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第7章 勇者の意志

5 鍵の遺跡の探索

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 ──と思ったら、凪沙さんはあっさり目を覚ました。

「あ、起きた」

 よし、遺跡のことを切り出すぞ。

「あの、凪沙さん。実はちょっとお話が──」

 少し緊張気味に俺は凪沙さんに声をかける。

「むにゃむにゃ、あと五分……」

 また寝た!

「起きてください、凪沙さん」
「んー、私は寝る……眠いから……」
「大事な話があるんです」
「じゃあ起きる……代わりに彼方が起きて」

 もう起きてるだろ、この人。

「ぐーぐー」
「わざとらしいイビキをかいてもだめです」
「しょうがない」

 凪沙さんは諦めて顔を上げた。

「食糧」

 と、俺に向かって手を差し出す凪沙さん。

「えっ?」
「週末に二人で買いに行く約束」

 凪沙さんがジト目になった。

「起きたらお腹すいた。食料を要求する」
「あ、しまった……」

 ベルクとのいざこざですっかり忘れていた。
 もともと週末は雫と一緒に、オカ研の食糧──というか、お菓子を買いに行ったんだった。

「はい、どうぞ」

 雫が横からお菓子の入った袋を差し出した。
 いつの間に……。

「私があらためて買ってきましたので」

 そっと俺に耳打ちする雫。

 おお、助かった。

「ありがとう」

 俺も小声で感謝の言葉を耳打ち。

「えへへ」

 雫は、はにかんだような照れ笑いを浮かべた。



 ──俺は凪沙さんに遺跡のことを説明した。

 もちろん異世界のことをそのまま言うわけにはいかない。
 彼女たちがいざこざに巻きこまれる原因になりかねないし、特に凪沙さんのような魔法能力を持った人は、なおさらだ。

 単なる噂話として、遺跡が他にもあるらしい、と聞いたことにしておいた。

「その遺跡を探すために、私のダウジングが必要?」
「はい、協力してほしいんです」

 俺は身を乗り出した。

「未知の遺跡の発見。それを為したのが、謎の魔法美少女──ワクワクしませんか、凪沙さん」
「いい……すごくいい」

 凪沙さんが目をキラキラさせた。
 よし、乗ってくれた。

「……彼方くん、もしかしてそれはこの間のことに関係があるんですか」

 雫がジッと俺を見た。
 俺は小さくうなずく。

「では、私も行きます」
「ん、なんの話?」

 月子が部室に入ってきた。

「やほー。今日はみんなそろってるねー」
「月子も一緒に来る」

 と、凪沙さん。

「みんなでダウジング」
「ダウジング? ボクもやるの?」
「いや、やるのは凪沙さんだけ」

 たずねる月子に答える俺。

「ふふ、みんなでそろってお出かけなんて嬉しいです」

 雫が微笑んだ。

 だけどその笑みにわずかなこわばりが生じたのを、俺は見逃さなかった。
 やはり不安や心配もあるんだろう。
 この間のようなことにならないか、と。

 早くその心配を取り除かないとな。

 平和な日常を──必ず手に入れてみせる。
 そのためにも、まずは『鍵の遺跡』を見つけるんだ。



 俺たちは屋上に上がった。
 凪沙さんの説明によると、町をある程度見渡せるような高い場所で、まずは当たりをつけるんだそうだ。

「ダウジング開始」

 例のダウジング用の針金みたいなものを取り出す凪沙さん。

「お願いします」

 俺は一礼した。

「ふうっ」

 珍しく真剣な顔で凪沙さんがダウジング棒を握り、瞳を閉じた。

 こうして見ると、すごい凛々しくて美人だよな、凪沙さんって。
 普段はほとんどこういう顔をしないから、思わず見とれてしまった。

「──彼方くん?」

 なぜか雫ににらまれた。

「な、なんだ?」

 いつも優しいのに、今は妙に視線が怖いぞ、雫。

「……なんでもないです」
「?」
「……なんでもないですからっ」

 ちょっと怒ってないか、雫?
「先輩って、あいかわらず鈍いんだよねー」

 月子がくすくすと笑った。

「ボクは雫ちゃんの気持ち、分かるな」
「えっ」
「だって、ボクもちょっとヤキモチ妬いちゃったし。今の先輩の様子に」
「さっきからなんの話だよ」

 さっぱり話が見えてこないんだが──。

「反応がある」

 ふいに凪沙さんが目を開けた。
 俺をジッと見つめ、

「彼方が言ったとおり。前に行った遺跡とよく似た気配。かなり精密に探知しないと見つけられないレベルだけど──だいたいの場所は分かる」

 いいぞ、凪沙さん。
 俺は内心でぐっと拳を握りしめた。

 上手くいけば、鍵の遺跡を見つけられるかもしれない──。

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