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ゲームイベント2 ~男爵令嬢アイリス・ケーチャー~
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ドキドキとワクワクが止まらない。
来ました来ました♪ 待ちに待ったこの日が……!
彼はシド。『キュンロワ』の攻略対象者だ。
名うての冒険者、って事になっているけどもう一つの顔がある。
その正体は国王陛下の3番目の弟で隠しキャラ。市井に落ちるも裏で諜報員として働いている、って設定なの!
最初は『ここはあんたのようなお嬢さんの来る処じゃない』ってしか言わないけど、親しくなるとドンドンセリフが変わる。
ちょーっと恐い思いして、夜の町に出た甲斐があったというもんだわ。え? 何でそんな危険な事をするのか?
――実は……他のキャラの好感度が、最近上がんないのよねぇ……?
王子もずんずん上がっていたのが、最近急によそよそしくなった。
悪役令嬢がなーんかチヨチヨ、ってやたらモブ強火になっちゃって、わたくしはおろか王子にまで見向きしなくなったのよ。前はくどくどお小言言いに来たのにさ。
何て言うか……悪役っぽさはゲーム並みに増したのにベクトルが斜め下。
わたくしと殿下が目の前でいちゃついていても全く気にもしない。
気にもしないどころかどんどん関心が減っていって、今じゃ完全に無関心だ。
今日だって――。
放課後、学園のカフェで王子と2人でお茶をしていた。
このカフェは基本、生徒なら誰でも利用出来るけどそこは身分制度がある時代らしく“特別席”が存在する。そう、今私と王子がいてるのがそこ。本当なら男爵令嬢程度がいられる場所じゃないけど、わたくしは王子のお気に入りなんだもの。ふふっ、周りからの羨望の視線が痛気持ちいい。
「うふふ、今日も王子様とご一緒出来て嬉しいですぅ♪」
「ふっ、俺も……いや、何でもない」
無邪気にはしゃぐわたくしに、王子は緩みそうな表情を慌てて引き締め、何も無い風を装う。でもその横顔は耳まで真っ赤だ。
でも、分かっているわ。“俺も”の後は……“俺もお前と一緒で嬉しい”って言いたいのね? 分かっているわ。だってツンデレキャラなんだもの!
そんな風に会話を楽しんでいたら、
「アンナマリー様、今日は何か良いことでもおありですか?」
「分かる? ふふっ、チヨちゃんからお手紙の返事をもらったの」
はしゃいだ声が近付いて来たと思ったら、悪役令嬢と取り巻き。いつも3馬鹿、って感じなのに今日は1人いない何故? って思ってたら向こうから挨拶してきた。。
「これは殿下、そしてケーチャー嬢。ごきげんよう」
「あ、ああ……」
「ご……ごきげんよう?」
ほんの前までは顔をしかめていたのに、打って変わってにこやかだ。そんな彼女の変化について行けず、王子も私もぎこちない返事をしてしまう。そこに、
「アンナ様ー、テーブル取りましたよー」
取り巻きその2がこっちに手を振っている。
席取りでいなかったのか。公爵令嬢なんだから命じたら席なんて店員が用意するのに。
「ありがとう。……お邪魔してしまい申し訳ございません。では失礼いたします」
ぺこりとお辞儀をして、もう終わったとばかりに去って行った。
「王子様、さっきの続きですけどぉ」
「…………何だあいつ」
「え?」
さっきと王子の様子が違う。何かイライラしているような……?
「私が他の女といるというのに何とも思わないのか?」
「お、王子様……?」
強い怒りの浮かんだ目で、遠くのテーブルで笑っている悪役令嬢を見ている。
――さっきの挨拶で、怒るような要素ってあったっけ?
