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聖騎士様が堅物になった理由
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こうして二人はセックス無しの恋人関係を始めた。
性に奔放な世界においてこれは不思議がられる関係ではあるけれど、まったく無いわけではない。
どうしても性行為が好きになれない人間というのもいるからだ。
アルフレットはセックスが出来ない分、毎日仕事帰りにリディアのところへ通い、花やチョコレートなど彼女の好きなものを贈った。
そして。
「リディアさん。あなたは心の綺麗な方だ。そして心の美しさがお顔や身体つきにも表れている。あなたはとても素敵だ」
「メガ……アルフレットさん。そんな、恥ずかしいよ……」
「愛を語っているだけです。恥じらうことはありません」
アルフレットはとにかく言葉を尽くした。
セックスで伝えられない愛をすべて伝えようと。
だが、バカ真面目な堅物が綺麗な瞳でまっすぐ褒めて来るというのは中々に恥ずかしい。
もちろん、嫌なことではないがリディアとしてはどうにも照れてしまう。
――私はアルフレットさんみたいに綺麗な心、持ってないよ! なんなら肉欲まみれの夜を過ごしまくって来た人間だよ!
そう。リディアは快楽目当てでセックスをしてきたタイプの人間だ。
そのため、これまでは一を言葉で、九をセックスで受け取って来たところを急に十の、いや百の言葉で語られるのだから戸惑うばかり。
さらに言って来るのが好みのタイプの恋人なんだから余計に。
照れてばかりのリディアにアルフレットはふと、懺悔するように言った。
「……恥ずかしながら僕は夜のアイテムというのは肉欲にまみれたい人の汚れたもの、だなんて偏見を持っていました。けれど、貴方と一緒に店番をするうちに決してそればかりではないと知りました」
「とんでもない偏見ね」
「ええ。あなたが売る媚薬やバイブのおかげで恋人同士の愛がさらに深まった、なんて声を聞いているうちに自分が恥ずかしくなりました……僕はセックスというものを勘違いしているのかもしれません」
「アルフレットさんはどうしてそんなにセックスを嫌っているの?」
食後のお茶で一息つきながらリディアは尋ねた。
「僕には妹と弟がいます。そして、母が出産した時のことも覚えています。……赤ちゃんが、一人の人間が生まれたのを目の当たりにし、僕は思ったんです。子を産むというのはなんて尊いことだろうと」
「確かに出産は命がけだものね」
「ええ。父も毎回涙を流していました。そして、何度も母に礼を言い、妹や弟を優しく抱きしめていたんです。母は父との愛からさらに新たな愛を……妹や弟を産んだんです。その姿が……僕にとって子を産む母が女神様のように見えました」
「もしかして聖騎士になったのもそれが理由なの?」
「ええ。僕は幼いながらも誓いました。この素晴らしい世界と女神さまにこの身を捧げると」
「そっか……」
キラキラとした瞳で語るアルフレットにリディアも納得しかけた。
だが。
「あれ? それならなおさらセックスを汚れたことって嫌う意味が分からないよ?」
疑問が新たに芽生えただけだった。
この指摘はアルフレットとしても痛いところなのか、気まずそうにぼやいた。
「ぼ、僕にはどうしてもセックスと子を産む行為が結びつかないんです……一度、ウェリスさんにセックスパーティーへ連れて行かれたのですが、そこの方たちはまるで獣のように相手を貪るばかりで……」
「あー……」
この世界におけるセックスパーティーとは乱交パーティーのことだ。
相手をとっかえひっかえ男女入り混じって楽しむことで、若者にとっては集って駄弁るぐらいの気軽さで行われている。
が、アルフレットの告白にリディアは納得した。
――そういえば異国の昔話であったなぁ。コウノトリさんが赤ちゃんを運ぶと信じていた王様が初めてセックスを知ってショックで勃起しなくなって。確か一人の国民との間に愛が芽生えたおかげで治りました、なんてハッピーエンドだったかな。
性に奔放な世界なだけあって、性にまつわる話も広く流通している。
特にリディアは仕事柄セックスにまつわる情報収集は欠かさないため、アルフレットのセックス観をようやく理解できた。
そして落胆した。
なぜなら。
性に奔放な世界においてこれは不思議がられる関係ではあるけれど、まったく無いわけではない。
どうしても性行為が好きになれない人間というのもいるからだ。
アルフレットはセックスが出来ない分、毎日仕事帰りにリディアのところへ通い、花やチョコレートなど彼女の好きなものを贈った。
そして。
「リディアさん。あなたは心の綺麗な方だ。そして心の美しさがお顔や身体つきにも表れている。あなたはとても素敵だ」
「メガ……アルフレットさん。そんな、恥ずかしいよ……」
「愛を語っているだけです。恥じらうことはありません」
アルフレットはとにかく言葉を尽くした。
セックスで伝えられない愛をすべて伝えようと。
だが、バカ真面目な堅物が綺麗な瞳でまっすぐ褒めて来るというのは中々に恥ずかしい。
もちろん、嫌なことではないがリディアとしてはどうにも照れてしまう。
――私はアルフレットさんみたいに綺麗な心、持ってないよ! なんなら肉欲まみれの夜を過ごしまくって来た人間だよ!
