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真相⑥
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「セ、セレナ……なのか?」
初めて見た王太子に、マリアンヌが下した評価は――“見た目は良い”だった。
肌は綺麗で顔立ちも良い、体型も痩せ型で見苦しさがない。上質といえば上質だ。
が……あくまでマリアンヌ自身の感想はこれだ。
――骨が無い。
自分を一目見てからずっと青い顔をしている男からは信念のようなものが見つからない。どうやら真実の愛というものは、感染されたら骨がやられるらしい。
シダー男爵領の資源は豊かだ。それもこれも祖先や今までの領主が、現状に甘えず積み重ねてきた努力の結果だ。しかしそれを脅かし、食い物にしようとする輩はいる。それらから民を守る為にと、マリアンヌは両親や周りの大人達から色々教え込まれてきた。人を見抜け、見かけや言葉に騙されるな、と。
そんな彼女が下した評価がそれだった。間違っていたとは思わないし、間違っていなかった。
肥満を強調するように、体を縦にして応接間に入る。いや実際そうでないと入れなかった。今日の日の為に用意した“肥満を強調するドレス”のせいで。
公爵家御用達の仕立屋が、今回の作戦用に考案した特別製。小太りなマリアンヌを更に膨張するべく作られた特別製だ。あまり目立たないところに空気穴がある。
“こうやって空気を入れるんです。ただし入れ過ぎはいけません、破裂してしまいます”
仕立屋に感謝だ。効果は抜群だ。
王太子の、真っ青に引きつった顔が、証明してくれている。
マリアンヌは王太子に秒で近付くと、
「お待ちしておりました、殿下!」
力いっぱい、抱きしめてやった。
「ぐぇぇ……」
抱きついた腕に力を込めると、悲痛なうめき声が聞こえてくる。
ふふふ、この瞬間の為に訓練したのよこの、P(ポエマー)M(迷惑)O(王太子)!
「ほ、骨が、息が……!」
へえ、骨あるんだ。
「ああ……セレナ、良かったな父も嬉しいぞ」
「セレナ……何て幸せそうに……」
いつの間にか公爵夫人まで来て、一緒に演技してくれている。晴れやかな笑顔ですね。王太子が苦悶しながら睨んでいるのに、一向に気にしていない。
「だ……だ、ず、げ……!!」
王太子サマが、苦しい息で助けを求めている。
……何か物足りないけど、公爵達がアイコンタクトで“一旦引け”と示しているから仕方なく拘束を解いた。
自由になった王太子サマが、ふーっ、って呼吸を整えて言ったのはこれだ。
「ち、違う! お前はセレナじゃない!! セレナはこんなのではない」
え、バレた?
「何を仰られます殿下」
ビビったマリアンヌをフォローするように、公爵が断言する。
「この子は紛れもなく我が愛娘であり、貴方様の愛を受けているセレナです。……ちょっと変りましたが」
公爵夫人も一緒に言う。
「ええ、この子は私がお腹を痛めて産んだ娘のセレナですわ。……ちょっと変りましたが」
「ちょっとどころじゃない!!」
変わるにも程がある!! と顔にデカデカと書いている王太子に公爵は断言する。
「全ては殿下への愛、故ですよ」
王太子がピタ、と口を閉じた。
「悲しみから心を閉ざした娘は、その空になった心を埋めるように、ひたすら過食を繰返しました。結果今のように……」
「寂しかったのですわ、殿下……!」
か細い声で言い、再度ギュ~ッと絞めていくマリアンヌ。
公爵夫人は、マリアンヌが見たこともないような零度の微笑みを王太子に向ける。
「真実の愛などとロマンチストな殿下は勿論、娘が変わった程度で心変わりなどされませんわね? さ、あなた♪後は若い2人だけで」
「お……っそうだな。殿下、気が効かず申し訳ありません。ではごゆっくり」
夫妻は同時に立ち上がり、そそくさと部屋を出て行く。出て行く間際、マリアンヌにアイコンタクトをする。
――うまくヤるのよ?
マリアンヌは殿下の背後で頷いた。
――はい!!