「……アイリス」
「お前の義妹という娘だ。名前は………チヨ……だったか」
「?はい」
「どんな子供だ? 聞けば慈善で引き取ったそうだが……」
「ええ……パパ、ううん父が拾った子ですぅ。何か森の中をウロウロしてたって」
「はっ!」
答えた途端に、王子は吐き捨てるように嘲笑う。そして勝ち誇るように続けて言った。
「何だそれ! つまり素性の分からぬ野良か、逃げた奴隷か? ……つまり捨て犬に情けをかけてやってる……という処だな? その小娘もきっと、アンナが公爵令嬢なのを当てにして媚を売ってるんだろうに、気付かないとは愚かな!!」
……何優越に浸ってんのよ。
自分の婚約者とモブをこき下ろし、嘲笑に歪んだ顔を見ていると、訳が分からずムカムカしてきた。
……王子って、こんなキャラだったっけ?
このむかつきの原因は、わたくしが前世でいた国で、身分がなかったからだと思う。
でもここって、“キュンロワ”の世界だよ? ユーザーを不快にさせるセリフを、なんで攻略対象が言っちゃうの?
……いくら俺様キャラでも、相手は子供じゃん?
子供が好きな人って、結構いるよ? でもそれって媚とかじゃなくて普通に可愛いもんを可愛いってだけ。……あのモブは可愛くないけどさ。
……みっともない。
わたくしの中で、王子への気持が醒めていった。
お金持ちのボンボンより、やっぱり自立した大人よね!!
と考えを改めて、わたくしはターゲットを変えることにした。
で、ちょっと危ないかなと思ったけど、夕方にとある酒場に踏み入れる。
――いた!
「お嬢さん、どこから来たんだ?
「ここはあんたのような奴の来るとこじゃねぇ、早く帰んな」
きゃあああ!! ゲーム通りのセリフだー!
頭の中で盛大な祭りが起きている。そうよ、これよこれ!
そしてわたくしは、酒場に通うようになった。
相変わらずシドは素っ気なかったけどわたくしはヒロイン。きっと心に深く印象づけられている筈と自分に言い聞かせて、彼の好みの色の服やアクセサリーを身につけて、夕方を待っては酒場に行った。
そして今日。1人でいたわたくしに数人のチンピラが近付いてくる。嘗め回すような気持ち悪い視線で見てきた後、中の1人が声をかけてきた。
「よぉ姉ちゃん、可愛い顔してんじゃねぇか」
来ました来ました♪ 待ちに待ったこの日が……!
彼はシド。『キュンロワ』の攻略対象者だ。
名うての冒険者、って事になっているけどもう一つの顔がある。
その正体は国王陛下の3番目の弟で隠しキャラ。市井に落ちるも裏で諜報員として働いている、って設定なの!
最初は『ここはあんたのようなお嬢さんの来る処じゃない』ってしか言わないけど、親しくなるとドンドンセリフが変わる。
ちょーっと恐い思いして、夜の町に出た甲斐があったというもんだわ。え? 何でそんな危険な事をするのか?
――実は……他のキャラの好感度が、最近上がんないのよねぇ……?
王子もずんずん上がっていたのが、最近急によそよそしくなった。
悪役令嬢がなーんかチヨチヨ、ってやたらモブ強火になっちゃって、わたくしはおろか王子にまで見向きしなくなったのよ。前はくどくどお小言言いに来たのにさ。
何て言うか……悪役っぽさはゲーム並みに増したのにベクトルが斜め下。
わたくしと殿下が目の前でいちゃついていても全く気にもしない。
気にもしないどころかどんどん関心が減っていって、今じゃ完全に無関心だ。
今日だって――。
放課後、学園のカフェで王子と2人でお茶をしていた。
このカフェは基本、生徒なら誰でも利用出来るけどそこは身分制度がある時代らしく“特別席”が存在する。そう、今私と王子がいてるのがそこ。本当なら男爵令嬢程度がいられる場所じゃないけど、わたくしは王子のお気に入りなんだもの。ふふっ、周りからの羨望の視線が痛気持ちいい。
「うふふ、今日も王子様とご一緒出来て嬉しいですぅ♪」
「ふっ、俺も……いや、何でもない」
無邪気にはしゃぐわたくしに、王子は緩みそうな表情を慌てて引き締め、何も無い風を装う。でもその横顔は耳まで真っ赤だ。
でも、分かっているわ。“俺も”の後は……“俺もお前と一緒で嬉しい”って言いたいのね? 分かっているわ。だってツンデレキャラなんだもの!
