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第1章 勇者の帰還

5 八条雫2

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「じゃあ、この問題を──夏瀬、解いてみろ」
「はい。連立不等式の上を(ⅰ)、下を(ⅱ)として、まず(ⅰ)から──」

 数学の教師に指名され、俺はよどみなく解答した。
 苦手だった数学もスラスラ解ける。

 魔法使い系のスキル【知力ブースト】を取得したのだ。
 勉強のほうは、だいたいこのスキルでこなせそうだった。

 体育に関しては戦士系のスキルがあるし、だいたい乗りきれそうだった。

 以前の俺は、勉強にせよスポーツにせよ人並み以下の劣等生。
 他の生徒たちから常に見下されてきた。
 いじめられていたこともあって、学校での生活自体が苦痛だった。

 だけど、これからは違うかもしれない。
 俺にも、楽しい学園生活ってやつが訪れるんだろうか──。



 その日はなにごともなく過ぎ去り、翌日。

 俺は昨日と同じく少し遠回りをして歩き、地道に経験値を稼いでいた。
 昨日からチョコチョコと貯めているおかげで、たぶん四つくらいならスキルを取得できるだろう。

 ちなみに現時点での俺のステータスはこんな感じだ。

───────────────────────────────────
 名前   :夏瀬彼方
 レベル  :3
 攻撃   :8
 防御   :6
 HP   :12
 MP   :9
 経験値  :82
 固有スキル:【経験値効率・極大】
 汎用スキル:【サーチ・レベル1】【近接格闘・レベル3】【知力ブースト・レベル1】
 基本ジョブ:【勇者】【戦士】【魔法使い】【僧侶】【武闘家】【暗殺者】【盗賊】
 EXジョブ:なし
───────────────────────────────────

 と、前方で泣き声が聞こえた。

「なんだ?」

 街路樹の側で小さな女の子が泣いていた。

「大丈夫。今おねーちゃんが風船を取ってあげますからね」

 高校生くらいの少女がそれを慰め、街路樹に向かって走り出す。

 十メートルくらいの高さの枝に、風船が引っかかっていた。
 なるほど、あれを取ってあげるつもりなのか。

 ててて。
 そんな可愛らしい走り方から、

「とうっ」

 助走をつけてジャンプする彼女。
 ぽてっ。

「うー、こけてしまいました」

 彼女は半泣きで起き上がり、ふたたび走り出した。

 ててて。
 ぽてっ。
 ててて。
 ぽてっ。
 ててて(以下略

「うううう……」

 どうも極端に不器用らしい。

「というか、ジャンプしても届かないだろ、たぶん」
「えっ」

 思わずつぶやくと、彼女が振り向いた。

 背中まであるセミロングの黒髪に、つぶらな瞳。
 おとなしげな顔立ちの女の子だった。
 濃紺のブレザーに赤いリボンタイ──俺と同じ九天きゅうてん高校の制服を着ている。

「夏瀬……くん?」
「ん、俺を知ってるのか?」
「中学のとき、同じクラスでしたから」
「そうなのか?」

 ということは、同い年か。

「あ、私、影が薄いから、あんまり認識されてないかも……です」
「あ、悪い……俺、人の顔とか覚えるの苦手で……」

 言って、俺は木を見上げた。

「あの高さは無謀じゃないか……?」
「で、でも、がんばれば届くかもしれませんっ」
「十メートルくらいあるし、やめとけって」
「だって、女の子が泣いてますし。放っておけないじゃないですか」

 言った彼女の顔は、やけに凛としていた。

「……泣いてる人を放っておけない、か」

 俺が異世界の勇者だったころ、口癖のように言っていた台詞。
 魔王軍に襲われている小さな村を助けに行こうとしたとき、何度か仲間に止められた。

 奴らはこう言った。

『そんな小さな村までいちいち救っていたらキリがない』
『見捨てていけばいい』
『俺たちには大義がある』
『犠牲は仕方ない』

 俺は納得がいかなくて、がむしゃらに戦ったっけ。
 今思えば、俺のそういうところが奴らには気に食わなかったのかもしれないな。

 ま、今のこの状況は、異世界のそれとは全然違うんだが。
 いたって平和なもんだ。

「うーん……スキルで取ってみるか」
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