【完結】王都のカジノから

みけの

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あの時のあんたの……やば、貴方様の浮かべたお顔を、わたしは今でも覚えています。

“殿下が最もお分かりでしょう”

そう言う貴方様は、表情では“お願いどうか信じて下さい!”みたいな必死さを装ってました。
周りのお貴族様達も、貴方に憐憫の視線を向けていた。“なんて不遇”“なんて理不尽”“長年王家に尽くしていた公爵家に不遜な態度”“第3王子程度では、そんなものかしらね……”

貴方に同情するみたいな事をコソコソと。

まぁその大半は、下位貴族やその取り巻きの平民でしたけどね。
そう、高位の方々の反応は違いました。わたし達、会場のステージから見下ろしてましたから、よく見えました。

“何この人、別人?”ってお顔、してましたよ?

だって耳聡い方々は知っているはず。
実際は貴方、王子妃教育なんて一切受けていないってことをね!

 と言うか、サボってたのよね。『面倒ごとは全て王子と王家にやらせろ。奴らは私達に決して逆らえん』ってお父様である前公爵に言われていたそうですもの。

知りませんでしたけど王家の財政って年中、火の車なんですって?
何でも先代が遊び好きの女好きであちこちに子種やら借金やら作りまくって、その返済や賠償の支払いが今も続いているって話じゃないですか。

で、貴方様と殿下の婚約も、貴方のお父様が裏で王家を牛耳る事が目的だったのですよね?
リシェンヌ公爵はやり手だったから、お金とそれに繋がる人脈を豊富にお持ちだった。王家としてはどうしてもその力に縋る必要があった。
その為の縁として出来たのが、貴方と殿下との婚約だった。ジョーがした借金でもないのに、子供でしかない彼と貴方は婚約を結ぶことになった。
で、そこにさっき言ったアンタの、こほん、失礼貴方様に公爵閣下が仰った言葉がくる。

『奴らは私達に決して逆らえん』

 子供にとってみれば、“やりたい放題してもいいオモチャ”がもらえたってなもんよ。
ねえ、そう思ったんでしょ? 子供だったアン、いや貴方様は自分の不満やストレスを全部、婚約者であるジョー、いえ殿下にぶつけだした。

ちっちゃい彼に馬の役をやらせて、動けなくなったらそこらの物で叩いたり。
『窓から落とした指輪を探してください』って、雪が積もる寒い日に、地面を素手で掘らせたんですって?

聞いた時はビックリよ。何? その残酷で最悪で悪趣味なクソガキの悪ガキでお母さんのお腹にいる時に悪魔に憑依されたの? って感じぃ。

やだ、何ワナワナ体震わせて、もしかして怒ってます!?

ウソ、信じられなーい!

 貴方様のような高貴なご身分のお方からすれば、しがない目にとめる価値もない平民の戯言じゃないですか。
雑魚の歯ぎしりなんて、不快どころかご褒美でしょう? 多少正鵠を獲ていても、そこはただの偶然とか鼻で笑うだけな場面でしょう?

……まあ……今はそれどころじゃあないのか。
 あそこにいる、貴方の愛しのご伴侶。彼の生死を握っているのは実質、わたしですからね。……ああ、ビビんなくて良いです。言葉の綾です、殺しませんよ。

貴方でも、好きな人が絡めばそんなに青い顔をするんですね。

――何でさっきから色々な事、知ってるのかって?
調べたんですよ。公爵家から解雇された元使用人や、出入りしていた商人やらにね。
高圧的、かつ独裁的だった前公爵様、相当恨みを買っていたようで、皆、ペラペラと喋ってくれました。
まあ、一番大きかったのはお金をチラつかせたからですけど。

そんな金、たかだか男爵家の元平民風情が何故持ってる!? って……。

はあーーっ。……急死された前公爵閣下、今の貴方を見たらどう思うのかなぁ……。
貴方、油断し過ぎ。敵の情報位、しっかり把握しておくもんでしょう……。

前公爵閣下、草葉の陰で泣いてたりして? そうだったらざまぁですね。あの人がいらない事言ったから、ジョーが貴方に苛め抜かれる羽目になったんだから。
実際、貴方が爵位を継いでから、公爵家傾きだしてますもんねぇ? あんなに億万長者だったのに、貴方が継いで以降では落ちぶれ続きなんてさぁ……。
 王子妃教育以前に、淑女教育すらも怪しいですねぇ。

で、さっきの質問に戻りますね。
『そんな金、たかだか男爵家の元平民風情が何故持ってる?』でしたか。
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