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第6章 勇者の戦い

3 雫との週末

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 駅前のショッピングモールで俺は雫と一緒に買い物をしていた。

 部室に常備するお菓子や飲み物を買うだけだから、別にコンビニでもいい気がしたんだけど──。

『買ってくる場所は駅前。ついでに雫と二人でお店を回ったり、食事とかも必須。いちゃらぶ会話も必須』

 なぜか凪沙さんにそう言われてしまったのだ。
 最後の『いちゃらぶ会話』はともかく、俺は雫と一緒に店を回っていた。

「見てください、これかわいいです」

 雑貨屋の前で、雫が目を輝かせる。

「ちょっと入っていくか?」
「はいっ」

 めちゃくちゃ嬉しそうだ。

「彼方くん、これもかわいい」

 可愛い小物が好きなところは、すごく彼女らしい気がした。
 表情がほんわかとしている。

「ねえねえ、これもかわいいと思いませんか?」

 さっきから、はしゃぎ回っていた。
 会話のほとんどが『かわいい』なのが、ほっこりする。

「あ……ごめんなさい。私、自分が楽しんでばかりです。つい、浮かれてしまいました」
「いや、楽しそうで何よりだと思うぞ」

 俺はにっこりと雫に言った。

「楽しそうにしている雫を見ていると、俺もなんか楽しくなるし」
「っ……!」

 雫の顔が真っ赤になった。



 雑貨屋を回り、お菓子や飲み物を買うと、俺は雫と一緒にファーストフード店に来た。

「すみません、私……ちょっとお手洗いに」

 雫が席を立つ。

 ──が、すぐに戻ってきた。
 ずいぶん早いな……と思ったら、

「久しぶりだね、カナタくん」
「お前──」

 やって来たのは、雫じゃなかった。

 金髪碧眼の美少年だ。
 私服姿で、背中には楽器用の長いケースを背負っている。

 ……たぶん、あのケースの中には武器を忍ばせているんだろう。
 つまりは、そういうことだ。

「ベルク……!」

 俺は思わず席から立ち上がり、奴をにらみつけた。

 以前、フィーラが襲ってきたように、こいつもいつ戦いを仕掛けてくるかは分からない。
 何せ、俺を殺さないかぎり、新たな勇者候補は現れないそうだからな。

 だったら、勇者なんかに頼らず自力で自分たちの世界を救ってみせろ──。
 そう思わずにはいられない。

「なんの用だ」
「ふふ」

 俺がたずねても、ベルクはさわやかな笑みを浮かべたままだった。

「考え直してほしいと思って、来たんだよ」
「考え直すだと?」
「僕たちには勇者の力が必要なんだ。世界を救えるのは君だけなんだ」

 熱い口調で語るベルク。
 目がキラキラと輝いている。

「言ったはずだ。勇者がいなくても、魔王は倒せる、と」

 俺はベルクをにらみつけた。

「それに異世界人おまえたちは勇者に助力を頼んでいるわけじゃない。ただ勇者を利用しているだけだ。魔王を倒すための強力なアイテムくらいにしか考えていない」
「カナタくん、君は僕らの世界に行ったこともないんだろう? そう決めつけるのはよくないよ」
「知ってるんだよ、俺は。お前たちのことを、よーく……な」

 ぎりっと奥歯を噛みしめる。
 こうして相対しているだけで、苦い記憶が次々にこみ上げる。

「──カナタくん、君は神託というものを知っているかい?」

 ベルクが急に話題を変えた。

「神託?」

 首をかしげる俺。

「そのままの意味さ。神の意志を、予言のような形で受信することだ。優れた僧侶にはそれができるんだよ」

 と、ベルク。

 初めて聞く話だった。
 少なくとも『一周目』の世界では、そんなことを聞いたことがない。

「神の意志といっても、ぼんやりとしたイメージに近いから、それを正しく解釈することが必要なんだけどね。ただ神託そのものは百パーセント的中する」

 まさに予言ってわけか。

「先日、アリアンが──僕の仲間の僧侶が、魔王関連の神託を受信した。勇者をやらないというなら、君にとって不幸なことが起きるようだ」

 今度は、脅迫か?

「だけど僕はそんなことを望まない。出会って日が浅いけど、僕は君を仲間だと──友だと思っている。運命の絆で結ばれた相手だと」



 ──僕らは運命の絆で結ばれた仲間であり、親友だ。
 ──誓うよ、カナタくん。僕のすべてを賭して君を守る、と。ともに魔王退治を成し遂げよう、我が友よ。



 かつて、『一周目』の人生でベルクが俺に言った台詞が脳裏によみがえった。

 ……何が友だ、白々しい。
 俺は苦い思いが増し、震える拳を握りしめた。
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