異世界執事

伊簑木サイ

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第八章 そして二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。(R18バージョン)

反省して

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 八島さんは居間で、私を抱いたまま自分の椅子に座った。この状態でお話しするのは、非常に良くない。八島さんの膝の上は、とにかく座り心地抜群なのだ。はにゃーんとなって、うやむやにされてしまう恐れがある。

「私、自分の椅子に」
「ようやく戻ってきてくださった千世様と、今は離れたくないのです。千世様はお嫌ですか?」

 と、愁う瞳で頬を指の背で撫でられながら言われたら、頭に浮かんでいた次の言葉は、ぱふんと霧散してしまった。かわりに、ぼふんと顔が熱くなる。
 どうしてこの人、口にする言葉が、どれもこれも口説き文句なのかな!? 心臓がばくばくしちゃって、もう、うまく頭がまわらないよ!
 ううん、それじゃダメダメ、しゃんとしてお話ししないと!
 八島さんの手を押しのけ、彼の膝の上でバランスを取って背筋を伸ばす。きりっと話し掛けようと彼を見れば、同じぐらいの目線の高さで愛し気に見つめられて、……っ、うわぁん、やっぱり、無理無理、体の奥がきゅんときたー! 八島さんたら、色気ダダ漏れすぎるんですー!!

「もう、目をつぶっててください!」

 八島さんは、一つ瞬きして私の真意を見定めると、言われるがまま目を閉じた。

「これでよろしいですか?」

 すっと通った鼻梁に、なめらかな頬。芸術的な線を描く眉の下で、長いまつげが綺麗に並び、唇は閉じられてても魅惑を振り撒く。
 私は八島さんの顔をまじまじと見つめて、頬を赤らめた。少女漫画で、目をつぶった女の子にキスしたくなる男の子の気持ちがよくわかった。だって、唇が誘ってる!

「千世様?」

 目をつぶったまま呼びかけられて、そーっと近づきかけてた私は、びくっとした。キスしようなんて思ってませんでしたよ! ただ、目をつぶってる八島さんなんて珍しいから、もっとよく見たいって思っただけです、本当です!!

「えーっと、なんだっけ、……そうだ、萌黄さんが言ってた、私が取り返しのつかないことをするって、どういうことですか?」
「千世様がお気になさるようなことではないのです」
「でも、萌黄さんは怒ってた、……ううん、困ってました、よね。八島さん、教えてくれるって言いましたよ」
「もちろんお教えします。お約束いたしましたから」

 八島さんが目を開けないままに、ふわりと笑んだ。んんんわああああ。やっぱり素敵、イケメンだ。
 ……何だろう、相手が目をつぶってると、いけない気持ちになってくる。見られてなくて安心っていうか、隙につけこみたくなるっていうか。……ちゅってしたい。

「千世様?」
「はい、ちゃんと聞いてます!」
「ではご説明いたします。あの泣き言は、あれもまた千世様の言霊に縛られているというだけのことなのでございます」

 ああ、うん、そうだよね。そのつもりで、私の大切なものや私自身に、危害をくわえないでと言ったのだから。
 悪いことしたいのにできないと言うなら、そんなの自業自得だ。でも、なんか違うこと言ってた気がする。お詩さんとイチャイチャしてる途中で、呼び出されるとかなんとか。
 んんん? あれ?

「……もしかして、萌黄さん、カイちゃんが危なくなると、助けてくれてたんですか?」
「はい」
「カイちゃんが助けを呼んでも来てくれてたんですか? はー。見かけによらず、親切なかただったんですねぇ」
「いいえ、千世様の言霊が働いただけでございます。あれの意志ではございません」
「え? それって大変なことなんじゃ」
「あれも『  』種の端くれ、あの程度のこと大変などと申したら、名折れでございましょう。ですから、千世様のお気になさるようなことではないと申し上げたのです」

 八島さんは、にっこりと極上の笑みを浮かべた。
 ええええ!? でも、萌黄さんは、とにかく私が大切だと思うものに危険が迫ると、自動的に呼び出されて、助けなければならなくなってるってことなんだよね!?

