105 / 216
幕間2-カオス劇場・童話「茨姫」(後編)
しおりを挟む
茨に取り囲まれた城は気が遠くなるほどの時間、眠り続けます。そんなある日、近くの国の王子が通りかかりました。
「なんだ? ずいぶんと年季の入った城だな」
王子は \ぎゃあああルカ様ぁぁぁあ!!/\こっち向いてぇぇ/\キャアアア/\素敵ぃぃ/\私にもキスしてぇぇぇ!/ 『ルカ様』の演技が見たいのなら今すぐその口を閉じろ。
……よし。王子は城の近くに住む農夫を捕まえるとこう尋ねました。
「少し尋ねてもいいか、あの城はどうして茨に覆われているんだ?」
「あの城にはネー、呪いを掛けられタそれはそれは綺麗なお姫様ガ眠ってるんだってサー、あーどっこらどっこら。ところでお兄サン、ちょっと良いクスリあるんだけド」
「ありがとう、それだけ聞けば十分だ」
「あァん、殺生なァ」
うさん臭さ爆発の農夫を捨て置き、ルカ王子は噂の姫の姿を一目見てみようと城へと足を運ぶことにしました。ふぁ……
「百年眠り続けるという姫に一目逢わせてくれ!」
……茨が絡みつく門扉の前に王子が立つと、スルスルとほどけるように茨は道を開けます。腰につけた剣を油断なく抜き去った彼は、……油断なく城の中を進んでいきました。やがて尖塔のてっぺんにたどり着くと、…………静かに横たわり眠り続ける姫を、見つけました。
「なんて美しい姫なんだ。流れる髪は夜の紗のよう、透き通る肌は白雪のよう、まだあどけなさを残しながらもなんと高貴な顔立ちか」
「……」
(おい! ルカの野郎マジでやるつもりじゃないだろうな!)
(舞台袖から出ちゃダメだって~)
「その瞳に私を映して欲しいと思うのは過ぎたる願いだろうか。いいや、たとえ神が引き留めようとも、俺は貴女が欲しい」
(ルカ、振りだからね! する振りだけだからね!?)
(さて、どうしましょうか。やるからには何事も本気で取り組んだ方が良いと私は思うのですが)
(!! グリ、ナレーション!! 早く展開――)
zzz
(ここに来てかぁぁー!)
(神(ナレーション)が放棄したという事は、ここから先は演者のアドリブということですよね、お姫様)
(ちょっ、待)
「貴女は誰より美しい。誓おう、真実の愛をここに」
「……っ」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
zzz…… え、あ、なにごと。
「何者だ」
「え、えっと、それはこっちのセリフだ! そいつはオレ様が小さい頃から目をつけてたんだ!」
(何この展開!? みんな自由にやりすぎだって!)
んー? 何という事でしょう、悪の妖精ラプラプは百年間見守り続ける内にあきら姫に恋をしてしまったのです。
「ぶっ! 違うっ、オレはただ、そのっ、百年もかけた復讐をこんな形で邪魔されたくなかっただけだ!」
ちょうどその時です。カチリ、と時計の針が重なったような音が響き、百年の時が終わりを告げました。深い深い眠りからようやく目を覚ましましたあきら姫はゆっくりと身体を起こし口を開きます。
(何を言えって言うのよ!? 台本にないじゃないそんなのっ)
(主様、何でもいいです、舞台の流れを止めないようなセリフを)
(セリフ……セリフって言っても……。――考えろ、眠りから覚めたばかりの『あきら姫』はこの状況で何を思う?)
