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56.汝に問いかけーる!!
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カポーンと音が反響する大浴場は、この時間帯はさすがに空いている。外で衣服を洗っている奥さんが何人か居るくらいだ。
「入浴していきます?」
「いや、さすがにやめておこう」
キャーキャーと黄色い声を上げる彼女たちに手を振りかえし、エリック様はボイラー室から出る。
彼は汗を拭いながら感心したような、半ば呆れたような声音で率直な感想を言ってくれた。
「視察に来たのに風呂を勧められるとは思わなかった……これは城というより、もはや公共施設だな」
「あはは、私もそう思います。無駄に余ってる部屋ばかりなんで全然構わないんですけどね」
ここで真面目な顔つきをした勇者様は、本気で心配しているようにこう続けた。
「しかし魔王殿はこの城に住んでいるのだろう? さすがにここまでオープンな城だと警備面で不安はないか? これはさすがに……」
いい人だなぁ、魔王の心配をする勇者様なんて聞いたことがない。でもそんな優しい心を持ってるからこそ勇者様なのかな?
そう感じていると、私の後ろからひょっこり顔を出したライムが拗ねたように口を尖らせた。
「あーっ、ボクたちのこと平和ボケしてると思ってるー」
「いや、そういうつもりは」
侮辱してしまったと思ったのかエリック様は慌てて否定する。本気で怒っているわけではないライムはちょっとだけ笑って得意げに腰に手を当てた。
「このボクが居るんだから警備面もバッチリだよ、今から見せてあげる!」
***
この問題は私が以前ラスプに相談した事の一つだ。一言で言ってしまえば『立ち入り禁止エリアの設定』
施設と私たちの居住区である境目――つまり二階と三階の間に頑丈な柵でも付けようかと思っていたのだけど……現状、私たちの目の前、上層へ上がるための階段には、行く手を阻むように珍妙な扉が取り付けられている。
重厚感を感じさせるチョコレート色の扉に、城の内装にマッチしたノブ。ここまでは普通なのだが、ちょうど顔の高さに人の顔のような白いレリーフが一つ取り付けられている。美術館で見るようなギリシャ彫刻の顔だけ剥がして付けてみましたと言えばわかりやすいだろうか。
「じゃーん、これがボクとグリ兄ぃが共同開発した『なぞなぞ番人君』でーす」
「なぞなぞ? オレ好きっすよー」
はーい、と挙手するルシアン君を「まぁまぁ」と抑え、ライムは私の足元に居た赤い狼を押しやるようにそのドアの前へと移動させた。
「ただのなぞなぞじゃないんだ。ボクたち幹部とアキラ様しか知らないようなヒミツをこの顔に登録してあってね――」
『汝に問いかけーる!!』
突然クワッと目を開いたレリーフに、視察二人はビクッとする。番人君は怒濤の勢いでクイズを出題してきた。
『黒っぽいタンスの下から三段目、奥の白いシャツの中に隠すようにして入っているノート。その著者名と内容を述べよおおお!!』
……これ、ランダム出題って言ってなかったっけ。ピンポイントでその問いが、しかも勇者様たちが居るこの場で出るとか。
「……」
『くせ者め!!』
答えられず黙り込んでいたラスプの足元がバコッと下側に開く。赤色の狼は「死んでも言うかあぁぁぁぁっ」と叫びながら暗闇へと落ちていった。
「い、今、犬が喋らなかったか?」
「気のせいじゃないですかね! 空耳ですよ!!」
ごまかすように、慌てて今度は私が扉の前に立つ。番人君はまたもクワッと目を見開いたかと思うと次なる質問を叫んだ。
『我らが魔王アキラの朝食はライ麦パン七十二個とゆで卵四十八個から始まる! 〇か×か!!』
「失礼ね! そんなに食べるわけないじゃない、せいぜいその半分よ」
「え」
『本人と認める!! お通り下され!!』
ギギィーっとわずかに軋む音を立てて扉が自動で開かれた。この番人君はグリの魔術により『声』も識別可能であり、たとえ答えをしっていても私達以外の声で回答すると落下する仕組みになっている。その二つを組み合わせることによって、現代に負けず劣らずのセキュリティを実現することが可能となったのである!
「さ、どうぞ」
なぜか信じられないような目でこちらを見る勇者様に首を傾げながらも上へと導く。明らかなオーバーテクノロジーにびっくりしたのかな?
階段を上っていると、ルシアン君が設計担当に尋ねているのが後ろから聞こえてきた。
「いちおう、後学のために聞いておくんだけどさ、ぷー君どこに落ちたの?」
「? わかんない」
無邪気にケロッと答えたライムは、引きつる視察団なんてお構いなしに哀れな狼の末路を語ってみせた。
「あのダストシュートに落ちると、いったんお城の配管に放り込まれるんだ。途中で大きなタービンがあって、そこからランダムにどこかの管に放り込まれるからぷー兄ぃがどこに行ったかは知らない」
出口は色々あるよ~と楽しそうに笑う彼の言う通り、放り出される先は肥溜めだったり厨房のかまどだったり広間の暖炉だったりと地獄のような場所ばかりである。
大丈夫かな、ラスプ……。試運転で彼が(騙されて)実験台になったときは女湯の真上に出現して、入浴中だった女性陣にボコボコにされたんだよね。
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
手首です。わたくしは喋れませんので『番人君』のなぞなぞは免除して頂いてるのですが、代わりに…その…扉の前で特定のダンスを踊る事を強要されまして…
踊りますわよ!えぇ踊り狂ってやりますとも!!
「入浴していきます?」
「いや、さすがにやめておこう」
キャーキャーと黄色い声を上げる彼女たちに手を振りかえし、エリック様はボイラー室から出る。
彼は汗を拭いながら感心したような、半ば呆れたような声音で率直な感想を言ってくれた。
「視察に来たのに風呂を勧められるとは思わなかった……これは城というより、もはや公共施設だな」
「あはは、私もそう思います。無駄に余ってる部屋ばかりなんで全然構わないんですけどね」
ここで真面目な顔つきをした勇者様は、本気で心配しているようにこう続けた。
「しかし魔王殿はこの城に住んでいるのだろう? さすがにここまでオープンな城だと警備面で不安はないか? これはさすがに……」
いい人だなぁ、魔王の心配をする勇者様なんて聞いたことがない。でもそんな優しい心を持ってるからこそ勇者様なのかな?
そう感じていると、私の後ろからひょっこり顔を出したライムが拗ねたように口を尖らせた。
「あーっ、ボクたちのこと平和ボケしてると思ってるー」
「いや、そういうつもりは」
侮辱してしまったと思ったのかエリック様は慌てて否定する。本気で怒っているわけではないライムはちょっとだけ笑って得意げに腰に手を当てた。
「このボクが居るんだから警備面もバッチリだよ、今から見せてあげる!」
***
この問題は私が以前ラスプに相談した事の一つだ。一言で言ってしまえば『立ち入り禁止エリアの設定』
施設と私たちの居住区である境目――つまり二階と三階の間に頑丈な柵でも付けようかと思っていたのだけど……現状、私たちの目の前、上層へ上がるための階段には、行く手を阻むように珍妙な扉が取り付けられている。
重厚感を感じさせるチョコレート色の扉に、城の内装にマッチしたノブ。ここまでは普通なのだが、ちょうど顔の高さに人の顔のような白いレリーフが一つ取り付けられている。美術館で見るようなギリシャ彫刻の顔だけ剥がして付けてみましたと言えばわかりやすいだろうか。
「じゃーん、これがボクとグリ兄ぃが共同開発した『なぞなぞ番人君』でーす」
「なぞなぞ? オレ好きっすよー」
はーい、と挙手するルシアン君を「まぁまぁ」と抑え、ライムは私の足元に居た赤い狼を押しやるようにそのドアの前へと移動させた。
「ただのなぞなぞじゃないんだ。ボクたち幹部とアキラ様しか知らないようなヒミツをこの顔に登録してあってね――」
『汝に問いかけーる!!』
突然クワッと目を開いたレリーフに、視察二人はビクッとする。番人君は怒濤の勢いでクイズを出題してきた。
『黒っぽいタンスの下から三段目、奥の白いシャツの中に隠すようにして入っているノート。その著者名と内容を述べよおおお!!』
……これ、ランダム出題って言ってなかったっけ。ピンポイントでその問いが、しかも勇者様たちが居るこの場で出るとか。
「……」
『くせ者め!!』
答えられず黙り込んでいたラスプの足元がバコッと下側に開く。赤色の狼は「死んでも言うかあぁぁぁぁっ」と叫びながら暗闇へと落ちていった。
「い、今、犬が喋らなかったか?」
「気のせいじゃないですかね! 空耳ですよ!!」
ごまかすように、慌てて今度は私が扉の前に立つ。番人君はまたもクワッと目を見開いたかと思うと次なる質問を叫んだ。
『我らが魔王アキラの朝食はライ麦パン七十二個とゆで卵四十八個から始まる! 〇か×か!!』
「失礼ね! そんなに食べるわけないじゃない、せいぜいその半分よ」
「え」
『本人と認める!! お通り下され!!』
ギギィーっとわずかに軋む音を立てて扉が自動で開かれた。この番人君はグリの魔術により『声』も識別可能であり、たとえ答えをしっていても私達以外の声で回答すると落下する仕組みになっている。その二つを組み合わせることによって、現代に負けず劣らずのセキュリティを実現することが可能となったのである!
「さ、どうぞ」
なぜか信じられないような目でこちらを見る勇者様に首を傾げながらも上へと導く。明らかなオーバーテクノロジーにびっくりしたのかな?
階段を上っていると、ルシアン君が設計担当に尋ねているのが後ろから聞こえてきた。
「いちおう、後学のために聞いておくんだけどさ、ぷー君どこに落ちたの?」
「? わかんない」
無邪気にケロッと答えたライムは、引きつる視察団なんてお構いなしに哀れな狼の末路を語ってみせた。
「あのダストシュートに落ちると、いったんお城の配管に放り込まれるんだ。途中で大きなタービンがあって、そこからランダムにどこかの管に放り込まれるからぷー兄ぃがどこに行ったかは知らない」
出口は色々あるよ~と楽しそうに笑う彼の言う通り、放り出される先は肥溜めだったり厨房のかまどだったり広間の暖炉だったりと地獄のような場所ばかりである。
大丈夫かな、ラスプ……。試運転で彼が(騙されて)実験台になったときは女湯の真上に出現して、入浴中だった女性陣にボコボコにされたんだよね。
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
手首です。わたくしは喋れませんので『番人君』のなぞなぞは免除して頂いてるのですが、代わりに…その…扉の前で特定のダンスを踊る事を強要されまして…
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