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第7章 勇者の意志
1 つながる想い
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周囲に漂う、むせ返るような血臭。
「ベルク……」
俺は足元に横たわる死体を見下ろす。
聖剣『夜天』の一撃で、ベルクは脳天から真っ二つになった。
当然ながら、完全に絶命している。
「──終わった」
俺は、ふう、と息をついた。
自分でも驚くほど静かな心地だった。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、達成感でもない。
無の境地に近い。
ベルクが死んで──殺して、俺はどう思っているんだろう?
そう、自問する。
かつては一番の仲間だと思っていたこともあった。
『一周目』の人生では魔王軍との戦いで、数えきれないくらいの戦いをともに乗り越えてきた。
そして、俺は裏切られた。
『二周目』の人生でも、結局は同じだった。
俺をふたたび勇者にしようと誘ってくるベルクと──結局は決裂し、戦いになった。
奴は卑劣にも雫にまで攻撃した。
だから、その報いを受けさせた。
「これでよかったんだ……」
討つべき相手を討った。
それだけだ。
それだけの、はずだ。
なのに──。
胸の中にわだかまるモヤモヤした気持ちはなんだろう。
俺は、俺自身の気持ちにまだ整理がついていない。
「とりあえず、死体をこのままにはできないな……」
俺はいったん思考を切り替えた。
廃工場の中庭に行くと、聖剣で攻撃スキルを使って穴を掘る。
そこにベルクの死体を運び、埋めた。
「……雫の元に戻るか」
深いため息をつく。
この光景を見せたくなくて、彼女を先に帰らせてしまったからな。
廃工場を出ると、入り口のところに雫が立っていた。
どうやら俺を待っていてくれたらしい。
「驚かせて悪かったな、雫」
「……彼方くんの用事は、済みましたか?」
「ああ、全部決着をつけた」
雫の問いにうなずく俺。
さっきは、ベルクとの戦いや、そのときの会話で異世界の存在も匂わせてしまった。
雫にどう説明するべきだろうか。
俺がかつて『一周目』の人生で異世界の勇者をやっていた、なんて説明して、彼女は信じてくれるだろうか。
……いや、雫ならきっと信じてくれるだろう。
だけど、それを伝える意味があるのか、俺には分からない。
本来、知る必要のないことだ。
無意味に異世界の存在を知ったことで、アリアンや他の異世界人が襲来したときに巻き添えを食う確率が高くなったりはしないだろうか。
いろいろな考えが頭の中で渦巻き、思考がフリーズしてしまう。
「驚きましたけど……でも、彼方くんは彼方くんです」
微笑む雫。
彼女は聡明だ。
もしかしたら──ある程度のことは感づいているのかもしれない。
それでも、何も聞かないでいてくれる。
「俺はベルクに──今戦っていた奴や、その仲間とちょっとした関係がある。もしかしたら、また命を狙われることもあるかもしれない。だから、そういう場面に出くわしたら雫は逃げてくれ」
俺は彼女をまっすぐ見つめた。
「巻きこみたくない。いや、今回は巻きこんでしまって──なんて詫びていいか、分からない」
深く頭を下げる。
「やめてください。彼方くんは何も悪くありません。襲ってきたのは、あの人でしょう」
雫が微笑んだ。
「あなたの心がまだ整理できていないなら──これから、ゆっくりと決着をつければいいと思います。私でよければ手伝います」
「これから……か」
俺はどうすればいいんだろう。
こっちに来ている異世界人は、残りはアリアンだけなのか。
あるいは他にも来ているのか。
『一周目』のときに因縁深い相手といえば、他に武闘家のナダレもいる。
あいつは、今どうしているんだろう?
