異世界執事

伊簑木サイ

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第四章 またまた転

親しき仲にも礼儀あり

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 ただいまカイの犬小屋のすみっこでしゃがみこみ、頭をかかえてうずくまっています。……絶賛反省中です。
 うわああああああっ。私ったら、八島さんに向かって、なんてことをしてしまったのーっ。毎日朝から晩までかいがいしく面倒を見てもらって、さんざん甘やかしてもらって、今日だって忙しい中をぬってピクニックに連れ出してもらった上に、あんなに素敵なランチまで一人占めで完食したくせに! なのに、その八島さんに変態とか言い捨てて、荷物ごと置き去りにしてくるって、私何様のつもりなの~~~~っ。
 あまりの恥ずかしさに、地面の下に埋まってしまいたいっっ。

 飛び出してしばらくは、八島さんの馬鹿馬鹿って、プンプン怒りながら走っていた。だけど、だんだん自分の所業を振り返りはじめ、お屋敷に着くころには、すっかり後悔のドツボにはまっていた。
 八島さんはぜんぜん悪くない。彼はそもそも人間じゃなくて、『  』種なんだもの。人間と感覚が違って当然なのだ。それを責めるなんて、お門違いも甚だしい。

「うわーっ、自分がダメダメすぎて、いやーっ!!」

 いたたまれなくて、叫ばずにいられない。心配したカイが、頭をかかえている手の甲を、ぺろりぺろりと舐めてくれた。

「カイちゃんもごめんね……」

 いくらキャンプ場のコテージくらいある大きな犬小屋だからって、自分のテリトリーに問答無用で乱入されて、すみっこでいじいじとうずくまられたら迷惑だろう。少なくとも、実家の犬小屋に入ろうとした時は、飼い犬に怒った声で、ワン! と吠えつけられた。
 だというのに、カイはさっきからずっと、慰めようとしてくれている。いい子だ。うちの子、すごくいい子だ……!!
 頭を撫で撫でされ、ぎゅうっと抱きかかえられて、ペロペロとまた手を舐められる。

「ち……せ、……ち、せ。い……こ。いー、こ、ねー」

 慰めてくれるカイのいたいけさに、さらに自己嫌悪が加速する。うわああああ、もう、消えてなくなりたいよー!!
 と、気分が盛り上がっていたのだけど、ふと、おやぁ? と思った。なんかいろいろおかしい気が……?
 ぎゅっとつぶっていた目を開け、ちょっとだけ頭をあげて、状況確認をしてみる。
 まず肌色が見えた。すべすべのぺったんこの胸が目の前にあって、その先にも、剥き出しの裸の足が見える。もふもふの灰色の毛が、どこにも見当たらない。

「ち、せ、……か、……わ、いー。いー、こ、ねー」

 誰だ? この、片言でしゃべって、私の頭を抱きしめ、撫で撫でぺろぺろしている、裸の男は!?
 ざわぁって、嫌悪感に、全身に鳥肌がたった。私は痴漢撃退講座で習った対処法を思い出し、即座に男の顔とおぼしき方向へ、思いきり頭突きを繰り出した。

「ぎゃんっ」

 相手の悲鳴とともに、がつーんと脳天に衝撃と痛みが襲ってきて、生理的に涙目になる。でも、相手が尻餅をついたから、大成功だ。この隙に逃げなきゃ。
 立ち上がって小屋の中を見回してみたけれど、カイがいない。どこへ行ってしまったのだろう。それとも、この変態が何かしやがったのだろうか。
 私は、口元を両手で押さえてうずくまっている男に向き直って、逃げるか男を問い詰めるかで躊躇した。
 男が、黒目がちの真っ黒い瞳で、私を見上げてくる。どこか見覚えがある。と思ったのも束の間、大粒の涙が、ぼたぼたとこぼれだした。

「いたい、いたあい、いたいー、ちせ、いたあああああい、うわあああああああんっ」

 盛大に泣き出す様は、まるっきり小さな子供だ。それで、四つん這いになって助けを求めて這い寄ってこようとする。その仕草に、稲妻のようにおかしな考えが閃いた。
 ……もしかして、この男はカイちゃんなのだろうか。
 わあわあ泣いていても損なわれない、端正で、それでいてやんちゃな感じの整った顔。力のありそうな引き締まって若々しい体。愛嬌のある真っ黒い瞳。カイの名の元になった毛と同じ灰色の髪。
 そして。
 首に巻かれた、見覚えのある赤い首輪。

「カイちゃん?」
「ちせ、ちせ、いたいー」

 呼びかけたら、そうだとばかりに動きが速くなって、はふはふと寄ってくる。
 わあああ!? やっぱりこれはカイちゃんなんだ!? 彼岸の犬って、人型にもなれるんだ! びっくりだよ!
 ……だけど。私は思わず目をそらして、カイが寄ってくる分だけ後退った。
 だって、裸なんだもん! 表情は幼いけど、体はたぶん中学三年から高校一、二年って感じなんだよ、正視できないよ!
 けれどやがて、当然ながら壁に背中が当たって、どん詰まりになる。私は思いきり横に顔を捻じ曲げて、なるべくカイが視界に入らないようにした。
 なのに、カイは視界に入ろうとうろちょろするのだ。それを避けて、右に左に顔を振っていたら、目の前にしゃがんで、しょぼーんとした声で聞いてきた。

「どして、いーこ、かわいーこ、してくれない?」

 私は内心冷や汗をかいた。……うん。これは、中身はまさしくカイだ。カイだってわかるんだけど、その姿じゃ無理! どうしても無理!
 ちせー、と伸びてきた手に、手を触られ、ぞくぅっと悪寒がはしって、反射的に振り払った。

「あ。ご、ごめんね!」

 とっさに、いけないことをしちゃったと思ってカイに目をやれば、案の定、驚いた顔から、徐々に傷ついた表情に変わっていって。

「ちせー、やだぁー、ぎゅーしてー」

 泣き顔で両手を伸ばしてくる。それでも動かない、いや、動けない私に、カイが抱きつこうと腰を上げて、膝立ちになって……。
 私は回れ右で、なりふりかまわず出入り口をくぐり、犬小屋を飛び出した。
 ……み、見ちゃった見ちゃった見ちゃったよーっっっ!!!

「うわーんっ、八島さーん!!」

 お兄ちゃんのだって、小学生までしか見たことなかったのにー!!
 なんだか私まで涙目になってきて、八島さんに助けを求めて、やみくもにお庭を駆け抜けた。
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