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第3章 勇者の仲間
8 三人目の来訪者2
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フィーラが、殺された──?
信じられない事実に、ベルクは呆然と立ち尽くした。
「──スキル【収納】発動」
アリアンが右手をかざした。
頭上に輝きがあふれ、そこから何かが下りてくる。
紫の長い髪に、怜悧な美貌。
両腕を胸の前で組み合わせ、眠ったような彼女は──。
すでに、息をしていない。
「フィーラ……!」
そう、フィーラ・ローゼンハイドの躯だった。
「この世界で『警察』と呼ばれる組織に行き、フィーラさんの遺体を回収しました。それから【記録改変】系のスキルを使い、彼らの記録も書き換え済みです。フィーラさんの死は自殺として処理されるでしょう」
「仕事が早いな。さすがはアリアンだ」
「私たちの世界の痕跡を、この世界に残すわけにはいきませんから」
一礼するアリアン。
「あとはフィーラさんを殺した犯人を突き止めるだけです」
「犯人……」
魔法の天才である彼女を殺せる者など、限られている。
もちろん事故の類で死んでしまったこともあり得るだろうが、やはり一番疑わしいのは──。
「カナタくん、か」
「彼は勇者になることを拒否したと聞いています。ならば、その彼が死なないかぎりは、新たな勇者素質者が現れない。フィーラさんの性格からして、彼との戦闘になったことは十分に考えられます」
「そして、返り討ちにあってしまった……と?」
ベルクは奥歯を噛みしめた。
「君は、勇者をどうするべきだと思う?」
「私は……『神託』に従うべきだと思います」
と、アリアン。
「まさか、新たな神託があったのか」
「はい。ナツセ・カナタの運命は、勇者のそれとは交わらない──と」
「彼は、勇者にならないということか?」
「分かりません。神託は断片的なものです」
アリアンが首を振った。
「ただ、彼を放置しておけば、我が世界に災いをもたらすかもしれない……そんな解釈もできる内容でした」
「神託は必ず当たる──その解釈さえ、間違えなければ」
「ええ。最初の神託では、勇者を支えるべき私たちの力が足りない、と。もっと鍛える必要があると──その解釈の上で、各々が力を磨いてきたはずです」
「皮肉にも、その力を勇者殺しに向けるとは、ね」
ベルクが暗い笑みを浮かべた。
「……私はこういう解釈をしています」
アリアンが、ふうっ、と息をつく。
「ナツセ・カナタは勇者にはならない。そして彼を殺してしまうと、次に選ばれる勇者はあまり強くない──ゆえに、それを支える私たちがより強くならなければならない、と」
「新たな勇者では魔王軍に苦戦を強いられる、ということか……」
「決断を、ベルクさん」
アリアンが一歩詰め寄った。
「私は勇者を討つべきだと──それが神託の解釈につながると思います。仮に次なる勇者が弱かったとしても、それも含めての神託です。従うべきかと」
普段は慈愛の光をたたえた垂れ目がちの瞳に、今は妄執にも似た輝きが宿っている。
優しい心根の娘なのだが、神を絶対視しすぎるきらいがある。
そんな性分が前面に出ている感じだ。
「……少しだけ様子を見よう」
ベルクは慎重論を唱えた。
「僕はもう一度、カナタくんに近づいてみる。そもそも彼がフィーラを殺したとはかぎらないだろう? それに、根気よく説得すれば彼も勇者を引き受けてくれるかもしれない。人は、分かり合える──僕はそう信じているんだ」
我ながら綺麗ごとを言っているな、と内心であきれつつ、ベルクはアリアンを見つめた。
「それまで、僕にこの件を預けてほしい」
「神託に背くと?」
「い、いや、そうじゃない。だけど解釈は慎重に行うべきだ、ということさ。もう少しだけ状況の変化を見守ろう」
「……分かりました、ベルクさん」
ベルクの意志を尊重してくれたのか、アリアンは静かにうなずいた。
「ただし、長くは待てませんよ。魔王ヴィルガロードの復活はもう間もなくでしょう。それまでに勇者を我らが世界に連れ帰らねばなりません──」
信じられない事実に、ベルクは呆然と立ち尽くした。
「──スキル【収納】発動」
アリアンが右手をかざした。
頭上に輝きがあふれ、そこから何かが下りてくる。
紫の長い髪に、怜悧な美貌。
両腕を胸の前で組み合わせ、眠ったような彼女は──。
すでに、息をしていない。
「フィーラ……!」
そう、フィーラ・ローゼンハイドの躯だった。
「この世界で『警察』と呼ばれる組織に行き、フィーラさんの遺体を回収しました。それから【記録改変】系のスキルを使い、彼らの記録も書き換え済みです。フィーラさんの死は自殺として処理されるでしょう」
「仕事が早いな。さすがはアリアンだ」
「私たちの世界の痕跡を、この世界に残すわけにはいきませんから」
一礼するアリアン。
「あとはフィーラさんを殺した犯人を突き止めるだけです」
「犯人……」
魔法の天才である彼女を殺せる者など、限られている。
もちろん事故の類で死んでしまったこともあり得るだろうが、やはり一番疑わしいのは──。
「カナタくん、か」
「彼は勇者になることを拒否したと聞いています。ならば、その彼が死なないかぎりは、新たな勇者素質者が現れない。フィーラさんの性格からして、彼との戦闘になったことは十分に考えられます」
「そして、返り討ちにあってしまった……と?」
ベルクは奥歯を噛みしめた。
「君は、勇者をどうするべきだと思う?」
「私は……『神託』に従うべきだと思います」
と、アリアン。
「まさか、新たな神託があったのか」
「はい。ナツセ・カナタの運命は、勇者のそれとは交わらない──と」
「彼は、勇者にならないということか?」
「分かりません。神託は断片的なものです」
アリアンが首を振った。
「ただ、彼を放置しておけば、我が世界に災いをもたらすかもしれない……そんな解釈もできる内容でした」
「神託は必ず当たる──その解釈さえ、間違えなければ」
「ええ。最初の神託では、勇者を支えるべき私たちの力が足りない、と。もっと鍛える必要があると──その解釈の上で、各々が力を磨いてきたはずです」
「皮肉にも、その力を勇者殺しに向けるとは、ね」
ベルクが暗い笑みを浮かべた。
「……私はこういう解釈をしています」
アリアンが、ふうっ、と息をつく。
「ナツセ・カナタは勇者にはならない。そして彼を殺してしまうと、次に選ばれる勇者はあまり強くない──ゆえに、それを支える私たちがより強くならなければならない、と」
「新たな勇者では魔王軍に苦戦を強いられる、ということか……」
「決断を、ベルクさん」
アリアンが一歩詰め寄った。
「私は勇者を討つべきだと──それが神託の解釈につながると思います。仮に次なる勇者が弱かったとしても、それも含めての神託です。従うべきかと」
普段は慈愛の光をたたえた垂れ目がちの瞳に、今は妄執にも似た輝きが宿っている。
優しい心根の娘なのだが、神を絶対視しすぎるきらいがある。
そんな性分が前面に出ている感じだ。
「……少しだけ様子を見よう」
ベルクは慎重論を唱えた。
「僕はもう一度、カナタくんに近づいてみる。そもそも彼がフィーラを殺したとはかぎらないだろう? それに、根気よく説得すれば彼も勇者を引き受けてくれるかもしれない。人は、分かり合える──僕はそう信じているんだ」
我ながら綺麗ごとを言っているな、と内心であきれつつ、ベルクはアリアンを見つめた。
「それまで、僕にこの件を預けてほしい」
「神託に背くと?」
「い、いや、そうじゃない。だけど解釈は慎重に行うべきだ、ということさ。もう少しだけ状況の変化を見守ろう」
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「ただし、長くは待てませんよ。魔王ヴィルガロードの復活はもう間もなくでしょう。それまでに勇者を我らが世界に連れ帰らねばなりません──」
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