「わ、私、そこまで求めてないですよ!?」
「言霊とは、どう考えたかは問題ではないのです。文言どおりに事が成る、そういうものなのです」
「じゃあ、言い直した方がいいですね。ええと、今度はどう言えばうまくいくんでしょう?」
「おやめになった方がよろしいかと。千世様の言霊は、誠に強力でございます。その場限りのものではなく、世界に刻み込まれて、ことわりとなるほどでございますから。
 千世様が言霊を重ねるは、理を重ねるに等しきこと。相反する作用が同時に起こった時、言霊に縛られた体は引き裂かれるやもしれません」
「八島さんはっ? 八島さんは大丈夫なんですか!?」

 ざっと血の気が引いた。私、八島さんと一番いっぱい約束してるはずだ。もう、一つ一つを覚えていないほど、小さなものから大きなものまで。

「大丈夫でございます。私と永遠を共にしてくださること、そのためのお約束しかなさってません故」
「よかった……。何気なく口にしたことで、八島さんを危ない目にあわせてしまったかと……。これからは、気を付けてお話ししないといけないですね」
「千世様は未だ天仙の位階でございますので、すべての言の葉が言霊として働くわけではございません。どうぞお気を楽になさってください。
 なにより、私は千世様のお声を一つでも多く耳にしたい。どうかその機会を私から奪わないでくださいませ」

 八島さんは目をつぶったまま、切々と訴えた。うわああああ。またドキドキして転げまわりたくなるようなことを!
 八島さんの凶悪なところは、慰めで言ってるんじゃなく、本心から言ってるところだよね。……それこそ言の葉だけで、心と同じくらい体が熱くなってしまうほど。

「お約束は果たしました。千世様、口づけても?」

 毎回こうして聞かれるのは恥ずかしい。でも、じゃあ、「約束は果たしたぜ、いいだろ?」なんて、どこかの漫画みたいな俺様口調で言われたら、私、むっとするに違いない。
 私の気持ちをちゃんと聞いてくれるのは、嬉しくもあるのだ。

「……はい」

 彼が前のめりになって近付いたかと思うと、狙いあやまたず唇に、ちゅっとキスをした。すぐに離れた八島さんの目は閉じられたまま。電流みたいに奔った気持ちよさに、は、と吐息が漏れる。
 物足りない。お腹の底がむずむずする。もっと欲しいって、唇が、心が、体が疼いてしまう。
 もう一度、八島さんがキスをしてくる。今度は口を開けて、それを受け入れた。舌を絡めて、愛撫に応える。ちゅ、くちゅ、て音がした。表面を全部舐められて、下にも入れられて、柔らかいところをつつかれて、あんまり気持ちよくて、くらりとする。
 体が熱くなって、力が抜けて、ただただ八島さんの腕に体を預けてしまう。背筋をつっと撫でられ、仰け反った胸元のボタンを、ふつりとはずされた。その間もキスはまなくて、八島さんと舌を絡め続けて。
 やがて、ぱつんとブラのホックがはずされて、圧迫感がなくなり、するすると彼の手が肌を這って、下着もブラウスも落とされた。

「千世様」

 唇が離れ、力強く腰を引き寄せられる。向かい合わせに彼の腿に乗せられて、膝が割れて彼の上にまたがった。さらりと髪を揺らして彼が屈み、私の胸に吸い付く。

「あんっ、あ、あ……」

 しっかり背を抱かれ、強く舌で押されて頂を転がされた。たまらなくて、声をあげて悶える。気持ちいい。ざわざわと肌の下を快感がさざ波になって体中に広がっていく。八島さんの首に手をまわしてしがみついて、高く甘く啼き続けた。
 自分で出してる声がすごく淫らで、感じてるって、欲情してるって、言ってる。耳を覆いたくなるような声なのに、あなたで感じてるって、知ってほしいって、そうも思う。

「八島さん……っ」
「はい、千世様。今日はどうされたいですか? ゆっくりと高めてあますところなく蕩けるようにいたしましょうか、それとも、性急に激しく交わり快楽の波で攫いましょうか?」
「あ、も、焦らされるの、やぁ……」
「お心のままに」

 軽く優しくキスをされて、しっかり抱かれたまま立ったと思ったら、くるりと体をまわされ、ソファに膝をついていた。座面が重みで沈んで、バランスを崩し、すぐ前にある背もたれに手をつく。