と、雫が俺の手を取った。
「雫……?」
「こ、こうしていると、少しは落ち着くかも……なんて」
温かな手だ。
雫のぬくもりは、確かに俺の心を落ち着かせてくれた。
ベルクを殺した直後は、無の境地だったけれど。
今は、心の芯から温まり、癒されていくような心地よさを感じる──。
「ベルク……」
俺は足元に横たわる死体を見下ろす。
聖剣『夜天』の一撃で、ベルクは脳天から真っ二つになった。
当然ながら、完全に絶命している。
「──終わった」
俺は、ふう、と息をついた。
自分でも驚くほど静かな心地だった。
怒りでも、悲しみでも、喜びでも、達成感でもない。
無の境地に近い。
ベルクが死んで──殺して、俺はどう思っているんだろう?
そう、自問する。
かつては一番の仲間だと思っていたこともあった。
『一周目』の人生では魔王軍との戦いで、数えきれないくらいの戦いをともに乗り越えてきた。
そして、俺は裏切られた。
『二周目』の人生でも、結局は同じだった。
俺をふたたび勇者にしようと誘ってくるベルクと──結局は決裂し、戦いになった。
奴は卑劣にも雫にまで攻撃した。
だから、その報いを受けさせた。
「これでよかったんだ……」
討つべき相手を討った。
それだけだ。
それだけの、はずだ。
なのに──。
胸の中にわだかまるモヤモヤした気持ちはなんだろう。
俺は、俺自身の気持ちにまだ整理がついていない。
「とりあえず、死体をこのままにはできないな……」
俺はいったん思考を切り替えた。
廃工場の中庭に行くと、聖剣で攻撃スキルを使って穴を掘る。
そこにベルクの死体を運び、埋めた。
「……雫の元に戻るか」
深いため息をつく。
この光景を見せたくなくて、彼女を先に帰らせてしまったからな。
廃工場を出ると、入り口のところに雫が立っていた。
どうやら俺を待っていてくれたらしい。
「驚かせて悪かったな、雫」
「……彼方くんの用事は、済みましたか?」
「ああ、全部決着をつけた」
雫の問いにうなずく俺。
さっきは、ベルクとの戦いや、そのときの会話で異世界の存在も匂わせてしまった。
雫にどう説明するべきだろうか。
俺がかつて『一周目』の人生で異世界の勇者をやっていた、なんて説明して、彼女は信じてくれるだろうか。
……いや、雫ならきっと信じてくれるだろう。
だけど、それを伝える意味があるのか、俺には分からない。
本来、知る必要のないことだ。
無意味に異世界の存在を知ったことで、アリアンや他の異世界人が襲来したときに巻き添えを食う確率が高くなったりはしないだろうか。
いろいろな考えが頭の中で渦巻き、思考がフリーズしてしまう。
「驚きましたけど……でも、彼方くんは彼方くんです」
微笑む雫。
彼女は聡明だ。
もしかしたら──ある程度のことは感づいているのかもしれない。
それでも、何も聞かないでいてくれる。
「俺はベルクに──今戦っていた奴や、その仲間とちょっとした関係がある。もしかしたら、また命を狙われることもあるかもしれない。だから、そういう場面に出くわしたら雫は逃げてくれ」
俺は彼女をまっすぐ見つめた。
「巻きこみたくない。いや、今回は巻きこんでしまって──なんて詫びていいか、分からない」
深く頭を下げる。
「やめてください。彼方くんは何も悪くありません。襲ってきたのは、あの人でしょう」
雫が微笑んだ。
「あなたの心がまだ整理できていないなら──これから、ゆっくりと決着をつければいいと思います。私でよければ手伝います」
「これから……か」
俺はどうすればいいんだろう。
こっちに来ている異世界人は、残りはアリアンだけなのか。
あるいは他にも来ているのか。
『一周目』のときに因縁深い相手といえば、他に武闘家のナダレもいる。
あいつは、今どうしているんだろう?
と、雫が俺の手を取った。
「雫……?」
「こ、こうしていると、少しは落ち着くかも……なんて」
温かな手だ。
雫のぬくもりは、確かに俺の心を落ち着かせてくれた。
ベルクを殺した直後は、無の境地だったけれど。
今は、心の芯から温まり、癒されていくような心地よさを感じる──。
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