97 / 135
第5章 勇者の試練
2 勇者の聖剣
しおりを挟む
「では部屋に案内するのは後にして、聖剣を渡しましょう。こちらへ、カナタ」
俺は女神様に案内され、通路を進んだ。
分厚いカーテンで仕切られた広間。
そこに入ると、中央の祭壇に一本の剣が刺さっていた。
「あの剣は──」
聖剣『夜天』。
俺が『一周目』の人生で、魔王と戦う際に使った二振りの勇者の剣。
その、一本。
「あいにくもう一本の聖剣──『煌牙』は、この時間軸ではまだ生まれていません。あなたに渡せるのは『夜天』のみです」
女神様が説明する。
俺は懐かしい思いで剣を見つめる。
「あいつは……?」
剣の側には黒髪に黒い瞳、黒い衣──全身黒ずくめの男がたたずんでいた。
目深にかぶったフードのために、顔つきはよく見えない。
若者のようでもあり、中年や老人のようでもある、不思議な雰囲気だ。
「こうして語らうのは初めてだな、カナタ」
黒ずくめの男が俺をまっすぐに見据えた。
「私は『夜天』。この剣に宿る精霊だ」
聖剣と同じ名を持つ男が、語る。
「夜天……か」
それにしても、聖剣に宿る精霊なんて初めて聞いた。
もちろん、この男──夜天の姿を見たのも初めてだ。
「……夏瀬彼方だ」
「カナタ──彼方か。よい名だ」
夜天がかすかに笑う。
「『一周目』では、この姿で会うことができなかったが、この時空では対面できたことを嬉しく思う」
「一周目、って……」
こいつ、俺が二度目の人生を過ごしていることを知っているのか?
「アトロポス様から聞いたのだ。お前がたどった運命を。そしてお前がたどっている運命を」
と、夜天。
「アトロポス?」
「私の名です」
女神様が微笑む。
そういえば、女神様の名前を聞いたことってなかったな。
いまさらと言えば、いまさらだが……。
「運命を司る女神、アトロポス。初めて会ったときから名乗りそびれていましたね」
「わざと名乗らなかったのでは?」
「よけいなことは言わないでいいですよ、夜天」
女神様──アトロポス様が、夜天を軽くにらむ。
冗談めかしているけど、その眼光は妙に怖かった。
「さて、本題に移りましょうか。『夜天』を使うためには、聖剣に認められなければなりません。その試練は……夜天自身に伝えてもらいなさい」
言って、アトロポス様は背を向けた。
「女神様?」
「私はもう行きますね。あまり長くはとどまれないので、いったん天界に戻ります」
踵を返す女神様。
「聖剣と仲良くしてくださいね、カナタ。また、時空乱流が収まるころに様子を見に来ますので」
その言葉とともに、女神様の姿は空間に薄れるようにして消え去った。
後には俺と夜天だけが残された。
「試練って何をするんだ?」
たずねる俺。
「戦ったりするのか?」
「ふむ……お前は『一周目』に比べると随分弱くなっているな」
夜天が俺を見た。
フードの奥の眼光は、鋭い。
「魔王を倒したときはレベル700を超えていたけど、生まれ変わったときにレベルがリセットされたからな」
「なるほど」
うなずく夜天。
「まずは『観察』させてもらおう。今のお前を」
「観察?」
「一周目と二周目で何か変わったのか、変わらないのか。お前が私の主としてふさわしいのか、否か。見せてもらうぞ、夏瀬彼方。お前の心と魂を──」
気が付くと、学校へ向かう通学路だった。
「あ、あれ、ここは……?」
俺が住む町。
しかも、いつの間にか俺は制服姿に変わっている。
「九天高校……だったか? お前の記憶の中から再現した、お前の日常だ」
夜天がすぐそばにいた。
と、
「おはようございます、彼方くん」
雫が声をかけてきた。
「お、おはよう」
ぎくりとする。
そばにいる夜天に視線をやり、それから雫に視線を戻し、
「ああ、えっと……こいつは俺の知り合いっていうか、なんというか……」
勇者のことや聖剣のことなんて、どう説明したらいいんだろう?
「こいつ? なんの話ですか」
雫はキョトンとしている。
「えっ」
「私の姿はお前にしか見えない」
夜天が説明した。
「気にせず、いつも通りに過ごしてみろ。私はそれを見させてもらう」
「いつも通り、って──」
「試練はすでに始まっている」
夜天が俺を見据える。
静かで、厳かな光をたたえた瞳だった。
「観察させてもらうぞ、夏瀬彼方」
俺は女神様に案内され、通路を進んだ。
分厚いカーテンで仕切られた広間。
そこに入ると、中央の祭壇に一本の剣が刺さっていた。
「あの剣は──」
聖剣『夜天』。
俺が『一周目』の人生で、魔王と戦う際に使った二振りの勇者の剣。
その、一本。
「あいにくもう一本の聖剣──『煌牙』は、この時間軸ではまだ生まれていません。あなたに渡せるのは『夜天』のみです」
女神様が説明する。
俺は懐かしい思いで剣を見つめる。
「あいつは……?」
剣の側には黒髪に黒い瞳、黒い衣──全身黒ずくめの男がたたずんでいた。
目深にかぶったフードのために、顔つきはよく見えない。
若者のようでもあり、中年や老人のようでもある、不思議な雰囲気だ。
「こうして語らうのは初めてだな、カナタ」
黒ずくめの男が俺をまっすぐに見据えた。
「私は『夜天』。この剣に宿る精霊だ」
聖剣と同じ名を持つ男が、語る。
「夜天……か」
それにしても、聖剣に宿る精霊なんて初めて聞いた。
もちろん、この男──夜天の姿を見たのも初めてだ。
「……夏瀬彼方だ」
「カナタ──彼方か。よい名だ」
夜天がかすかに笑う。
「『一周目』では、この姿で会うことができなかったが、この時空では対面できたことを嬉しく思う」
「一周目、って……」
こいつ、俺が二度目の人生を過ごしていることを知っているのか?
「アトロポス様から聞いたのだ。お前がたどった運命を。そしてお前がたどっている運命を」
と、夜天。
「アトロポス?」
「私の名です」
女神様が微笑む。
そういえば、女神様の名前を聞いたことってなかったな。
いまさらと言えば、いまさらだが……。
「運命を司る女神、アトロポス。初めて会ったときから名乗りそびれていましたね」
「わざと名乗らなかったのでは?」
「よけいなことは言わないでいいですよ、夜天」
女神様──アトロポス様が、夜天を軽くにらむ。
冗談めかしているけど、その眼光は妙に怖かった。
「さて、本題に移りましょうか。『夜天』を使うためには、聖剣に認められなければなりません。その試練は……夜天自身に伝えてもらいなさい」
言って、アトロポス様は背を向けた。
「女神様?」
「私はもう行きますね。あまり長くはとどまれないので、いったん天界に戻ります」
踵を返す女神様。
「聖剣と仲良くしてくださいね、カナタ。また、時空乱流が収まるころに様子を見に来ますので」
その言葉とともに、女神様の姿は空間に薄れるようにして消え去った。
後には俺と夜天だけが残された。
「試練って何をするんだ?」
たずねる俺。
「戦ったりするのか?」
「ふむ……お前は『一周目』に比べると随分弱くなっているな」
夜天が俺を見た。
フードの奥の眼光は、鋭い。
「魔王を倒したときはレベル700を超えていたけど、生まれ変わったときにレベルがリセットされたからな」
「なるほど」
うなずく夜天。
「まずは『観察』させてもらおう。今のお前を」
「観察?」
「一周目と二周目で何か変わったのか、変わらないのか。お前が私の主としてふさわしいのか、否か。見せてもらうぞ、夏瀬彼方。お前の心と魂を──」
気が付くと、学校へ向かう通学路だった。
「あ、あれ、ここは……?」
俺が住む町。
しかも、いつの間にか俺は制服姿に変わっている。
「九天高校……だったか? お前の記憶の中から再現した、お前の日常だ」
夜天がすぐそばにいた。
と、
「おはようございます、彼方くん」
雫が声をかけてきた。
「お、おはよう」
ぎくりとする。
そばにいる夜天に視線をやり、それから雫に視線を戻し、
「ああ、えっと……こいつは俺の知り合いっていうか、なんというか……」
勇者のことや聖剣のことなんて、どう説明したらいいんだろう?
「こいつ? なんの話ですか」
雫はキョトンとしている。
「えっ」
「私の姿はお前にしか見えない」
夜天が説明した。
「気にせず、いつも通りに過ごしてみろ。私はそれを見させてもらう」
「いつも通り、って──」
「試練はすでに始まっている」
夜天が俺を見据える。
静かで、厳かな光をたたえた瞳だった。
「観察させてもらうぞ、夏瀬彼方」
0
お気に入りに追加
2,142
あなたにおすすめの小説
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる