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幼馴染と婚約者
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僕の名前はドッチィ・ツカァズ。ツカァズ侯爵家の次男だ。
婚約者もいる。コリンヌ・ステラ伯爵令嬢。勉強もマナーも僕より出来て、色んな場面で機転が利く。
……そこは認めるしかないけど、ちょっと僕に対して気遣いが足りないんじゃない?
目上の侯爵子息の僕に対して常に上から目線でここがいけない、ここはこうしてみてはとか言ってくる。その態度にどうしようもなくイラつく。
それをフォローするのが、伴侶になる君の役割だろう?
格下の伯爵家のくせに僕に指図するの?
そう面と向かって言ってやっても表情を変えず、ただ『……ドッチィ様のお為になるのです』なぁんて言う。何が僕の為? ワケ分かんないし。
そもそもこの婚約は、両親が勝手に決めたものだ。
突然降ってわいたような話に、僕は当然不満だった。他の公爵家にも年頃の令嬢がいるのにどうして? って訊いても、答えは家の為だの一点張り。
僕が次男だから、かな? 確かに僕は頼りない。そこは認めるけど…勝手に結婚相手を決めるのはひどくない? ましてや相手は伯爵家だよ格下だ。
そんな感じで落ち込む僕を理解してくれるのは1人だけ。
その子の名は、ミガッティ・ショーワール。
幼馴染の子爵令嬢だ。控えめに言って滅茶苦茶可愛い。腰までのふわふわしたピンクブロンドの髪に抜けるような白い肌。長いまつ毛に縁どられたパッチリとした緑色の瞳。小さな花にサクランボみたいな唇。
あえて欠点を上げるとしたらそのプロポーション。年の割に背が低くて華奢だ。でもそれすら彼女の魅力を際立たせる。
可哀そうな話、ミガは……病弱なんだ。ちょっと目を離せばすぐに熱を出したり倒れたりする。
そんな時当然、優しい僕は何をおいても駆けつけるんだ。苦しそうな彼女に少しでも寄り添う為に。熱で浮かされて苦しそうな中でも僕に、“嬉しい…きてくれたのね”と笑顔を浮かべる健気さに報いるために。
そう。……ずっと前からのコリンヌとの約束を破る事だって。
『またショーワール嬢ですか? 前のお出かけの時もそうだったではないですか』
『仕方ないだろう? ミガは病弱なんだ』
『ドッチィ様、あの方のお体を診察してもらえませんか? 我が家と懇意にしている優秀な医者がいるので』
『それは前に断っただろう? ミガが“知らない人に診てもらうのは嫌だ”って言ったって。君には弱い彼女を労わろうって気持ちはないの? 前から思ってたけど無神経なんじゃない?』
『…………っ!』
僕の言葉にコリンヌは言い返すことなく弱弱しく引き下がる。
これが正しいからだ。
そう僕は頭の中で決着をつけ、ミガの元へと足を速める。
だってミガはコリンヌと違って弱くて儚い。だから僕が守ってあげないといけない。弱者を守るのは当たり前の事だから。
だから僕は悪くない。非難される行いなんてしていないと堂々と言える。
でも……実は言えない思いもある。それは――。
コリンヌが、一瞬悲しそうにするのが愉しいんだ。
いつだって僕の前を進んでいる生意気な婚約者。
観劇の席で、夜会の場で彼女を放ってミガに寄り添う時。後ろで空虚な目をして見つめているのが分かると、暗い喜びがこみ上げてくる。僕の方が優位なんだって。
いつも公明正大、って感じの彼女がどんどん弱っていく。
その様を垣間見ながらミガの肩を引き寄せ、その可愛い耳に小さく囁く。するとミガはポッと顔を赤らめ“もー! ドッチィたら!”と笑顔で僕の胸をたたく真似をする。
僕を立てない婚約者(おんな)が弱って、僕の大切な幼馴染が腕の中で笑う光景。
なんて楽しいんだろう。こんな全能感はきっと僕だけしか得られない。
婚約者もいる。コリンヌ・ステラ伯爵令嬢。勉強もマナーも僕より出来て、色んな場面で機転が利く。
……そこは認めるしかないけど、ちょっと僕に対して気遣いが足りないんじゃない?
目上の侯爵子息の僕に対して常に上から目線でここがいけない、ここはこうしてみてはとか言ってくる。その態度にどうしようもなくイラつく。
それをフォローするのが、伴侶になる君の役割だろう?
格下の伯爵家のくせに僕に指図するの?
そう面と向かって言ってやっても表情を変えず、ただ『……ドッチィ様のお為になるのです』なぁんて言う。何が僕の為? ワケ分かんないし。
そもそもこの婚約は、両親が勝手に決めたものだ。
突然降ってわいたような話に、僕は当然不満だった。他の公爵家にも年頃の令嬢がいるのにどうして? って訊いても、答えは家の為だの一点張り。
僕が次男だから、かな? 確かに僕は頼りない。そこは認めるけど…勝手に結婚相手を決めるのはひどくない? ましてや相手は伯爵家だよ格下だ。
そんな感じで落ち込む僕を理解してくれるのは1人だけ。
その子の名は、ミガッティ・ショーワール。
幼馴染の子爵令嬢だ。控えめに言って滅茶苦茶可愛い。腰までのふわふわしたピンクブロンドの髪に抜けるような白い肌。長いまつ毛に縁どられたパッチリとした緑色の瞳。小さな花にサクランボみたいな唇。
あえて欠点を上げるとしたらそのプロポーション。年の割に背が低くて華奢だ。でもそれすら彼女の魅力を際立たせる。
可哀そうな話、ミガは……病弱なんだ。ちょっと目を離せばすぐに熱を出したり倒れたりする。
そんな時当然、優しい僕は何をおいても駆けつけるんだ。苦しそうな彼女に少しでも寄り添う為に。熱で浮かされて苦しそうな中でも僕に、“嬉しい…きてくれたのね”と笑顔を浮かべる健気さに報いるために。
そう。……ずっと前からのコリンヌとの約束を破る事だって。
『またショーワール嬢ですか? 前のお出かけの時もそうだったではないですか』
『仕方ないだろう? ミガは病弱なんだ』
『ドッチィ様、あの方のお体を診察してもらえませんか? 我が家と懇意にしている優秀な医者がいるので』
『それは前に断っただろう? ミガが“知らない人に診てもらうのは嫌だ”って言ったって。君には弱い彼女を労わろうって気持ちはないの? 前から思ってたけど無神経なんじゃない?』
『…………っ!』
僕の言葉にコリンヌは言い返すことなく弱弱しく引き下がる。
これが正しいからだ。
そう僕は頭の中で決着をつけ、ミガの元へと足を速める。
だってミガはコリンヌと違って弱くて儚い。だから僕が守ってあげないといけない。弱者を守るのは当たり前の事だから。
だから僕は悪くない。非難される行いなんてしていないと堂々と言える。
でも……実は言えない思いもある。それは――。
コリンヌが、一瞬悲しそうにするのが愉しいんだ。
いつだって僕の前を進んでいる生意気な婚約者。
観劇の席で、夜会の場で彼女を放ってミガに寄り添う時。後ろで空虚な目をして見つめているのが分かると、暗い喜びがこみ上げてくる。僕の方が優位なんだって。
いつも公明正大、って感じの彼女がどんどん弱っていく。
その様を垣間見ながらミガの肩を引き寄せ、その可愛い耳に小さく囁く。するとミガはポッと顔を赤らめ“もー! ドッチィたら!”と笑顔で僕の胸をたたく真似をする。
僕を立てない婚約者(おんな)が弱って、僕の大切な幼馴染が腕の中で笑う光景。
なんて楽しいんだろう。こんな全能感はきっと僕だけしか得られない。
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