「待て――!!」
初めて見た王太子に、マリアンヌが下した評価は――“見た目は良い”だった。
肌は綺麗で顔立ちも良い、体型も痩せ型で見苦しさがない。上質といえば上質だ。
が……あくまでマリアンヌ自身の感想はこれだ。
――骨が無い。
自分を一目見てからずっと青い顔をしている男からは信念のようなものが見つからない。どうやら真実の愛というものは、感染されたら骨がやられるらしい。
シダー男爵領の資源は豊かだ。それもこれも祖先や今までの領主が、現状に甘えず積み重ねてきた努力の結果だ。しかしそれを脅かし、食い物にしようとする輩はいる。それらから民を守る為にと、マリアンヌは両親や周りの大人達から色々教え込まれてきた。人を見抜け、見かけや言葉に騙されるな、と。
そんな彼女が下した評価がそれだった。間違っていたとは思わないし、間違っていなかった。
肥満を強調するように、体を縦にして応接間に入る。いや実際そうでないと入れなかった。今日の日の為に用意した“肥満を強調するドレス”のせいで。
公爵家御用達の仕立屋が、今回の作戦用に考案した特別製。小太りなマリアンヌを更に膨張するべく作られた特別製だ。あまり目立たないところに空気穴がある。
“こうやって空気を入れるんです。ただし入れ過ぎはいけません、破裂してしまいます”
仕立屋に感謝だ。効果は抜群だ。
王太子の、真っ青に引きつった顔が、証明してくれている。
マリアンヌは王太子に秒で近付くと、
「お待ちしておりました、殿下!」
力いっぱい、抱きしめてやった。
「ぐぇぇ……」
抱きついた腕に力を込めると、悲痛なうめき声が聞こえてくる。
ふふふ、この瞬間の為に訓練したのよこの、P(ポエマー)M(迷惑)O(王太子)!
「ほ、骨が、息が……!」
へえ、骨あるんだ。
「ああ……セレナ、良かったな父も嬉しいぞ」
「セレナ……何て幸せそうに……」
いつの間にか公爵夫人まで来て、一緒に演技してくれている。晴れやかな笑顔ですね。王太子が苦悶しながら睨んでいるのに、一向に気にしていない。
「だ……だ、ず、げ……!!」
王太子サマが、苦しい息で助けを求めている。
……何か物足りないけど、公爵達がアイコンタクトで“一旦引け”と示しているから仕方なく拘束を解いた。
自由になった王太子サマが、ふーっ、って呼吸を整えて言ったのはこれだ。
「ち、違う! お前はセレナじゃない!! セレナはこんなのではない」
え、バレた?
「何を仰られます殿下」
ビビったマリアンヌをフォローするように、公爵が断言する。
「この子は紛れもなく我が愛娘であり、貴方様の愛を受けているセレナです。……ちょっと変りましたが」
公爵夫人も一緒に言う。
「ええ、この子は私がお腹を痛めて産んだ娘のセレナですわ。……ちょっと変りましたが」
「ちょっとどころじゃない!!」
変わるにも程がある!! と顔にデカデカと書いている王太子に公爵は断言する。
「全ては殿下への愛、故ですよ」
王太子がピタ、と口を閉じた。
「悲しみから心を閉ざした娘は、その空になった心を埋めるように、ひたすら過食を繰返しました。結果今のように……」
「寂しかったのですわ、殿下……!」
か細い声で言い、再度ギュ~ッと絞めていくマリアンヌ。
公爵夫人は、マリアンヌが見たこともないような零度の微笑みを王太子に向ける。
「真実の愛などとロマンチストな殿下は勿論、娘が変わった程度で心変わりなどされませんわね? さ、あなた♪後は若い2人だけで」
「お……っそうだな。殿下、気が効かず申し訳ありません。ではごゆっくり」
夫妻は同時に立ち上がり、そそくさと部屋を出て行く。出て行く間際、マリアンヌにアイコンタクトをする。
――うまくヤるのよ?
マリアンヌは殿下の背後で頷いた。
――はい!!
「待て――!!」
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