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雨宿り~5~

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 淡々と語られる話に、私は言葉が出なかった。
私を見る青い瞳。この方も私のように……温もりを知らない時があったのか。冷たさしか知らない分からない、凍てついたままでいるしかない。そう自分に言い聞かせるしか無い時期が。
――どれほど辛かったろう。そんなの、私だけでいいのに。
「う……っ」
ポタポタと、目から涙がこぼれる。
「――何故、泣くの?」
「私にも、わかりません……っ」
それは本当だ。勝手に目から溢れてくる。
 ――この方に会ってから、私はよく泣いている。でもこれは、『普通の子』と言って頂いた時とは、また違う涙だ。
 自分に何が起きたわけでも無い。どこからくるのか分からない感情に揺さぶられ続けている。
――ああ、私は……この方の痛みを今、感じているのか。
「チヨ?」
戸惑った声に思考が現実に戻る。と、自分の自由な方の腕が、旦那様のお顔に伸ばされて……?
 え、私今、何しようと……?
「!!」
 慌てて手を引っ込めた。私は、何てことを……。
私が、使用人で子供の私のくせに、旦那様に自分から触れようとしてた?
「わ、わ、わたしは」
動揺のあまり、言葉が形になってくれないという初体験が、更に内心の動揺を煽る。

 
 わたわたしていると、
「……ぷっ」
吹き出すような声がきこえたと思ったら、旦那様が私から顔を背け、口元を押さえている。
「お前がそんな顔をするなんて……っ」
肩が小刻みに震えている。
……笑われてますね、私。まぁ真剣にしている行動こそ、他人にはおかしく見えるって聞いた事ありますから、それが自然かもですね。……でも……。
「…………旦那様……」
あれ? 私の声低音過ぎる? 
「ああ……すまない」
不意に旦那様が、背けていた顔を私の方に向けた。
きっとからかおうとしてるんだ――と思っていたらやや違った。笑顔ではあったけど、そこに別の感情が読める。言葉で表すならこう言っただろう。
――“多幸感”
「…慰めようとしてくれたんだろう?
……でもね、気にする必要は無い。確かに昔は悲惨だったけど、それも含めて今の私なのだから。
それにここに来たから、お前にも出会えたのだし」
「――私に?」
“ヒロイン”の義姉ではない“モブ”の私が?
どこか納得出来ない私に、旦那様は更に言葉を重ねる。
「うん。これからはずっと一緒だよ。最強の魔術師に魅入られたのだから覚悟しなさい。重過ぎて嫌になっても、後の祭りだからね」
 なかなかに恐いセリフの後、満足そうな笑顔で再び、腕の中にギュッとされた。
その腕の温もりを感じながら、私は決意する。

――ずっと……この方の、お側にいよう。
私を『普通の子』と言って下さった。私と出会った事を悪くないと言ってくれた。
私と似たような傷を心に持つこの方を、一生かけてお守りしよう。

だから……もしかすると私の方が、“重い”かも知れませんよ、旦那様?

 旦那様の肩越しに、窓の外を見たら雨は止んでいた。
この小屋でいる理由がなくなった。だから早く帰りましょう? と……告げなくてはいけない。
でも少しだけ、それを惜しいと思っている私だった。
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