そう。リディアは快楽目当てでセックスをしてきたタイプの人間だ。
そのため、これまでは一を言葉で、九をセックスで受け取って来たところを急に十の、いや百の言葉で語られるのだから戸惑うばかり。
さらに言って来るのが好みのタイプの恋人なんだから余計に。
照れてばかりのリディアにアルフレットはふと、懺悔するように言った。
「……恥ずかしながら僕は夜のアイテムというのは肉欲にまみれたい人の汚れたもの、だなんて偏見を持っていました。けれど、貴方と一緒に店番をするうちに決してそればかりではないと知りました」
「とんでもない偏見ね」
「ええ。あなたが売る媚薬やバイブのおかげで恋人同士の愛がさらに深まった、なんて声を聞いているうちに自分が恥ずかしくなりました……僕はセックスというものを勘違いしているのかもしれません」
「アルフレットさんはどうしてそんなにセックスを嫌っているの?」
食後のお茶で一息つきながらリディアは尋ねた。
「僕には妹と弟がいます。そして、母が出産した時のことも覚えています。……赤ちゃんが、一人の人間が生まれたのを目の当たりにし、僕は思ったんです。子を産むというのはなんて尊いことだろうと」
「確かに出産は命がけだものね」
「ええ。父も毎回涙を流していました。そして、何度も母に礼を言い、妹や弟を優しく抱きしめていたんです。母は父との愛からさらに新たな愛を……妹や弟を産んだんです。その姿が……僕にとって子を産む母が女神様のように見えました」
「もしかして聖騎士になったのもそれが理由なの?」
「ええ。僕は幼いながらも誓いました。この素晴らしい世界と女神さまにこの身を捧げると」
「そっか……」
キラキラとした瞳で語るアルフレットにリディアも納得しかけた。
だが。
「あれ? それならなおさらセックスを汚れたことって嫌う意味が分からないよ?」
疑問が新たに芽生えただけだった。
この指摘はアルフレットとしても痛いところなのか、気まずそうにぼやいた。
「ぼ、僕にはどうしてもセックスと子を産む行為が結びつかないんです……一度、ウェリスさんにセックスパーティーへ連れて行かれたのですが、そこの方たちはまるで獣のように相手を貪るばかりで……」
「あー……」
この世界におけるセックスパーティーとは乱交パーティーのことだ。
相手をとっかえひっかえ男女入り混じって楽しむことで、若者にとっては集って駄弁るぐらいの気軽さで行われている。
が、アルフレットの告白にリディアは納得した。
――そういえば異国の昔話であったなぁ。コウノトリさんが赤ちゃんを運ぶと信じていた王様が初めてセックスを知ってショックで勃起しなくなって。確か一人の国民との間に愛が芽生えたおかげで治りました、なんてハッピーエンドだったかな。
性に奔放な世界なだけあって、性にまつわる話も広く流通している。
特にリディアは仕事柄セックスにまつわる情報収集は欠かさないため、アルフレットのセックス観をようやく理解できた。
そして落胆した。
なぜなら。
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