「、百年の復讐とは、どういうことですか?」
「え」
「知らぬうちに私があなたに何かしてしまったと言うのなら謝罪します。どうかわけを聞かせて頂けませんか。どんな悪事にも必ず理由がある、私はそう考えます」
……姫のまっすぐな問いかけに、ラプラプはポツリポツリと打ち明け始めました。姫が生まれた時に一人だけ仲間外れにされたこと、それに腹を立てて呪いをかけてしまったことを。
「なるほど、私の両親があなたにした仕打ちはわかりました、あなたのプライドを傷つけてしまったことは確かです。彼らに代わりこの場で謝罪いたしましょう」
「いや……オレも百年かけてようやく目が覚めた。無視されたからって呪い殺そうだなんてやりすぎだよな、しかもお前は関係ないのに八つ当たりだ」
「では百年の眠りで相殺ということで過去は水に流しましょう、その上で一つ提案します」
「?」
「私とお友達になりませんか」
「!」
「そちらの金髪の方も、妖精さんも、私にとってはこの場で初めてお会いする方です。私はまだあなた方の事を何も知らない、心の内に秘めている事もあるでしょう、ここからお互いに少しずつ歩み寄っていけたらと思うのです」
王子と妖精はしばらく考えた後、差し出された手を取りました。
「あきらと申します、これからよろしくお願いいたします」
そうして眠りから覚めた城を舞台として、王女は王子と妖精のイケメンサンドイッチで末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし めでたし
「ちょっと! 良い話っぽくまとめようとしたのに台無し!!」
パチパチパチ……
*終幕*
「ルカ」
「お疲れ様でした、いいアドリブだったと思いますよ。原作からはだいぶ逸れてしまいましたが、平和的なハッピーエンドになったと思いますし」
「あの時、どうしてほっぺにしたの?」
「口の方がよろしかったですか?」
「じゃなくてっ、だって―― っ!」
「主様に嫌われては叶いませんからね。『ここ』のお許しが出るまでは、頬や髪で我慢します」
「~~~っ」
「その衣装、よくお似合いですよ。では」
「……………………あんな仕草がサマになるんだから、ずるい、よなぁ」
*
「グリ兄ぃさ、ホントは起きてたでしょ」
「なんのはなし?」
「ボク知ってるんだからね、ねぇなんで?」
「……ぷー君の性格考えたら後先考えずに飛び出しただろうし、ルカなら口にはしないって分かってたから、少なくとも今は」
「それで、成り行きに任せたわけだ」
「あらかじめ決められたシナリオより、そっちのがおもしろいでしょ?」
*
「はぁぁ~……なぁ、ドクター」
「ゲコ?」
「やっぱオレ、どっか悪いのかな」
(いくら医者でも、恋の病は治せないゲロ)
『ドク殿~! ドク殿~!! 我が輩の演技もなかなかの物だったであろう!!!』
+++
【今回の配役表】
ナレーション:グリ
茨姫:あきら
王子:ルカ
良い妖精:ライム
悪い妖精:ラスプ
王様:フルアーマー
お后様:ドク先生
農夫:ペロ
「なんだ? ずいぶんと年季の入った城だな」
王子は \ぎゃあああルカ様ぁぁぁあ!!/\こっち向いてぇぇ/\キャアアア/\素敵ぃぃ/\私にもキスしてぇぇぇ!/ 『ルカ様』の演技が見たいのなら今すぐその口を閉じろ。
……よし。王子は城の近くに住む農夫を捕まえるとこう尋ねました。
「少し尋ねてもいいか、あの城はどうして茨に覆われているんだ?」
「あの城にはネー、呪いを掛けられタそれはそれは綺麗なお姫様ガ眠ってるんだってサー、あーどっこらどっこら。ところでお兄サン、ちょっと良いクスリあるんだけド」
「ありがとう、それだけ聞けば十分だ」
「あァん、殺生なァ」
うさん臭さ爆発の農夫を捨て置き、ルカ王子は噂の姫の姿を一目見てみようと城へと足を運ぶことにしました。ふぁ……
「百年眠り続けるという姫に一目逢わせてくれ!」
……茨が絡みつく門扉の前に王子が立つと、スルスルとほどけるように茨は道を開けます。腰につけた剣を油断なく抜き去った彼は、……油断なく城の中を進んでいきました。やがて尖塔のてっぺんにたどり着くと、…………静かに横たわり眠り続ける姫を、見つけました。
「なんて美しい姫なんだ。流れる髪は夜の紗のよう、透き通る肌は白雪のよう、まだあどけなさを残しながらもなんと高貴な顔立ちか」
「……」
(おい! ルカの野郎マジでやるつもりじゃないだろうな!)
(舞台袖から出ちゃダメだって~)
「その瞳に私を映して欲しいと思うのは過ぎたる願いだろうか。いいや、たとえ神が引き留めようとも、俺は貴女が欲しい」
(ルカ、振りだからね! する振りだけだからね!?)
(さて、どうしましょうか。やるからには何事も本気で取り組んだ方が良いと私は思うのですが)
(!! グリ、ナレーション!! 早く展開――)
zzz
(ここに来てかぁぁー!)
