いと思うが…。
 裏路地で立地条件が悪すぎるぞ。
 今は仕込みの時間なのでは?
 それに看板が無い。
 でも、さっき商人風の人達が出て来たぞ。
 きっと会員制の高い店なんだよ。
 でもレストランなら、一度でいいから食べてみたいな…。
 そうだな、どんなに高くても一生に一度で良いから食べてみたいものだ…。

 その日、繁華街の路地裏に、会員制の高級レストランが出来たと噂が駆け巡った。
 その店の前を通るだけで、嗅いだことのない食欲をそそる良い匂いがすると。
 どんな料理なのか見てみたいと…。


 将来、アレン領が多彩なカレー料理の発祥の地になるとは誰も思わなかった。
 その食欲をそそる匂いは街中に溢れ、旅人の評判になり食文化の花が開いた。
 アレン領はカレー料理を求める人々で賑わい、活気にあふれた。
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