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プロローグ~港から~
しおりを挟むその日最終の船が出航しかけた時、船着き場にいた船員は遠くから砂煙を上げて走ってくる馬車に気付いた。
豪華な作りに馬も立派なそれの、車上に光る紋章が見えた瞬間、船員の顔に緊張が走る。
「お、王家の馬車が、こっちに来ます!!」
王家の方が乗船するなんて連絡は受けていないので、慌てて報告に行く。だが、
「来たか」
船長は落ち着いた様子で、頷いた。
馬車は船着き場のギリギリのところで停止する。
中から豪華な仕立ての服を着た男が顔を出した。まだ20歳位だろう。素は美形なのだろうが、血走った目と青を通り越して白くなった顔面が裏切っている。
男は怯えるようにキョロキョロと辺りを見回しながら、恐る恐る配下であろう男に訊いた。
「ア……アイツは、来ていないだろうな……?」
「アイツとは、どなたの事でしょう?」
「アイツはアイツだ!! 私の元婚約者の……!」
言いかけたその時、
「あ・あんな処から馬車が来る」
馭者が遠方を指さした途端ヒッ! と悲鳴を上げる。そんな様子に気付かず、
「豪華さから見て、貴族のどなたかでしょうね。おや? あれはスタン公爵家……?」
「ひいいい!!!」
男の追い詰められたかのような絶叫が、辺りに響き渡った。
「これは王太子殿下。本日は――」
とお決まりの挨拶を述べようとする船長を遮り、その胸元を掴んで男――王太子だったらしい――は叫ぶ。
「船に乗せろ! 乗せてくれ!!」
「ちょうどロイヤルルームが空いております」
「案内しろ!!」
案内しろと言いながら、船員を待たずに悪鬼から逃れるように乗り込んでいく王太子。
それを見送った後、配下は船長に告げた。
「よろしく頼む」
「かしこまりました」
王太子を乗せた船が動き出し見送った後――。
配下と馭者らはその場に起立したまま、しばらく見送っていたが……。
突如、拳を天にあげ、快哉の叫びをあげた。
「っしゃあ――!!!」
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