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第5章 勇者の試練

6 聖剣一閃

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 るおおおおおおおおおおおおんっ!

 咆哮が、響き渡る。

「この声は、まさか──」

 俺は夜天を構えた。

 次の瞬間、前方の空間がまるで蜃気楼のように歪む。
 そして、そこからにじみ出すようにして黒いシルエットが飛び出してきた。

「スラッシャーF……!」
災禍さいか級魔獣か」

 と、夜天。

「異空間に飲まれる前に戦ってたやつだ。時空の歪みに消えたと思ってたんだけど……」

 どうやら自力で脱出して、ここに戻ってきたらしい。

 ぐるるるる……!

 スラッシャーFは俺を見て、低くうなる。

「夜天、あいつを外に出したら、どれだけの被害が出るか分からない」

 俺は聖剣に語りかけた。

「ここで倒すんだ」
「うむ。私を存分に使え、彼方──我がマスターよ」

 夜天の言葉が頼もしい。

 俺は聖剣を手に、スラッシャーFに向かっていった。
 魔獣の背が蠢き、無数の触手が繰り出される。

「もう飽きた。その攻撃は」

 俺は聖剣を無造作に振るった。

 弧を描き、不規則にうねりながら迫る触手群を俺はなんなく切り捨てた。
 戸惑ったように後ずさるスラッシャーF。

「見える──」

 俺はそれを追って前に出た。

 最初の戦いのときよりも、相手の攻撃がはっきりと見える。
 余裕で反応できる。

「神操兵との戦いで随分と基礎ステータスが底上げされたようだな」

 夜天が言った。

「おそらくレベル100を超えるほどに」

 スラッシャーFがふたたび触手を繰り出してきた。
 さっきの数倍の量だ。
 だが、

「見える──奴の繰り出す触手の動きが。一本一本の軌跡が!」

 まるでスローモーション映像のように。

 俺は聖剣を振るい、前進する。
 片っ端から触手を斬り飛ばし、魔獣に肉薄した。

「【退魔剣たいまけん】!」

 そしてスキルを発動。
 輝くオーラをまとった聖剣が、魔獣の胴体部を切り裂いた。

 ぐおおおおおおんっ!?

 苦鳴を上げて跳び下がる魔獣。
 あと一息で倒せそうだ。

 ──いや。
 咆哮とともに体を揺すったスラッシャーFは、あっという間に傷口を再生してしまった・

 そうか、こいつのスキル【超速回復】の効果──。

「ならば、再生が追いつかない速度で消し飛ばせばいい」
「夜天?」
「彼方のスキルに私の『聖なる力』を上乗せするのだ」
「──いけるのか?」

 練習なんてできない。
 ぶっつけ本番の一発勝負だ。

「私を信じろ。私も、お前の力を信じる」
「分かった。やるぞ、夜天」

 俺は聖剣を手に突進した。

 これが最後の攻防だ──。
 聖剣の刀身が黄金のオーラをまとった。

 今までよりもまばゆく、激しく。

 そのオーラの色が黄金から虹色へと変化した。
 聖剣との連携複合コンボスキル──【退魔聖燐咆たいませいりんほう】。

「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 振り下ろした剣から七色の輝きが放たれ、螺旋状に突き進む。
 その輝きに飲みこまれた魔獣は跡形もなく消滅した。



「はあ、はあ、はあ……」

 全身の力がごっそり抜けたような感覚だった。
 さすがに、今ので体力のほとんどを使い果したらしい。

「よくやったぞ、彼方」

 夜天が満足げに言った。

「さすがは『勇者』だ」
「今の俺は勇者じゃない」

 苦笑交じりに首を振る俺。

「ただ守りたい者を守るために剣を振る──ただの高校生だ」
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