(神(ナレーション)が放棄したという事は、ここから先は演者のアドリブということですよね、お姫様)
(ちょっ、待)
「貴女は誰より美しい。誓おう、真実の愛をここに」
「……っ」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!」
zzz…… え、あ、なにごと。
「何者だ」
「え、えっと、それはこっちのセリフだ! そいつはオレ様が小さい頃から目をつけてたんだ!」
(何この展開!? みんな自由にやりすぎだって!)
んー? 何という事でしょう、悪の妖精ラプラプは百年間見守り続ける内にあきら姫に恋をしてしまったのです。
「ぶっ! 違うっ、オレはただ、そのっ、百年もかけた復讐をこんな形で邪魔されたくなかっただけだ!」
ちょうどその時です。カチリ、と時計の針が重なったような音が響き、百年の時が終わりを告げました。深い深い眠りからようやく目を覚ましましたあきら姫はゆっくりと身体を起こし口を開きます。
(何を言えって言うのよ!? 台本にないじゃないそんなのっ)
(主様、何でもいいです、舞台の流れを止めないようなセリフを)
(セリフ……セリフって言っても……。――考えろ、眠りから覚めたばかりの『あきら姫』はこの状況で何を思う?)
「、百年の復讐とは、どういうことですか?」
「え」
「知らぬうちに私があなたに何かしてしまったと言うのなら謝罪します。どうかわけを聞かせて頂けませんか。どんな悪事にも必ず理由がある、私はそう考えます」
……姫のまっすぐな問いかけに、ラプラプはポツリポツリと打ち明け始めました。姫が生まれた時に一人だけ仲間外れにされたこと、それに腹を立てて呪いをかけてしまったことを。
「なるほど、私の両親があなたにした仕打ちはわかりました、あなたのプライドを傷つけてしまったことは確かです。彼らに代わりこの場で謝罪いたしましょう」
「いや……オレも百年かけてようやく目が覚めた。無視されたからって呪い殺そうだなんてやりすぎだよな、しかもお前は関係ないのに八つ当たりだ」
「では百年の眠りで相殺ということで過去は水に流しましょう、その上で一つ提案します」
「?」
「私とお友達になりませんか」
「!」
「そちらの金髪の方も、妖精さんも、私にとってはこの場で初めてお会いする方です。私はまだあなた方の事を何も知らない、心の内に秘めている事もあるでしょう、ここからお互いに少しずつ歩み寄っていけたらと思うのです」
王子と妖精はしばらく考えた後、差し出された手を取りました。
「あきらと申します、これからよろしくお願いいたします」
そうして眠りから覚めた城を舞台として、王女は王子と妖精のイケメンサンドイッチで末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし めでたし
「ちょっと! 良い話っぽくまとめようとしたのに台無し!!」
パチパチパチ……
*終幕*
「ルカ」
「お疲れ様でした、いいアドリブだったと思いますよ。原作からはだいぶ逸れてしまいましたが、平和的なハッピーエンドになったと思いますし」
「あの時、どうしてほっぺにしたの?」
「口の方がよろしかったですか?」
「じゃなくてっ、だって―― っ!」
「主様に嫌われては叶いませんからね。『ここ』のお許しが出るまでは、頬や髪で我慢します」
「~~~っ」
「その衣装、よくお似合いですよ。では」
「……………………あんな仕草がサマになるんだから、ずるい、よなぁ」
*
「グリ兄ぃさ、ホントは起きてたでしょ」
「なんのはなし?」
「ボク知ってるんだからね、ねぇなんで?」
「……ぷー君の性格考えたら後先考えずに飛び出しただろうし、ルカなら口にはしないって分かってたから、少なくとも今は」
「それで、成り行きに任せたわけだ」
「あらかじめ決められたシナリオより、そっちのがおもしろいでしょ?」
*
「はぁぁ~……なぁ、ドクター」
「ゲコ?」
「やっぱオレ、どっか悪いのかな」
(いくら医者でも、恋の病は治せないゲロ)
『ドク殿~! ドク殿~!! 我が輩の演技もなかなかの物だったであろう!!!』
+++
【今回の配役表】
ナレーション:グリ
茨姫:あきら
王子:ルカ
良い妖精:ライム
悪い妖精:ラスプ
王様:フルアーマー
お后様:ドク先生
農夫:ペロ
0
お気に入りに追加
476
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる