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第7話

永遠2

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 ロズニスは、ベッドの上に置ける小さなテーブルも用意してきていて、おかげで俺は、布団の上にこぼすのを心配せず、がつがつ食べることができた。
 二人はベッドサイドに椅子を持ってきて、次々にワゴンから給仕をしてくれている。

 空腹が満たされて余裕がでてくるとともに、見るともなしに二人に視線をやって、俺は自分が何かを忘れているのを思い出した。
 なんだったっけ。
 首を傾げる。

 すっかり手も口も止まってしまった俺に、二人が、どうしたのかと聞いてきた。

「いや、何か重要なことを忘れている気がするんだけど」

 二人に関係があったような。
 ん? 二人? 二人……、二人だ!

「おい、ルシアン、おまえ、さっき、ロズニスと二人で俺にくっ付いてるって、言ったよな?」
「え? そうだっけ?」

 さらりとにこりとしてるが、言わなかった、と断言してないところで、認めたも同然だ。

「とぼけるな。師匠が出掛けっぱなしなのは、俺のせいだって、カナポリを焼き払ったせいだって……、って、まさか、刺客か!?」

 そういえば、この頃来ないと思ってたんだ。それって、

「ジジイが老体に鞭打って刺客追い返してたからか!? あ、ってことは、おまえら、俺の監視か!!」
「監視って、やだなあ、護衛って言ってよ」

 一転、ルシアンが肩をすくめた。
 しれって、言ったな、このヤロウ!!

「駄目ですよう、ルシアン様。台無しじゃないですかー」
「だって、知らないから無茶するんだ。もう教えた方がいいと思うんだよね。それにさっき、自重してくれるって、俺と約束してくれたし。ね、ブラッド?」

 まったく、しゃーしゃーと、そこで言質を盾にするか。
 そんなもん、この状況で、知ったことかっ。

「忘れた」

 俺は正々堂々と宣言してやった。

「ひどいよ、ブラッド!」

 ルシアンが立ち上がって、大声をあげた。俺も負けずに、テーブルを押しやって立ち上がって、ベッドから飛び降りる。
 脇に揃えてあったショートブーツを手に取り、片方ずつ履きながら、扉へ向かった。

「ブラッド、どこへ行くのっ」
「ブラッド様、どこへ行くんですかー?」

 追いかけてくる二つの声に振り返って、来い、と顎をしゃくる。

「年寄りの冷や水で何かあったら、こっちも寝覚めが悪いんだよっ。クソジジイめ、棺桶に両足突っ込んでやがるくせして、何してやがんだかっ」

 俺は時間が惜しくて、苛々とケンケンしながら靴紐を縛った。

「んで、ジジイはどこに行ってんだよ」
「それは聞いてないよ。極秘任務だし」
「ああ? なにが極秘任務だ。よし、そういう時は、エンだ。あいつに吐かせる」

 お。やっと、紐が縛れた。

「ほら、行くぞ」

 ぼんやりとしている二人を、焦れて呼ぶ。

「ルシアン、さっさとしろ。俺と戦うんだろ?」
「うん!」
「ロズニスも来い。連れてってやるから」

 また置いていくと、拗ねるに違いないからな。

「はい!」

 二人がようやく動き出した。こちらに向かって走ってくる。
 俺は、もう振り返らなかった。前だけを見て先を急ぐ。
 二人が俺にすぐに並ぶって、知っていた。

 だから俺は、二人が俺の後を追いかけながら、言葉を交わしていたなんて、気付かなかったのだ。



「ブラッドがついてきていいって言ったから許すけど、足だけは引っ張んないでよね」
「しませんよっ」
「どーだか。さっきやったばかりだしー」
「ただ突っ立って見てただけのくせしてー、おーきな口、叩かないでくださいー」
「あれは、ブラッドが負けるはずないってわかってたからで」
「どーですかねー?」
「この、テンパり女っ」
「二重人格の猫かぶり男っ」

 その間にも、俊足なブラッドとの間は、どんどん開いていってしまっていた。
 二人はしばらく黙々と走った。

「もしもの時は、あんた、ブラッドの盾になる覚悟くらいはあるんだろうね?」
「当たり前です。ルシアン様こそ、どうなんですか」
「俺は、世界ごと守るって、ブラッドと約束した」

 優越感に満ちた物言いに、ぎりりとロズニスは視線を鋭くした。

「ふんっだ。いい気にならないでくださいねっ。ブラッド様は、ルシアン様を追いかけている時だって、私のこと毎日忘れずにいてくれたんですからね」
「置いてかれたくせに。ブラッドの横に立つのは俺だよ」
「どーぞ、横でも前でも後ろでも立てばいいじゃないですか。私はブラッド様の帰る場所にいますからー」

 ルシアンの目も据わった。
 お互いに火花を散らして見詰め合って、同時に、ふんっと顔をそらす。
 そして、二人は立ち止まった。どちらからともなく、また顔を見合わす。

「ブラッド様は?」
「ブラッドはどっちに行った?」

 言い合っていがみあっていた二人は、すっかりブラッドに置いていかれてしまっていたのだった。




 ネニャフル王国国王の甥、英雄の息子にして、カナポリの英雄の称号も自ら持つ、類稀なる魔法使い、ブラッド・アウレリエ。
 彼の受難は、まだまだ、まだまだ、当分続くに違いない。
 彼が、誰かを愛するのをやめない限り。

 それは、永遠かもしれない。




                とりあえずお終い              
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