【完結】王都のカジノから

みけの

文字の大きさ
上 下
10 / 16

【カジノの貴賓室】・3

しおりを挟む
  わたし達は次第に、愚かな王子と愚かな男爵令嬢として人々に定着していきました。

 半平民のわたしだけでなく、殿下の評価も落ちていきます。

『この国を実質動かしていたリシェンヌ公の後継が、あのようなウツケでいいのだろうか?』
『王族としての教育はされている。なので仕事はそれなりに出来るようだが、現時点で男爵家の養女といちゃついているのだから大した器ではなさそう』
『所詮母親は下賤の者だ』
 

 そんな毎日を繰り返し……あの日を迎えた。

卒業パーティが始まろうという時。
わたしと殿下が壇上に並んで立ちます。何事かをざわめく人々の中からリシェンヌ嬢――貴方ですねーーを見つけてから、殿下が大声で叫びました。

“リシェンヌ公爵令嬢! お前は男爵令嬢であるルリエを、格下の身分であることを理由に取り巻きまで巻き込んで嫌がらせをした! そのような者を王家に迎える事は出来ない! 故にお前との婚約を破棄し、国外追放を命じる!”

わたしの肩に添えられた、ジ、いえ殿下の手が小刻みに震えてました。

 “逆らってはいけない相手”に主張するのは、とても勇気と力が要ります。わたしだって育ててくれている男爵である父に主張しろと言われて、出来る自信はありません。どこかで顔色を伺うでしょう。

でもそれをせず、計画通りに行う殿下がどれほどの力を振り絞ったのかなど、わたしなどでは分かりません。

殿下が今迄受けて来た仕打ちは所詮、誰かの言葉で伝えられただけのものです。
聞いて知っただけのわたしなどが“分かる”などと軽んじてはいけない。

  そうそう、殿下に婚約破棄と言われたあの時の貴方の表情、今でも思い出しますよ。
突然の殿下からの言葉に、一瞬キッと睨みつけてから何か言おうとして、止めましたね。こんな推理をされたんじゃないですか?

“こいつは父と国王夫妻が留守なのを良い事に、王家の権力を使って自分を破滅させようと目論んでいる”って。

お? その顔は当たりですね!
 まあそんな事をすれば御父君はご立腹。国王陛下達もお怒りになりでしょう。
破滅するのはわたし達だ、と。

 持ち直した貴方はわたし達を真っ直ぐに見返し、平然と言い返してきましたね。

『恐れながらわたくしはそのような意味のない事はしておりません。わたくしの事は婚約者である殿下が最もお分かりでしょう』
 あの場には他国からの留学生もいましたし、体裁を保つ必要があったのでしょう。予想は出来ていました。
『しらを切るな! ここにお前がした嫌がらせの証拠がある!』
と、的外れでツッコミし放題な証拠を殿下が列挙する。

その間、貴方がどんなお気持だったかは分かりませんが、わたしは内心冷や冷やでした。

どのタイミングも、ずれてしまえば駄目になる。

 今は国から出ている国王夫妻に、わたし達の所業がどのタイミングで伝わるか。
もしくは同じく仕事で国を出ている公爵に、偶然で耳に入る可能性。

 国王夫妻よりも怖いのは公爵。国内で長者ランキングトップを維持している富豪で、実質この国の要。
もしわたしと殿下程度の目論見が看破されたら? そう思うと体が震えてしまいます。
でも、わたしの方に回された大きな手も、同じように震えていたから。わたしも役目をこなすため、貴方をキッと睨みました。

でも幸いにも、危惧していた事は起こりませんでした。悪運が味方してくれたのでしょう。

 婚約破棄を宣告した後。
タイミングよく国王ご夫妻が入場されました。ええ、タイミングよく。

 国王陛下は、目の前にある状況を説明させるために、始めから見ていた臣下を呼び寄せました。そして……。

“この―――馬鹿者が!!”
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生七回目、さすがにもう疲れたので好きに生きます

木崎優
恋愛
公爵令嬢クラリスは人生を繰り返している。始まりはいつも五歳からで、終わりは十六歳。 婚約者のハロルドに婚約破棄を言い渡されたその場で、意識が途切れる。 毎回毎回ハロルドの横には同じ令嬢がいた。 彼女に取られないように努力したクラリスだが、結果は変わらない。 そうして繰り返すこと六回目。お決まりの婚約破棄の言葉と共に、意識が途切れた。 「なんかもう、いいや」 諦めの境地に達したクラリスは、七回目の人生はハロルドに愛されようと努力するのをやめて好きに生きることにした。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。

ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。 なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。 妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。 しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。 この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。 *小説家になろう様からの転載です。

辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
一部の界隈でそれなりに有名だった薬師のアラーシャは、隣国に招かれることになった。 隣国の第二王子は、謎の現象によって石のように固まっており、それはいかなる魔法でも治すことができないものだった。 アラーシャは、薬師としての知識を総動員して、第二王子を救った。 すると、その国の第一王子であるギルーゼから求婚された。 彼は、弟を救ったアラーシャに深く感謝し、同時に愛情を抱いたというのだ。 一村娘でしかないアラーシャは、その求婚をとても受け止め切れなかった。 しかし、ギルーゼによって外堀りは埋められていき、彼からの愛情に段々と絆されていった。 こうしてアラーシャは、第一王子の妻となる決意を固め始めるのだった。

処理中です...