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18.どうみても××です、本当にどうもありがとうございました。

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 ルカの提案に大きく頷く。わぁぁ、まさかこんな近くに人間が居るとは思わなかった! これは挨拶に行かなければ。

(こんにちは~今度お隣の魔王城に越してきました山野井あきらです。挨拶ってこんな感じでいいのかな? 引越し蕎麦とか持って行きたいけど、無理か)

 やっぱり第一印象が大切だよね、なんてご機嫌で考えていた私はワイバーン君の次の一言で凍りついた。

「じゃ、手前で降ろすッスよぉ」
「え、降ろすっていうか、落とすじゃ――」
「えー、料金は前払いでしたね。それじゃ毎度ありがとうございやした~」
「ぎゃあああ!!」

 ポイッと投げ捨てるように放り出される。当たり前だけどすぐに落下が始まった。平地がグングンと迫るのだけど、今回緩衝材になりそうなものは何も見当たらない。

「待って羊は!? クッションは!?」

 そう叫ぶと、ボムッと音がしてコウモリからヒト形体に戻ったルカが超絶いい笑顔で両手を広げる。

「さぁ主様、今こそ羽ばたくとき!」
「人に羽根無いから! 羽ばたけるのは合唱コンクールの歌詞の中だけ――案外余裕だな私!」

 ツッコミ死なんてさせないでよ!と大声でわめくと、クスッと笑ったルカは私を引き寄せる。空色の瞳で覗き込まれ、すでに暴れていた心臓が別の意味でバクンと跳ねた。

「ご命令を」

 充分楽しめたとでも言いたげな表情に苛立ちとやるせなさがこみ上げる。けれどもすぐに恐怖心が上回った。

「た、助けてっ」

 すがるようにそう言うと、ニコッと笑ったバンパイアは私の身体をしっかりと抱きしめた。

「かしこまりました」

 ぜっっったい、この人楽しんでる!

 それから先の事は一瞬だった。落ちていく恐怖に耐えられず、ルカにギュッと抱きつく。

「っ――?」

 ところがもうぶつかるだろうという段階になっても痛みは来ない。おそるおそる目を開けると、私たちを中心に風が渦巻いていた。

「う、わ」

 柔らかく地面に着地したかと思うと、風はしゅるりとほどけ茜色の空に溶けていく。あっけに取られて見つめてくる私の表情がよっぽどおかしかったのだろう、ルカは口元に手をあてるとかみ殺すような笑いを浮かべた。

「お怪我がなくて何よりです」
「すごい……! 今の魔法!?」

 歩き出した彼を追って、私も震えそうになる膝を何とか抑えて駆け出す。ルカが手を掲げると再びそこを中心にして風が舞う。春風のような優しい流れに私と彼の髪がふわりと浮いた。

「魔王様の右腕を名乗るからにはこのくらいできて当然ですよ。それに以前のあなたに比べれば私などまだまだ」
「前の私って、アキュイラ様のこと? すごかったんだ」

 生まれ変わり前だという彼女がどんな魔法を使っていたのか気になって聞いてみる。

「えぇ、生前のあなたは闇属性の魔導を操り、情けを乞う敵を容赦なくずぶずぶと奈落の底に引きずり込んでは……」
「あ、もういいです」
「他にも毒属性と精神に作用する術も得意としておりまして、それはもう惚れ惚れするような鮮やかな魔術構築を」
「いいってば!」

 たとえその記憶を取り戻したとしても絶対に使わないことを心に誓い、いつの間にかたどり着いていた村へと足を踏み入れる。

(ライムとグリがこの村に来てるって言ってたっけ。買い出しでもしてるのかな?)

 そう思いながら村のメインストリートをひょいと覗き込んだ私は絶句した。


「ほいさ ほいさ」
「ライム様~こっちにもおいしそうなもの、ありましたぁ」
「ホント? わぁいそれも持って帰ろ~」


 山のように積まれた食材の側で、我らが天使ライムが両手を掲げて喜んでいる。そしてそんな彼の元へどんどん食べ物を運び入れているのは大量のスライムたち。

「あぁ、あれが持っていかれたらこれから先どうやって生活していけば良いの……」
「シッ、聞こえたら大事だぞ!」
「ママー! お腹減ったよー!」

 道端には痩せこけた村人たちが悲壮感をにじませた表情で立ちつくしている。女の人たちは泣き崩れているし、子供達はワンワン大声をあげて泣いていて……


 どうみても略奪です、本当にどうもありがとうございました。


「こ、こらぁぁぁーっ!!!」
「あれっ、魔王様?」

 慌てて駆け寄ると、こちらに気付いたライムがトトトと駆け寄ってくる。彼は子供らしく両手を広げると満面の笑みで報告した。

「見てみて、すごいでしょ! こ~んなにいっぱい食材貰っちゃった! 今夜はご馳走だねっ、ぷー兄ぃにたっくさん作って貰おっ」
「それは貰ったって言わない! 勝手に村の食料を持ってっちゃダメじゃない!」

 そう言うとライムは指を口に当ててきょとんと首を傾げる。くっ、可愛いな……

「でもいつもお腹すいたって言ったら貰えるんだよ? どうぞ持っていって下さいって」

 無垢なその顔を見てズシリと頭が重くなる。たぶんライムは純粋におねだりしたんだろう。そしてその美少年の後ろに控える、大量のドロドロしたスライム達……

(あぁぁぁ! すみませんすみません)

 村人たちの心中を察しながら心の中で全力で謝る。とにかくこの場を収めるには――

「ひとまず持ってきたもの、ぜんぶ元に戻して来なさぁーい!!」
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