上 下
24 / 254
第2章 生活の基盤

第24話 家探し

しおりを挟む
 商業ギルドに『味元あじげん』を卸す交渉も無事に終わった。

「それから住居兼作業場がある、物件を探しているのですが」

「そうか担当を呼ぶから、少し待っていてくれないか」

 ギルドマスターのアレックさんはドアを開け誰かを呼びに行った。
 すると受付のノエルさんが資料片手に現れた。

「担当のノエルと申します。どういった物件をお探しでしょうか?」
 ノエルさんは藍色の長い髪の20歳くらいの人だ。

「はい、2階建てで1階は店舗と小さい作業場の部屋、2階は住居として使えることが希望です。場所は生活圏内に市場や商業ギルドがあると嬉しいです」

「そうですね。該当する物件は3件あります。内2件が賃貸。1件が売り物件です」

「3件しかないんですか?」

 ノエルさんに話を聞くと、街は城塞で囲まれている。
 だから土地が限られていて、空いている土地がそれほどないそうだ。
 そのため、土地はとても高額で伯爵クラスの貴族か、よほどの大商人でもない限り購入は難しいという。
 ほとんどの住人は集合住宅で、台所無しの狭い賃貸か宿屋で雑魚寝の生活だ。
 だから外食産業が多いそうだ。

 物件票を見ながらノエルさんと、回ってみることにした。

 最初は賃貸から見て回り、1件目は思った以上に広すぎてパス。
 2件目は逆に繁華街から離れている割には、狭く家賃が高かった。

 
 3件目の売り物件の票を見ると、『築40年』とあり金額も購入にしては安い。
 歩いているとここ数日、見慣れた道に出た。

「ここです!」

 ノエルさんに言われ見上げると『なごみ亭』の数十軒先の物件だった。
 繁華街からは、やや離れているが周りの環境は悪くない。

 しかしボロボロで建て直した方が良いくらいに古い。
 その代わり土地も広く、改装費は掛かるが購入金額が安い。

 売る側も建て替えて売ると、お金が掛かる。
 それなら現状で売って、購入した側で建て替えればいいという事らしい。
 売値は下がるが建て替えない分、財布は痛まない。

 改装するなら良い業者を紹介いたします、とノエルさんが言ってくる。
 最初から、それ狙いですね。
 買い手のつかない物件を紹介し、業者を紹介し手数料をもらう。

 ローン購入で売れた場合はギルドが売主に一括で支払い、ギルドが債権者となりギルドに毎月支払えばいいとのこと。
 ギルドは金利分、利息が取れるというわけだ。

 ただ返済能力が無いと貸し倒れになるので、審査があるみたいだ。
味元あじげん』販売をこなしていけば分割なら、それほど時間を掛けずに支払いできそうな金額だ。
 ギルドもそれがあるから、俺に物件を案内できるらしい。

 それに元々、借り手がつかないような物件しか、紹介していない様な気がする。
 相手を見て紹介物件を変えているとしか思えない。
 そうだよな、俺みたいな一介のDランク冒険者が相手にしてもらえるだけマシだ。

 念のため、支払できなくなった場合のことを聞くと『奴隷落ち』だって。
 やはり異世界、奴隷も定番であるのか。

 
 しかし購入するだけならいいが、建て替え費用が支払えるか心配だ。
 家を買ったはいいが、ローン返済のために働くのは嫌だからだ。

 そうだ。
「ノエルさん、木材は手に入りますか?」
「木材ですか?どうされるのでしょうか」
「自分で改築しよう思いまして」
「ご自身でですか!?」
「えぇ、そうです」
 ノエルさんが、驚いた顔をしている。

「木工ギルドで購入できると思います」
「それと森の木を勝手に伐採したら、駄目なのでしょうか?」
「それは可能です。基本どの領地も城壁の中が領地ですから」
「そうなんですか」
「えぇ、国の庇護が不要なら、空いている場所を開拓し村を作ることも可能なのです。山1つ伐採とかしない限り、騒がれることはありません。まぁ、そんなことは実際にはできませんが」
「では、ここを買います」
「えっ、ここにするのエリアス君?」
 驚いて後ろを振り向くとオルガさんが居た。
 さすが虎猫族。
 静かに忍び寄れるのか?

「オルガさん、どうしたのですか?」
「え、ずっと一緒にいたわよ」
「………………………。」
「こんな古い家、買ってどうするの。とてもじゃないけど住めないわよ」
「大丈夫です。俺が何とかしますから」
「そうなんだ。じゃあ、私は何も言わないわ」

「ノエルさん、ここにします。改築は自分でやるので現状のままで構いません」
「本当に宜しいんでしょうか?業者の手配はいつでも出来ますから言ってください」

 俺達は商業ギルドに戻り、購入の手続きをした。
 もちろん分割だけどね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【清】ご都合主義で生きてます。-空間を切り取り、思ったものを創り出す。これで異世界は楽勝です-

ジェルミ
ファンタジー
社畜の村野玲奈(むらの れな)は23歳で過労死をした。 第二の人生を女神代行に誘われ異世界に転移する。 スキルは剣豪、大魔導士を提案されるが、転移してみないと役に立つのか分からない。 迷っていると想像したことを実現できる『創生魔法』を提案される。 空間を切り取り収納できる『空間魔法』。 思ったものを創り出すことができ『創生魔法』。 少女は冒険者として覇道を歩むのか、それとも魔道具師としてひっそり生きるのか? 『創生魔法』で便利な物を創り富を得ていく少女の物語。 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※カクヨム様にも掲載中です。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

【心】ご都合主義で生きてます。-商品開発は任せてください。現代知識を使い時代を駆け上る。-

ジェルミ
ファンタジー
現代知識を使いどこまで飛躍できるのか。少年は時代を駆け上る。 25歳でこの世を去った男は、異世界の女神に誘われ転生を選ぶ。 男が望んだ能力は剣や魔法ではなく現代知識だった。 商会を駆使し現代知識を開花させ時代を駆け上る。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...