そんな風に会話を楽しんでいたら、
「アンナマリー様、今日は何か良いことでもおありですか?」
「分かる? ふふっ、チヨちゃんからお手紙の返事をもらったの」
はしゃいだ声が近付いて来たと思ったら、悪役令嬢と取り巻き。いつも3馬鹿、って感じなのに今日は1人いない何故? って思ってたら向こうから挨拶してきた。。
「これは殿下、そしてケーチャー嬢。ごきげんよう」
「あ、ああ……」
「ご……ごきげんよう?」
ほんの前までは顔をしかめていたのに、打って変わってにこやかだ。そんな彼女の変化について行けず、王子も私もぎこちない返事をしてしまう。そこに、
「アンナ様ー、テーブル取りましたよー」
取り巻きその2がこっちに手を振っている。
席取りでいなかったのか。公爵令嬢なんだから命じたら席なんて店員が用意するのに。
「ありがとう。……お邪魔してしまい申し訳ございません。では失礼いたします」
ぺこりとお辞儀をして、もう終わったとばかりに去って行った。
「王子様、さっきの続きですけどぉ」
「…………何だあいつ」
「え?」
さっきと王子の様子が違う。何かイライラしているような……?
「私が他の女といるというのに何とも思わないのか?」
「お、王子様……?」
強い怒りの浮かんだ目で、遠くのテーブルで笑っている悪役令嬢を見ている。
――さっきの挨拶で、怒るような要素ってあったっけ?
「……アイリス」
「お前の義妹という娘だ。名前は………チヨ……だったか」
「?はい」
「どんな子供だ? 聞けば慈善で引き取ったそうだが……」
「ええ……パパ、ううん父が拾った子ですぅ。何か森の中をウロウロしてたって」
「はっ!」
答えた途端に、王子は吐き捨てるように嘲笑う。そして勝ち誇るように続けて言った。
「何だそれ! つまり素性の分からぬ野良か、逃げた奴隷か? ……つまり捨て犬に情けをかけてやってる……という処だな? その小娘もきっと、アンナが公爵令嬢なのを当てにして媚を売ってるんだろうに、気付かないとは愚かな!!」
……何優越に浸ってんのよ。
自分の婚約者とモブをこき下ろし、嘲笑に歪んだ顔を見ていると、訳が分からずムカムカしてきた。
……王子って、こんなキャラだったっけ?
このむかつきの原因は、わたくしが前世でいた国で、身分がなかったからだと思う。
でもここって、“キュンロワ”の世界だよ? ユーザーを不快にさせるセリフを、なんで攻略対象が言っちゃうの?
……いくら俺様キャラでも、相手は子供じゃん?
子供が好きな人って、結構いるよ? でもそれって媚とかじゃなくて普通に可愛いもんを可愛いってだけ。……あのモブは可愛くないけどさ。
……みっともない。
わたくしの中で、王子への気持が醒めていった。
お金持ちのボンボンより、やっぱり自立した大人よね!!
と考えを改めて、わたくしはターゲットを変えることにした。
で、ちょっと危ないかなと思ったけど、夕方にとある酒場に踏み入れる。
――いた!
「お嬢さん、どこから来たんだ?
「ここはあんたのような奴の来るとこじゃねぇ、早く帰んな」
きゃあああ!! ゲーム通りのセリフだー!
頭の中で盛大な祭りが起きている。そうよ、これよこれ!
そしてわたくしは、酒場に通うようになった。
相変わらずシドは素っ気なかったけどわたくしはヒロイン。きっと心に深く印象づけられている筈と自分に言い聞かせて、彼の好みの色の服やアクセサリーを身につけて、夕方を待っては酒場に行った。
そして今日。1人でいたわたくしに数人のチンピラが近付いてくる。嘗め回すような気持ち悪い視線で見てきた後、中の1人が声をかけてきた。
「よぉ姉ちゃん、可愛い顔してんじゃねぇか」
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