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8-淫靡テーション
88.少女、挑発する。
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軽い音が響き、オズワルドが居た箇所に着弾する。じゅわ、と微かな煙が消えた後には、正体不明の液体がじゅうたんを通り越して床にまで穴を開けていた。その毒々しい紫に総毛が立つ。
「はははっ、見たか! これが魔女協会が新しく開発したっていう新銃『ディザイア』の威力――」
「ちょっとッ!!」
うっかり口を滑らせた職員の男を、横の女が叩いて止める。だがオズワルドはその言葉をしっかりと聞いていた。頭の回転の早さを遺憾なく発揮する。
「なるほど、魔女協会が俺に作らせようとしたのはこれか」
見たところその銃は引き金を引くだけで『魔力を含んだ何か』を発射できるらしい。どういう仕組みだろう? こんな場面にも関わらず好奇心が首をもたげた。ザッと足元を踏みしめたオズワルドは隣のニチカに短く告げる。
「ニチカ、あの武器奪うぞ」
「わーかってるわよぉ、あんな物騒なモン放置できるわけないもんね」
杖をグッと握り締めた弟子と共に、男は駆けだした。
***
決着はあっけないほど簡単についた。ニチカが派手な広範囲の光魔法を撃ち、職員の二人が目をくらませている間に背後から忍び寄る。そしてそこらへんに転がっていた燭台と杖でそれぞれブン殴って終わり。二人を荒縄で縛り転がしたオズワルドは、床に落ちていた『ディザイア』と呼ばれた武器を手にとった。重さはそこまでない。職員の男が手にしていたのを真似て構えてみる。試しに引き金を引いてみるがカチンと虚しい音が響いただけで何も飛び出さなかった。
「ちょっと、私に向けないでよ!」
引きつるニチカにも持たせてみるが、やはり反応はなかった。明らかに魔関係の武器ではありそうなのだが……魔力を糧にしているわけではなさそうだ。何か起動するための条件があるのだろうか? 目を回している職員を見下ろしながらオズワルドはつぶやく。
「コイツら起こして聞いてみるか?」
「……強く殴りすぎたかも、全然起きなさそうだよ」
どうして治癒のようなポピュラーな回復魔法がこの世界にはないのだろうかと、少女は疑問に思いながら床に目を移す。撃ちだされた紫の液体は、今はもう蒸発して穴を残すだけになっていた。見上げればいまだ煌々と輝く『えっちぃの』がそびえたっている。これも早めに破壊しなければ。その重労働を思ったニチカは軽い溜息をつきながら言った。
「この銃、魔女協会が開発したって言ってたけど、魔水晶とセットでここにあったってことはファントムも関わってるのかな」
「可能性はあるんじゃないか」
「だとしたらいつの間に魔女協会と組んでいたんだろう」
それからしばし手の中のディザイアをじっと見つめていた少女は、それを師匠にグッと押し返しながら口を開く。
「何、考えてるんだろう」
「?」
「こんな混乱引き起こすような物作るなんて……許せないよ」
間違いなくこれは悪い物だ。しかもマモノ達を凶暴化させている闇のマナを利用している。ところが非難めいた視線を銃に向ける少女を、師匠はバッサリ切り捨てた。
「だからお前は単細胞だっていうんだ」
「んなっ……」
久しぶりの暴言に顔を上げると、オズワルドは銃を見分しながら淡々と言った。
「こういう武器が現れたとなれば必ず対抗する防具も出てくる。上手く利用すればか弱い者がマモノから身を守るのにも使える。どちらにせよこの武器の出現はこの大陸全土の技術を底上げするだろう。そういう観点では喜ぶべきことだと俺は思うけどな」
「でも、悪いものかもしれないじゃない。使ったら呪われるとか」
「そんなものどうとでもなる。製作者の意図なんか無視するために俺みたいな魔女が居るんだ」
口を開いたニチカは、反論しようとパクパクしていた。だが、だしぬけにニヤッと笑う。今の言葉を聞いて反撃の方向性を変えることにしたのだ。
「そう、ね。そういう考え方もあるかもしれないわね。逆に利用してやろうって魂胆なんだ」
「あぁ」
「なら当然あなたが作るんでしょ? その対策とやらを」
「は?」
オズワルドは、とりあえずこれを改造してより強化された武器でも作ろうと目論んでいたのだが、妙な話の飛びっぷりに思わず振り返る。視線の先の少女は不敵な笑みを浮かべていた。
「そこまで大口叩くのなら、対策を考えるくらい余裕なんじゃない?」
「ばか、そんなもの他のヒマな魔女に任せとけ」
「作れないんだ?」
ピクッと男の肩が跳ねる。よし、もう一押し。
「ふーん、世紀の天才魔女オズワルド様が、こんな未知の武器ぐらいに負けるんだ。へぇぇぇぇ」
そこまで言ってギクリとする。ツカツカと寄ってきた男が目の前に立ったのだ。スッと額の前に指を構えられニチカは目を閉じる。
(調子に乗りすぎた……ッ!)
だがいつまでたってもデコピンが飛んでこない。恐る恐る目をあけると、いつもの意地悪そうな目をした師匠が口の端をつり上げて笑っていた。
「俺を挑発しようなんて百万年早い。と、言いたいところだが、その度胸に免じて今回だけは許してやろう。無効化する方法も考えてやるよ」
それだけ言うとまた背を向けてしまう。ニチカはしばらく呆気にとられていたが、想像以上の成果に次第に喜びが沸き上がってくる。おもわずその背中を掴んでぐいぐいと引っ張った。
「ねぇっ、今のほんと? 聞き間違いじゃなくて!?」
「うるさいひっつくな、さっさと魔水晶を破壊するぞ」
らしくない選択をしたせいか、オズワルドはきまり悪げにそっぽを向いていた。その横顔を見たニチカは顔が綻ぶのを止められなかった。オズワルドもまた、ニチカに影響されているのだ。
(あの時誓ったもんね。あなたには世界を救うだけの力がある。それを証明してみせるって)
破壊の魔女から救いの魔女へ。今がその分岐点の一歩であって欲しい。そう願った。
「はははっ、見たか! これが魔女協会が新しく開発したっていう新銃『ディザイア』の威力――」
「ちょっとッ!!」
うっかり口を滑らせた職員の男を、横の女が叩いて止める。だがオズワルドはその言葉をしっかりと聞いていた。頭の回転の早さを遺憾なく発揮する。
「なるほど、魔女協会が俺に作らせようとしたのはこれか」
見たところその銃は引き金を引くだけで『魔力を含んだ何か』を発射できるらしい。どういう仕組みだろう? こんな場面にも関わらず好奇心が首をもたげた。ザッと足元を踏みしめたオズワルドは隣のニチカに短く告げる。
「ニチカ、あの武器奪うぞ」
「わーかってるわよぉ、あんな物騒なモン放置できるわけないもんね」
杖をグッと握り締めた弟子と共に、男は駆けだした。
***
決着はあっけないほど簡単についた。ニチカが派手な広範囲の光魔法を撃ち、職員の二人が目をくらませている間に背後から忍び寄る。そしてそこらへんに転がっていた燭台と杖でそれぞれブン殴って終わり。二人を荒縄で縛り転がしたオズワルドは、床に落ちていた『ディザイア』と呼ばれた武器を手にとった。重さはそこまでない。職員の男が手にしていたのを真似て構えてみる。試しに引き金を引いてみるがカチンと虚しい音が響いただけで何も飛び出さなかった。
「ちょっと、私に向けないでよ!」
引きつるニチカにも持たせてみるが、やはり反応はなかった。明らかに魔関係の武器ではありそうなのだが……魔力を糧にしているわけではなさそうだ。何か起動するための条件があるのだろうか? 目を回している職員を見下ろしながらオズワルドはつぶやく。
「コイツら起こして聞いてみるか?」
「……強く殴りすぎたかも、全然起きなさそうだよ」
どうして治癒のようなポピュラーな回復魔法がこの世界にはないのだろうかと、少女は疑問に思いながら床に目を移す。撃ちだされた紫の液体は、今はもう蒸発して穴を残すだけになっていた。見上げればいまだ煌々と輝く『えっちぃの』がそびえたっている。これも早めに破壊しなければ。その重労働を思ったニチカは軽い溜息をつきながら言った。
「この銃、魔女協会が開発したって言ってたけど、魔水晶とセットでここにあったってことはファントムも関わってるのかな」
「可能性はあるんじゃないか」
「だとしたらいつの間に魔女協会と組んでいたんだろう」
それからしばし手の中のディザイアをじっと見つめていた少女は、それを師匠にグッと押し返しながら口を開く。
「何、考えてるんだろう」
「?」
「こんな混乱引き起こすような物作るなんて……許せないよ」
間違いなくこれは悪い物だ。しかもマモノ達を凶暴化させている闇のマナを利用している。ところが非難めいた視線を銃に向ける少女を、師匠はバッサリ切り捨てた。
「だからお前は単細胞だっていうんだ」
「んなっ……」
久しぶりの暴言に顔を上げると、オズワルドは銃を見分しながら淡々と言った。
「こういう武器が現れたとなれば必ず対抗する防具も出てくる。上手く利用すればか弱い者がマモノから身を守るのにも使える。どちらにせよこの武器の出現はこの大陸全土の技術を底上げするだろう。そういう観点では喜ぶべきことだと俺は思うけどな」
「でも、悪いものかもしれないじゃない。使ったら呪われるとか」
「そんなものどうとでもなる。製作者の意図なんか無視するために俺みたいな魔女が居るんだ」
口を開いたニチカは、反論しようとパクパクしていた。だが、だしぬけにニヤッと笑う。今の言葉を聞いて反撃の方向性を変えることにしたのだ。
「そう、ね。そういう考え方もあるかもしれないわね。逆に利用してやろうって魂胆なんだ」
「あぁ」
「なら当然あなたが作るんでしょ? その対策とやらを」
「は?」
オズワルドは、とりあえずこれを改造してより強化された武器でも作ろうと目論んでいたのだが、妙な話の飛びっぷりに思わず振り返る。視線の先の少女は不敵な笑みを浮かべていた。
「そこまで大口叩くのなら、対策を考えるくらい余裕なんじゃない?」
「ばか、そんなもの他のヒマな魔女に任せとけ」
「作れないんだ?」
ピクッと男の肩が跳ねる。よし、もう一押し。
「ふーん、世紀の天才魔女オズワルド様が、こんな未知の武器ぐらいに負けるんだ。へぇぇぇぇ」
そこまで言ってギクリとする。ツカツカと寄ってきた男が目の前に立ったのだ。スッと額の前に指を構えられニチカは目を閉じる。
(調子に乗りすぎた……ッ!)
だがいつまでたってもデコピンが飛んでこない。恐る恐る目をあけると、いつもの意地悪そうな目をした師匠が口の端をつり上げて笑っていた。
「俺を挑発しようなんて百万年早い。と、言いたいところだが、その度胸に免じて今回だけは許してやろう。無効化する方法も考えてやるよ」
それだけ言うとまた背を向けてしまう。ニチカはしばらく呆気にとられていたが、想像以上の成果に次第に喜びが沸き上がってくる。おもわずその背中を掴んでぐいぐいと引っ張った。
「ねぇっ、今のほんと? 聞き間違いじゃなくて!?」
「うるさいひっつくな、さっさと魔水晶を破壊するぞ」
らしくない選択をしたせいか、オズワルドはきまり悪げにそっぽを向いていた。その横顔を見たニチカは顔が綻ぶのを止められなかった。オズワルドもまた、ニチカに影響されているのだ。
(あの時誓ったもんね。あなたには世界を救うだけの力がある。それを証明してみせるって)
破壊の魔女から救いの魔女へ。今がその分岐点の一歩であって欲しい。そう願った。
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