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第8章 勇者の運命

1 勇者と魔族1

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「取り引きしねーか。俺たち魔族側と?」

 突然現れた高位魔族レグルドは、俺にそう誘いかけた。

 さっきナダレからは、この世界に魔族が現れないようにするための方法を教わり、その協力を求められ──。
 今度は魔族側からのお誘いか。

 引く手あまただな、と俺は内心で軽口を叩いてみる。

「取り引きだと?」
「てめーと俺様たちの利害は一致している部分がある。そいつをすり合わせて、お互いにいい状況にもっていかねーか? って話さ」

 レグルドが笑う。

「つまり俺に、魔族と手を組めって言っているわけか?」
「平たく言えば、な」

『一周目』の人生では勇者として魔族軍を討ち、その後は迫害された。
『二周目』の人生では勇者になる道を拒否し、魔族側から手を差し伸べられている。

 皮肉な話だった。

 昨日の敵は今日の友──ということなのか。
 だけど、さすがに魔族と友になることはあり得ないな。

「利害をすり合わせるっていうのは、たとえば?」

 あり得ないと思いながら、俺はついたずねてしまう。

 別に魔族を信用するわけじゃない。
 魔族と近しい立場になろうとも思わない。

 ただ俺は──。

 俺は、それ以上に……ファルセリアの連中が信用できない。

「てめーはここに『封門ふうもんの鍵』を求めに来た。違うか?」
「『封門の鍵』……?」
「二つの世界を結ぶ通路を閉じるための鍵さ」

 と、レグルド。

「てめーの望みはこの世界に俺様たち魔族が出てこなくなることだろ? 鍵があれば、それは叶う」
「っ……!」

 俺は反射的に身構えた。

 じゃあ、この透明な壁の向こう側まで行けば──。
 世界から魔族の脅威は去る。

 みんな、平和に暮らしていける……!

「慌てんなよ。取り引きだと言っただろーが」

 レグルドが片手をあげて俺を制した。

「最終的に『鍵』はてめーにやるよ。その『鍵』で『扉』を締めれば、魔族はこの世界に出てこられなくなる。それまでにこっちにやって来た魔族は、俺様たちが責任を持って対処する」
「対処……?」
「まずは、魔界に戻るように説得。言うことを聞かないようなら──俺様が狩る」

 レグルドの眼光が鋭い光を放つ。

「ただし、それは俺様たちの条件を呑めばの話だ」
「条件……」
「俺様たちは、てめーに利があることをするんだ。てめーも、俺様たちに利することをしてもらうのが道理だよなぁ?」

 まあ、それは当然だろう。
 俺だけが一方的に利益を受けるんじゃ、取り引きとは言えない。

「お前たちの条件はなんだ?」

 俺はレグルドを見据えた。

「俺様たちの条件は──」

 ワンテンポ置き、レグルドが俺を見返す。

「ファルセリアの件から手を引け。勇者としての使命を放棄しろ」

 半ば予想通りの提案だった。

 もっとも、言われるまでもなく俺は──、

「……元より勇者になるつもりなんてない」

 断言する。

「だが、てめーが殺されてしまえば、新たな勇者候補が生まれる。現にファルセリアの連中はてめーを殺そうとしたよな?」

 それも調べがついているわけか。

「そもそも人間の感情なんて移ろいやすく、変わりやすいもんだ。何かのきっかけで、てめーの考えが反転することは十分あり得る」

 と、レグルド。

「じゃあ、どうしろっていうんだ?」
「ファルセリアとこの世界との『扉』を閉じる。そのために、てめーに協力してもらう」

 レグルドが説明した。

「『門番』を、一緒に倒すんだ」

 ん?
 それはナダレが言っていたことと、内容がかぶるぞ。

 どういうことだ──。
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