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29.魔王が××属性って…
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暗い地下室がサァと溶けるように消え去る。気がつけば目の前には金色に広がる小麦畑がどこまでも広がっていて、どこか懐かしい土の匂いが鼻をくすぐる。波打つ穂たちをさらう風が美しい模様を描きながらどこまでも駆けて行く。誰かの笑いあう声が遠くから聞こえて、収穫の喜びと感謝が胸いっぱいに広がる。
(あぁ、私、知ってる、この光景はどこかで……)
そっと目を閉ざすと、より一層その世界を感じられる。むせ返るほど濃い土の薫り。ザザァと麦の穂同士が擦れ合う優しい音。暖かい陽の光が燦々と降り注いでいる。雨の恵みが大地に降り注ぎ、豊かな命を育んでいく。何千年、何万年と繰り返すサイクル――
ハッと気がついた時、景色は元居た薄暗い地下室へと戻っていた。今……のは
ふと見下ろした手の中の魔石は、黄金色に輝いていて――うん? 黄金色?
「なんか、闇属性じゃないっぽいんだけど」
石をつまみながら振り返ると、言葉を失った配下たちがそっくり同じような顔をして口を開けていた。一番最初に我に返ったらしいラスプがブッと噴き出し、こちらを指差しながらゲラゲラと笑い出した。
「土……っ、魔王が土属性っておまっ……ぶわーっはっは!!」
土? 土属性って な、なんだってぇぇぇ!?
土属性――それは『縁の下の力持ち』と言えば聞こえはいいが、地味で目立たず何かとネタにされがちな属性である。ゲームなどで敵キャラとして出てくる場合、やたらと体力が高いだけの肉壁役が多く、倒されても『ククク……奴は四天王の中でも最弱』『我らのツラ汚しよ』などと仲間から散々な言われようだったりする。
「わ、私が……その土属性?」
闇とか聖じゃないにしろ、せめて氷とか炎だと思っていたのに。ボーゼンと立ち尽くしていると、ライムが目を輝かせながら尊敬するようなまなざしを向けてきた。
「アキラ様、土属性? すっごーい、ボク初めて見たよ!」
「まぁ、レア属性ではあるよね」
え、そうなの? と、ちょっとだけ土属性に対する評価が上がったというのに、いまだお腹を抱えて笑ってるラスプが間髪入れず引き下げてくれる。
「ばっかお前、土っつったら有名なハズレ属性だよ。攻撃に向かねぇ・発動が遅い・そもそも土が無きゃ何にも出来ないってな」
「そんなぁ~」
憧れの魔法が使えると思ったのに、地味属性だなんて。がっくりうなだれていると妙な視線を感じた。顔をあげれば固い表情のルカがじっとこちらを見ている。その視線には今までになく戸惑った色が含まれていて……彼がこんな顔をするなんて珍しいと思いながらも声をかける。
「ルカ?」
ハッとした様子の右腕は、すぐにいつもの柔和な笑みを浮かべた。少しだけ傾けた首に細くて綺麗な金髪がサラリとかかる。
「お疲れ様でした。拒否反応もなく無事済んだようですね」
「その……ごめんね? 闇属性じゃなかったみたい」
誰よりも私を魔王に推していた彼がガッカリするんじゃないかと思って、おそるおそる謝る。するとルカはゆったり首を振りながらこう言ってくれた。
「何を謝ることがあるのですか、あなたという魔王の器が居てくれるだけでありがたいのです。魔導など付加価値に過ぎません」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。良かった、これで適正ナシって放り出されたらどうしようかと思った。
…………あれ? なんでちょっと安堵してるんだろ、それならそれで大人しく鏡の修理を待つだけでいいはずなのに。い、いやいやいや、これで良いんだ。一度始めた事だし、ある程度この国が形になるまで見届けるって決めたんだから!
「用件も済んだ事ですし、戻りましょう」
促されてみんなぞろぞろと引き上げ始める。足早にさっさと行ってしまうルカに違和感を覚えながらも石段に足をかけた時だった。
「うわっ」
ふいに背後から手を掴まれて引き戻される。振り向けばグリが私の左手首に何かを滑り込ませるところだった。
「あげる」
「え、ありがとう?」
なんで唐突にと思いながらも手首を掲げる。銀細工が美しい細身のブレスレットだ。小さな花が散りばめられていて全体的に主張しすぎないデザインなのが可愛い。だけど肝心の台座は空っぽだった。しげしげと見つめていると、グリは私が右手でつまみっぱなしにしていた魔石を取り上げ、カチリとその台座にはめ込んだ。
「こうしておけば、失くさないよ」
「おぉ~、なるほど!」
確かにこれだったらうっかり落とす心配もない。ブンブン振っても飛んでいかないみたいだし安心だ。
「でも、貰っていいの?」
良いデザインだし高そうなのになぁと思っていると、死神様はいつものようにゆるく笑った。灰色だとばかり思っていた目の色が、光の加減か銀のようにも見えて思わず目を奪われる。
「それ、おまじないが掛かってるって言ったら要らない?」
「おまじない?」
その色に見とれていた私は一瞬反応が遅れた。持ち上げられた手首に唇が寄せられ、軽い感覚が走る。綺麗に微笑んだグリはこちらをまっすぐに見下ろし、いつもとは少しだけ違う声で言った。
「俺の事だんだん好きになって、最終的に離れられなくなる魔法」
言葉の意味が理解できなくて、ぽかんと口をあけて固まってしまう。一度耳から入った言葉はぐるりと脳内を一巡りして、ボンッと爆発した。
「えっ、えぇっ!? あっ、ああぁぁぁあぁのあのっっ!!」
なっ、なに!? それっ、どういう意味!? だってこの人、早く出て行けとか言ってたし私のこと嫌いなんじゃなかったの!? めまぐるしく考えては意味をなさない声が口から漏れ出る。そんなこちらの様子がよっぽどおかしかったんだろう、彼はプッと笑ったかと思うと私の横をすり抜けて階段を上り始めた。
「じょうだん」
ポン、とすれ違いざまに頭に手を乗せて、わしゃわしゃと掻き乱すように撫でていく。今度こそカンペキに固まった私を置いて足音は上へと遠ざかっていった。
なんだったの、いまの。
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
ごきげんよう、手首です。ご主人様がやたらとチョコチョコ言いながら皆様の元へ駆け寄ってましたけど「問答無用で上司にチョコレートを献上する日」というイベントがあるらしいんですの。わたくしも用意しなければ
***
さて、まこ様よりお便りが届いておりますわね
「手首ちゃん手首ちゃん!!みんなの身長と誕生日が知りたいです!!」
誕生日はグランドマスター紗雪にお伺いしたところ、まだ決めてなっ…げふんげふん 次回までにわたくしが責任もって調査して参りますわ
身長はそうですね…グリ様が一番大きく、頭半分くらいの差をつけてラスプ様とルカ様――ラスプ様の方がほんの少しだけ高いかしら? そしてお二人の肩あたりのご主人様。ライム様はその胸辺りの高さですがまだ成長途中ですわね。
わたくしはまぁ――手ですから。いえ、別に、大きくなりたいとか思っていませんから
(あぁ、私、知ってる、この光景はどこかで……)
そっと目を閉ざすと、より一層その世界を感じられる。むせ返るほど濃い土の薫り。ザザァと麦の穂同士が擦れ合う優しい音。暖かい陽の光が燦々と降り注いでいる。雨の恵みが大地に降り注ぎ、豊かな命を育んでいく。何千年、何万年と繰り返すサイクル――
ハッと気がついた時、景色は元居た薄暗い地下室へと戻っていた。今……のは
ふと見下ろした手の中の魔石は、黄金色に輝いていて――うん? 黄金色?
「なんか、闇属性じゃないっぽいんだけど」
石をつまみながら振り返ると、言葉を失った配下たちがそっくり同じような顔をして口を開けていた。一番最初に我に返ったらしいラスプがブッと噴き出し、こちらを指差しながらゲラゲラと笑い出した。
「土……っ、魔王が土属性っておまっ……ぶわーっはっは!!」
土? 土属性って な、なんだってぇぇぇ!?
