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お姉様と旦那様

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 「……義妹?」
義理の妹、ってことだろうか?
「ええ。公爵家の養女になる気は無くて? 優秀な子を引き取るのは貴族にはある事だから」
 確かに聞いたことはある。
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「そんな……」
ご冗談ですよね? と思ったけど、アンナマリー嬢の笑顔から裏は感じない。
ならば……私の答えは決まっている。私はソファから飛び降りて、皆さんから一歩離れた処で向かい合った。
「それは出来ません、アンナマリーお嬢様」
「……どうして?」
少し見開かれた睫の長い青い瞳から目を外さず、言葉を繋ぐ。

「私の望みは旦那様のお側にいて、あのお方を傷付けるものからお守りしていく事だからです。――今もこれからも、ずっと」

 勿論、お義父さんの借金がとか戸籍は? とか色々現実的な事情もある。
けれど、私の本心はそれだ。
「チ、チヨちゃん、こんな良いお話滅多に無いんだから……!」
「良いのよ、パンジー様」
パンジー嬢を、アンナマリー嬢が苦笑しながら止める。
「分かったわ。チヨちゃんがそこまで決意しているなら諦めましょう」
「お気持を無下にしてしまい、誠に申し訳ございません」
深々と頭を下げる。
「良いのよ。その代りお友達にはなってくれる?」
お、お友達?
「も、もったいないお言葉ですっ、カトレア嬢!」
「……チヨちゃんは賢い子のはずよね?」
ニコニコ、と笑顔と優しい声なのに、見えない圧を感じた。
「ア……アンナお姉、様?」
「うふふ……よろしい」
お姉様と言った私に、お嬢……アンナお姉様は満足そうに微笑む。
……少しだけ良心が痛んだ。けどどう考えても私にご令嬢なんて務まりそうに無いからこれで良い。私は旦那様をお守りして行くのだから。
 それからアレコレ話していたら、キイ、と音が鳴って扉が開き、旦那様が入ってきた。私はご令嬢達に挨拶をして、旦那様に駆け寄る。
「旦那様、ご用件はお済みですか」
「…………」
「旦那様?」
 旦那様のお顔は扉を開けた時と同じくにこやかだ。きっと何か良いことがあったんだろう。けど……そのままジーッと動かないで、私に視線を固定しているのはどういう意味で?
「えーと……チヨ、一体どういうことなのかな?」
……あれ? 旦那様、なぜか怒ってる……?
「……うちの侍女はいつの間に、ハーレムを作っているのかな?」
「はぁれむ……」
どこが……? と先程までの状況を思い返す。
えーと、ふかふかの長椅子の両脇と斜めにご令嬢がいて……。つまり、私は、年頃のお嬢様に囲まれていた?? それが……ハーレムだと?
「ちっ、違いますよ!」
それ、普通にお嬢様方に失礼でしょう? というか女の、しかも子供の私で、どうやったらそんな発想が?

 焦っていると、
「「「クラウディア公爵様にご挨拶を申し上げます」」」
ご令嬢達が揃ってスカートを摘まみ、淑女の礼をした。
カーテシ―って言うんだっけ。お義姉さんがしているのを何度か見たことがある。けどお義姉さんと違うのは、不安定な体勢なのに一糸も乱れていない事。優雅さえ漂って、ここだけ舞踏会の会場みたいだ。
「これはカトレア嬢。このようなむさ苦しい場所においでとは、お父上はご存じなのかな? 確か冒険者嫌いらしいが」
 ……旦那様、どうしてそんな“うちの侍女に何しようとしてやがった”みたいな副音声の聞こえるお声なのでしょう? と思ってから、ある事実に行き渡る。
 ……カトレア公は冒険者に偏見を持っているからか。
だから私が嫌な思いをしているんじゃ無いかと気遣って下さったのか。でも旦那様、それは杞憂ですよ?
と私が止めようとする前に、アンナお姉様がにこやかに答える。
「おほほ……。父もあれ以来、少しは考えを変えましたのよ? それよりわたくし、今チヨちゃんのお姉様にしてもらいましたの」
「お姉様ぁ?」
旦那様の顔が嫌そうに歪む。何言ってんだ理解出来ない、って感じだ。
 でもアンナお姉様は怯む様子も無く、むしろ楽しげに腰に手をあて、反対の手に持った扇で口元を隠す。
「ふふっ、本当は義妹になってもらおうと思いましたけど、それは断られてしまいましたわ。でもわたくし達仲良くなれると思いますのよ、なにしろ女同士! ですしっ」
あ、あれ? ……アンナお姉様のキャラが違う……?
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