「八島さ、んっ、あ……」

 すぐに後ろから首筋を舐められ、左の胸を揉まれた。腿がさすられ、スカートの裾をめくりあげて入ってきた手が、ショーツを脱がしていく。

「あああああんっ」

 背中の弱いところちろちろと舐められて、一瞬、頭の中が白くなった。腕ががくがくして、体を倒して背もたれにもたれて爪を立てる。お腹の奥がぎゅっと締まり、熱く滴るのがわかった。
 そこへ、指が触れてきた。初めは慣らすように浅く行き来し、すぐに奥まで入ってくる。中で角度が変わって引っ掻かれたとたん、じゅわって快感が弾けて、どうしようもなくて嬌声をあげた。

「ああっ、ああっ、ああっ、ああっ」

 八島さんが快楽を刻むとおりに、声をあげる。どんどん気持ちよさが腰にたまっていく。自分がどうなってるのかわからなかった。ただ気持ちいいところへ腰を突き出し、八島さんの唇と指と体温を拾う。
 背中を滑る唇が気持ちいい。胸を愛撫する指が気持ちいい。うねる中を行き来する指を、形がわかるほどに締め付けた。
 頭がおかしくなりそうに気持ちいいのに、これだけじゃいけないってわかる。ううん、これでいきたくないって思う。もっと隙間がないほどいっぱいにして、奥の奥まで入れてほしい。こんな離れた体勢じゃなくて、肌を重ねて抱きしめてほしい。

「あ、あ、八島さんっ」

 指が引き抜かれ、ズズ、と大きなものが入ってくる。指だけじゃ得られなかった充足感と幸福感に、お腹の中がもっと熱くなった。
 体を抱きしめられ、素肌が触れあい、耳朶にちゅっとキスされる。

「う、ん、ん、あ、あ……」

 ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり入ってきて、押し広げられる感覚に悶える。
 でも。ぐ、と奥に当たったところで一転、ずるっと抜き出され、ずん、と強く突きあげられた。

「やああああっ」

 ずん、ずん、ずん、ずん、と打ち付けられるたび、穿たれた場所がきゅっと締まっては八島さんのものにすがりつく。腰が快感で熱く蕩けきる。あまりに気持ちよくて、悲鳴を上げて、我を忘れて頭を振った。逃せきれない快楽に、どんどん押し上げられいって、真っ白く膨張していって、それで。
 ぷつ、と音もなく限界がはじけとんだ。爆発するような快感にさらされて、八島さんを咥えこんだ場所がぎゅーっと締まる。背が大きく仰け反って、声の一つも出なかった。
 それから、ビクン、ビクン、ビクンと、何度も腰が波打った。それに関係なくゆるく突き入れられ、ようやく吸えた息で、叫ぶ。

「いや、いや、いや、いやぁっ」
「こんなに感じていらっしゃるのに? ここはまだもの欲しそうにしていらっしゃいます。焦れるほどお待ちにならなくても、すぐにもう一度いかれますよ」

 ずん、ずん、ずん、ずん、とまた腰使いが速くなる。

「んんっ、んんっ、んんっ、だめ、だめ、だめ、だめ、だめぇっ、ああああーっ」

 あっという間に高みに押し上げられ、神経の隅々まで快感に犯されて、ほとばしるままに嬌声をあげるしかなかった。

 さすがにたて続けに二回も性急にいかされて、もうぜんぜん体に力が入らなかった。ぐったりした体を抱き寄せられ、八島さんに背中からもたれかかる。……ソファに腰かけた彼の膝の上で。未だ八島さんのものは抜けておらず、余韻でひくひくしてるあそこが存在を感じ取ってしまって、少しも落ち着いた気分にならない。

 答えを間違えた……。焦らされるのいや、なんて言うんじゃなかった。いや、あの時はあれしか言えなかったのだけど。こんなつもりじゃなかったのに。
 ふと、これって萌黄さんの状態と似たようなものじゃないかって気付く。
 確かに言葉通りかもしれない。しかし、なんか違う。微妙に望んだものとずれているのだ。これは言霊というより八島さんの通常運転だってわかってるけど、額面通りに行われるのは言霊と同じだ。
 そうか、萌黄さんもこんな気持ちになってるのか。……ああ、萌黄さん、ごめんなさい。本当に迷惑なことをしました。
 私は深く反省した。
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