土属性――それは『縁の下の力持ち』と言えば聞こえはいいが、地味で目立たず何かとネタにされがちな属性である。ゲームなどで敵キャラとして出てくる場合、やたらと体力が高いだけの肉壁役が多く、倒されても『ククク……奴は四天王の中でも最弱』『我らのツラ汚しよ』などと仲間から散々な言われようだったりする。
「わ、私が……その土属性?」
闇とか聖じゃないにしろ、せめて氷とか炎だと思っていたのに。ボーゼンと立ち尽くしていると、ライムが目を輝かせながら尊敬するようなまなざしを向けてきた。
「アキラ様、土属性? すっごーい、ボク初めて見たよ!」
「まぁ、レア属性ではあるよね」
え、そうなの? と、ちょっとだけ土属性に対する評価が上がったというのに、いまだお腹を抱えて笑ってるラスプが間髪入れず引き下げてくれる。
「ばっかお前、土っつったら有名なハズレ属性だよ。攻撃に向かねぇ・発動が遅い・そもそも土が無きゃ何にも出来ないってな」
「そんなぁ~」
憧れの魔法が使えると思ったのに、地味属性だなんて。がっくりうなだれていると妙な視線を感じた。顔をあげれば固い表情のルカがじっとこちらを見ている。その視線には今までになく戸惑った色が含まれていて……彼がこんな顔をするなんて珍しいと思いながらも声をかける。
「ルカ?」
ハッとした様子の右腕は、すぐにいつもの柔和な笑みを浮かべた。少しだけ傾けた首に細くて綺麗な金髪がサラリとかかる。
「お疲れ様でした。拒否反応もなく無事済んだようですね」
「その……ごめんね? 闇属性じゃなかったみたい」
誰よりも私を魔王に推していた彼がガッカリするんじゃないかと思って、おそるおそる謝る。するとルカはゆったり首を振りながらこう言ってくれた。
「何を謝ることがあるのですか、あなたという魔王の器が居てくれるだけでありがたいのです。魔導など付加価値に過ぎません」
その言葉にホッと胸を撫で下ろす。良かった、これで適正ナシって放り出されたらどうしようかと思った。
…………あれ? なんでちょっと安堵してるんだろ、それならそれで大人しく鏡の修理を待つだけでいいはずなのに。い、いやいやいや、これで良いんだ。一度始めた事だし、ある程度この国が形になるまで見届けるって決めたんだから!
「用件も済んだ事ですし、戻りましょう」
促されてみんなぞろぞろと引き上げ始める。足早にさっさと行ってしまうルカに違和感を覚えながらも石段に足をかけた時だった。
「うわっ」
ふいに背後から手を掴まれて引き戻される。振り向けばグリが私の左手首に何かを滑り込ませるところだった。
「あげる」
「え、ありがとう?」
なんで唐突にと思いながらも手首を掲げる。銀細工が美しい細身のブレスレットだ。小さな花が散りばめられていて全体的に主張しすぎないデザインなのが可愛い。だけど肝心の台座は空っぽだった。しげしげと見つめていると、グリは私が右手でつまみっぱなしにしていた魔石を取り上げ、カチリとその台座にはめ込んだ。
「こうしておけば、失くさないよ」
「おぉ~、なるほど!」
確かにこれだったらうっかり落とす心配もない。ブンブン振っても飛んでいかないみたいだし安心だ。
「でも、貰っていいの?」
良いデザインだし高そうなのになぁと思っていると、死神様はいつものようにゆるく笑った。灰色だとばかり思っていた目の色が、光の加減か銀のようにも見えて思わず目を奪われる。
「それ、おまじないが掛かってるって言ったら要らない?」
「おまじない?」
その色に見とれていた私は一瞬反応が遅れた。持ち上げられた手首に唇が寄せられ、軽い感覚が走る。綺麗に微笑んだグリはこちらをまっすぐに見下ろし、いつもとは少しだけ違う声で言った。
「俺の事だんだん好きになって、最終的に離れられなくなる魔法」
言葉の意味が理解できなくて、ぽかんと口をあけて固まってしまう。一度耳から入った言葉はぐるりと脳内を一巡りして、ボンッと爆発した。
「えっ、えぇっ!? あっ、ああぁぁぁあぁのあのっっ!!」
なっ、なに!? それっ、どういう意味!? だってこの人、早く出て行けとか言ってたし私のこと嫌いなんじゃなかったの!? めまぐるしく考えては意味をなさない声が口から漏れ出る。そんなこちらの様子がよっぽどおかしかったんだろう、彼はプッと笑ったかと思うと私の横をすり抜けて階段を上り始めた。
「じょうだん」
ポン、とすれ違いざまに頭に手を乗せて、わしゃわしゃと掻き乱すように撫でていく。今度こそカンペキに固まった私を置いて足音は上へと遠ざかっていった。
なんだったの、いまの。
◇◆◇
【手首ちゃんの一言コーナー】
ごきげんよう、手首です。ご主人様がやたらとチョコチョコ言いながら皆様の元へ駆け寄ってましたけど「問答無用で上司にチョコレートを献上する日」というイベントがあるらしいんですの。わたくしも用意しなければ
***
さて、まこ様よりお便りが届いておりますわね
「手首ちゃん手首ちゃん!!みんなの身長と誕生日が知りたいです!!」
誕生日はグランドマスター紗雪にお伺いしたところ、まだ決めてなっ…げふんげふん 次回までにわたくしが責任もって調査して参りますわ
身長はそうですね…グリ様が一番大きく、頭半分くらいの差をつけてラスプ様とルカ様――ラスプ様の方がほんの少しだけ高いかしら? そしてお二人の肩あたりのご主人様。ライム様はその胸辺りの高さですがまだ成長途中ですわね。
わたくしはまぁ――手ですから。いえ、別に、大きくなりたいとか思っていませんから
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