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第1章 勇者の帰還

6 八条雫3

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「えっ?」
「俺がやってみる」

 キョトンとした彼女に、俺はそう言った。

 稼いだ経験値ポイントで【ジャンプ】のスキルを取得する。
 軽く地面を蹴って跳びあがった。

「お、取れた」

 十メートルほどの跳躍で枝まで届き、俺は風船を取って着地。

「ええええええっ!? す、すごいジャンプ力です……!」

 彼女は目を丸くしている。


 俺は風船を女の子に渡した。

「ほら、もう離すなよ」
「わあ、おにーちゃん、ありがとう!」

 女の子はパッと顔を輝かせた。

「こっちのおねーちゃんもがんばってくれたんだ」

 と、フォローを入れておく。

「礼を言っておいたほうがいいぞ」
「おねーちゃんもありがとう!」
「えへへ、私は役に立てませんでしたが、よかったですね」
「二人ともありがとー! わーい!」

 女の子は嬉しそうに風船を持って、たたた、と駆けていった。

 うん、いいことをすると気持ちがいい。

「ありがとうございました」

 ぺこり、と彼女が頭を下げた。

「私、八条はちじょうしずくといいます」
「夏瀬彼方だ……って、俺のことは知ってるんだっけ」
「ええ」

 俺たちはなんとなく一緒に通学路を歩き始めた。

「私、男の子と一緒に登校するなんて初めてです」

 八条がぽつりとつぶやいた。
 うん、俺もだ。

「なんだか、照れます」

 はにかんだ彼女の顔にドキッとする。

 地味な感じだけど、よく見るとかなり可愛い。
 美少女といってよかった。

 胸が甘酸っぱくときめく。
 異世界で何十年という人生を歩み、老人といえる年齢に達した俺だけど。
 こっちの世界で高校生に戻った影響か、気持ちまでその時分のものに変わり始めているような気がする。

 体だけでなく、心まで十代の若者に戻っていくような感覚──。

「どうかしました、夏瀬くん?」

 キョトンと首をかしげるその仕草も、いちいち可愛かった。
 やがて、俺たちは学校についた。

「では、私は三組なので」
「俺は五組だ。じゃあな」

 なんだか離れるのが名残惜しい。

「ええ、また──」

 ん? またってことは、これで終わりじゃないってことか。
 嬉しくなって振り返ると、靴箱の前に立ち尽くす八条の姿が見えた。

「ああ……」

 うめくような、彼女の声。
 その両肩がかすかに震えている。

 どうしたんだろう?
 俺は彼女の元へ歩み寄った。

「これは……!」

 俺は呆然と目を見開く。

 靴箱の中の八条の上履きは──。
 ズタズタに切り裂かれていた。



「なんだよ、これ……!」

 俺は怒りの声をもらした。

「な、夏瀬くん……!?」

 驚いたように振り返る八条。

「あ、悪い。様子が変だったから気になって」
「……気にしないでください」

 八条が寂しげに首を振った。

「私、よくこういうことをされるんです」
「まさか、いじめられてるってことか?」

 嫌な気分が込み上げた。

「貸してくれ」

 ズタズタになった八条の靴を手に取った。

 ──スキル【リペア】を取得。発動。

 これは僧侶系のスキルで、物質を修復することができる。
 淡い光に包まれた靴は、次の瞬間には傷一つない状態に直っていた。

「えっ? あれ……?」
「修理しておいたぞ」

 驚いたような八条に靴を返す俺。

「修理って、えっ、でも、あんなにズタズタに……」
「ほら、行くぞ」

 俺は八条を促した。

「行くって──」
「お前のクラス」

 おせっかいかな、と思いつつも、俺は言った。
 やっぱり見過ごせない。

「お前へのいじめをやめさせる」
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