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第2章 生活の基盤

第42話 集う者達

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 肉の半分は売らずに、もって帰ることにした。
「エリアス、大丈夫なのか?400kgは取れるから半分でも200kgにはなるぞ」
「大丈夫です。すぐに食べきりますから」

「そ、そうか。お前も大変だな」
 ギルドの解体部門のアンセルさんは、オルガさんを見ながらそう言った。
 そんな訳ないでしょ!!
 まさかストレージに入れておけば腐りませんから、とは言えないからね。
 オルガさんが大食漢だと思われたなきっと。
 
 


 そしてワイルドボアの解体が始まった。
 仰向けにし首があった部分から、肛門にかけて縦にT字形に切れ目を入れる。
 先に入れたT字の横の切り目に沿って頭を落とす。
 内臓を取り縦に切れ目を入れたところから、あばらの側面に沿って残さない様にナイフを背中側まで入れていく。
 次に手足の関節を中側で切り離す。
 今度は表皮の手足の皮を切れば、骨が全て外れた状態になる。
 そして後は皮から肉を切り離すだけだ。

 簡単に言えばこれが一般的な、食肉用の魔物の解体らしい。

「はいよ、これが持ち帰りの肉200kgくらいだ。換金用の肉は220kg。受付で報酬をもらってくれよ!!」
「はい、ありがとうございます」
 見ると内臓が端に避けられている。

「内臓は食べないのですか?」
「駄目になるのが早いからな。大概捨てるのさ」
「それなら、もらって帰ります」
「あぁそうか、早めに食べろよ」
 俺はアンセルさんに礼を言い受付に向かった。


 すると受付にはアリッサさんが来ていた。
 ワイルドボアの解体に、2時間くらいかかったからな。
 出勤時間になるよね。

「おはようございます。エリアス君」
「おはようございます。アリッサさん」
 俺はそう言って解体場でもらった、ワイルドボアの肉220kgの買取証書を渡した。
「今日、持ち込んだのね」
「えぇ、そうです」
 アリッサさんは買取証書を見て、首を傾げる。
 
「ちょっと待っていてね」
 そう言うと解体場の方に向かって行った。
 そして、しばらくしてから戻って来た。
「はい、エリアス君、お待たせしました。ワイルドボアの肉はとても鮮度がので220kgで22万円の買取価格となります」
 買取は220kgで22万円かあ。
 100g、100円てところか。
 スーパー並なんだ。
 俺はそんなことを考えていた。


「ではワイルドボアを三等分しないと」
「いいのよ、エリアス君」
「でも3人で狩ったので…」
「私の分は本当に良いから。あの時、私は見ているだけだったし」
「良いんですか?」
「えぇ、それにこれから、お世話になることだし…」
 そう言ってアリッサさんは、恥ずかしそうに俯いた。

「エリアス君。ところで200kgの肉を、持ち帰ると聞いたけど本当?」
「えぇ、本当です」
「そんなに持ち帰ってどうするの?」
「もちろん食べるんです。今夜から家族が増えるので、その歓迎会をしようと思いまして」

 家族が増える?歓迎会??
 わ、私のこと?!

「エリアス君、もしかしたら私のこと?」
「もちろんです!!」

 まっ!きゃあ!!
 どうしよう?!

 アリッサさんは顔を赤くして、頬に両手を当てクネクネしている。
 クネクネ人形だ。

「アリッサ、さっきからなにクネクネしているのよ。気持ち悪いな」
 隣の受付のコルネールさんが、変な顔をしている。
 コルネールさんは20歳くらい。
 肩まである赤みがかった金色の髪をしている。

「な、何でもないわよ。今日は早く帰るわね」
「は、はい。お待ちしています」

「なあに?お待ちしています、て」
 コルネールさんが俺に聞いてくる。
 すると、しまった!と言う顔をアリッサさんがした。

「今夜、俺の家で歓迎パーティをするんです」
「誰の?」
「アリッサさんのです」
「どうして?」
「それは、これから一緒に…」
「駄目よ、エリアス!!」
 俺はオルガさんに横から、口を塞がれた。

 お、おかしい。
 コルネールさんの目を見た途端、逆らえなくなってしまった。
 まるで蛇に睨まれたカエルのように。
 そう言えばコルネールさんの瞳は、人にしては縦長に細かった。
 

「私もお邪魔しようかしら?その歓迎パーティ」
「えっ?!」
 アリッサさんが、驚いた顔をする。

「だってワイルドボアの肉200kgなんて、誰が食べきれるのかしら?」
 アリッサさんはしまった、という顔をした。
「えぇ、いいですよ。大勢の方が楽しいですから」
 俺は特に隠すことも無いので、コルネールさんも誘った。

「ありがとう、エリアス君。君はいい子ね、お姉さんは素直な子は大好物…」
「ウッ、ウ~ン!!」
 横からアリッサさんの、大きな咳払いによってその先は遮られた。

「今日はアリッサと終わる時間が、同じだから一緒にお邪魔するわね!!」
「はい!お待ちしております」
 コルネールさんはとても喜んでおり、アリッサさんは迷惑そうな顔をしている。
 仲が悪いのかな?

「そ、それなら私達もお邪魔して良いでしょうか?」
 声をした方を見るとパーティ『餓狼猫のミーニャ』のエメリナさんだった。
 まだいたんだ。

 俺はオルガさんを見た。
 すると肩をすぼめ、仕方がないだろ?という顔をした。



「分かりました。では夕方来てください」
「どこに行けば?」
「私が連れて行くわよ。夕方、冒険者ギルドに来て」
 アリッサさんが不貞腐れた顔をして言う。
「助かります、ありがとうございます」
 エメリナさんはアリッサさんにお礼を言った。

 エメリナさんが改めて紹介をしたいと言う。
 でもここにいると受付の邪魔になるから、俺達は飲食コーナーに移動した。
 受付横のフロアは、夜は酒場になっている。
 昼間はまだやっていないので、査定が終わるまでの休憩場代わりになっている。


「アリッサも大変ね?ライバル多そうで」
「なにを言っているのよコルネール。そんなんじゃないわ」
「なら、私もアタックする権利があると言う事ね」
「な、なにを言っているのよ?!」
「だって彼、美味しそうな魔力に溢れているのよ」

 そう言うとコルネールは、縦長の金色の目を更に細めた。
 なっ、なにが出ているのよ。
 幾ら人型だからと言っても私達は、亜種族であることを隠さないと駄目でしょう。
 そうしないと人の中では暮らしていけないのよ。



 エリアス君は、生活魔法は使えると聞いたわ。
 でも教わったことが無いから使い方が分からない、とオルガさんは言っていた。
 今度、早めに制御方法を教えてあげないと。
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